モブに転生した原作者は世界を救いたいから恋愛している場合じゃない

霞花怜

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第Ⅰ章 ゲーム本編①

6.ウィリアム=オリヴァー=フォーサイスからの挑戦

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 寮の一階には学生が利用できる食堂がある。

 メニューも豊富で、酒も窘める。

 個室も多く用意されており、クラブ活動の会議や試験勉強、グループ課題に利用する生徒も多い。

 マリアに案内されたのは、その中でも数少ない貴族専用の個室だった。



(嫌な予感しかしないぞ)



 聖バルドル魔術学院は、学生の年齢層も階級も様々だ。卒業すること自体が名誉になる学院であるため、他国からの編入やキャリアアップのため他校を卒業し再入学する魔術師もいる。

 そうなると、密談や交渉など、時にキナ臭い話に使う部屋も必要になる。ここは、そんな部屋だ。



 中には予想通り、ウィリアムとアイザックがいた。

 二人は兄弟で王族、このゲームの攻略対象である。



(早いタイミングでノエルに接触したがるのは、この二人だろうと思っていたけど)



 小さく息を吐いた。

 できるだけメインキャラと関りを持たずにいたかった。



(なんたって転生先の体が、死んでるはずのモブだからな。メインキャラと関わって物語を引っ掻き回すのは、良くない気がする。というか、原作者が嫌だ)



 主人公・マリアはノエルの死をきっかけに『呪い』に危機感と疑問を抱き、調べ始める。

 その過程で知り合い、協力していくのが攻略対象たちだ。



(きっかけのモブが生きている以上、マリアには別の形で『呪い』に今以上に積極的になってもらわなければならない。一時的な興味じゃなくて、もっと使命感を持つ形で)



 何とかマリアが『呪い』について調べる気になるように嗾ける。

 自分から調べ始めてくれれば、物語が動き出す。

 ノエル原作者の一先ずの仕事は、そこで終わりだ。



 その後は攻略対象と共にマリアが『呪い』について究明してくれればいい。

 ノエルは、マリアの動きを遠くから観察し、シナリオから外れないように調整する。

 あとはモブらしく、地味な学院生活を過ごす。

 そういう計画だ。



(だからノエルが接触するのは、マリアだけでいいんだけど)



 ノエルの『モブ位置から破滅回避計画』が、早くも破綻しかけている。

 攻略対象とは、できれば面識すら持ちたくない。

 シナリオ終結までの情報を持つ原作者ノエルが接点を持ってしまうと、色々ややこしくなる。



(いや! まだ、傍観者を決め込める可能性は、あるはずだ。簡単に諦めないぞ)



 考え込むノエルの姿が緊張しているように映ったのか、ウィリアムが微笑み掛けた。



「急に呼び出して、すまなかったね。まだ療養期間だろう。体調は大丈夫かい?」



 ノエルの手を引いて、席へとエスコートする。



「ありがとうございます。今はもう、元気です」



 ウィリアムが柔らかく笑んだ。



(さすが甘いマスクのメインヒーロー。女子への気遣いが、さりげない)



 ウィリアム=オリヴァー=フォーサイス。

 精霊国第二皇子で、光と火の魔法属性を持つ若き天才だ。

 貴賤の別なく手を差し伸べる慈悲深い皇子。まさに非の打ち所がないエリートだ。



(だが、原作者である私は知っている。コイツが腹黒皇子である事実を)



 とはいっても、善を成す目的のために他人を利用する程度の腹黒だ。

 しかも、自分の行動にこっそり罪悪感抱えちゃう可愛い設定にしてある。

 清濁併せ持つという意味では、大変人間臭い人である。



(完全無欠な嘘くさいヒーローを作りたくなかった原作者のエゴみたいなもんだしな)



 それにしてもやはり、顔面が良い。

 猫又先生の描かれる絵が現実になると、こんなにイケメンになるのかと見惚れる。

 そういう意味では、会えて良かったと思う。



「さぁ、掛けて。甘いものは好きかい? 紅茶はセイロンだが、他のものも頼もうか」



 目の前のケーキスタンドには、心躍るような甘味が並んでいる。



(ケーキとか、久しぶり……。死ぬ前の数日はエナジードリンクとコーヒーしか食した記憶がない……)



 緩む顔を、きゅっと引き締める。



「お心遣い、痛み入ります。お言葉に甘えさせていただきます」



 軽く礼をして席に着く。

 紅茶を楽しんでいると、マリアがラズベリーのムースを取り分けてくれた。



「ノエルの好物よね。美味しいもの食べたら、きっと元気が出ると思うの」



(ノエルはラズベリー、好きだったのか。私は酸っぱい系より、チョコ系とかの方が好きなんだけどなぁ)



 あまり、前のノエルから逸脱した行動もとれない。



「ありがとう。マリアの優しさが一番、元気が出るよ」



 笑みを返す。マリアが嬉しそうに頷いた。



 マリアは本気でノエルを案じ、茶会に誘ってくれたのだろう。

 だが、目の前にいる二人の皇子は様子が違う。

 そもそもノエルは皇子と面識すらないはずだ。



「このお茶会は、ウィリアム様がご提案くださったのよ。ノエルを労いたいって言ってくださって」



 ちらり、とウィリアムに視線を流す。

 ウィリアムがにっこりと笑顔を作った。



「色々と大変だったろうからね。明後日には学院に復帰する予定だと聞いて、快気祝いは今の内だと思ったんだ」



(快気祝い、ねぇ。仲良くもない平民のノエルを皇子様が労う理由なんて、一つしかないだろうなぁ)



『呪い』について探りたいのだろう。

『呪い』に罹って生きている人間など、この国では今の所、ノエルだけであるはずだ。



(さて、どうやって躱そうか。それとも、ある程度、情報を流しておいた方がいいかな。こちらも、ある程度の探りを入れておきたい)



 悩みながら、ノエルはぺこりと頭を下げた。



「ほとんど面識のない私に、ご配慮ありがとうございます。皇子殿下はマリアと仲がよろしいのですね」



 マリアが今、誰とどのくらい親密度を上げているのか知っておきたい。

 その上で、彼等が現時点で『呪い』について、どの程度把握しているのかを知っておきたい。

 シナリオの展開との差異も確認したい。

 それらすべて、今後のノエルの身の振り方に大きく関わる。



「私より、兄上の方が仲が良いのではないかな。私はほら、レイリーに叱られてしまうから」



 ちろっと舌を出して困った顔をする。

 仲良くしたいのは山々だけど、といった表情だ。



(親密度は高いとみていいな。レイリーには、すでに叱られた後ってことかな)



 レイリー=ガブリエル=ファーバイル。

 ウィリアムの婚約者で、いわゆる悪役令嬢だ。マリアと二人でいるところをレイリーが咎めるイベントが序盤にある。



「俺はそこまで仲良くはない……もちろん悪くはないが。一緒に調べ物をしてもらっているだけだ」

「そ、そうですよ。アイザック、様とは本を読むのに一緒で。それに、時にはレイリーだって一緒にいるんですよ」



 アイザックとマリアが頬を赤くして反論している。



(おや? この反応は、もしかしてアイザックルートなのかな。それにレイリーを呼び捨てってことは、仲良くなったらしい)



 ウィリアムルートを選ぶとレイリーとの親密度は、ほとんど上がらない。

 逆にウィリアムルート以外なら、時に協力し諫めてくれる心強い友となる。場合によってはレイリーとの百合ルートが開く。



 アイザックが耳を染めて黙ってしまった。

 隣に座るウィリアムが小さく肩を竦めて苦笑している。



(アイザックルートは都合がいい。何せ、アイザック自身が『呪い持ち』だ)



 アイザック=オーラ=フォーサイス。

 精霊国第一皇子でありながら、生まれながらの『呪い持ち』で虚弱体質。それ故に将来を見限られ、本人も王位を弟に譲るつもりでいる。そこそこな引き込もりである。



(だけど本当は、とんでもない魔力量の持ち主。資質はウィリアムを遥かに凌ぐ)



 生まれた時から体に『呪い』を宿しているのに、それが発動しないのは、自身の魔力で『呪い』を封じ込めているからだ。その上で、ある程度の魔法が使えている。



(生い立ちのせいで無口で暗い性格だけど、マリアのお陰で本来の明るさを取り戻すんだよね。書いていても成長ぶりが可愛いキャラだった)



「アイザック様とマリアは、仲良しなんだね。いつも、どんな本を読んでいるの?」



 マリアとアイザックが同時に真っ赤になる。

 初心すぎて、見ているこちらが恥ずかしい。



(あれれ、アイザックルートの序盤って、こんなに初心い感じだったかな。普通に手くらい握らせてた気がするけど)



 自分が書いたアイザックルートのシナリオを反芻する。



「二人は『呪い』について調べているんだ。兄上は、生まれながらの『呪い持ち』だからね」



 ウィリアムが突然、とんでもないことを言い出した。

 ノエルは表情を強張らせた。
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