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15章 文芸部を選んだ本当の理由
第57話 神社でのお願いはなに?
しおりを挟む「花菜ちゃん。それさ……、お母さん知ってるよ」
とうとう言ってしまった。私が既に足を故障していること。将来歩けなくなる可能性も抱えていることも。だから、お兄ちゃんの気持ちは嬉しいけれど、私がそれに応えられないと思っていた。
でも、お兄ちゃんは私の背中に手を当てながら、ゆっくりと教えてくれた。
「えっ? そんな……」
「手術のお金、貯めてあるって。それだけじゃない。お父さんが亡くなったときの保険のお金、花菜ちゃんが結婚する時に渡すんだって。それも含めて花菜ちゃんをお願いするって言ってくれた」
そんなこと、聞いたこともない。隣のお兄ちゃんを見上げた。
「だから、大丈夫。心配しないで。花菜ちゃんをもう一人で置いていったりしない」
「お兄ちゃん……」
「なに?」
「その言葉……、すごく嬉しい……。プロポーズ?」
「そうだな、そいつはまだ先かなぁ」
顔が赤くなっている。でも、いつかは言ってくれる意味だって思っていいんだよね?
「……じゃぁ、その時まで待っていればいい……?」
「その予定だ」
さらっと言うけれど赤い顔。
本当に……、そうなんだ。お母さんとの間でどこまで話が進んでいるのかわからないけど。
「うん……」
「どうした?」
「だって、走れない私なんて相手にされなくなるってずっと思ってた……」
「そのくらいで花菜ちゃんを他の奴に渡すなんて絶対しない。さぁ一度帰ろうか。水着の上を着ちゃってくれ」
ゴミを片付けて、広げたシートを畳む。
「シートだけ持っていってくれるか?」
「もう少し持つよ」
「あんな話を聞いて、重いものを持たせるわけにいかないだろ。さぁ帰ろう」
宿に帰って、一度シャワーを浴びてからお部屋に戻った。
「本当は、浴衣を借りていこうかと思ったんだよ。でも草履じゃ足に負担がかかる。動きやすい服で行こう」
近所にある神社のお祭り。お家の近くでこういう催し物に二人で行くことは出来ないから、聞いたときに凄く楽しみになった。
歩いて15分くらいの神社の境内にはいろいろなお店が並んでいる。
「かき氷と綿あめなら夕食に響かないよな」
「そっかぁ、お昼にかき氷買わなかったのはそういうことだったのね?」
「冷たいもの食べ過ぎでお腹壊されても困るだろ?」
最初に本殿のところにいって、お賽銭を入れてお祈りをした。
「何をお祈りしたんですか?」
「まぁ、みんなが希望した進路に行けるようにだ。花菜ちゃんは?」
「私もです。でも、難しいかもしれません。ある意味では最難関じゃありませんか?」
「そうか……。そんなにハイレベル校狙ってるのか?」
「分かっているくせに……」
屋台の並ぶ道に戻って、一緒にかき氷を食べて、水風船のヨーヨーを釣って、最後に綿あめを食べながら、夕方の道を宿に帰る。
「お兄ちゃん……」
「なんだ?」
「さっきの私のお願いね、あれは嘘」
まわりには誰もいない。もういいよね。私たち二人だけの秘密の時間。
「ははは、そうか。実際はなんだった?」
「うん……。お兄ちゃん…と、ずっと一緒に、いられますように……です」
「そうか、それはたしかに最難関クラスだ。俺も同じだ。花菜ちゃんと一緒にいられますように、だな。もうあの時のように泣かせたり寂しい思いをさせたくない」
お兄ちゃんが私の手を握った。
「もう、離れたりしないから」
「うん、約束だよ」
「今度こそな。いろいろハードルはあるけれど、俺は花菜ちゃんをこの先もパートナーにしたい」
「昼間に聞いたときより、さらにプロポーズに聞こえます! 本番ではそれ以上のものを用意してくれるんですよね?」
「本番か……。それまでに考えることにするさ」
「もぉ……。仕方ないですね」
ため息と同時に顔を見合わせて笑っていた私たちを、満月の光が優しく包んでくれていた。
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