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四月六日:青春4
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真水が帰り、本格的に二人は就寝準備に取り掛かった。
「祭ちゃん先にお風呂入る?」
「あ、そうしようかな。いいの?」
「うん、今からお湯沸かすからちょっと待ってね」
「ありがとなのよ~」
祭は持ってきていた下着とパジャマを準備した後も、ごそごそと持ってきていたカバンを漁る。
「あ、お風呂沸くまでこれやらない?」
手に持っていたのはリバーシだった。
「祭ちゃんが持ってきたの?」
「うん。なんかすごい楽しみでさ、いろいろ持ってきちゃったのよ」
祭は持ち運べるサイズのゲームをいくつもカバンに入れていた。
「いっぱいあるねぇ」
物珍しくゲームを見てしまう。
「はい、じゃあ華火が先攻でいいよ」
気付けばゲームは開始されていた。
「華火ってリバーシ得意?」
「う~ん、どうかな」
祭は一手打つごとに少し考えているようだった。それに対し、華火はテンポ良く綺麗に黒の陣地を広げていく。
「いや、得意じゃん。めっちゃ強いのよ・・・」
気づけば既に四隅のうち三か所を黒にしていた。
「先攻もらっちゃったからじゃない?」
「そうかなぁ・・・」
どんどん黒い陣地が増えていく。何回かに一回は黒が打てる場所がなく、休みになってしまった。
「うはぁ、負けたのよ!華火強い!」
「ありがとう」
黒、つまり華火の圧勝だった。
「でも黒ってなんか縁起悪い気がする」
「そう?たかがゲームじゃないの」
「そう、そうなんだけどね」
なんとなく華火は黒色に良い印象がなかった。白色の方が好きだった。
「黒は黒でいいじゃないのよ。はっきりしてて。それに大概の日本人の髪の毛は黒色なのよ」
「それはほら、メラニン色素とか、そういう問題でしょ?」
「変わらないのよ。色なんて、そこにあるから見えるだけ。見えなきゃ全部同じ色なのよ」
「・・・極端だね」
「無色透明だって色だっていうけど、本当に透明だったら見えないんだから色もなにもないのよ。見えて初めて色になるんだから。それならハッキリしてる色がうちは好き、っていう話」
「色でなにかを連想して、不安になる、とかはないの?」
「ない。そんなの被害妄想、偏見と同じなのよ。勝手に人間が色、という概念を作っておいて勝手に不安がる。赤でも青でも、白でも黒でも、ただの色。それ以上でも以下でもないのよ」
「なんだか真水ちゃんみたいだね」
「やだ、あれと一緒にしないでほしいのよ!うちは黒も結構好きな色だから、縁起悪いとか言われるのがちょっと、こう、イマイチだったのよ!」
「そっか、ごめんね」
「・・・なんかうちが負けた腹いせに説教してる人みたいになってるのよ!嫌!お風呂いってくるの!」
祭は立ち上がったかと思うと、すぐに風呂場に逃げ込むように入っていった。シャワーの音が響くと同時に祭の悲鳴も聞こえる。
「つ、つめたっ!!!」
「あ、祭ちゃん。うちのシャワー、最初は水だからしばらく水出さないとお湯でないよ」
「言うのが遅いのよ!」
就寝する準備を二人で整える。華火の部屋に敷布団を二組並べる。二十三時、眠るには少し早い時間だが、二人とも布団に潜り込む。
「華火、寝る前にちょっと話そうよ」
私は横になりながら顔を横に向ける。
「あのさ」
「ん?」
「祭ちゃんはさ、その、今日私がご飯作らなくても良かったの?」
先日、あれだけ華火の手料理が食べたいと言っていたが、今日はむしろ作ってもらってしまった。
「ん?あぁいいのよいいの。楽しみにしてないとかじゃなくて、最初くらいは一緒にできるようなのが良いなって思ったのよ。真水もいたしね」
さらに祭が言葉を続ける。
「それに、あれって人数がいる時こそ楽しいと思うのよね。一人暮らししてるとなかなか誰かと夕飯、ってわけにもいかないかなって。・・・それなら最初は派手にいこうと思ったのよ」
「派手にいこうって・・・」
思わず笑ってしまった。
「それで?華火はたこ焼きパーティー楽しかった?」
「うん!すっごい楽しかったよ」
二人はその後も函嶺のことやそこで起きた不思議な体験、クラスのこと、勉強のことなどたくさんの話をした。話題は次から次へ変わっていき、二人にとって楽しい時間だった。次はあれをしたい、これをしたいと祭が次々に言えば、私にはその全てが楽しそうに聞こえた。
深夜一時、華火は話疲れて既に眠ってしまった。そんな寝顔を祭は見つめる。
「華火」
小声で話しかける声は空中へ霧散していく。
「新学期始まって、まさかこんなに華火と仲良くなれると思わなかったの。去年まではうちが話しかけても、最後はそそくさと逃げちゃってたのに」
祭は何となく華火の頭を撫でる。
「ずっとあこがれてたの。綺麗な人だなって」
「んん」
声に驚いて前を向けば身じろぎしているが、しっかりと眠っている華火だった。
「・・・可愛いのよなぁ」
理由もなく笑ったあと、祭は華火の掛布団を直し、自身もしっかりと布団を掛けなおした。 「おやすみなさい」
夜は静かに更けていく。
「全く収穫がなかったわ~」
真水は帰宅した部屋で一人愚痴を言う。
「しかも・・・」
真水はアバンチュールをを起動させる。
「直接入ったウイルスは弾くってことかしら。意外に機械強い系?」
祭の端末から経由した場合は効いていたが、直接悪意のあるアプリを華火の端末にインストールしても機能しないようだった。隙を見て千歳華火の端末にアバンチュールをインストールさせてはみたが、無駄骨だったらしい。
「それともその手に強い知り合いでもいるのかしら・・・。む~~~」
手元のメモ帳の内容を整理しながら、真水は隠し撮っていた聞き込み時の音声データをタブレットへ書き出す。
「いっそのこと、私も泊まった方が良かったかなぁ。いや、でも泊まって何も得られなかったらと思うと恐ろしすぎる。あと私のメンタルがもたない。なにあのデレデレしてる祭は。腹立つわ」
無性にむしゃくしゃし、カバンからガムを取り出す。コーラ味の安いガムを真水は好んでいた。
書き出した音声データを再生させる。一本目は真水と男性の音声が流れる。早回しで十分ほどの音声データが終わると続けて女性の声が再生される。真水とガソリンスタンドの女子高生だ。最初の方は真水自身が警戒されないような、自己紹介さながらの世間話をしている。
「この辺からか・・・」
『今の彼氏の他に、元カレがいるとか、そういう話は聞いたことないですか?』
『元カレとかの話は聞いたことないなぁ。でもどうしてそんなことを?』
『お医者さんに話を伺ったら、精神的に大きなショックを受けて目覚めなくなった可能性もあるし、ストレスっていう可能性もあるって聞いたので。私がよく知らない、忍冬さんのショックとかストレスってやっぱり恋人関係とか、かなぁ、と思いまして。私、どうしても原因を知りたくて・・・。なにか思い当たることとかありませんか?』
『そう、なんですね。・・・そういえば、矜ちゃんは本当に綺麗なんですけど、初恋は実らなかったって言ってましたよ』
『・・・意外ですね』
『そうなんです。私もあんな美人を振るような人がいるのかと思って、聞き返したんですけど』
『ええ』
『告白はしなかったらしいです。どうにも相手と自分の間に壁を感じた、とかで。・・・付き合ったらまた何か違ったんじゃないかなぁって、部外者の私は思ったりしますけどね』
『確かに、彼女ならこの世のすべての人を落とせそうですけどね』
『あはは、私もそう思いました。でも、ずっと一緒にいるとそういう目で見ない、とかあるんですかね』
『と、いうと?』
『初恋の相手は幼馴染みらしいんですよ。初恋は実らないってよく言いますけど、本当みたいですね』
その後の会話に特筆すべきことはなかった。
「幼馴染み、ねぇ」
真水は意地の悪い顔をしながら以前千歳華火の端末から失敬した画像を見返す。
「案外、両想いだったのかもよ。教えてなんか、やらないけど」
「祭ちゃん先にお風呂入る?」
「あ、そうしようかな。いいの?」
「うん、今からお湯沸かすからちょっと待ってね」
「ありがとなのよ~」
祭は持ってきていた下着とパジャマを準備した後も、ごそごそと持ってきていたカバンを漁る。
「あ、お風呂沸くまでこれやらない?」
手に持っていたのはリバーシだった。
「祭ちゃんが持ってきたの?」
「うん。なんかすごい楽しみでさ、いろいろ持ってきちゃったのよ」
祭は持ち運べるサイズのゲームをいくつもカバンに入れていた。
「いっぱいあるねぇ」
物珍しくゲームを見てしまう。
「はい、じゃあ華火が先攻でいいよ」
気付けばゲームは開始されていた。
「華火ってリバーシ得意?」
「う~ん、どうかな」
祭は一手打つごとに少し考えているようだった。それに対し、華火はテンポ良く綺麗に黒の陣地を広げていく。
「いや、得意じゃん。めっちゃ強いのよ・・・」
気づけば既に四隅のうち三か所を黒にしていた。
「先攻もらっちゃったからじゃない?」
「そうかなぁ・・・」
どんどん黒い陣地が増えていく。何回かに一回は黒が打てる場所がなく、休みになってしまった。
「うはぁ、負けたのよ!華火強い!」
「ありがとう」
黒、つまり華火の圧勝だった。
「でも黒ってなんか縁起悪い気がする」
「そう?たかがゲームじゃないの」
「そう、そうなんだけどね」
なんとなく華火は黒色に良い印象がなかった。白色の方が好きだった。
「黒は黒でいいじゃないのよ。はっきりしてて。それに大概の日本人の髪の毛は黒色なのよ」
「それはほら、メラニン色素とか、そういう問題でしょ?」
「変わらないのよ。色なんて、そこにあるから見えるだけ。見えなきゃ全部同じ色なのよ」
「・・・極端だね」
「無色透明だって色だっていうけど、本当に透明だったら見えないんだから色もなにもないのよ。見えて初めて色になるんだから。それならハッキリしてる色がうちは好き、っていう話」
「色でなにかを連想して、不安になる、とかはないの?」
「ない。そんなの被害妄想、偏見と同じなのよ。勝手に人間が色、という概念を作っておいて勝手に不安がる。赤でも青でも、白でも黒でも、ただの色。それ以上でも以下でもないのよ」
「なんだか真水ちゃんみたいだね」
「やだ、あれと一緒にしないでほしいのよ!うちは黒も結構好きな色だから、縁起悪いとか言われるのがちょっと、こう、イマイチだったのよ!」
「そっか、ごめんね」
「・・・なんかうちが負けた腹いせに説教してる人みたいになってるのよ!嫌!お風呂いってくるの!」
祭は立ち上がったかと思うと、すぐに風呂場に逃げ込むように入っていった。シャワーの音が響くと同時に祭の悲鳴も聞こえる。
「つ、つめたっ!!!」
「あ、祭ちゃん。うちのシャワー、最初は水だからしばらく水出さないとお湯でないよ」
「言うのが遅いのよ!」
就寝する準備を二人で整える。華火の部屋に敷布団を二組並べる。二十三時、眠るには少し早い時間だが、二人とも布団に潜り込む。
「華火、寝る前にちょっと話そうよ」
私は横になりながら顔を横に向ける。
「あのさ」
「ん?」
「祭ちゃんはさ、その、今日私がご飯作らなくても良かったの?」
先日、あれだけ華火の手料理が食べたいと言っていたが、今日はむしろ作ってもらってしまった。
「ん?あぁいいのよいいの。楽しみにしてないとかじゃなくて、最初くらいは一緒にできるようなのが良いなって思ったのよ。真水もいたしね」
さらに祭が言葉を続ける。
「それに、あれって人数がいる時こそ楽しいと思うのよね。一人暮らししてるとなかなか誰かと夕飯、ってわけにもいかないかなって。・・・それなら最初は派手にいこうと思ったのよ」
「派手にいこうって・・・」
思わず笑ってしまった。
「それで?華火はたこ焼きパーティー楽しかった?」
「うん!すっごい楽しかったよ」
二人はその後も函嶺のことやそこで起きた不思議な体験、クラスのこと、勉強のことなどたくさんの話をした。話題は次から次へ変わっていき、二人にとって楽しい時間だった。次はあれをしたい、これをしたいと祭が次々に言えば、私にはその全てが楽しそうに聞こえた。
深夜一時、華火は話疲れて既に眠ってしまった。そんな寝顔を祭は見つめる。
「華火」
小声で話しかける声は空中へ霧散していく。
「新学期始まって、まさかこんなに華火と仲良くなれると思わなかったの。去年まではうちが話しかけても、最後はそそくさと逃げちゃってたのに」
祭は何となく華火の頭を撫でる。
「ずっとあこがれてたの。綺麗な人だなって」
「んん」
声に驚いて前を向けば身じろぎしているが、しっかりと眠っている華火だった。
「・・・可愛いのよなぁ」
理由もなく笑ったあと、祭は華火の掛布団を直し、自身もしっかりと布団を掛けなおした。 「おやすみなさい」
夜は静かに更けていく。
「全く収穫がなかったわ~」
真水は帰宅した部屋で一人愚痴を言う。
「しかも・・・」
真水はアバンチュールをを起動させる。
「直接入ったウイルスは弾くってことかしら。意外に機械強い系?」
祭の端末から経由した場合は効いていたが、直接悪意のあるアプリを華火の端末にインストールしても機能しないようだった。隙を見て千歳華火の端末にアバンチュールをインストールさせてはみたが、無駄骨だったらしい。
「それともその手に強い知り合いでもいるのかしら・・・。む~~~」
手元のメモ帳の内容を整理しながら、真水は隠し撮っていた聞き込み時の音声データをタブレットへ書き出す。
「いっそのこと、私も泊まった方が良かったかなぁ。いや、でも泊まって何も得られなかったらと思うと恐ろしすぎる。あと私のメンタルがもたない。なにあのデレデレしてる祭は。腹立つわ」
無性にむしゃくしゃし、カバンからガムを取り出す。コーラ味の安いガムを真水は好んでいた。
書き出した音声データを再生させる。一本目は真水と男性の音声が流れる。早回しで十分ほどの音声データが終わると続けて女性の声が再生される。真水とガソリンスタンドの女子高生だ。最初の方は真水自身が警戒されないような、自己紹介さながらの世間話をしている。
「この辺からか・・・」
『今の彼氏の他に、元カレがいるとか、そういう話は聞いたことないですか?』
『元カレとかの話は聞いたことないなぁ。でもどうしてそんなことを?』
『お医者さんに話を伺ったら、精神的に大きなショックを受けて目覚めなくなった可能性もあるし、ストレスっていう可能性もあるって聞いたので。私がよく知らない、忍冬さんのショックとかストレスってやっぱり恋人関係とか、かなぁ、と思いまして。私、どうしても原因を知りたくて・・・。なにか思い当たることとかありませんか?』
『そう、なんですね。・・・そういえば、矜ちゃんは本当に綺麗なんですけど、初恋は実らなかったって言ってましたよ』
『・・・意外ですね』
『そうなんです。私もあんな美人を振るような人がいるのかと思って、聞き返したんですけど』
『ええ』
『告白はしなかったらしいです。どうにも相手と自分の間に壁を感じた、とかで。・・・付き合ったらまた何か違ったんじゃないかなぁって、部外者の私は思ったりしますけどね』
『確かに、彼女ならこの世のすべての人を落とせそうですけどね』
『あはは、私もそう思いました。でも、ずっと一緒にいるとそういう目で見ない、とかあるんですかね』
『と、いうと?』
『初恋の相手は幼馴染みらしいんですよ。初恋は実らないってよく言いますけど、本当みたいですね』
その後の会話に特筆すべきことはなかった。
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