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15章 文芸部を選んだ本当の理由
第56話 ごめんね…言えなくて…
しおりを挟む「花菜ちゃん?」
「お兄ちゃん、いつもありがとう。学校では気を使うよね。迷惑ばかりかけてごめんなさい」
いけない。変な回想モードに入ってしまったことに謝らなくちゃ。
「なぁに、中学の制服は見られなかったけど、高校は毎日見られる。それも一番近いところで見られるんだし。今年は久し振りの水着姿も見られたしな」
「えぇ? 毎日見られるって、職権乱用です。恥ずかしい……。栄養足りないから、大きくもならなかったし……」
クラスの子の大半に比べれば、私なんて本当に貧弱だ。胸の谷間なんて言葉は私のためには絶対に使わない。
「そんなのは単なる個人差だ。俺は気にしてない。花菜ちゃんはそのままでいい。普通に見ても学校では美少女だぞ。ただな……」
「ただ……?」
「学校の姿は相当無理して作っているように見える。家のことも絡んでいるだろうけど、そこをなんとかしてやりたくてな」
さすが。担任の先生という以上の私たちだから、私の仮面なんてきっと最初から見抜いていたのだと思う。だから二人きりになれるタイミングを待って私の地を出せるようにしてくれたんだもの。
「うん。今はまだみんなにそれを出せる時じゃないと思う。でもお兄ちゃんがそれを分かっていてくれるならそれでいいよ」
よろけてしまったのを気にしていたのか、お兄ちゃんが私の左足を解してくれた。
「あ、あの……」
「まだ痛いか?」
「ううん……」
太股、ふくらはぎ、足首に来たとき、お兄ちゃんは首をかしげた。そして、足の甲を触ったとき、顔を上げた。
「あーあ……。分かっちゃった……?」
「花菜ちゃん……これは……」
「ごめんね……。もう私、あちこちぼろぼろなんだ……」
我慢していたけれど、涙が流れ落ちてしまう。
小6の最後の頃、クラブの時間にクラッシュして転倒し足をひねった。
保健室で手当てをしてもらって帰ったけれど、腫れと痛みはなかなか治まらなかった。
しばらくして、痛みが引いてきた頃に足を触って気がついた。
「そう。折れてたの。あとで分かったんだけどね。それに足首の関節も少し噛み合わせがおかしくなってて……。ギプスとか固定もしてなかったから曲がって付いちゃって……」
「みんな知ってるのか?」
「ううん。お兄ちゃんが初めて。だから……、文芸部なら走るのが遅くたって不自然に思われないでしょ?」
日常的な短い距離ならまだしも、冬場のマラソン大会は本当に苦手になった。いつも最後は左足を引きずるようになってしまうから、順位は後ろから数えたほうが早いし、最下位の経験もある。「スポーツが苦手な松本花菜」というのはここから来ている。
小学校の頃なら、家を出るのが遅くなっても学校まで走り通して遅刻しないで済ませたこともあったけれど、今はそんな芸当は無理。ゆっくり歩いているところを周囲は「優雅」と勘違いしているのが実態だから……。
「治らないのか? なんとか治せないのか?」
「お母さんにこれ以上心配かけられないよ。治すとしたら手術だもん。それに、関節は無理かもしれないって。これがイメージを変えたもう一つの大きな理由……」
もうコートの中を自在に走り回ることは出来ない。もし、次に足首を壊してしまったら、今度こそ……。
「花菜ちゃん……」
「ごめんね。せっかく二人でまた会うって約束は叶ったのに。本当ならもっと一緒に、いろんなところに行きたい。でも、私、いつ歩けなくなっちゃうか分からない。こんな私をお兄ちゃんにお願いするなんて、出来ないよ……。謝って済む話じゃないのは分かってるけれど……。ごめんなさい……」
膝を抱えて嗚咽を抑えきれなくなった私を、そっと抱きしめていてくれた。
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