竜神様の御気に入り

霞花怜

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第32話 告白

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 秘果が、フルフルと首を振った。

「本当は、わかってたんだ。蜜梨ちゃんが、本当は取り戻したいと思っているって。知ってたけど、やっぱり俺は怖くて。でも昨日、俺が泣き付いたら、蜜梨ちゃんはこのままで良いって言った。三百年前と同じように。俺が望まないなら、いらないって、そう言った」

 秘果が悲しい顔で笑う。
 その顔に、何故か胸が苦しくなった。

「俺はまた、同じ間違いをするところだった。蜜梨ちゃんに無理させて、負担をかけて、本音を殺させて。こんな風に繰り返したら、蜜梨ちゃんはまた手が届かないほど遠くに行って、俺の前から消えるんだ。そんなのは、もう二度と嫌だ」
「なんで……、なんで、そうなるんだよ。俺が自分で過去なんかいらないって決めたんだ。秘果が泣いたからじゃない」
「要らないって思ったのは、何で? 俺が、慶寿様が、思い出してほしくないって言ったからだよね? その前は、どう思ってた? 思い出したかったんじゃないの?」
「それも、心惟に聞いたの?」

 蜜梨の問いかけに、秘果が黙った。
 記憶を取り戻したいと思った気持ちは、心惟しか知らないはずだ。

「俺は、蜜梨ちゃんを守る竜でいたい。本音を聞かせてよ。お願いだから、周りの意見にばっかり合わせないで、自分の言葉を聞かせてよ。蜜梨ちゃんがどうしたいのか、教えてよ!」

 秘果が目を潤ませる。
 蜜梨の胸に不安が広がる。

(嫌だ、秘果のこんな顔は見たくない。こんな顔、させたくないのに)

 蜜梨は立ち上がり、秘果の肩を掴んだ。

「秘果の言う通り、過去の記憶なんかいらないって思ったのは、秘果も慶寿様も、俺が思い出すのを望まないからだ。けど、思い出したかったのは、過去の俺が秘果をどう思っていたのか、知りたかったからだ。秘果に俺の気持ちを伝えたかったからだ」

 秘果の顔を掴んで上向かせる。
 唇を重ねて、食んだ。無理やり口を開かせて、舌を絡める。

「みつり、ちゃ……ん」

 いつもなら漏らさないような声が聴こえて、胸がざわつく。
 強く舌を吸い上げて、ちゅっと離した。
 秘果の肩を強く抱いた。

「秘果に好きって、言いたかったから。中途半端な状態で伝えていい気持ちじゃないと思った。だから、言えなかったのに。……言っちゃった」

 秘果の肩を抱きながら、項垂れる。
 勢いでキスして、告白した。けれど、それほど後悔はしていなかった。

「どっちも秘果のためだよ。俺のこと、めちゃくちゃ大事にしてくれる秘果に、誠実でいたいんだよ」
「蜜梨ちゃん……」

 やんわりと体を離される。
 蕩けた目が嬉しそうに笑んでいた。
 顔が近付いて、唇が重なる。
 さっきより深く舌が絡まって、息ができない。

「んっ……、ぁん……ふぁ……」

 舌が動く度に、吐息に混じって水音と声が漏れる。
 自分の声とは思えないほど甘えた声が聴こえる。
 恥ずかしいのに、それ以上に気持ちが良くて、離れられない。
 気が付いたら秘果の首に腕を回して抱き付いて、自分から唇を押し当てていた。

「ぁ……はぁ……」

 自分からキスした時より、ずっと息が上がっている。
 離れた唇に、唾液の糸が薄く伸びて垂れ落ちた。

「三百年前には、くれなかった言葉、やっとくれた。蜜梨ちゃんからのキス、二回目だね」

 秘果が蜜梨の体をきつく抱きしめる。
 苦しいくらいの抱擁が心地よい。

「忘れたままなのも、思い出したいのも、俺のためって言ってくれるの、嬉しいよ。だから次は、俺抜きにした蜜梨ちゃんの本音を聴かせて」

 抱きしめた肩越しに声が響く。
 秘果の肩を、きゅっと抱いた。

「正直、よくわからないんだ。だけど、怖い。思い出すのも、このまま忘れているのも、どっちも怖い」

 忘れたままで漠然とした不安を抱え続けるのも、大事な何かを思い出すのも、怖い。
 思い出した先に、どんな自分がいるのか。想像できなくて、怖い。

「同じ怖いなら、蜜梨ちゃんは、どっちを選ぶ?」
「……思い出すほうを、選ぶ」

 秘果はきっと、蜜梨の答えをわかって聞いている。
 そう思ったから、素直に答えた。

「だよね。そういう蜜梨ちゃんだから、俺は好き」

 秘果が蜜梨の首にキスを落とす。
 敏感になった肌がピクリと震えた。

「あの時の記憶を蜜梨ちゃんが思い出して、蜜梨ちゃんがどうなっても、俺が側にいる。俺はもう、泣き虫で弱虫な竜じゃない。今度は俺が蜜梨ちゃんの手を引いて歩くから」

 秘果の唇が、蜜梨の唇を食む。

「さっき、泣きそうだったじゃん。昨日も泣いたし」
「もう泣かないよ」
「泣いていいよ。秘果の涙は全部、俺が吸い上げるから。竜と導仙て、そういう関係だろ」

 秘果の瞼に口付ける。
 その目が嬉しそうに笑んだ。

「やっと、蜜梨ちゃんと心が一つになれた気がする」

 秘果が蜜梨の耳に口付ける。
 キスの雨が降り過ぎて、照れる暇もない。

「今度は、体も一つになろうね」

 耳元で囁かれて、心臓が嘘みたいに跳ねた。
 流石に恥ずかしくて何も言えない。顔が沸騰したみたいに熱い。
 何も言えない蜜梨を、秘果が満足そうに見詰めていた。
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