ようこそ、一条家へ

如月はづき

文字の大きさ
30 / 72
4

28.柚子はスパイ⑦

しおりを挟む
 シーズン1 28 柚子はスパイ⑦



 待ち望んだ日は、思ったよりも早くやってきた。ある夕方のことだった、夕食準備をしているお姉ちゃんに深雪さんは、

「今夜は食事はいらないよ~。夜食にたまごサンド作って欲しいな」

 と声をかけていたのだ。……私も夜食にたまごサンド食べたい!あ、違う。そうじゃない!



「と言うことで、光くん!夜に張り込みをしようではないか」



「えっ?今夜?随分急やなぁ」



「だって夜に出掛けるって聞いたし、こんなチャンス2度とないかもしれないよ?」



 出かけることを夕食前に知るのは初めてだった。食後に仮眠をすれば、それなりに起きていられるのではないかと私は考えていた。



「そりゃ、そうやけど……」



「じゃあ、仮眠したり準備して……22時半頃に階段に集合ね」



 なんだかんだ言いつつ、私に合わせてくれる光くんは了解と返事をしてその場を去った。お屋敷のみんなは、特別な事情がなければ22時過ぎに自室へ戻っている。1番夜中までウロウロしている修斗くんの部屋は、1階だから階段で見張る分にはバレないだろう。







 時刻は22時。いつも通り日記を書きながら、窓の外をチラチラ確認する。暗いから見えるわけはないけど、人が来ればそれなりに気配は感じるはずだ。そもそも、深雪さんが帰ってくるのは、正門と裏門どっちなんだろう。あーもう!いろいろが気になり過ぎて日記が書けない!

 30分ってこんなに長いんだっけ?あー、22時に階段待ち合わせにすれば、この緊張感を光くんと分かち合えたのに。



「集中できないっ!」



 部屋中を歩き回ったり、意味もなくベッドにダイブしてみたり、我ながら落ち着きがないなぁと思いながら過ごす。

 時計の針が22時半を指したその瞬間、私は部屋の扉を開けた。……と、同時に光くんの部屋も扉が開く。2人で顔を見合わせて、静かに階段まで歩く。



「暑いなぁ……」



「もう8月だからねぇ」



 いつもはもっと季節を感じるのに、今年は誘拐事件に巻き込まれたり、メイド見習いの修行をしたり、時間の流れはあっという間だった。開閉できない大きな窓があるだけの階段はとにかく暑い。



「深雪さん、何時ごろ来るんやろ?」



「うーん。この前、柚子が見たのは1時頃だったかな?シャツに血みたいな赤い何かが付いてて……」



「そっか。……夜中にそんなん見たら、柚子ちゃんもビックリしたなぁ」



「ビックリしたけど、柚子はこの謎を解き明かす使命を持ってると思ったよ!なんたって、柚子はスパイなんだから!」



 グッと親指を立ててポーズを決めておく。小声なので、かっこよく決まらないのが残念だけど、それは仕方ない。



「スパイごっこ……な。柚子ちゃん、どっちかって言うと探偵やで?立花さんや結衣さんに聞き込みするんは、スパイと違うと思うなぁ」



「……え?そうなの?聞き込みしないの?」



「分からんけど……スパイは、その、何というか」



 スパイと探偵って大体同じじゃないのか?両方とも謎を解き明かすんだから。



「探偵は、聞き込みやその足での追跡など表立って謎を解く。捜査していることが、わかりやすい。スパイは、対象に潜入し内側から秘密裏に得たい情報を得る。と言うイメージを俺は持っている」



 私と光くんしかいないはずの階段ーー背後から聞こえるのは、最もバレてはいけない威厳に満ちた声だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

処理中です...