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第Ⅰ章 ゲーム本編①
32.苦労人 アーロ=スタンリー=バックパッカー
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ここ数日のノエルは、ユリウスの研究室で訓練を受けていた。
研究所の中には実演用の大部屋があり、空間魔法が施されている。結界より強靭な作りなので、訓練には持ってこいだ。
今はその部屋で、光魔法と闇魔法を同時に出力する練習をしている。
(闇魔法ほどじゃないけど、光魔法も属性値が高いから、展開するのは難しくないんだよね。ちょっとは練習していたし)
自分の部屋で光魔法の練習は、こっそりしていた。
光魔法は治癒系や結界術が多いので、覚えておくと自衛になる。
(怪我しても自分で治せるし、結界で守れる。いつ殺されるか、わかんないわけだから、用心しないと)
とはいえ、学院に光魔法の適性を申請していないので、バレたらそれはそれでヤバイ。だから、ユリウスの空間魔法を施した訓練室を使えるのは、ノエルとしてはとても助かっている。
(結界術が守り特化なのに対して、空間魔法は捕縛や監禁に特化している。魔力も遮断されるから、バレることもない)
「皆も頑張っているかな」
計画実行に向けて、クラブメンバーにはそれぞれにユリウス特性の訓練メニューが与えられている。
現時点での実力を考えれば、たとえユリウスがいたとしても、一人一人の実力を伸ばしておかないと、とてもノアには挑めない。
(ウィリアムとレイリーも仲直りしたみたいだし、きっと仲良く練習していることだろう)
互いを想い合う喧嘩は美しいが、切ない。
折角、マリアがアイザックルートにいるのだし、あの二人には仲良しでいて欲しいと思う。
「ノエル、そろそろ休憩時間だよ。根を詰めすぎるのは良くないよ」
ユリウスが訓練室に顔を見せた。
ノエルの両手に乗る二つの魔法を眺めて、目を輝かせた。
「魔力量が格段に増えたね。その出力で中和術、使えるかな」
「このくらいなら、大丈夫です」
「じゃ、その倍で」
「えー……」
あからさまに嫌な顔をしたら、笑顔を返された。
仕方なく、更に大きな塊を作る。軽自動車一台分くらいの大きさになった。
光魔法の塊と闇魔法の塊を併せていく。
(光と闇をブレンドするイメージで。濃く強く、練り合わせるように、しっかり混ぜる。攪拌アンド凝集)
魔法はイメージが大切だ。
精度に大きく関係するし、術式の展開にも影響する。
(曲がりなりにも小説家だ。想像力・妄想力では誰にも負けない)
「それでは、お手並み拝見といこう」
ユリウスが攻撃魔法を仕掛けてくる。
それを避けながら、ブレンドした魔力の練度を上げる。魔力は徐々に白い塊になり、光を放つ。
ユリウスの攻撃魔法は容赦なくノエルに向かって飛んでくる。連撃、多数攻撃はもちろん、不意打ちも混ぜてくる。
(速い速い速い。ノエルの身体能力がなきゃ、当たってる。これは怪我どころじゃすまない威力だろ)
避けた攻撃が壁を抉っているのが目に入り、冷や汗が止まらない。それを涼しい顔でやってみせるのだから、やっぱりユリウスは怖い。
攻撃の隙を窺いながら、白く練った魔力の塊に術式を付与する。
ユリウスの攻撃魔法目掛けて、打ち込んだ。衝突した瞬間、魔力は溶けるように霧散した。
「遅い遅ーい。一連の過程をもっとスムーズに、息をするようにできないと、ノアに殺されちゃうよ」
「あんなに攻撃されたら、集中力切れますよ。体力も持ちません」
「そういう訓練なんだから、当たり前でしょ。ノアは殺す気で君に攻撃を仕掛けてくるんだ。こんなに優しくないよ」
へたり込んだノエルにユリウスが手を伸ばす。
今のノエルにはギリギリだが、御尤もな意見だと思う。
ノアは間違いなく、ノエルを殺す機を窺っているだろう。
(よもや、誰かに殺意を向けられる日が来ようとは。そんなに罪深い人生は送ってこなかったつもりなのに)
殺意とは、とても強い感情だ。それは情愛と似ている気がする。
(殺したいほど愛してるって台詞は、あながち的外れではないのかもな。なんか違う気もするけど)
疲れた頭で、どうでもいいことをぼんやり考える。
ユリウスの手を取って、ようやく立ち上がった。
「それでも、全体的にみれば上出来だよ。短期間で良く頑張りました」
ぽんぽんと頭を撫でられる。とても不本意な気持ちになる。
(小動物とか妹扱いとか、皆の中で段々ノエルの立ち位置がペット化してきている気がする)
いつもの部屋に戻ると、好青年がお茶の準備をして待っていた。
「おぅ、ノエル、お疲れさん。コーヒー淹れてあるから、飲めよ」
野性味のある顔でにっかり笑いながら茶を勧めてくれる彼は、アーロ=スタンリー=バックパッカー。
ユリウスの研究室の副室長だ。ユリウスルートに登場するサブキャラである。
背が高く筋肉質で日焼けした肌のアーロは、見た目とは裏腹に、真面目な常識人だ。しかも普段は、甲斐甲斐しくユリウスの面倒をみている。
(ユリウスがあんな感じだから、気が利くアーロが動く羽目になってる感じだけど)
時にユリウスの頼みで、国中に探索に行ったりもする。
ここ数カ月は、北方の山脈に薬草摘みに行かされていたらしい。ノエルがアーロと顔を合わせたのは、つい最近のことだ。
(断ってもいいのに、律儀に行っちゃう辺りが優しいんだよね。攻略キャラじゃないけど、そこそこ人気があったなぁ)
「いつも、ありがとうございます。コーヒー、いただきます」
「気にすんな。俺が不在の間、ユリウスの面倒みてくれていたんだろ。迷惑かけて悪かったな」
「僕がノエルの面倒をみていたんだよ。この娘は本当に面白くてね、知らない魔術も教えればすぐに使いこなすし、教えていない魔法もできちゃったりするんだよ。すごいでしょ」
まるで自分事のように興奮気味にユリウスがアーロに語る。
アーロは困り顔で、はいはいと流している。
副室長だがユリウスより年上なので、お兄さん的な貫禄だ。いつものことだから、慣れているのだろう。
(私が魔術を使えるのは、原理と術式を知っているからで、更には神様の転生特典なんだけど。すごくないんだけどな)
ノエルが知らない術式も多く存在するが、基本を押さえていればイメージで対応できる範囲だ。使えない魔法・魔術は、ほぼ存在しない。
(ただ、魔力量だけは、どうしようもない。これは地道に増やしていくしかないからなぁ)
ユリウスの話から、事故前のノエルより魔力量は増えているようだが、中和術を使うなら、まだ足りない。光魔法と闇魔法を同時に展開するには、膨大な魔力を消費する。
(どの程度まで使えるか、限界を把握しておかないと。魔力切れ起こしたら魔石に飲まれて魔獣化してユリウスに殺される)
考え至った結論に、血の気が下がった。
研究所の中には実演用の大部屋があり、空間魔法が施されている。結界より強靭な作りなので、訓練には持ってこいだ。
今はその部屋で、光魔法と闇魔法を同時に出力する練習をしている。
(闇魔法ほどじゃないけど、光魔法も属性値が高いから、展開するのは難しくないんだよね。ちょっとは練習していたし)
自分の部屋で光魔法の練習は、こっそりしていた。
光魔法は治癒系や結界術が多いので、覚えておくと自衛になる。
(怪我しても自分で治せるし、結界で守れる。いつ殺されるか、わかんないわけだから、用心しないと)
とはいえ、学院に光魔法の適性を申請していないので、バレたらそれはそれでヤバイ。だから、ユリウスの空間魔法を施した訓練室を使えるのは、ノエルとしてはとても助かっている。
(結界術が守り特化なのに対して、空間魔法は捕縛や監禁に特化している。魔力も遮断されるから、バレることもない)
「皆も頑張っているかな」
計画実行に向けて、クラブメンバーにはそれぞれにユリウス特性の訓練メニューが与えられている。
現時点での実力を考えれば、たとえユリウスがいたとしても、一人一人の実力を伸ばしておかないと、とてもノアには挑めない。
(ウィリアムとレイリーも仲直りしたみたいだし、きっと仲良く練習していることだろう)
互いを想い合う喧嘩は美しいが、切ない。
折角、マリアがアイザックルートにいるのだし、あの二人には仲良しでいて欲しいと思う。
「ノエル、そろそろ休憩時間だよ。根を詰めすぎるのは良くないよ」
ユリウスが訓練室に顔を見せた。
ノエルの両手に乗る二つの魔法を眺めて、目を輝かせた。
「魔力量が格段に増えたね。その出力で中和術、使えるかな」
「このくらいなら、大丈夫です」
「じゃ、その倍で」
「えー……」
あからさまに嫌な顔をしたら、笑顔を返された。
仕方なく、更に大きな塊を作る。軽自動車一台分くらいの大きさになった。
光魔法の塊と闇魔法の塊を併せていく。
(光と闇をブレンドするイメージで。濃く強く、練り合わせるように、しっかり混ぜる。攪拌アンド凝集)
魔法はイメージが大切だ。
精度に大きく関係するし、術式の展開にも影響する。
(曲がりなりにも小説家だ。想像力・妄想力では誰にも負けない)
「それでは、お手並み拝見といこう」
ユリウスが攻撃魔法を仕掛けてくる。
それを避けながら、ブレンドした魔力の練度を上げる。魔力は徐々に白い塊になり、光を放つ。
ユリウスの攻撃魔法は容赦なくノエルに向かって飛んでくる。連撃、多数攻撃はもちろん、不意打ちも混ぜてくる。
(速い速い速い。ノエルの身体能力がなきゃ、当たってる。これは怪我どころじゃすまない威力だろ)
避けた攻撃が壁を抉っているのが目に入り、冷や汗が止まらない。それを涼しい顔でやってみせるのだから、やっぱりユリウスは怖い。
攻撃の隙を窺いながら、白く練った魔力の塊に術式を付与する。
ユリウスの攻撃魔法目掛けて、打ち込んだ。衝突した瞬間、魔力は溶けるように霧散した。
「遅い遅ーい。一連の過程をもっとスムーズに、息をするようにできないと、ノアに殺されちゃうよ」
「あんなに攻撃されたら、集中力切れますよ。体力も持ちません」
「そういう訓練なんだから、当たり前でしょ。ノアは殺す気で君に攻撃を仕掛けてくるんだ。こんなに優しくないよ」
へたり込んだノエルにユリウスが手を伸ばす。
今のノエルにはギリギリだが、御尤もな意見だと思う。
ノアは間違いなく、ノエルを殺す機を窺っているだろう。
(よもや、誰かに殺意を向けられる日が来ようとは。そんなに罪深い人生は送ってこなかったつもりなのに)
殺意とは、とても強い感情だ。それは情愛と似ている気がする。
(殺したいほど愛してるって台詞は、あながち的外れではないのかもな。なんか違う気もするけど)
疲れた頭で、どうでもいいことをぼんやり考える。
ユリウスの手を取って、ようやく立ち上がった。
「それでも、全体的にみれば上出来だよ。短期間で良く頑張りました」
ぽんぽんと頭を撫でられる。とても不本意な気持ちになる。
(小動物とか妹扱いとか、皆の中で段々ノエルの立ち位置がペット化してきている気がする)
いつもの部屋に戻ると、好青年がお茶の準備をして待っていた。
「おぅ、ノエル、お疲れさん。コーヒー淹れてあるから、飲めよ」
野性味のある顔でにっかり笑いながら茶を勧めてくれる彼は、アーロ=スタンリー=バックパッカー。
ユリウスの研究室の副室長だ。ユリウスルートに登場するサブキャラである。
背が高く筋肉質で日焼けした肌のアーロは、見た目とは裏腹に、真面目な常識人だ。しかも普段は、甲斐甲斐しくユリウスの面倒をみている。
(ユリウスがあんな感じだから、気が利くアーロが動く羽目になってる感じだけど)
時にユリウスの頼みで、国中に探索に行ったりもする。
ここ数カ月は、北方の山脈に薬草摘みに行かされていたらしい。ノエルがアーロと顔を合わせたのは、つい最近のことだ。
(断ってもいいのに、律儀に行っちゃう辺りが優しいんだよね。攻略キャラじゃないけど、そこそこ人気があったなぁ)
「いつも、ありがとうございます。コーヒー、いただきます」
「気にすんな。俺が不在の間、ユリウスの面倒みてくれていたんだろ。迷惑かけて悪かったな」
「僕がノエルの面倒をみていたんだよ。この娘は本当に面白くてね、知らない魔術も教えればすぐに使いこなすし、教えていない魔法もできちゃったりするんだよ。すごいでしょ」
まるで自分事のように興奮気味にユリウスがアーロに語る。
アーロは困り顔で、はいはいと流している。
副室長だがユリウスより年上なので、お兄さん的な貫禄だ。いつものことだから、慣れているのだろう。
(私が魔術を使えるのは、原理と術式を知っているからで、更には神様の転生特典なんだけど。すごくないんだけどな)
ノエルが知らない術式も多く存在するが、基本を押さえていればイメージで対応できる範囲だ。使えない魔法・魔術は、ほぼ存在しない。
(ただ、魔力量だけは、どうしようもない。これは地道に増やしていくしかないからなぁ)
ユリウスの話から、事故前のノエルより魔力量は増えているようだが、中和術を使うなら、まだ足りない。光魔法と闇魔法を同時に展開するには、膨大な魔力を消費する。
(どの程度まで使えるか、限界を把握しておかないと。魔力切れ起こしたら魔石に飲まれて魔獣化してユリウスに殺される)
考え至った結論に、血の気が下がった。
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