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3章 帰るよ、約束をした街へ。
第13話 忘れられないのは自分の方だから
しおりを挟む大学で教職課程を学び、高校の教員の資格もとった。
就職では教員採用試験を受け、正式に教師となることが決まったとき、配属される高校を言い渡された。
その通知書の文字を見て深い因縁を感じた。
「神奈川県立 峰浜高校」
あの街に戻るのだ。
そう、花菜ちゃんと過ごした街に。
自分が年を取ったのと同じく、彼女も成長しているはずだ。
新年度から高校2年生になるはず。
義務教育で通う学校がある程度限定される中学までとは違い、高校は特に私立であれば試験に合格すればどこにでも行くことが出来る。
それでも、もし彼女が転居をしていなければ、この街で過ごしていれば、いつか彼女と会うこともあるだろう。
最後に顔を見たのが、実家の引っ越しの手伝いに来た大学1年も終わる春先だ。
もちろん、あの日は指切りと約束を口にして、お互いに手を振りあった。
そのシーンは今でもハッキリと頭の中で再生できる。
あれから3年以上の年月が流れている。
自分との年齢差を差し引いても、もう高校生だ。最初はまだ早いと思っていた「美少女」という単語も、中学1年生の時は間違いなく当てはまっていた。
きっと彼女にアタックする男子は数多くいただろう。自分たち二人のあの時の約束なんか忘れて、交際している男子がいてもおかしくはない。
それは昔から覚悟していたし、想定していたことだ。
花菜ちゃんが時間を止めたままの情けない自分から卒業していくことはあっても、仮に彼女に交際相手がいたとしても、それを理由にあの子を責めることは筋違いなのだと。
そう頭では分かっていながらも、大学時代は誰とも交際することが出来なかった。
ばかばかしい。何度も自分を説得しようとした。それでも彼女が待っているかもしれないと思うと、その期待を自分から壊すことは出来ない。
だからこそ、周りの連中にも心配されたほど「異性に興味なし」を貫いた。気になる異性ならとっくの昔に見つけているのだから。
懐かしい駅名アナウンスを聞いて、停車した電車からホームに降りる。
変わらない。俺はしばらくその場を動けなかった。
あの日、引っ越しの支度が終わったことを連絡すると花菜ちゃんは見送りに来てくれた。髪を振り乱しながら走ってきて、二人で思い出をたくさん作った家の前から、駅のホームまでずっと手を握って歩いてきた。
ベンチで話をして、俺は花菜ちゃんに見送られた。電車の一番後ろの窓から、いつまでもホームの上でこちらを見送っていた彼女は、いつもの俺だけへの笑顔ではなく、何かの覚悟を決めたような顔をしていた。
それがどんな内容だったのか、確かめたことはないし、その機会はなかった。
物理的に出来なかったわけではない。
俺は当時持ち始めた携帯の番号のメモを花菜ちゃんに渡してきたからだ。スマホに持ち替えた今もその番号は変わっていない。
「イタズラでかけてもいい?」と泣き笑いの顔をしながら彼女がそれをきちんと手帳に納めたのも見ている。
ただその後、その番号にかかってきた電話で、待ち望んでいた声を聞くことは一度もなかった。
まだその連絡先を持っているのか。それとも時間の流れの中で不要となり、処分されてしまったのかは彼女しか知らないことだ。
結局、松本花菜という一人の女の子と過ごした時間の思い出、彼女との約束を自分の中での口実にして今のイメージが出来上がり、そのまま社会に出るまで変えることをしなかったのは、他ならぬ自分の方なのだと認識していた。
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