48 / 72
6
46.乙女の嗜み
しおりを挟む「何色のドレス着ようかなー」
昼下がり玄関ドアを拭きながら、私の気分はるんるんだ。今夜は観劇会!ドレスを着られるのは久しぶりでわくわくする。同行する使用人にもある程度の服を着せることが、家の格を示すことにも繋がるーーだからこの家に用意されている服は一流のものだ。
舞踏会ほど煌びやかなものは着ていけないけど、それでも普段と違う服は気合いが入る。私だって年頃の女の子だ。
「女の子は大変やなぁ。ドレスに、髪型にお化粧に……」
一緒に玄関ドア掃除をしてくれる光くんから問いかけられる。
「そうかなぁ?結構楽しいよ」
おしゃれが出来ることは、メイドとして生きる身では滅多にない。服を選ぶ時、アクセサリーを選ぶ時、たくさん楽しいポイントはあるのだ。それを紹介しようとしたら、玄関前の花壇を手入れしていた育に遮られた。
「望月は着ていくスーツは決めたの?」
「立花さんに見繕ってもろった。……風見はホンマに留守番でええん?」
「僕は人混み苦手だから」
「そうかぁ……。風見がおらんと、ちょっと心細いわ」
性格は正反対に近いけど、この2人仲良しだよなぁ。……光くんの言う通り、育がいないのは少し心許ない気もする。
「2人とも一条家の見習いって立場なんだから、粗相のないように大人しくしていればいいんじゃない?……特に柚子」
前言撤回!やっぱり育はお留守番でいいっ!意地悪ばっかり言うんだから。
「意地悪っ!柚子だって、ちゃんと出来るもんっ!」
「……はいはい。食い意地張って、軽食食べすぎないようにね」
「え?軽食でるの?」
王宮主催のイベントだ。きっと軽食は豪華なものが並んでいるはず……。
「その話詳しく!!……あれ?」
「風見ならさっき走って行ってしまったで?」
育め……逃げたな。軽食の話は知らなかった。また楽しみが1つ増えたなぁ。
時計の針が14時半を示した。今日のおやつは……なしだ。私は一条家の衣裳部屋にいる。
「……これか、これがいいかしらね」
お姉ちゃんから示されたのは、ボルドーのドレス2着。1つはレース編みのもの、もう1つはベロア生地のものーー正直好みはレース編みだ、裾が綺麗な刺繍になっているし少し派手な感じで私好み!……だけど、王宮主催の観劇会に新人メイドとして出席する。立場を弁えるなら一択だ。
「こっちにする……」
指差したのは、ベロア生地の地味な方。お姉ちゃんはドレスに合う靴やアクセサリーを見繕ってくれた。
着替える前にメイクと髪型を済ませる。あんまり派手にならないように、ドレスにも合うように、それでも自分らしさが出るようにーー。
お互いの着替えを手伝いあって、私とお姉ちゃんの支度が整った。
「柚子、ネックレスを忘れているわ」
お姉ちゃんに指摘されて忘れ物に気づく。ネックレスは、ドレスの必需品だ。私は迷わず自分の誕生日石のついたシンプルなものを取った。
……似合うって言ってくれるかな。彼のことを思い浮かべながら、私はそっと衣装部屋を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる