33 / 33
第33話 四面の扉
しおりを挟む
次の日、蜜梨たちは東国に旅立つことになった。
どれくらいで着くのか、滞在はどのくらいかなどの情報を貰っていないが、準備は軽装で良いらしい。
(ここって、つまりは異世界だから車とかないだろうし、移動は徒歩? 馬車? まさか、竜になった秘果に乗ってくとか?)
等々、考えていた蜜梨が連れてこられたのは、麒麟の邸宅の別棟だった。
敷地の中央付近に小さくて高い塔があるな、といつも何も考えずに眺めていた場所だ。
「入り口が、狭くて入りづらいんだけど」
と言いながら、秘果が足元の穴を指さした。
ペット飼育OKの物件にある猫の出入り口みたいだなと思った。
「え? ここに入るの? なんで?」
「この中に扉があるから」
「扉? 何の?」
「東国に行く扉だよ」
よくわからなくて、首を傾げる。
同じように秘果が首を傾げた。
「移動って、扉?」
「そう。中津国には、それぞれの国に行ける扉が備わっているから、ドアを開けたら東国に行けるよ」
「ネコ型のロボットが出してくれる、どこにでも行けちゃうドアみたいだね」
考える顔をしていた秘果が、気付いた顔になった。
「似てるね。持ち運びできないし、ドアの向こうは指定されちゃってるけど」
「それでも、便利だね」
「中津国にしかない扉だけどね。だから各国からも中津国にだけは扉を開けるだけで来られる」
なるほど、軽装で良い理由が分かった。
「にしても入口、狭すぎじゃない? 物理的に入るの無理な気がするんだけど」
「大丈夫だよ。こうして手を翳して神力を放出すれば、吸い込んでくれるから。入る時、ちょっと体が変な感じするんだけどね」
ぼんやりと不安になる言葉だなと思った。
秘果に倣って、手を翳す。
「蜜梨ちゃん、あのね」
秘果が、蜜梨の手を握った。
「慶寿様が今回の試練を提案なさったのは、蜜梨ちゃんの本心に気が付いていたからだと思うんだ」
「そう、なのかな」
前に話した時、慶寿は「邸宅で修練を続けて、儀式に望んでもいい」と話していた。
(でも、最終的には俺次第って、言っていた)
もしかしたら慶寿は秘果と同じように、蜜梨の本音を知りたかったのかもしれない。
(俺が本音を言わないから、こういう機会を敢えて作ってくれたのかな)
嫌なら断ればいいように、選べる状況を提示してくれたのだとしたら。
慶寿にも秘果にも、気を遣わせた。
「慶寿様も秘果も、俺の気持ち、考えてくれたんだよね。ありがと」
「同じ間違いはしたくない。俺も慶寿様も同じ気持ちだから。蜜梨ちゃんにはもっと、自分の気持ちを優先してほしいんだ」
秘果の言葉に、咄嗟に返事が出来なかった。
蜜梨としては意識して周囲を優先しているつもりはない。
(でも、言われてみれば現世でも、周囲の意見を優先して考えていたかもな)
場が上手く纏まるように、相手がしてほしいことを先読みして、自分の希望は後回しにする。
自分の中で当然すぎて、違和感すらなかった。
(秘果の話じゃ、桃源にいた頃からみたいだし、元々そういう性格なんだろうな)
他人と一定の距離を保って生きている時は、それで問題なかった。
(でも今は、違う。秘果も慶寿様も、俺の気持ちを考えてくれるくらい、近い相手だ)
今までにない感覚が、くすぐったくて照れ臭い。
「なんだか、家族みたいで、こそばゆいね」
照れ隠しに笑ったら、がっつり顔を掴まれた。
「俺は恋人だよ。いずれ家族になるけど、今は恋人でしょ? まさか兄とか思ってないよね?」
秘果の顔が本気だ。
蜜梨は必死に頷いた。
頼れる兄的存在だとは思っているが、秘果のことは恋愛的に好きだ。
「恋人って、思ってる。秘果が好きだし、番になりたい」
「良かった。それ、廻る国、全部で話してね」
顔を引き寄せられて、触れるだけのキスをされた。
「特に南国では百億回、言ってほしいな」
「え? 南国? 百億?」
「それはまた、行く前に話すね。今日、向かうのは東国だから、気楽にいこうね」
困惑する蜜梨の手を握って、秘果が入口に手を翳す。
「じゃ、神力を籠めて」
言われた通り、神力を籠めて、入り口に放つ。
小さな穴から光が漏れて、蜜梨と秘果の体を包んだ。
「え? ぅわ!」
強い力で引っ張られたと思ったら、狭い部屋の中にいた。
部屋の四面に、それぞれ扉があった。
「なんか、体が、ぐぎってなった」
関節がおかしな方向に曲がった気がする。
「そうなんだよね。それさえなければ、便利なんだけどね」
笑いながら、秘果が青い扉に手をかけた。
「じゃ、行こうか。青龍・藍然様が統べる東国、春の国へ」
開いた扉の向こう側には、うららかな春の草原が広がっていた。
どれくらいで着くのか、滞在はどのくらいかなどの情報を貰っていないが、準備は軽装で良いらしい。
(ここって、つまりは異世界だから車とかないだろうし、移動は徒歩? 馬車? まさか、竜になった秘果に乗ってくとか?)
等々、考えていた蜜梨が連れてこられたのは、麒麟の邸宅の別棟だった。
敷地の中央付近に小さくて高い塔があるな、といつも何も考えずに眺めていた場所だ。
「入り口が、狭くて入りづらいんだけど」
と言いながら、秘果が足元の穴を指さした。
ペット飼育OKの物件にある猫の出入り口みたいだなと思った。
「え? ここに入るの? なんで?」
「この中に扉があるから」
「扉? 何の?」
「東国に行く扉だよ」
よくわからなくて、首を傾げる。
同じように秘果が首を傾げた。
「移動って、扉?」
「そう。中津国には、それぞれの国に行ける扉が備わっているから、ドアを開けたら東国に行けるよ」
「ネコ型のロボットが出してくれる、どこにでも行けちゃうドアみたいだね」
考える顔をしていた秘果が、気付いた顔になった。
「似てるね。持ち運びできないし、ドアの向こうは指定されちゃってるけど」
「それでも、便利だね」
「中津国にしかない扉だけどね。だから各国からも中津国にだけは扉を開けるだけで来られる」
なるほど、軽装で良い理由が分かった。
「にしても入口、狭すぎじゃない? 物理的に入るの無理な気がするんだけど」
「大丈夫だよ。こうして手を翳して神力を放出すれば、吸い込んでくれるから。入る時、ちょっと体が変な感じするんだけどね」
ぼんやりと不安になる言葉だなと思った。
秘果に倣って、手を翳す。
「蜜梨ちゃん、あのね」
秘果が、蜜梨の手を握った。
「慶寿様が今回の試練を提案なさったのは、蜜梨ちゃんの本心に気が付いていたからだと思うんだ」
「そう、なのかな」
前に話した時、慶寿は「邸宅で修練を続けて、儀式に望んでもいい」と話していた。
(でも、最終的には俺次第って、言っていた)
もしかしたら慶寿は秘果と同じように、蜜梨の本音を知りたかったのかもしれない。
(俺が本音を言わないから、こういう機会を敢えて作ってくれたのかな)
嫌なら断ればいいように、選べる状況を提示してくれたのだとしたら。
慶寿にも秘果にも、気を遣わせた。
「慶寿様も秘果も、俺の気持ち、考えてくれたんだよね。ありがと」
「同じ間違いはしたくない。俺も慶寿様も同じ気持ちだから。蜜梨ちゃんにはもっと、自分の気持ちを優先してほしいんだ」
秘果の言葉に、咄嗟に返事が出来なかった。
蜜梨としては意識して周囲を優先しているつもりはない。
(でも、言われてみれば現世でも、周囲の意見を優先して考えていたかもな)
場が上手く纏まるように、相手がしてほしいことを先読みして、自分の希望は後回しにする。
自分の中で当然すぎて、違和感すらなかった。
(秘果の話じゃ、桃源にいた頃からみたいだし、元々そういう性格なんだろうな)
他人と一定の距離を保って生きている時は、それで問題なかった。
(でも今は、違う。秘果も慶寿様も、俺の気持ちを考えてくれるくらい、近い相手だ)
今までにない感覚が、くすぐったくて照れ臭い。
「なんだか、家族みたいで、こそばゆいね」
照れ隠しに笑ったら、がっつり顔を掴まれた。
「俺は恋人だよ。いずれ家族になるけど、今は恋人でしょ? まさか兄とか思ってないよね?」
秘果の顔が本気だ。
蜜梨は必死に頷いた。
頼れる兄的存在だとは思っているが、秘果のことは恋愛的に好きだ。
「恋人って、思ってる。秘果が好きだし、番になりたい」
「良かった。それ、廻る国、全部で話してね」
顔を引き寄せられて、触れるだけのキスをされた。
「特に南国では百億回、言ってほしいな」
「え? 南国? 百億?」
「それはまた、行く前に話すね。今日、向かうのは東国だから、気楽にいこうね」
困惑する蜜梨の手を握って、秘果が入口に手を翳す。
「じゃ、神力を籠めて」
言われた通り、神力を籠めて、入り口に放つ。
小さな穴から光が漏れて、蜜梨と秘果の体を包んだ。
「え? ぅわ!」
強い力で引っ張られたと思ったら、狭い部屋の中にいた。
部屋の四面に、それぞれ扉があった。
「なんか、体が、ぐぎってなった」
関節がおかしな方向に曲がった気がする。
「そうなんだよね。それさえなければ、便利なんだけどね」
笑いながら、秘果が青い扉に手をかけた。
「じゃ、行こうか。青龍・藍然様が統べる東国、春の国へ」
開いた扉の向こう側には、うららかな春の草原が広がっていた。
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【第二章開始】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
異世界転移をした俺は文通相手の家にお世話になることになりました
陽花紫
BL
異世界転移をしたハルトには、週に一度の楽しみがあった。
それは、文通であった。ハルトの身を受け入れてくれた老人ハンスが、文字の練習のためにと勧めたのだ。
文通相手は、年上のセラ。
手紙の上では”ハル”と名乗り、多くのやりとりを重ねていた。
ある日、ハンスが亡くなってしまう。見知らぬ世界で一人となったハルトの唯一の心の支えは、セラだけであった。
シリアスほのぼの、最終的にはハッピーエンドになる予定です。
ハルトとセラ、視点が交互に変わって話が進んでいきます。
小説家になろうにも掲載中です。
美貌の貧乏男爵、犬扱いしていた隣国の王子に求婚される
muku
BL
父亡き後、若くして男爵となったノエルは領地経営に失敗し、多額の借金を抱えて途方に暮れていた。そこへやって来たのは十年前に「野良犬」として保護していた少年レオで、彼の成長を喜ぶノエルだったが、実はその正体が大国の王子であったと知って驚愕する。
復讐に来たのだと怯えて逃げ出すノエルだったが、レオことレオフェリス王子はノエルに結婚してほしいと頼み始める。
男爵邸に滞在すると言い出す王子は「自分はあなたの犬だ」と主張し、ノエルは混乱するしかない。見通しの立たない返済計画、積極的な犬王子、友人からのありえない提案と、悩みは尽きない美貌の男爵。
借金完済までの道のりは遠い。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
拾った異世界の子どもがどタイプ男子に育つなんて聞いてない。
おまめ
BL
召喚に巻き込まれ異世界から来た少年、ハルを成り行きで引き取ることになった男、ソラ。立派に親代わりを務めようとしていたのに、一緒に暮らしていくうちに少年がどタイプ男子になっちゃって困ってます。
✻✻✻
2026/01/10 『1.出会い』を分割し、後半部分を『2.引き取ります。』として公開しました。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる