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episode 5

解ける糸

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不安の気持ちが表情に出ていたのだろう。

藤瀬くんは苦笑いを浮かべて私のデスクに回ってくると、顔を寄せた。

「朝礼終わったら資料室に来て」

そう一言囁き席に戻る。

そんなこと、わざわざ耳打ちしに来ることでもないじゃないか。

私達を遠目に眺めながらニヤついている、他の社員の視線から逃れるようにそっと顔を伏せた。

これ、完全に私達のこと噂になってるよね……。

ただでさえ湯川さんの一件で、うちの課の人達は大半が悟ったはずだ。

詳しくはわからないにしても、私を巡って藤瀬くんと湯川さんに何かが起きた。

それは二人の態度と言葉、変わってしまった関係性で、知るところとなったからだ。

もちろん美海さんは、あの日私と湯川さんが泊りになったことも知っていたし、私が藤瀬くんのことを意識していることも知っている。

誤解のないように、けれど簡潔に報告したので、変な勘繰りをされることはなかった。

しかし湯川さんに対する美海さんの怒りは振り切れていて、『湯川のヤロウ、マジでボコって埋めるっ!』と言い放つ彼女を止めるのに必死になったものだ。

「多分……だけどさ」

ふと隣の席で美海さんがポツリと呟く。

「藤瀬くん、そろそろ限界に来てるんだと思うよ」

「限界?何に対してですか?」

小声で聞き返した私に対して、美海さんは意味あり気にニコリと笑い、「いろんな意味で」と含んだ言い方をした。

『いろんな意味で藤瀬くんは限界を迎えようとしている』

それがどういうことなのかはわからないけれど、これ以上聞いても美海さんははぐらかすばかりで、何も教えてはくれなかった。

呼び出された資料室で、私はもう少し藤瀬くんのことを知ろうとしてもいいのだろうか。

そんなことばかり考えていたせいで、朝礼の内容は全く頭に入らなかった。
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