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episode 4
贅沢なのにもどかしい関係
しおりを挟む「もう熱は下がったのか?」
するっと頬を包まれて私の心臓は飛び跳ねた。
最近の凱莉さんは、なんだかとても優しくて、こんなふうに自然に触れてくるようになった。
それがくすぐったいほどに嬉しくて、ちょっぴり切なく感じる。
この温もりが、本当に私のものになればいいのに。
そんな夢みたいなことを願ってしまう。
「もうすっかり」
ニコリと笑って元気をアピールすると、凱莉さんはホッと安心したかのように微笑んだ。
こんな笑顔のひとつひとつが狡くて、苦しいくらいに隙を実感させられる。
「疲れが出たのかもしれないな」
「疲れ……ですか?」
なんの疲れだろう。
先週もいつもの日常で、特別変わったことなんてなかった。
大体この熱も、凱莉さんとの約束がキャンセルになった後、雨に打たれてしまったのが原因で、完全に自分の不注意なわけだから。
「お母さんの具合、大丈夫だったか?」
ん……?
お母さん……?
「え……誰の……?」
意味がわからず聞き返すと、凱莉さんこそ意味がわからないという表情になった。
「や……千尋のお母さん……だろ?」
「私のお母さん……具合悪いんですか?」
「それを俺が聞いてるんだ。もうよくなったのか?」
なんていうんだろう。
このちぐはぐな会話はどういうことだろう。
「凱莉さん。私、よく分かりません」
「俺もだ」
私達は間の抜けた顔で見つめ合った……。
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