恋恣イ

金沢 ラムネ

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四月一日:プロローグ

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 朝起きたら記憶がなかった。私は誰、ここはどこ状態。だがどこか、冷静に考えている自分がいた。私はまず枕元にあったスマホを確認した。幸い、意図的にか、ロックはかかっていなかった。

「四月一日、午前四時十二分・・・」
 スマホのSNSアプリ、画像フォルダを漁る。ここ最近の画像は高校の写真や風景の写真が多かった。一枚だけ、女性が笑っている写真に、目がいった。とても綺麗だと思った。
そしてどうやら、私は現在進行形で高校生らしい。最後にスマホの持ち主情報を設定から確認する。
「千歳華火・・・」
 傍に置いてあったカバンから財布や教科書、生徒手帳などを見つけた。これでどうやら学校までの経路や予定がわかった。今日は函嶺高校の始業式らしい。
「なにはともあれ、服・・・」
 ひとまず病院に行く必要があるかもしれない。ベッドから立ち上がり、身なりを整えることにした。
「あ、これが制服か」
 自分が目覚めた部屋はよく片付けてあり、日常的に使っているものは目に付く場所に置かれている印象だった。大きなものはベッドとクローゼット、勉強机、本棚というシンプルな部屋だった。そして私は自分宛の手紙を見つけたのだった。手紙に書いてあったことは今の自分にとって助けにもなり、理解が難しい部分もあった。
「・・・時間がないにしてももう少し書き方あったでしょう」

 高校の住所と今いる家であろう場所の住所をスマホの地図アプリで入力し、ルートを調べる。登校時間を考えると、この家を七時半前には出なくてはならないらしい。
「あと三時間・・・」
 私は千歳華火を知るために、千歳華火になりきることを決めたのだ。



拝啓 千歳華火さんへ 
 
 あまり時間がないため、時候の挨拶は省略させてもらいます。
 あなたはきっと何もわからない状況で、この手紙を読んでいるのでしょう。すいません、私のせいです。あなたが知りたいと思うようなことは、私が墓場まで持って行きます。あなたは真っ白な、そこから自由に生きてほしい。私の分まで。

 私はあまり人付き合いがうまい方ではなかったので、もしかしたらあなたにもご迷惑をお掛けしてしまうかもしれません。私とは違う、あなたなりの、人との接し方を探してみてください。人っていうのは私が思っていたよりも、ずっと優しい、最近はそう思っています。

 薄々感じているかもしれませんが、千歳華火には特別な力がありました。人の常識では測れない力です。それは確かに、今もあなたの中に眠っています。それについてはもうなるようになるしかないですが、異変を感じたら、日が沈んでから学校に行ってみてください。きっと私の友達が助けになってくれます。あぁ、これは誰にも見つからないように、慎重にね。なにも変化がなければそれに越したことはないのですが・・・。

 最後に、忍冬矜についてです。もし、彼女と知り合う機会があれば、それとなく気にかけてやってほしいのです。私はこんなことを頼める立場ではないので、本当にこれは私の一方的な我がままで、独りよがりです。歪んだ愛情と言っても差し支えないほどの。だから、本来あなたが私の我がままを聞く必要はないのですが、それでも、できればどうか。

 私の人生は幸福で満ち満ちていました。だからこそ、あなたのこれからの人生が私以上に幸多からんことを願っています。
                                                草々不一


「一方通行な、初恋だった」
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