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第21話 記憶の拒否
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何かを心配していそうな秘果の素振りが気になりつつも、蜜梨は桃源でのいつもの日常を過ごしていた。
慶寿と行う瞑想が功を奏したのか、神力は着実に増えてきている。
それは自分でも実感できた。
神力が増えるにつれ、色んな気配を感じるようになった。
慶寿や秘果の神力、心惟の凶、花や木に宿る命の鼓動すら、感じ取れる。
それは蜜梨が桃源の瑞希だからだと、慶寿が教えてくれた。
廊下を歩いていた蜜梨は、窓から外を眺めた。
春のような陽気と日差しが、庭の木々や草花を優しく照らす。
緩い風が草花を揺らす様は何とも平和だ。
「不思議な感じだなぁ。一月くらい前まで、看護師で仕事していたのに」
病院で働いて、家では好きなBL漫画を読んで、休みの日には絵を書いて過ごしていた。
あの日々が、今ではもう遠い昔に感じる。
(現世に知り合いは多くないけど。施設長や一緒に住んでた姉ちゃんたちは、元気かな)
一人暮らししていた時は、ほとんど思い出さなかった。
ここにきて思い出すのは、きっともう会う機会がないからだ。
(それに、俺の中にまだ全然、桃源の記憶が少ないからだ。覚えているのなんて……)
少年姿で泣いている秘果や、凶玉を抱えて桃源から落ちる瞬間だ。
あの記憶があるから、自分は桃源の半神族なのだと、かろうじて納得できる。
(他には……、秘果とよく、手を繋いで冒険に行った)
泣き虫で臆病で外に出たがらない秘果を、冒険という名目で連れ出した。
外の気に触れるだけで、竜は神力が増えて体が凶を覚える。
そういう小さな出来事を少しずつ思い出し始めていた。
(懐かしいって、思うんだよな。俺にとって、楽しい思い出だったんだ。いろんな場所に行ったっけ。北の山とか、南の湖とか、あとは霊亀の蓬莱山にある御陵、花窟。あの場所で……)
ドクン、と心臓が下がった。
寒気が背中を伝う。
(あの場所で、何かに遭った。だから俺は、秘果を守って、饕餮を飲み込んで、それで、現世に……)
蜜梨は頭を抱えた。
「あれ? でも……、あの場所で会ったのは、饕餮だよな。他に、いたっけ? 饕餮だけ、だっけ……」
心臓が重くて、体が小さく震える。
まるで、全身が思い出すことを拒否しているかのようだ。
「ぁっ、はぁ……、んっ……」
崩れ落ちそうになった体を大きな手が支えた。
見上げたら心惟が、蜜梨の腕を掴んでいた。
「心惟、俺……」
「お前は、思い出したいのか、思い出したくないのか」
心惟が蜜梨の体を引き上げて、抱き上げた。
いわゆる御姫様抱っこに、慌てる。
「え? なに、この抱き方」
「部屋に運ぶだけだ。どうせ歩けんだろう」
「そうだけど、これは……」
心惟がニヤリと蜜梨を見下ろした。
「なんだ、ときめくか? 蜜梨は受け希望だから、ヒロイン待遇がお好みか?」
「……っ!」
言葉が出ないまま顔だけが熱くなる。
「う、受けがみんなヒロイン願望ある訳じゃないからな! 尻で抱くタイプの格好良い受けだって最高なんだから!」
「そうだな。私は後者の受けが好きだ。互いに噛みつきながら繋がっていると尚良い」
若干、テンパってBLネタを投下したのに、心惟が普通に返してきた。
(コイツ、本当に俺と一緒にBL読んでたんだな。しかも、喧嘩ップル好きかぁ。だから秘果さんに噛みつくのか?)
そんな実感をしたら、冷静さが戻ってきた。
「今、さ……。何かを思い出せそうだったんだ。思い出しそうになったら、心臓が重くなって、寒気がして、力が抜けちゃって」
「ならば、無理に思い出そうとするな。昔を思い出さずとも、今はもう問題なかろう」
心惟を見上げる。
蜜梨には目を合わせずに、前を向いている。
「問題ないって、なんで? 俺が思い出さなくても、秘果さんや心惟は、知ってるから?」
「蜜梨は桃源に戻ってきた。瑞希になるには神力さえ戻れば支障ない」
心惟の返事は蜜梨の記憶について、はぐらかしているように感じる。
「思い出さないほうが、良いってこと?」
しつこく食い下がったら、心惟が小さな息を吐いた。
「体が拒否する程度には、その記憶はお前に負担なのだろう。ならば総て捨てて、また一から始めればいいだろう。それでも充分、秘果を愛せる環境であると思うがな」
心惟の言葉に、体がぴくりと反応した。
蜜梨が記憶を取り戻したい一番の理由は、確かに秘果だ。
今でも充分に好きだと思える秘果に、真っ直ぐに向き合えない心の蟠りの原因を、はっきりさせたい。
(魂が絡まってるから、そういう俺のモダモダした気持ちとかも、心惟にはバレちゃうのかな)
心惟の感情も、じんわりと蜜梨に流れ込んでくる。
だとすれば、逆も然りだ。
それはそれで、居た堪れない。
「思い出さなくても、秘果さんの側にいて、良いかな。迷惑かけたり、しないかな」
ポロリと本音が零れた。
思い出さなくても自分は納得して秘果の隣にいられるだろうか。
「秘果は気にせんだろう。お前の気持ちはお前次第だ。私は蜜梨さえ無事ならそれでいい。蜜梨が健全に生きてさえいれば、私は死なないからな」
心惟にとっては、そうだろう。
契約がある限り、蜜梨の中で凶を喰って生きられる。
心惟にとり、これ以上に安全な棲家もない。
「続きは秘果に聞いてもらえ。目が合っただけで神力が全開だ。流石にあれでは近付けぬ」
心惟が歩く足を止めた。
同じほうに視線を向ける。秘果がこちらを見詰めて立っている。全身から白い神力が立ち上っていた。
「違う! 秘果さん、違うから! 俺が動けなくなってたから、心惟が運んでくれてるだけだから!」
流石に蜜梨も怖くて、秘果が何かを発する前に言訳した。
慶寿と行う瞑想が功を奏したのか、神力は着実に増えてきている。
それは自分でも実感できた。
神力が増えるにつれ、色んな気配を感じるようになった。
慶寿や秘果の神力、心惟の凶、花や木に宿る命の鼓動すら、感じ取れる。
それは蜜梨が桃源の瑞希だからだと、慶寿が教えてくれた。
廊下を歩いていた蜜梨は、窓から外を眺めた。
春のような陽気と日差しが、庭の木々や草花を優しく照らす。
緩い風が草花を揺らす様は何とも平和だ。
「不思議な感じだなぁ。一月くらい前まで、看護師で仕事していたのに」
病院で働いて、家では好きなBL漫画を読んで、休みの日には絵を書いて過ごしていた。
あの日々が、今ではもう遠い昔に感じる。
(現世に知り合いは多くないけど。施設長や一緒に住んでた姉ちゃんたちは、元気かな)
一人暮らししていた時は、ほとんど思い出さなかった。
ここにきて思い出すのは、きっともう会う機会がないからだ。
(それに、俺の中にまだ全然、桃源の記憶が少ないからだ。覚えているのなんて……)
少年姿で泣いている秘果や、凶玉を抱えて桃源から落ちる瞬間だ。
あの記憶があるから、自分は桃源の半神族なのだと、かろうじて納得できる。
(他には……、秘果とよく、手を繋いで冒険に行った)
泣き虫で臆病で外に出たがらない秘果を、冒険という名目で連れ出した。
外の気に触れるだけで、竜は神力が増えて体が凶を覚える。
そういう小さな出来事を少しずつ思い出し始めていた。
(懐かしいって、思うんだよな。俺にとって、楽しい思い出だったんだ。いろんな場所に行ったっけ。北の山とか、南の湖とか、あとは霊亀の蓬莱山にある御陵、花窟。あの場所で……)
ドクン、と心臓が下がった。
寒気が背中を伝う。
(あの場所で、何かに遭った。だから俺は、秘果を守って、饕餮を飲み込んで、それで、現世に……)
蜜梨は頭を抱えた。
「あれ? でも……、あの場所で会ったのは、饕餮だよな。他に、いたっけ? 饕餮だけ、だっけ……」
心臓が重くて、体が小さく震える。
まるで、全身が思い出すことを拒否しているかのようだ。
「ぁっ、はぁ……、んっ……」
崩れ落ちそうになった体を大きな手が支えた。
見上げたら心惟が、蜜梨の腕を掴んでいた。
「心惟、俺……」
「お前は、思い出したいのか、思い出したくないのか」
心惟が蜜梨の体を引き上げて、抱き上げた。
いわゆる御姫様抱っこに、慌てる。
「え? なに、この抱き方」
「部屋に運ぶだけだ。どうせ歩けんだろう」
「そうだけど、これは……」
心惟がニヤリと蜜梨を見下ろした。
「なんだ、ときめくか? 蜜梨は受け希望だから、ヒロイン待遇がお好みか?」
「……っ!」
言葉が出ないまま顔だけが熱くなる。
「う、受けがみんなヒロイン願望ある訳じゃないからな! 尻で抱くタイプの格好良い受けだって最高なんだから!」
「そうだな。私は後者の受けが好きだ。互いに噛みつきながら繋がっていると尚良い」
若干、テンパってBLネタを投下したのに、心惟が普通に返してきた。
(コイツ、本当に俺と一緒にBL読んでたんだな。しかも、喧嘩ップル好きかぁ。だから秘果さんに噛みつくのか?)
そんな実感をしたら、冷静さが戻ってきた。
「今、さ……。何かを思い出せそうだったんだ。思い出しそうになったら、心臓が重くなって、寒気がして、力が抜けちゃって」
「ならば、無理に思い出そうとするな。昔を思い出さずとも、今はもう問題なかろう」
心惟を見上げる。
蜜梨には目を合わせずに、前を向いている。
「問題ないって、なんで? 俺が思い出さなくても、秘果さんや心惟は、知ってるから?」
「蜜梨は桃源に戻ってきた。瑞希になるには神力さえ戻れば支障ない」
心惟の返事は蜜梨の記憶について、はぐらかしているように感じる。
「思い出さないほうが、良いってこと?」
しつこく食い下がったら、心惟が小さな息を吐いた。
「体が拒否する程度には、その記憶はお前に負担なのだろう。ならば総て捨てて、また一から始めればいいだろう。それでも充分、秘果を愛せる環境であると思うがな」
心惟の言葉に、体がぴくりと反応した。
蜜梨が記憶を取り戻したい一番の理由は、確かに秘果だ。
今でも充分に好きだと思える秘果に、真っ直ぐに向き合えない心の蟠りの原因を、はっきりさせたい。
(魂が絡まってるから、そういう俺のモダモダした気持ちとかも、心惟にはバレちゃうのかな)
心惟の感情も、じんわりと蜜梨に流れ込んでくる。
だとすれば、逆も然りだ。
それはそれで、居た堪れない。
「思い出さなくても、秘果さんの側にいて、良いかな。迷惑かけたり、しないかな」
ポロリと本音が零れた。
思い出さなくても自分は納得して秘果の隣にいられるだろうか。
「秘果は気にせんだろう。お前の気持ちはお前次第だ。私は蜜梨さえ無事ならそれでいい。蜜梨が健全に生きてさえいれば、私は死なないからな」
心惟にとっては、そうだろう。
契約がある限り、蜜梨の中で凶を喰って生きられる。
心惟にとり、これ以上に安全な棲家もない。
「続きは秘果に聞いてもらえ。目が合っただけで神力が全開だ。流石にあれでは近付けぬ」
心惟が歩く足を止めた。
同じほうに視線を向ける。秘果がこちらを見詰めて立っている。全身から白い神力が立ち上っていた。
「違う! 秘果さん、違うから! 俺が動けなくなってたから、心惟が運んでくれてるだけだから!」
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