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15.違和感の経歴
しおりを挟む少々強引に投げかけた質問に、柚子ちゃんはうーんとねと過去を思い出すかのようにポツリポツリと話し始めた。
「柚子はね。一乃瀬家でお父さんとお母さんが働いていたの。でも病気で亡くなって……。その後、一条家にお姉ちゃんと移動したんだ。」
その顔が少し寂しそうに見えたのは気のせいではないだろう。
うんうんと頷きながら柚子ちゃんの話と表情に全神経を集中させる。
それにしても、一乃瀬家の出身で一条家で育っているなら、やはりレアチーズケーキを知らないというのは引っかかる。メイドという立場であるが故に実際にそれを口にしたことがない、というのであれば理解できるが、そのもの自体を知らないというのは…。まして一条家で育っていて、食に対して貪欲な柚子ちゃんという前提があるから尚更疑惑が深まる。
「お姉ちゃんは王都のメイド学校行ってて、柚子も同じ所に行くって思ってたんだけど、その時の一条家のばぁやが五十嵐領のメイド学校行きなさいって!最初は遠いし寮生活で嫌だったんだけど……。五十嵐領のメイド学校は、この国で1番歴史も古いししっかりしてるし、海も綺麗だし、貿易してるから食べ物も美味しいと思ったし、柚子のお母さんもそこを卒業したからって事で進学したの~。」
確かに五十嵐家の領地は海に近く、貿易も盛んだ。食生活も文化も、王都とは少し違う。メイド学校時代に刺激の多い毎日を過ごして、王都で過ごした幼少期の記憶が薄れているのか…。いや、話を聞く限り彼女の記憶ははっきりとしているように思える。
「それでね、卒業してすぐ一条家に帰って修行って思ったんだけど、他のお屋敷知った方が良いからってそのまま五十嵐公爵家のお屋敷に勤めることになったんだ!本当はもう少しいるはずだったんだけど、一条家のばぁやが田舎に行く事になって人手不足で呼び戻されてーー今に至りますっ!」
柚子ちゃんは勢いよく話を締めると、どう?面接みたい?なんてニコニコ笑って残りのチーズケーキを頬張った。
経歴だけを聞くと特別不審な点はないが、やはり気になるのはこの国の食文化について知識が欠けているところ。
本当はこの国の出身ではなくて、どこか別のところからやって来て、王都での食文化に慣れる前に五十嵐領に行ったのではないか…。そんな考えが浮かぶ。
–でも、なぜそんな嘘をつく必要がある?彼女は一体何を隠している?
視線を落とせば、コーヒーカップに難しい顔をした自分が映った。…自分だって、嘘をついているくせにな。
「光くん、光くん」
控えめに俺を呼ぶ声でハッと我に帰り、視線を元に戻す。
えらく心配したような様子で俺の顔を覗き込み、大丈夫?と首を傾げる柚子ちゃん。
ごめん、大丈夫と口を開こうとした瞬間、被せるように彼女が言葉を紡いだ。
「お腹いっぱいになっちゃった?残り、柚子が食べようか?」
心配している声色とは裏腹に、その目は俺の皿に乗っている半分残ったティラミスに釘付けだった。
…いや、やっぱりこの子に嘘がつけるとは思えない。
食い意地が張っていて、己の欲に忠実で、少し幼いけど優しい彼女が嘘をつくなんて到底思えなくて。俺は沸き起こった違和感に気付かないふりをすることにした。
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