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第6章 「僕」の見る世界
僕とワガママ姫
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自分の力を過信して、無謀にも僕に戦いを挑んできた子もいたっけなぁ。
確かに、普通よりは強い闇の力を持っていた。僕には到底及ばないけどね。それで随分落ち込ませちゃったみたいだけど。
「ふーん、様子を見に来てみれば、元気そうじゃないか」
最近は運搬部隊の整備士の元によくいるという噂を聞き足を運んだのだが、思ったより元気そうで拍子抜けしてしまった。
運搬部隊のエースであるサナキからの信頼も篤い優秀な整備士ガレット。その仕事を眺めていたルインディアは僕の姿を見とめると目を大きく開いて後ずさった。
「別に今日は戦いに来たわけじゃないよ。君がそうしたいなら受けて立つけど」
そう言って様子を窺ってみるが、以前のように好戦的な態度はなりを潜めていた。
「ああ、誰かと思えば。レオンのところの」
話し声に気がついたガレットが仕事の手を止めてやってくる。レオン教官の友達である彼は、僕が教官の関連者であることを認識しているのだろう。あの教官にも友達がいたんだなぁと、その存在を知った時には驚いたものだが。
「ガレット、知り合いか?」
「友人の教え子だ」
ガレットの陰に隠れるようにしてルインディアが尋ねる。
彼女につき従っていたシランスと同じ種族の血を引くガレットには、似ている部分があった。
それで懐いているのかもしれないと思ったが、この態度の変わりようはそれだけではないのかもしれない。ガレットと話すルインディアは、至って穏やかな表情を浮かべていた。
「しばらく見ない間に、随分と大人しくなったもんだね」
「……もっと知ろうと思ったのだ、自分以外の世界のことを」
まさか、あのワガママ姫がこんなことを言い出すとは。人って変わるもんだね。まぁ、きっかけがあれば変わるっていうのは他人事でもないけどさ。
以前の彼女だったら、僕の顔を見たら飛びかかってきただろう。少しは考えてから行動することを覚えたみたいだね。
先ほどからルインディアはまじまじと僕の顔を見ている。どうしたんだろうね?
「そなたの方こそ雰囲気が変わりすぎではないか? あの森で私と戦ったのは今のそなたと同じ雰囲気だったが、アンヘルを倒した時のそなたとはまるで別人ではないか」
さすがにこの子も、僕とファスの違いくらいは感じ取っていたみたいだね。これだけ違っていて気づかないのも無理があるとは思うけど。
アンヘルと対峙した時、あいつは僕の力を使わずに切り抜けた。僕もあいつも至高の魂保持者なわけだから、力の使い方さえ覚えればそう実力に差はない。別に不思議なことでもなかった。
「そうだよ、僕たちは別人だからね」
ただ、僕は闇、あいつは光。相反する力を持つ僕たちは、決して交わることはない。
ただひとつの属性の力しか持たない、純粋な魂。それが、至高の魂。創世の女神の魂を受け継ぐ者たち。
ふたつの異なる属性の至高の魂が同じ器に収まっているというのは、極めて異例なことだ。僕とあいつが別の人格として、身体を共有しつつも別の個体として存在していたからこそ成り立っていたもの。
「相変わらず、よく分からないやつだな……」
事情を知らないルインディアは怪訝そうな顔をしていた。
彼女があの森での出来事を気にして再戦を望んでいるのなら、それに応じるつもりでここまでやってきた。だが、今の彼女にそれは必要なさそうだ。
ひとは変わっていく。それは止められない。
だからこそ、変われない僕は――
確かに、普通よりは強い闇の力を持っていた。僕には到底及ばないけどね。それで随分落ち込ませちゃったみたいだけど。
「ふーん、様子を見に来てみれば、元気そうじゃないか」
最近は運搬部隊の整備士の元によくいるという噂を聞き足を運んだのだが、思ったより元気そうで拍子抜けしてしまった。
運搬部隊のエースであるサナキからの信頼も篤い優秀な整備士ガレット。その仕事を眺めていたルインディアは僕の姿を見とめると目を大きく開いて後ずさった。
「別に今日は戦いに来たわけじゃないよ。君がそうしたいなら受けて立つけど」
そう言って様子を窺ってみるが、以前のように好戦的な態度はなりを潜めていた。
「ああ、誰かと思えば。レオンのところの」
話し声に気がついたガレットが仕事の手を止めてやってくる。レオン教官の友達である彼は、僕が教官の関連者であることを認識しているのだろう。あの教官にも友達がいたんだなぁと、その存在を知った時には驚いたものだが。
「ガレット、知り合いか?」
「友人の教え子だ」
ガレットの陰に隠れるようにしてルインディアが尋ねる。
彼女につき従っていたシランスと同じ種族の血を引くガレットには、似ている部分があった。
それで懐いているのかもしれないと思ったが、この態度の変わりようはそれだけではないのかもしれない。ガレットと話すルインディアは、至って穏やかな表情を浮かべていた。
「しばらく見ない間に、随分と大人しくなったもんだね」
「……もっと知ろうと思ったのだ、自分以外の世界のことを」
まさか、あのワガママ姫がこんなことを言い出すとは。人って変わるもんだね。まぁ、きっかけがあれば変わるっていうのは他人事でもないけどさ。
以前の彼女だったら、僕の顔を見たら飛びかかってきただろう。少しは考えてから行動することを覚えたみたいだね。
先ほどからルインディアはまじまじと僕の顔を見ている。どうしたんだろうね?
「そなたの方こそ雰囲気が変わりすぎではないか? あの森で私と戦ったのは今のそなたと同じ雰囲気だったが、アンヘルを倒した時のそなたとはまるで別人ではないか」
さすがにこの子も、僕とファスの違いくらいは感じ取っていたみたいだね。これだけ違っていて気づかないのも無理があるとは思うけど。
アンヘルと対峙した時、あいつは僕の力を使わずに切り抜けた。僕もあいつも至高の魂保持者なわけだから、力の使い方さえ覚えればそう実力に差はない。別に不思議なことでもなかった。
「そうだよ、僕たちは別人だからね」
ただ、僕は闇、あいつは光。相反する力を持つ僕たちは、決して交わることはない。
ただひとつの属性の力しか持たない、純粋な魂。それが、至高の魂。創世の女神の魂を受け継ぐ者たち。
ふたつの異なる属性の至高の魂が同じ器に収まっているというのは、極めて異例なことだ。僕とあいつが別の人格として、身体を共有しつつも別の個体として存在していたからこそ成り立っていたもの。
「相変わらず、よく分からないやつだな……」
事情を知らないルインディアは怪訝そうな顔をしていた。
彼女があの森での出来事を気にして再戦を望んでいるのなら、それに応じるつもりでここまでやってきた。だが、今の彼女にそれは必要なさそうだ。
ひとは変わっていく。それは止められない。
だからこそ、変われない僕は――
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