その日、女の子になった私。

奈津輝としか

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【第5部〜旧世界の魔神編〜】

第2章 春町10区

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 夢を見ていた。誰かが私の事をアナトと呼んでいた。アナトって誰の事だろう?と振り返ってみても、私しかいなかったので、自分の事だと理解した。薄っすらと目を開けると、窓から差し込む陽射しが眩しかった。
「良かった、気が付いた!」
「ここは…?」
人工呼吸器のマスクや点滴のチューブに繋がれている所を見ると、ここは病室の様だ。
「ごめんよ、瑞稀。誤解なんだ。スマホ、見たんだよね?」
私は頷いて答えた。
「確かに政府に観察報告をしていたよ。でもそれは、瑞稀が病気だと聞かされていたからなんだ。おかしな病状が出たら手遅れになる前に報告して欲しいと。それに妊娠の話は、それが条件で瑞稀をあそこから連れ出せたんだ。どうせ結婚したら、妊娠して赤ちゃんが出来るだろう?同じ事だと思ったんだよ」
そう言うと、慎ちゃんは小さな箱を取り出すと、箱を開いて中の指輪を見せてくれた。
「プロポーズしようと用意してたんだ。もっと早くこうしていれば、こんな事にはならなかったのに、すまない」
私は涙を流した。それが早まってしまった後悔によるものなのか、安堵からなのか、嬉し涙なのか分からなかった。
「今は身体を治す事だけ考えて。良くなったら、もう一度改めてプロポーズするよ。その時までに返事を考えていて」
私は頷いた。頭の中を整理したい。慎ちゃんの言っている事は信じたい。でも本心なのか分からない。政府に言わされたのかも知れない。
 目を動かして辺りを見回すと、総合医療センター春町と器具に書いてあった。ここも政府の手が回っているに違いない。退院したら、買い物のフリをして春町を観察しよう。ここは異世界に繋がっていると言う。どこも変わらない春町にしか見えないけど、政府が隠して近寄らせない様にしている場所があるはずだ。
 それから2週間経つと退院となった。傷は、1週間くらいで抜糸して良くなったが、心のケアの時間を1週間取って退院となったのだ。
「はぁ~あ。お日様の下で背伸びすると気持ち良いね」
「良くなって良かった」
「ごめんね、馬鹿な真似して…」
「これからは、ちゃんと話す。もう2度と傷付けない」
そっと抱き寄せられた。
「怒らないで聞いてね?まだ友梨奈もあそこにいるんだよね?助けられないかな…」
「結婚するとかでもないと、連れ出すのは難しいんだよ。俺も瑞稀を救うのが精一杯だった」
「あそこはね…思い出したくも無いけど、地獄よ。男にされたり女にされたりして1日中、性行為を強要されているの。身動き出来ない様に拘束されているから、抵抗も出来ないのよ。友梨奈も私の目の前で、複数の男達の相手をさせられていたわ」
「それはお前もなんだろう?」
 急に悪夢の様な出来事が、フラッシュバックして悲鳴を上げて頭を抱えると、うずくまって、過呼吸になり意識を失った。
 その後、目を覚ますと再び病室だったが、軽く検査をして異常が無いと帰らされた。慎ちゃんのアパートに帰ると、今まで通りの生活を過ごした。私を気遣ってなのか、慎ちゃんはいつもの様に抱こうとはせず、ハグやキスで満足していた。

「観察報告しているなら、この部屋も盗撮や盗聴くらいはされているわね?」
 私は買い物に出かけるフリをして、現在の春町の様子を探った。尾行されている気配は感じない。町中至る所に防犯カメラが仕掛けられているのかも知れない。だとすると、あまり目立った事は出来ない。自然に装い、政府の目を誤魔化して性転換薬の採取場を探す。そして可能なら、2度と採取出来ない様にする。そうすれば友梨奈も帰って来れるかも知れない。
 春町の住人全員がいないなら、春町にあるお店の店員さんや、町役場の役所の人達も全員、春町の人ではないのだろう。もしかすると、全員が政府の息が掛かっている可能性だってある。そうなると、春町にいる人や犬や猫などのペットに至るまでが、精密な防犯カメラみたいな物だって事だ。疑えばキリが無い。
 いきなり遠出をすると怪しまれるので、毎日違うエリアを探る事にした。春町は11区まであるので、1区ずつ回るのが分かりやすい。それに1日1区と決めていれば、それほど時間もかからず、部屋にいない事を不審がられないだろう。
 私は毎日、1区ずつ回った。なるべく人目につかない様に気を配りながら。10日経ち、10区を回っていると、私が記憶している限り工事していなかった場所があり、立ち入り禁止にされている所を発見した。観察していると、工事現場の人の出立いでたちだが、どう見ても工事関係者とは違う気がする。何故?どうして?どこが?と聞かれると困るが、「女の勘」としか答えようが無い。確かにガッチリした体格では無いけど、よく鍛えられた身体つきで、日に焼けて浅黒い肌だ。普通に工事現場の見張りの人でしょう?と言われればそれまでだが、何と言うか、醸し出す雰囲気がそうでは無いと言っている。
 私は、取り敢えずその日は、大人しく帰った。長居すると怪しまれるからだ。明日また観察しに来よう。
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