293 / 354
第Ⅳ章
第43話 伊吹山の鬼の血魔術
しおりを挟む
保輔の肩が、ピクリと震えた。
ぼんやりと目を開きながら、自分から起き上がった。
「あれ、ごめん。俺、気ぃ失った?」
「一瞬だけだよ。体、大丈夫? 何ともない?」
ソファの上で正座して、保輔が体中に触れた。
「ん、何ともないよ」
服を捲り上げて、自分の腹を眺めると、感心した声を上げた。
「これが神紋かぁ。綺麗な模様やね。桜や」
そう言って笑った顔は、何だか可愛い。
「護さんも同じ? お揃い?」
「ええ、私の腹にも同じ紋がありますよ」
ニコニコしながら、護が保輔の顔を掴んで直桜に向けた。
「良いですか? この一回きりです。一回しか許しませんよ」
保輔が不可解な顔をしている。
直桜も同じような気持ちになったが、すぐに理解した。
「いや、護と同じようにはしないよ。体の一部を取り込んでもらえば、いいだけだから」
「わかっていますよ。だから、才出しの時と同じ方法で充分足りますよね?」
今度は保輔の顔が引き攣った。
「は? なんで? どういう意味?」
「神紋の定着には主の体の一部を取り込む必要があります。唾液で良いかなと。それとも直桜の髪の毛とか、食べます?」
保輔が、ぶんぶんと首を横に振った。
直桜は、さっさと保輔の顔を掴まえた。
「じゃぁ、しちゃおう」
口付けて、舌を差し込む。
舌と舌を絡ませて唾液を流し込む。
緊張していた保輔の肩の力が抜けて、自分から舌を絡めると、唾液を飲み込んだ。
ちゅくちゅくと水音をさせながら、ある程度で唇を離す。
保輔の目が、また夢見心地に潤んでいた。
「なぁ、護さんとも、したい」
振り返って腕を伸ばすと、保輔が自分から護に抱き付いた。
「は? 何で?」
咄嗟に伸びた腕を、直日神が止めた。
人差し指を口元に当てて、静かにと促された。
直日神に目で合図され、護が保輔の唇を受け止めた。
才出しの時と同じ状況になって、直桜としては納得いかない。
「護の鬼力に触れれば、保輔は神力を混ぜた血魔術が使えるようになろう。口吸いの才出しは他者の才を引き出すだけではない。己の才を引き出す術でもある」
直日神にそう言われてしまうと、何も言えない。
くちゅりと音を立てて唇を離すと、保輔が護に抱き付いた。
「俺、護さん好きやぁ。護さんになら抱かれてもええ」
とんでもない発言をした保輔を護から引き剥がした。
「ダメに決まってるだろ。保輔の恋愛対象は女なんだろ。てか、瑞悠が好きなんだろ」
「只の例えやん。それくらい好きやって」
直桜は保輔の押し退けて護に抱き付いた。
「今後、護に抱き付くの禁止。次、抱き付いたら瑞悠との仲、応援してあげない」
「えー、遊びで抱き付くんもダメなん。直桜さんケチやんなぁ」
抱き付いた直桜に腕を回して、護が頭を撫でた。
「ヤキモチ妬きな直桜、可愛いです。新年早々、お年玉をもらった気分です」
護が嬉しそうにしているのを見ると、やっぱり何も言えなくなる。
「良かったやん」
保輔が一言、呟いた。
素直に頷く気にもなれない。
「それより、血魔術、使ってごらんよ。できるだろ、護とキスしたんだし」
大変、不貞腐れた声が出た。
「ん、せやね。多分、俺の血魔術って、酒や」
保輔の手から煙が立ち上る。
「確かに、お酒の匂いがしますね」
鼻を近づけた護に倣い、直桜も匂いを嗅ぐ。
強めのアルコールの匂いがした。
「毒にも薬にもなる酒、神薬鬼毒酒や。気化させて煙にもできる。煙は血を混ぜて練ったら刃に出来る」
手から立ち昇った煙を手でくるくると器用に巻き取る。
丸い輪の形になった刃に指を入れると、凄いスピードで回り出した。
「凄いね! 汎用性の高い武器だ。保輔らしいね」
「確かに、煙の刃は形を変えたりすれば手元でも投げても使えますし、酒は毒にも薬にもなるなら回復系にも特化して幅が広いですね」
保輔が手を握って絞るような動作をすると、酒がするりと流れ出た。
「本当はもっと、攻撃特化の能力がええと思ぅたけど。連の時も蜜の時も、人を治す力が欲しいと思ぅた。その思いの方が強かったのやな」
眉を下げて笑う保輔の頭を、護が撫でた。
「攻撃力も充分です。保輔君の想いは血魔術に現れていますね」
護が保輔の顔を抱き締める。
嬉しそうにした保輔が、慌てた。
「あかんやん。瑞悠との仲、応援してもらえんようなるから、離れるわ」
「もういいよ。護から抱き締めたんなら、文句言えないよ」
さすがの直桜も、そこまで我儘ではない。
「ごめんなさい、直桜。保輔君は私にとって弟のような存在なので、許してください」
護にまでそう言われてしまうと、納得せざるを得ない。
何より保輔を可愛がる護が本当に嬉しそうだ。その顔を見たら、ダメとは言えなくなる。
「諦めよ。その代わり、護にお年玉でも貰うといい」
直日神が楽しそうに含み笑いをしている。
保輔が自分の腹に手をあてた。
「神紋から直桜さんの神力が流れてくんの、わかる。次は鬼力の訓練したいねんけど、イチャイチャするなら帰るよ?」
そうはっきり言われてしまうと、帰れともいえない。
「そうですね。直桜の御機嫌が治るまでイチャイチャしてますので、保輔君は朱華と鬼力の訓練をしていてください」
護がはっきりと言い切った。
まだ寝ている朱華を保輔の頭に載せる。
「わかった。夕飯くらいにメッセージ入れるわ」
すっくと立ちあがると、保輔があっさりと自分の部屋に帰って行った。
「それじゃ、ご要望にお応えしてイチャイチャしましょうか? 直桜にお年玉をあげないとね」
耳元で吐息と共に囁かれて、じんわりと耳が熱くなる。
(十二月は忙しくて全然、一緒に寝てなかったけど。でも、年明けてから毎日一緒に寝てるし、取り返すくらいはシてると思うけど)
お年玉だから、と自分に言い訳をして、頷く。
護に抱き付いて、頬に口付けた。
唇を噛み付くように吸われて、倍以上のキスが返ってきた。
「直桜が可愛いので今日は沢山、虐めてしまいそうです。夕飯に保輔君を呼べるか、わからないですね」
直桜を掴む腕が強くて、既に縛られているような錯覚に陥る。
護が直桜を抱き上げる。
期待に胸を膨らませて、護の部屋のベッドに沈んだ。
ぼんやりと目を開きながら、自分から起き上がった。
「あれ、ごめん。俺、気ぃ失った?」
「一瞬だけだよ。体、大丈夫? 何ともない?」
ソファの上で正座して、保輔が体中に触れた。
「ん、何ともないよ」
服を捲り上げて、自分の腹を眺めると、感心した声を上げた。
「これが神紋かぁ。綺麗な模様やね。桜や」
そう言って笑った顔は、何だか可愛い。
「護さんも同じ? お揃い?」
「ええ、私の腹にも同じ紋がありますよ」
ニコニコしながら、護が保輔の顔を掴んで直桜に向けた。
「良いですか? この一回きりです。一回しか許しませんよ」
保輔が不可解な顔をしている。
直桜も同じような気持ちになったが、すぐに理解した。
「いや、護と同じようにはしないよ。体の一部を取り込んでもらえば、いいだけだから」
「わかっていますよ。だから、才出しの時と同じ方法で充分足りますよね?」
今度は保輔の顔が引き攣った。
「は? なんで? どういう意味?」
「神紋の定着には主の体の一部を取り込む必要があります。唾液で良いかなと。それとも直桜の髪の毛とか、食べます?」
保輔が、ぶんぶんと首を横に振った。
直桜は、さっさと保輔の顔を掴まえた。
「じゃぁ、しちゃおう」
口付けて、舌を差し込む。
舌と舌を絡ませて唾液を流し込む。
緊張していた保輔の肩の力が抜けて、自分から舌を絡めると、唾液を飲み込んだ。
ちゅくちゅくと水音をさせながら、ある程度で唇を離す。
保輔の目が、また夢見心地に潤んでいた。
「なぁ、護さんとも、したい」
振り返って腕を伸ばすと、保輔が自分から護に抱き付いた。
「は? 何で?」
咄嗟に伸びた腕を、直日神が止めた。
人差し指を口元に当てて、静かにと促された。
直日神に目で合図され、護が保輔の唇を受け止めた。
才出しの時と同じ状況になって、直桜としては納得いかない。
「護の鬼力に触れれば、保輔は神力を混ぜた血魔術が使えるようになろう。口吸いの才出しは他者の才を引き出すだけではない。己の才を引き出す術でもある」
直日神にそう言われてしまうと、何も言えない。
くちゅりと音を立てて唇を離すと、保輔が護に抱き付いた。
「俺、護さん好きやぁ。護さんになら抱かれてもええ」
とんでもない発言をした保輔を護から引き剥がした。
「ダメに決まってるだろ。保輔の恋愛対象は女なんだろ。てか、瑞悠が好きなんだろ」
「只の例えやん。それくらい好きやって」
直桜は保輔の押し退けて護に抱き付いた。
「今後、護に抱き付くの禁止。次、抱き付いたら瑞悠との仲、応援してあげない」
「えー、遊びで抱き付くんもダメなん。直桜さんケチやんなぁ」
抱き付いた直桜に腕を回して、護が頭を撫でた。
「ヤキモチ妬きな直桜、可愛いです。新年早々、お年玉をもらった気分です」
護が嬉しそうにしているのを見ると、やっぱり何も言えなくなる。
「良かったやん」
保輔が一言、呟いた。
素直に頷く気にもなれない。
「それより、血魔術、使ってごらんよ。できるだろ、護とキスしたんだし」
大変、不貞腐れた声が出た。
「ん、せやね。多分、俺の血魔術って、酒や」
保輔の手から煙が立ち上る。
「確かに、お酒の匂いがしますね」
鼻を近づけた護に倣い、直桜も匂いを嗅ぐ。
強めのアルコールの匂いがした。
「毒にも薬にもなる酒、神薬鬼毒酒や。気化させて煙にもできる。煙は血を混ぜて練ったら刃に出来る」
手から立ち昇った煙を手でくるくると器用に巻き取る。
丸い輪の形になった刃に指を入れると、凄いスピードで回り出した。
「凄いね! 汎用性の高い武器だ。保輔らしいね」
「確かに、煙の刃は形を変えたりすれば手元でも投げても使えますし、酒は毒にも薬にもなるなら回復系にも特化して幅が広いですね」
保輔が手を握って絞るような動作をすると、酒がするりと流れ出た。
「本当はもっと、攻撃特化の能力がええと思ぅたけど。連の時も蜜の時も、人を治す力が欲しいと思ぅた。その思いの方が強かったのやな」
眉を下げて笑う保輔の頭を、護が撫でた。
「攻撃力も充分です。保輔君の想いは血魔術に現れていますね」
護が保輔の顔を抱き締める。
嬉しそうにした保輔が、慌てた。
「あかんやん。瑞悠との仲、応援してもらえんようなるから、離れるわ」
「もういいよ。護から抱き締めたんなら、文句言えないよ」
さすがの直桜も、そこまで我儘ではない。
「ごめんなさい、直桜。保輔君は私にとって弟のような存在なので、許してください」
護にまでそう言われてしまうと、納得せざるを得ない。
何より保輔を可愛がる護が本当に嬉しそうだ。その顔を見たら、ダメとは言えなくなる。
「諦めよ。その代わり、護にお年玉でも貰うといい」
直日神が楽しそうに含み笑いをしている。
保輔が自分の腹に手をあてた。
「神紋から直桜さんの神力が流れてくんの、わかる。次は鬼力の訓練したいねんけど、イチャイチャするなら帰るよ?」
そうはっきり言われてしまうと、帰れともいえない。
「そうですね。直桜の御機嫌が治るまでイチャイチャしてますので、保輔君は朱華と鬼力の訓練をしていてください」
護がはっきりと言い切った。
まだ寝ている朱華を保輔の頭に載せる。
「わかった。夕飯くらいにメッセージ入れるわ」
すっくと立ちあがると、保輔があっさりと自分の部屋に帰って行った。
「それじゃ、ご要望にお応えしてイチャイチャしましょうか? 直桜にお年玉をあげないとね」
耳元で吐息と共に囁かれて、じんわりと耳が熱くなる。
(十二月は忙しくて全然、一緒に寝てなかったけど。でも、年明けてから毎日一緒に寝てるし、取り返すくらいはシてると思うけど)
お年玉だから、と自分に言い訳をして、頷く。
護に抱き付いて、頬に口付けた。
唇を噛み付くように吸われて、倍以上のキスが返ってきた。
「直桜が可愛いので今日は沢山、虐めてしまいそうです。夕飯に保輔君を呼べるか、わからないですね」
直桜を掴む腕が強くて、既に縛られているような錯覚に陥る。
護が直桜を抱き上げる。
期待に胸を膨らませて、護の部屋のベッドに沈んだ。
6
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる