その日、女の子になった私。

奈津輝としか

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【第9部〜巨人の王国編〜】

第38話 スルトの進撃

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「やっと着いたわね」
 オリンポスの周囲は巨人族が殺気立って集まっていた為、近づく事が出来ずに遠目から見ていた。
「おかしいわね?」
「何がおかしいんだ?」
「オリンポスは陥ちたと聞いたけど、それなら何でこんなに殺気立ってるのよ?」
「それもそうだ」
 実はこの時はまだ、オリンポスは陥落していなかったのだ。

「しぶとい、敵は1人だけだ。さっさと片付けろ!」
 もたつく配下にイラついたロキは、怒鳴り付けた。義兄弟のトールは片腕を失い、その治療をロキがしていた為に自らは戦えず、苛立ちが募っていた。
 1人でも多くの眷属を逃す為に、ポセイドンは孤軍奮闘していた。だが、それも終わりの時が来た。
「退け、邪魔だ!」
 配下を押し退けてスルトが聖炎剣レーヴァテインを一閃すると、ポセイドンは動かなくなった。
「ふ、手こずらせてくれたな」
 面倒くさそうな表情をすると、配下に命じた。
「此奴がここまで粘ったのは眷属を逃す為ぞ、皆殺しにして此奴の努力を無駄にしてやれ!」
 動かなくなったポセイドンを足蹴にして退けると、その背には外界へと通じる抜け穴があった。だがその穴を、巨人達が通るには小さ過ぎた。
「急いで穴を広げろ!」
 巨人達がシャベルやツルハシで壁穴を掘り広げ、身体が通る広さになると次々とその穴に入って行った。巨人達が中に入って進むと、そこは鍾乳洞であった。
「オリンポスにこんな場所が?」
「馬鹿、感心してないで先に進め!」
 先に進むと爆音と共に、周囲に砂煙りが舞い何も見えなくなった。そして地震の様な揺れを感じると、氷柱の様に尖った鍾乳石が天井から降って来て、多くの巨人に突き刺さって絶命させた。
「これで時が稼げる。今のうちに進め!」
 ヘルメスが叫んで振り返ると、スルトが立っていた。
「ス、スルト…もうここまで…」
「ははははは、諦めろ。貴様らは此処で終わりだ。皆殺しにしてくれるわ。ラグナロクは再び来ない」
 スルトの聖炎剣レーヴァテインを受けて、ヘルメスは真っ二つにされた。
「逃げろぉぉぉ!」
 先にいる仲間達に追手の存在を知らせ、魔石に神力の全てを注ぐと、爆弾の様にそれは爆発した。
「ぐおぉぉぉ」
 だがスルトは炎の巨人である為、爆炎では殺す事が出来なかった。
「おのれ、この俺に痛みを与えるなど、絶対に許さん!この怒りは、彼奴の全ての眷属の生皮を剥いで晴らしてくれるわ」
 怒り狂ったスルトは、聖炎剣レーヴァテインを振り回しながら進み、それによって配下の巨人達も命を失った。

「もう少しです、お妃様」
 いかにも可憐なお姫様が、私の目の前に突然現れた。お姫様が来た方向に目を向けると、洞穴が見えた。
「こっちよ、こっち!」
 私は手招きして呼び寄せた。
「嗚呼、貴女様は天道神君アナト様。天界にお戻りになられたのですね?どうかお助け下さい」
 私の姿が天道神君アナトと同じなので、この様な間違われ方は日常茶飯事で、もう慣れっこだ。
「貴女は誰なの?」
「私は、ポセイドンの妻アンフィトリテで御座います。直ぐそこまで巨人が、夫が1人残って戦っております。どうかお助け下さい!」
 泣きじゃくるアンフィトリテを、その侍女が私から引き離した。
「分かった、逃げて。この先に仲間がいる」
 アンフィトリテが逃げ出した所で声がした。
「待て、1人も生かして逃さん!」
 聖炎剣レーヴァテインを一閃され、反射的に避けると、アンフィトリテと侍女の背に当たって真っ二つとなって果てた。
「こいつ!」
 カッとなった私は、練気剣ヴァジュラで斬りかかった。スルトは返す刃で練気剣ヴァジュラごと私を斬った。
「うあっ」
 地面に転がって臓物を飛び散らしたが、事前に掛けていた自動回復オートリジェネの効果で傷は塞がり、元に戻った。
「はぁ、はぁ、はぁ…何なのコイツ?」
「炎の剣、もしやあれがレーヴァテインなのでは?」
「ではコイツがスルトなの?」
「生意気に俺を呼び捨てにするなぁ!スルト様と呼べ!」
 激昂したスルトが聖炎剣レーヴァテインを振り回すと、わし切れなかったガオの左足首を斬り落とした。
ガオさん!」
 麻里奈は、悲鳴にも似た声を上げて名前を呼んだ。
「来るな!逃げろ!」
 ガオ左足を押さえながら、麻里奈に向かって叫んだ。
「嫌よ!」
「はははは、思い出したぞ。お前はダゴンの側近に居たな?蝿の様に。あははは」
 スルトはそう言うと、聖炎剣レーヴァテインを振って、ガオの左足を押さえる左手ごと左足を斬り落とした。
「ギャアアァ」
 左手と左足を失ってガオは、痛みで地面を転げ回った。
「この世に斬れぬ物は無し!練気剣ヴァジュラ!」
 麻里奈がスルトの懐に入ると、勝ち誇ったスルトは笑いを浮かべて聖炎剣レーヴァテインを頭上から振り下ろした。
 真っ二つにしたと思ったが、驚くべき事に聖炎剣レーヴァテインが弾き返されたのだ。
「何だと!?」
 弾かれた聖炎剣レーヴァテインを、そのまま二撃目の攻撃に変えて斬ると、麻里奈の右腕を斬り落とした。
「うぐっ」
「ダメだ、コイツと戦ってはダメだ。逃げろ!」
「五月蝿い!蝿なら蝿らしくしておけ!」
 聖炎剣レーヴァテインガオの背を貫いて絶命させた。
ガオさん!許さない、お前は絶対に許さない!」
 左手の練気剣ヴァジュラに全身全霊のオーラを込めて、スルトに斬りかかった。
 振り下ろされた聖炎剣レーヴァテインを弾き、受け流して斬り結んだ。その間にも巨人達は集まって来た。
「何だあの女は?スルト様の聖炎剣レーヴァテインと渡り合っているぞ?」
聖炎剣レーヴァテインは、この世に斬れぬ物は無しでは無かったのか?」
 この練気剣ヴァジュラの脅威的な強さは、皮肉にもダゴンによる思い込みの力であった。『この世に斬れぬ物は無し』とされる最強の武器同士の激突だ。
「うらぁ」
 麻里奈が気合いを込めて練気剣ヴァジュラを一閃する度に、聖炎剣レーヴァテインに多大なる負荷を与えた。
「くっ。聖炎剣レーヴァテインに亀裂が!?」
「いかん!」
 それを見たロキが、麻里奈の背後から矢を放った。その隙を逃さずスルトは、麻里奈の左肩から右脇腹まで斬り下げた。
「あぐっ…」
 麻里奈は遂に力尽きて地面に転がった。
「何なんだ、この女は?」
「こ、この女の顔は…。スルト様、おめでとう御座います!」
「どう言う事だ?」
「この女は天道神君アナトで、天界の盟主です。これで天界は貴方様の物となりました。およろこびを申し上げます!」
「何?コイツが天道神君アナトだと?なるほど、あの強さも納得だな」
「はい、手こずらされましたが、これでようやく天界は巨人族われわれの物です」
「はははは、皆で祝杯を上げようでは無いか」
「はい、ですがまだこれで終わりでは有りません。天道神君アナトを餌にして残党をおびき出しましょう」
 ロキはまたもや悪巧みをして、ニヤリと笑った。
天道神君アナト…私の死が貴女には伝わるわね…後は頼んだわよ…」
 麻里奈は、呼吸する様に血を吐くと絶命した。血を吐いた麻里奈に驚いてスルトは、トドメに心臓を何度も突いた。

 
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