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41.災⑦
しおりを挟む「柚子っ!」
部屋に飛び込んだきたのは、お姉ちゃんだった。怖い時、辛い時、いつもお姉ちゃんが駆けつけてくれる。
「大丈夫?怖かったわね」
しゃがみ込んだ私と同じ目線になって、背中を摩ってくれる。
「何があったの……?」
「……お姉ちゃんも良く分からないのよ。すごい音がしたわね」
「うん……。何が狙いなんだっ……もしかしてーー」
「それは違うわ。……大丈夫よ。柚子の心配しているようなことでは、きっと無いわ」
言葉を紡ぐ前に遮られる。何を言いたいか、お姉ちゃんには伝わったんだろう。キッパリと否定され、少し安心する。
「……2人とも無事?」
開かれたままのドアに立っていたのは育だった。育はいつも早寝だから、熟睡していた所を騒ぎで起こされたのだろう、寝癖もついたままだし、不機嫌だ。
「えぇ。私も柚子も大丈夫よ」
「そう。良かった……。深雪さんが騒ぎを起こした奴らを追いかけたみたい。戻ったら今後について話をするって。来られそうならダイニングに集合して欲しいって。立花さんが」
必要最低限だけ話して育は立ち去った。
私とお姉ちゃんは、私の恐怖で震える足が落ち着くのを待ってダイニングへ向かう。余程私の顔色が良くなかったのだろう、修斗くんも育もいつになく心配そうな顔でこちらを見ていた。
「柚子ちゃん。良かったら、これ飲んでね」
立花さんが温かい紅茶を目の前に置いてくれた。大丈夫?とか聞いてこない辺りが、気を遣える人なんだなぁと思う。
「うん……。ありがとっ、ございますっ。……光くんは?」
ダイニングを見渡すと、光くんと深雪さんがいない。深雪さんは、さっき犯人を追いかけたと聞いたけど……。
「やっぱり具合が悪いみたいで、部屋に居て貰ってるよ。でも、無事は確認してあるから大丈夫」
そう言った立花さんは、多分光くんのところに持って行くのだろう、お盆に風邪の時に良いと聞くハーブティーを載せて部屋を出て行った。
各々が紅茶を飲みながら、大雅くんの言葉及び深雪さんの帰宅を待つ。立花さんが戻ってきたので、光くんの様子を聞こう!と思った時、キッチンの勝手口の鍵が開く音がした。ダイニングと続いているキッチンに、みんなの視線が集まる。
「……あれ~?そんなに俺の帰り待ってた感じ?ただいまっ!」
こちらの重苦しい雰囲気とは真逆な、いつものテンションの深雪さんだった。
「おかえり。どうだった?」
落ち着いた声で答える大雅くんも大雅くんだ。挨拶は大事だけど、よくおかえりって言えるなぁ。
「頑張って追いかけたんだけど……途中で巻かれちゃいましたね。小雨も降ってきたし、この辺りに土地勘があるのか、下見をしたのか。随分と小道を知ってる印象でした」
外の天気まで気づかなかった。雨に濡れた深雪さんは話し終えると、いただきますと注がれた温かい紅茶を飲んでお姉ちゃんから差し出されたタオルで頭を拭いていた。お姉ちゃんがキッチンの片付けへ、修斗くんは立花さんと育と屋敷の中の見回り及び、再度の戸締まりに向かった。
「深雪さん、どうやってキッチンから入ってきたのー?」
キッチンの入り口の鍵は中から開けたことしかない。開ける時だって、食材を持ってくる出入りの業者さんが来る時だけだ。
「えー?合鍵持ってるからだよ~。今日は空いてたけどねぇ」
これだよ~とやや古ぼけた鍵が目の前に差し出された。夜遅くに外に出る人だから、こっそり裏から入れるように貰ったのだと説明される。でも今日は空いてたって言ってたよね、お姉ちゃんが閉め忘れることはないと思うけど……。お屋敷に侵入してる?いや、今侵入してたらあの3人の見回りで見つかるだろうし……。それかさっきの犯人が鍵を開けた?私の部屋から見えた位置はキッチンの方面でもあった。鍵を開けられる技術を持っているなんて、戸締まりに何の意味もないんじゃ……。
いろんなことが頭の中を駆け巡る。そうしてまた謎がーー夜がーー深まっていく。
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