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第15章 竜人の姫君
⑤
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5年前の出来事を普通に話せるくらいには、サナキも心の整理をつけたつもりだ。
「どうしておるかと心配しておったが、大丈夫そうじゃな」
竜王も、久しぶりに再会したサナキの様子を見て、その成長に目を細めた。
だが、急に難しい顔に変わり、ため息をつく。
「しかし、こうなるとそなたの心配よりもあやつの心配をせねばならんのぅ……」
「姫様のことですか?」
「確かに、アリアリスもそうじゃな。あのおてんばな孫娘には、わしも手を焼いておる。しかし、わしが心配しておるのはそちらではない。仲間を想うが故に、まっすぐであるが故に――一番心配しておるのは、オボロのことじゃ」
そこで出てきた幼馴染の名に、サナキは表情を固くした。
「して、そなたがここへ来たのは何か理由があってのことじゃろう?」
「はい、ちょっと任務で」
「浮かない顔じゃな」
「あんまり気が進まないんですよ」
竜王にも事情を確認しなくては、と口を開こうとしたサナキだったが、焦ったように飛び込んで来た仲間の一言によって、それは遮られた。
「姫様がいなくなった?」
仲間から届いた知らせに、サナキから血の気が引いた。
夕方になっても、アリアリスは帰ってこなかった。あのまま帰らせたのがいけなかったのか。だが、オボロも一緒だった。だから、大丈夫だと思っていたのだが。
苛立ちを隠しきれないサナキは、落ち着きなく行ったり来たりを繰り返していた。集落の近くをサンダーバードで捜索もした。
だが、その甲斐もなく、竜人の姫君が見つかることはなかった。
「ふざけんなよ……何でこんなことが起こるんだ。あいつは……オボロはどうした?」
「オボロの行方も分からない。姫様と一緒に消えてしまったんだ」
「なんだよ、それ……」
嫌な想像が、頭の中を駆け巡る。
「何か事件に巻き込まれたのではないかという話になっている」
「事件に巻き込まれた? まさか……いや、そんなはずは……」
ぶつぶつと独りで呟いていたサナキだったが、決心したように竜王に告げる。
「オレが、必ず連れて帰ります」
その顔をじっと見ていた竜王は、ずいと大きな頭をサナキに近づけた。
「ふぅむ……サナキ、そなたはこの件について他にも何か知っておるな?」
「……さすが、竜王様に隠し事はできませんね」
その鋭さは今も健在であった。サナキは肩の力を抜く。その反応を見た竜王は、見当が正しかったことに対し、穏やかな笑いをこぼした。
「ほっほっ、老いぼれを侮るなかろうて」
「でも、オレにもまだ確信はないんです。信じたく、ないんですよ」
弱々しく答えるサナキに、竜王はふむ、と軽く唸る。
「……必ず連れて帰ると言ったな。それは誰を連れて帰るのじゃ?」
何も話していないのに、竜王にはすべて見えているのだろうか。
もちろん、いなくなったアリアリスを連れ戻す、これがまずひとつ。
そして、もうひとり。サナキの中では、彼女が簡単には戻ってこれない場所に足を踏み入れてしまったのではないかという疑念が、確信に変わりつつあった。もしそうであるならば、自分に連れ戻せるのかという不安もあった。
だが、サナキはきっぱりと答える。
「姫様とオボロです」
その返答を聞いた竜王は、満足そうに頷いた。
「よかろう。深くは聞くまい。しかし、その言葉を忘れるでないぞ」
できるか、できないかではない。連れ戻さなければならないのだ。彼女たちの仲間として、そして、世界防衛組織アブソリュートの一員として。
この任務を果たさなければ、何のために自分はここを離れたというのか。何のために、幼馴染と約束をしたのか。
「住む場所が異なろうと、そなたは我々の仲間だ。また、必ず戻ってくるのじゃぞ。ふたりを連れてな」
「はい、必ず」
大きく返事を返し、サナキは一度本部に帰還するため踵を返す。
「巫女誘拐事件の犯人、デゼルの仲間と思われる者の中に竜族がいる可能性がある。君には、その調査をお願いしたい」
司令官から直々に与えられた任務はそれだった。
強力な風魔法、人を運べるほどの飛翔力――そこで幼馴染のことが頭を過ったのは確かだ。
それでも、信じたくなかった。幼馴染が、あんなやつの仲間だなどと。今でも、ただの勘違いであってほしいと思う。アリアリスが駄々をこねて帰りが遅くなっているだけだとか、オボロの力を考えれば線は薄いが、ふたりとも誘拐されたとか、何か事件に巻き込まれたとか。
一番考えたくないのは、オボロが意図して、この失踪に絡んでいることだ。
しかし、もしも。もしもだが、オボロがデゼルの仲間だとして、アリアリスは全属性使いではない。デゼルたちが誘拐するのは、全属性使いばかりだと言われている。ならば、どうしてアリアリスをさらう必要があったのか。
やはりただの考え過ぎか、それとも――。サナキは、ちゃんと幼馴染を説得できずにここを離れてしまったことを、今になって後悔し始めていた。
「どうしておるかと心配しておったが、大丈夫そうじゃな」
竜王も、久しぶりに再会したサナキの様子を見て、その成長に目を細めた。
だが、急に難しい顔に変わり、ため息をつく。
「しかし、こうなるとそなたの心配よりもあやつの心配をせねばならんのぅ……」
「姫様のことですか?」
「確かに、アリアリスもそうじゃな。あのおてんばな孫娘には、わしも手を焼いておる。しかし、わしが心配しておるのはそちらではない。仲間を想うが故に、まっすぐであるが故に――一番心配しておるのは、オボロのことじゃ」
そこで出てきた幼馴染の名に、サナキは表情を固くした。
「して、そなたがここへ来たのは何か理由があってのことじゃろう?」
「はい、ちょっと任務で」
「浮かない顔じゃな」
「あんまり気が進まないんですよ」
竜王にも事情を確認しなくては、と口を開こうとしたサナキだったが、焦ったように飛び込んで来た仲間の一言によって、それは遮られた。
「姫様がいなくなった?」
仲間から届いた知らせに、サナキから血の気が引いた。
夕方になっても、アリアリスは帰ってこなかった。あのまま帰らせたのがいけなかったのか。だが、オボロも一緒だった。だから、大丈夫だと思っていたのだが。
苛立ちを隠しきれないサナキは、落ち着きなく行ったり来たりを繰り返していた。集落の近くをサンダーバードで捜索もした。
だが、その甲斐もなく、竜人の姫君が見つかることはなかった。
「ふざけんなよ……何でこんなことが起こるんだ。あいつは……オボロはどうした?」
「オボロの行方も分からない。姫様と一緒に消えてしまったんだ」
「なんだよ、それ……」
嫌な想像が、頭の中を駆け巡る。
「何か事件に巻き込まれたのではないかという話になっている」
「事件に巻き込まれた? まさか……いや、そんなはずは……」
ぶつぶつと独りで呟いていたサナキだったが、決心したように竜王に告げる。
「オレが、必ず連れて帰ります」
その顔をじっと見ていた竜王は、ずいと大きな頭をサナキに近づけた。
「ふぅむ……サナキ、そなたはこの件について他にも何か知っておるな?」
「……さすが、竜王様に隠し事はできませんね」
その鋭さは今も健在であった。サナキは肩の力を抜く。その反応を見た竜王は、見当が正しかったことに対し、穏やかな笑いをこぼした。
「ほっほっ、老いぼれを侮るなかろうて」
「でも、オレにもまだ確信はないんです。信じたく、ないんですよ」
弱々しく答えるサナキに、竜王はふむ、と軽く唸る。
「……必ず連れて帰ると言ったな。それは誰を連れて帰るのじゃ?」
何も話していないのに、竜王にはすべて見えているのだろうか。
もちろん、いなくなったアリアリスを連れ戻す、これがまずひとつ。
そして、もうひとり。サナキの中では、彼女が簡単には戻ってこれない場所に足を踏み入れてしまったのではないかという疑念が、確信に変わりつつあった。もしそうであるならば、自分に連れ戻せるのかという不安もあった。
だが、サナキはきっぱりと答える。
「姫様とオボロです」
その返答を聞いた竜王は、満足そうに頷いた。
「よかろう。深くは聞くまい。しかし、その言葉を忘れるでないぞ」
できるか、できないかではない。連れ戻さなければならないのだ。彼女たちの仲間として、そして、世界防衛組織アブソリュートの一員として。
この任務を果たさなければ、何のために自分はここを離れたというのか。何のために、幼馴染と約束をしたのか。
「住む場所が異なろうと、そなたは我々の仲間だ。また、必ず戻ってくるのじゃぞ。ふたりを連れてな」
「はい、必ず」
大きく返事を返し、サナキは一度本部に帰還するため踵を返す。
「巫女誘拐事件の犯人、デゼルの仲間と思われる者の中に竜族がいる可能性がある。君には、その調査をお願いしたい」
司令官から直々に与えられた任務はそれだった。
強力な風魔法、人を運べるほどの飛翔力――そこで幼馴染のことが頭を過ったのは確かだ。
それでも、信じたくなかった。幼馴染が、あんなやつの仲間だなどと。今でも、ただの勘違いであってほしいと思う。アリアリスが駄々をこねて帰りが遅くなっているだけだとか、オボロの力を考えれば線は薄いが、ふたりとも誘拐されたとか、何か事件に巻き込まれたとか。
一番考えたくないのは、オボロが意図して、この失踪に絡んでいることだ。
しかし、もしも。もしもだが、オボロがデゼルの仲間だとして、アリアリスは全属性使いではない。デゼルたちが誘拐するのは、全属性使いばかりだと言われている。ならば、どうしてアリアリスをさらう必要があったのか。
やはりただの考え過ぎか、それとも――。サナキは、ちゃんと幼馴染を説得できずにここを離れてしまったことを、今になって後悔し始めていた。
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