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第2章

第54話 3人パーティ

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「ふーん、ここが影の中かぁ。想像では、もっと暗いのかと思っていたけれど、薄暗くなって来た夜って感じかな?」
「うわっ!地面がふわふわ弾力があって、跳ねるぞ?」
「その地面を手で掻き分けて進むと、魔界があるのよ」
 2人ともゴクリと唾を飲み込んだ。やはり怖いのだろう。それでも恐いもの見たさで、好奇心の方が勝っていたみたいだ。
「ドキドキするけど…」
「行きたいの?」
麻生さんはコクリと頷いた。
「分かった。でもここから先はかなり危険なの。言葉が通じる者もいるけれど、巨大な虫みたいな化け物や魔獣がいて、私達を食べようとして来るわ。念の為に防御魔法をかけておくけど、『貫通』と言うスキル持ちも多いの。防御無視で必ず攻撃が通るスキルよ。だからなるべく攻撃をかわすのよ」
 先ず私が見本となって、地面を手で掻き分けて潜って見せた。山下と麻生さんが続いて来た。
「この真っ黒な雲を抜けると魔界よ」
ぼふっ。黒雲を出ると、かろうじて見える明るさの世界が広がっていた。世界と言っても、まだ真っ暗な空の上に浮いているだけなのだが。
「ここが魔界…」
「本当に来ちゃったね」
 ねっとりと身体に纏わりつく様な冷気を感じる。身体中に突き刺さる様な殺気を込められた視線を感じる。2人とも怖さより好奇心が勝っているみたいだ。だがこの異様な空気を感じないはずがない。
「ここは神々が作った闇の牢獄なの。天界の罪人をここにとすのよ。中には冤罪だった者も多い。権力者によって欺かれ、おとしいれられた。ここはそんな者達の悲しみと怒り、憎しみが渦巻く場所なのよ」
「何となく知ってるよ。神話にあるからな。俺達の知っている有名な悪魔にもいるよね?」
「へぇ、そうなんだ?」
 山下の問いに、興味無さそうに麻生さんは答えた。
「ちょっと念の為に索敵しとくね」
自動書込地図オートマッピング
 地図を広げると、周囲は無数の赤い点滅に囲まれていた。
「これってもしかして…」
「もしかしなくても、襲うチャンスを窺われているのよ」
「マジか…」
 山下はファイティングポーズを取ると、周囲を睨んだ。
「多分、虫タイプだわ。嫌なのよねぇ。食欲の本能だけで動いているから、相手の強さに関係無く向かって来るし、それにキモいし…」
「キモいって…」
 麻生さんのツボだったのか?笑いが止まらないほど笑い出した。それが誘発したのか、一斉に虫の化け物が襲って来た。空飛ぶムカデみたいなのや、象ほどの大きさの羽虫が襲って来た。
死誘鎮魂歌レクイエム
 3分の2ほどの虫が即死して、落下して行く。
聖光讃美歌ホーリー
 残りの虫達も即死して、落下して行く。
「凄まじいな」
「光と闇の即死魔法だからね。両方に耐性があるものは少ないから、大抵は倒せるわね」
「頼もしいわ」
「ありがとう」
 3人一緒になって、ゆっくりと地表目指して降りた。
「すぅーっ、すあっ!!」
 全身に神気オーラを込めると、周囲の魔獣達が、飛んで逃げて行った。
「ふぅ。虫タイプと違って、魔獣は相手の強さを感じて、無駄な戦いをしようとしないから良いわ」
 地面に降り立つと、マグマが固まって出来た様なゴツゴツとした地表で、少し歩きにくかった。
「何処に行くの?」
「まだ帰らないよな?」
「うん。あっちの方角にお城があるんだけど、行ってみようか?」
「それってまさか…」
「魔王の1人がいるよ」
「ひゃあー、怖くて漏らしちゃうかも」
「大丈夫なのか?」
「うーん、私の知っているロードは凶悪では無かったけどなぁ」
 すると、地龍に乗った魔王軍が向かって来た。私達を取り囲んで、様子を窺っている。
「ど、どうするんだ?」
「戦っても勝てそうも無いけど…」
「…」
 さて、どうしようか?あのロードの事だ。いきなり戦闘になるとは考えにくい。それに、部下を派遣しているはずだから、先遣隊って所だ。私達が敵対的で無いと判断すれば、城に招くに違いない。
「絶対に戦ってはダメだよ?仲間になる魔王だからね」
「知り合いなの?」
「知っていると言えば知っているけど、相手はまだ私の事を知らないと思う」
「何それ?有名人って事かな?」
「うーん、有名なのかな?」
 私達が身構える事もなく、落ち着き払っている様子を見て、1人が歩み寄って来た。
「私の名前は…」
「ショウ・ルゥイさんだね。魔王ロードは元気にしてるのかな?」
「えっ?まさかロード様の知己の方でしたか?私の名前までご存知だとは…。ご無礼致しました」
「うーん、知己と言えば知己かな?案内してくれる?」
「畏まりました」
 私がニコニコで地龍の龍車に乗ったので、安全だろうと感じて、2人も乗り込んだ。ガタガタと揺られながら、体感的に1時間も進むと魔王城が見えて来た。
「うわぁ、雰囲気あるね。何だかドキドキする。緊張して来たわ。本当に大丈夫かな?私達。食べられちゃったりしない?」
「あははは、大丈夫。食べられたりしないよ」
 2人とも緊張で顔が引きつっていた。
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