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30.柚子はスパイその後
しおりを挟む大雅くんにバレてから数日が経った。誰にも報告されなかったのか、それともみんなは、報告されても何も思わなかったのか、私たちが怒られるようなことはなかった。
3階への出入りは禁止されていないーーと言われたので、私はお姉ちゃんに片付けを手伝うと申し出た。資料整理は大体終わっているらしく、処分するものを運び出す作業を手伝うことになった。
「え!この箱の中身全部捨てるの?」
お姉ちゃんに玄関まで持って行くように言われたその箱の中身は、機密文書の印鑑が押された紙の束だ。
「もういらない書類だから……。読みたいなら持っていっていいわよ?」
紙の束を捲ると、私と光くんが頑張って解読したあの達筆な字がびっしり書いてある。あんなに苦労して持ち出したのに、捨てる書類だったのか!しかもお姉ちゃん持っていっていいって言ってるし。
「……お姉ちゃんは、これ読める?」
あまりにも達筆なこの書類、お姉ちゃんは中身を確認して仕分けしたんだろうか。
「これは土地に関することね、一条家や他公爵家の土地運用について。あとこれは大臣任命書……ね」
読めるんかーい!なんでこんな達筆な文字が読めるの?
「……読めるの?柚子なんて書いてあるかぜーんぜんわかんないよ」
「随分達筆な字だから、所々読めていないけど……内容はなんとなくわかるわ。機密文書って書いてあるから何かと思えば、普通の書類だったのよね」
普通の書類……。そりゃ、機密文書って書いてあれば中身はなんだろうって期待するよね。あれ?そういえば、レプリカの拳銃はどこに行ったんだろ?
「結衣ちゃーん」
キョロキョロと部屋の中を見渡していると、階段の方から立花さんの声がする。何かしら?と呟いたお姉ちゃんが廊下へと歩いて行った。
この隙に!何かとお宝ーーになりそうなものはないか探す。でも箱の中は、書類、書類、書類、書類の山だ。ガサガサ漁っていると、お姉ちゃんが立花さんと門番さんを連れて戻ってきた。
「何か探し物か?」
「柚子はハンターになったから、お宝探してるの!」
門番さんに声をかけられて、得意気に答える。
「ここは書類ばっかりだから……柚子の望むお宝は無いような気がするわ」
お姉ちゃんが少し考えている様子だったので、あぁ本当に何も無いんだなと残念に思う。
「残念だったな。……それで、俺はどれを持って行けばいい?」
門番さんが、立花さんとお姉ちゃんに向き合った。……拳銃か!
「この箱と……、あと向こうに騎士団からお預かりしてる物があるので、それもお願いしたいです」
「了解」
門番さんと立花さんが隣の部屋に移動したので、その後ろを着いていく。
「こちらですね」
立花さんが示した箱、蓋が開いていて拳銃だとわかる。ここは、中身が何か知らないふりをして話しかけた方が良さそうだ。
「あ!拳銃だっ!柚子も見たいっ!みーせーてー」
「おわっ!いつの間に着いて来たんだ」
「柚子ちゃん!危ないから、僕が結衣ちゃんに怒られるから」
「すごーい!柚子初めて見た」
棒読みっぽかったかな……と思いつつ、とりあえず拳銃には近づいた。
「偽物だけどな。ほら、持ってみるか?」
門番さんはそう言って、私に手渡した。丁寧に受け取って構えてみる。
「意外と軽いんだね!」
「本物はもっと重たいし、扱いづらいぞ」
「ふーん。門番さんは撃ったことあるの?」
「……一応、騎士団にいるからな。扱えなくはない」
ほぉ!騎士団では上層部しか持てないと聞いていたけど、一応全員訓練はしているのか。ちょっと羨ましい、私もやってみたいぞ。
「立花さんはー??」
「使ったことはないよ!そもそも手にする機会はなかったし……」
執事学校では教わらないのか、騎士団ーーやっぱり特別な組織なんだなぁ。
「柚子。危ないから、門番さんにお返ししなさい」
心配性なお姉ちゃんがやって来た。偽物だと知っているはずなのに……まぁ確かに偽物でも何があるかわからないけど。大人しく門番さんに返却する。
「お姉ちゃんは?拳銃撃ったことあるー?」
私とお姉ちゃんは、通っていたメイド学校が違う。騎士団の養成所も隣にあったお姉ちゃんの学校はどうなんだろう。
「ないわ……。拳銃も、これを預かった時に見たのが初めてよ」
「そうだよねー」
立花さんが少し驚いたように目を丸くして、何か言いたそうにこっちを見ていた。
偽物でも拳銃の扱いを聞いておけば良かったーー。拳銃までいかなくても、護身術くらい習っておけば良かったーー。そんな風に思う日が来るなんて、この時の私はまだ知らなかった。
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