まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!

小林汐希

文字の大きさ
57 / 170
15章 文芸部を選んだ本当の理由

第56話 ごめんね…言えなくて…

しおりを挟む


「花菜ちゃん?」

「お兄ちゃん、いつもありがとう。学校では気を使うよね。迷惑ばかりかけてごめんなさい」

 いけない。変な回想モードに入ってしまったことに謝らなくちゃ。

「なぁに、中学の制服は見られなかったけど、高校は毎日見られる。それも一番近いところで見られるんだし。今年は久し振りの水着姿も見られたしな」

「えぇ? 毎日見られるって、職権乱用です。恥ずかしい……。栄養足りないから、大きくもならなかったし……」

 クラスの子の大半に比べれば、私なんて本当に貧弱だ。胸の谷間なんて言葉は私のためには絶対に使わない。

「そんなのは単なる個人差だ。俺は気にしてない。花菜ちゃんはそのままでいい。普通に見ても学校では美少女だぞ。ただな……」

「ただ……?」

「学校の姿は相当無理して作っているように見える。家のことも絡んでいるだろうけど、そこをなんとかしてやりたくてな」

 さすが。担任の先生という以上の私たちだから、私の仮面なんてきっと最初から見抜いていたのだと思う。だから二人きりになれるタイミングを待って私の地を出せるようにしてくれたんだもの。

「うん。今はまだみんなにそれを出せる時じゃないと思う。でもお兄ちゃんがそれを分かっていてくれるならそれでいいよ」

 よろけてしまったのを気にしていたのか、お兄ちゃんが私の左足をほぐしてくれた。

「あ、あの……」

「まだ痛いか?」

「ううん……」

 太股、ふくらはぎ、足首に来たとき、お兄ちゃんは首をかしげた。そして、足の甲を触ったとき、顔を上げた。

「あーあ……。分かっちゃった……?」

「花菜ちゃん……これは……」

「ごめんね……。もう私、あちこちぼろぼろなんだ……」

 我慢していたけれど、涙が流れ落ちてしまう。

 小6の最後の頃、クラブの時間にクラッシュして転倒し足をひねった。

 保健室で手当てをしてもらって帰ったけれど、腫れと痛みはなかなか治まらなかった。

 しばらくして、痛みが引いてきた頃に足を触って気がついた。

「そう。折れてたの。あとで分かったんだけどね。それに足首の関節も少し噛み合わせがおかしくなってて……。ギプスとか固定もしてなかったから曲がって付いちゃって……」

「みんな知ってるのか?」

「ううん。お兄ちゃんが初めて。だから……、文芸部なら走るのが遅くたって不自然に思われないでしょ?」

 日常的な短い距離ならまだしも、冬場のマラソン大会は本当に苦手になった。いつも最後は左足を引きずるようになってしまうから、順位は後ろから数えたほうが早いし、最下位の経験もある。「スポーツが苦手な松本花菜」というのはここから来ている。

 小学校の頃なら、家を出るのが遅くなっても学校まで走り通して遅刻しないで済ませたこともあったけれど、今はそんな芸当は無理。ゆっくり歩いているところを周囲は「優雅」と勘違いしているのが実態だから……。

「治らないのか? なんとか治せないのか?」

「お母さんにこれ以上心配かけられないよ。治すとしたら手術だもん。それに、関節は無理かもしれないって。これがイメージを変えたもう一つの大きな理由……」

 もうコートの中を自在に走り回ることは出来ない。もし、次に足首を壊してしまったら、今度こそ……。

「花菜ちゃん……」

「ごめんね。せっかく二人でまた会うって約束は叶ったのに。本当ならもっと一緒に、いろんなところに行きたい。でも、私、いつ歩けなくなっちゃうか分からない。こんな私をお兄ちゃんにお願いするなんて、出来ないよ……。謝って済む話じゃないのは分かってるけれど……。ごめんなさい……」

 膝を抱えて嗚咽を抑えきれなくなった私を、そっと抱きしめていてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

紙の上の空

中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。 容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。 欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。 血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。 公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

家から出ない女優の幼馴染を連れ出したら、いつの間にか伝説になっていた件。

Memu(メム)
恋愛
学校に行かない引きこもりの国民的女優――水宮小鞠。 女の子に間違われる地味男子――白雲凪。 俺に与えられた役目はひとつ。 彼女を、学校へ連れて行くこと。 騒動になれば退学。 体育祭までに通わせられなくても退学。 成功率ほぼゼロの無理ゲーだ。 距離は近い。 でも、心は遠い。 甘えてくるくせに、本音は隠す幼馴染。 それでも―― 俺は彼女の手を引く。 退学リミット付き登校ミッションから始まる、 国民的スター幼馴染とのドタバタ青春ラブコメ、ここに開幕。

処理中です...