竜神様の御気に入り

霞花怜

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第16話 饕餮との契約

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 秘果が目を瞑って、何かに耐えている。
 何とか自分を納得させているようだ。

「……蜜梨ちゃんの神力が戻るまでだ。お前が今以上に力を付けないように、浄化は続ける」
『まぁ、今はそれで良かろう。うっかり消し去ってくれるなよ。今の蜜梨には、私がいたほうが安全だ』
「お前なんかいなくても、蜜梨ちゃんは俺が守る。記憶も体も、これ以上、傷付けるな」

 秘果が自分の拳を握り締めた。
 その様を眺めて、饕餮が蜜梨を腕に抱いた。

『当然、大事にするさ。私の大事な宿主だ。お前より丁寧に扱うぞ。蜜梨が望むなら、自慰も手伝ってやろう。欲しければ後ろにも、くれてやるが?』

 饕餮の手が蜜梨の尻を撫で上げた。
 体がビクリと震える。

「ひぃ! やめろぉ、さわるなぁ。手伝いも後ろも、いらないぃ」

 大変、情けない声が出た。
 身を捩って饕餮の手から逃げる。
 秘果が蜜梨の体を奪い返した。腕の中に強く抱かれた。

「蜜梨ちゃんに手を出したら、どんな手段を用いてでも塵にしてやる」

 秘果が本気で怒っている。
 饕餮が愉快そうに笑む。
 二人を見比べて、蜜梨は慌てた。

(饕餮がめちゃめちゃ楽しそうなのに、秘果さんめちゃめちゃ怒ってて。なんかもう、俺を巡った三角関係と見せかけた饕餮と秘果さんの喧嘩ップルに見える)

 この場合、最終的に受けになるのは秘果かな、とそこまで考えて蜜梨はぶんぶんと首を振った。

『病的な蜜梨贔屓は変わらんな。三百年振りの再会で病が悪化したか。よかろう。秘果が安心できるように、契約を交わすか』
「契約? 凶って、そんなこともできんの?」

 蜜梨は首を傾げた。饕餮が頷く。

『凶はただの悪鬼悪神だから、好まぬ習慣だがな。やれんこともない。それで秘果が安心できるなら、特別に交わしてやろう』

 饕餮が得意げに提案する。

「その契約って、破ったらどうなんの?」
『私が蜜梨の中から消える。祓う手間が省けるぞ』

 饕餮がニタリと笑んだ。

「リスク高すぎじゃん。俺たちにも同じような何かが、あんの?」
『提示する条件にもよるが、特にないだろう』

 蜜梨は、饕餮を懐疑的な気持ちで眺めた。
 自分が不利になるような契約を自ら提示するような性格にも思えない。
 
『私の希望は、蜜梨の中に居座って餌を喰らうことだ。どのみち食えねば消える。祓われても消えるのだから、私にとり、契約はリスクではない』

 饕餮の目が秘果に向いた。
 
「あくまで蜜梨ちゃんの神力が戻るまでの期間限定だ。蜜梨ちゃんが瑞希として完成すれば、お前を祓う。それまでの間、蜜梨ちゃんを傷付けるな。必要以上に触れるな。瑞玉を砕くほど喰うな。乗っ取るな。これ以外にも、蜜梨ちゃんが傷付いたと俺が判断する事態が起これば、契約違反だ。蜜梨ちゃんを守れ」

 秘果が提示した条件に、饕餮が頷いた。
 目が満足そうだから、予想通りの返事だったんだろう。
 饕餮の目が、今度は蜜梨に向いた。

『蜜梨は、どうだ? この条件で良いか?』

 秘果が提示した条件に、異論はない。
 唯一、追加するとするなら、秘果を揶揄い過ぎるな、と言いたいところだが。
 饕餮の気持ちを考えると、そうも言えない。

(とっても楽しそうだから、ダメっていうの、可哀想なんだよね。秘果さんには気の毒だけど、耐えてもらおう)

 などと思いながら、蜜梨は頷いた。

「それでいいよ。できれば俺のプライベートは内密にしてほしいけど」
『それは難しいな。なにせ、秘果は知りたいだろうからな』

 饕餮の目が秘果に向く。
 秘果が微妙に顔を隠して目を逸らした。

(あぁ……、知りたそうな顔だ……)

 蜜梨としては、大変複雑な気持ちになる。

『心配するな、蜜梨。暴露する時は、蜜梨がいない所でこっそり秘果に教えよう』
「そんなことできんの? 魂が繋がってるのに、俺から離れられんの?」
『少し遠くに行く程度なら、可能だ』

 ちょっと嬉しそうな顔をしている秘果を眺めて、饕餮がニヤリと笑んだ。

『私がいる価値を見出せば、秘果の気持ちも変るかもしれんからな。サービスは大事だ』
「凶がサービスって。てか、他人の情報をサービスに使うなよ……」

 呆れすぎて、言葉にならない。

「あくまで蜜梨ちゃんの神力が戻るまでだから。それまでの間に、ちょっと聞くだけだから」

 秘果が既に饕餮に買収されている。

『今日は随分と情報を流したからな。蜜梨の気持ちも慮って、残りは明日以降にしよう』
「全然、慮ってないよね、それ」

 秘果がちょっとだけ残念そうな顔をしている。
 明らかに饕餮の手で転がされている感じだ。
 その顔を、饕餮は何とも満足そうに眺めている。
 
(やっぱり喧嘩ップルだ。俺、完全に餌というかモブ、よくて脇役だな)

 饕餮が受けもアリだな、とか、そんなことを、ぼんやり考えた。
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