呪い呪われ恋焦がれ

動き

  移転してから半年ほど経った。
大魔法使いオルティニスは、城と『バッザス』を行ったり来たりしている。抱えている仕事を片付けなければいけないのだ。
そんなに遠くはないが、馬を走らせても半日近くかかるのだ。
でも、彼は大魔法使いだ。
最初は街の偵察も兼ねてのんびりと来たが、移動魔法というものがある。
特定の場所に印（魔方陣）を描いておけば、簡単に移動できるのだ。

しっかりヒスイの家に描かれていました。

老婆であっても入浴中、着替え中は避けていただきたい。

シャドウとノイも、街の人々の安全を守るという義務がある。休みが取れた時はなるべく来てくれている。



そんなある日。
街の近くで魔物が出た。そして付近に紅の魔女が目撃されたという。
シャドウとノイは討伐に駆り出さた。
ヒスイの家もその影響で、老人達も騎士も来ていない。

ヒスイは誰も来ない事に胸騒ぎがして、街に下りる事にした。
街は、緊急避難警報が出たようで、閑散としていた。皆んな、避難所に避難したり、家に閉じこもっているようだ。

「なんで君は私を呼ばないんだい？」と急に横からブリーチが声を掛けた。
続けて「何かあれば呼んでと言っているでしょう？」と。
「様子を見てから呼ぼうと思ったのよ。貴方目立つし。」
「私は気配と姿を消すこともできるんだよ。」
「そういうのは。もっと前に教えてください。」

……ほんと、ブリーチは説明不足です。
簡単に呼び出せる事も、姿を消せる事も。わかってたら、もっと呼び出してますよ。

そんなやりとりをしながら、騒がしい方へ向かう。何が役に立てれればと。

向かうにつれて、悲鳴や、何かが壊れる音がする。
ヒスイは駆け出す。

街と森との境。大きな魔物が一体、騎士と睨み合っていた。木々は薙ぎ倒され、壊されてしまった家もある。
魔物に騎士達は押され気味だ。
その騎士の中にシャドウとノイの姿もあった。

騎士達は魔物に払い除けられ飛ばされる。鋭い刃で切り裂かれる。踏み潰されそうな者もいる。
『何なの？コレが魔物？』

口からは、ダラダラとヨダレを垂らし、気を抜けば火を吐く。
大きく、力が強いため、動きが封じられないのだ。

ヒスイは思い切って、騎士の中に混じる。

今まさに騎士が体制を崩し踏み潰されようとしているところだった。

『間に合って！』
ヒスイはイメージする。呪文を唱える時間はないからだ。
『草木よ。植物よ。動きを止めて！』

草木はグングン伸び、太く、鎖のようになって魔物の動きを封じる。
でも、長くは持たない。

「シャドウ様、ノイ、早く！！」ヒスイは叫ぶ。
「何故！ヒスイ様！」とヒスイの存在に驚いたものの、シャドウはとどめを刺した。

ザックリと首を切り落とされ、さらにシャドウは完全に息の根を止めるように火炎魔法で灰になるまで焼き尽くした。

魔物は、街の被害最小限に食い止めたのであった。


すると、頭上から声がした。
「あら、いやだぁ。いつかの魔女さんじゃなあ～い？そんな醜い姿で頑張ってるのねぇ。」
「紅の魔女！？貴女の仕業なのね。何の為に？」
ヒスイは叫んだ。
「何の為？そんなの愛する人の為に決まってるじゃないの。」と笑い、紅の魔女はフッと消えた。

「ちょっと待ちなさいよ！」
ヒスイの声も虚しく、返事は返ってこなかった。

愛する人の為に紅の魔女は何をしようとしてるのだろう。