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17章 荒療治と個人面談
第63話 生徒でなく一人の女の子として
しおりを挟む「あのね……」
浴衣を直し、二人並んで布団に横になった。
前日は布団を離したのに、今日はぴったりと真横に並べた。
「帰ってきてくれて、ありがとう。びっくりしたけど、本当に嬉しかったの……。春休みには『もしかして』って……。ううん、確信していた」
あの、赴任の挨拶に来た時だ。それを後方から見られていたなんて。
「俺は、名簿を渡された時に書いてあった『松本花菜』が、あの花菜ちゃんなのか気になってさ。なかなか寝付けなかったよ」
「見た目が変わっちゃったからね……」
「そう。でも、声を聞いた時に間違いないって。花菜ちゃんには謝らなくちゃならないからね」
「もういいんだよ。解ってるよ。先生に生徒が恋しちゃいけないって。辛い思い、たくさんさせちゃってるよね……」
涙声の花菜を抱き寄せる。
自分以上に彼女の方が立場を理解している。俺に迷惑をかけないように、いつも必死に感情を抑えてくれているのだから。
「俺は学校での『女神様女子高生・松本花菜』には興味はない。俺が見ているのは、幼なじみの『松本花菜ちゃん』という一人の女の子だ。その子をずっと好きだったんだと改めて理解しただけの話だから。普通の恋人に比べれば、難しいこともあるかもしれないけど、花菜ちゃんの手をもう放したくはない」
頭を撫でてやると、小さくうなずく。
「今回、二人で来られてよかった……。こんな話は先輩とかいたら出来なかったよ。誘ってくれて感謝します」
「そうだな。俺もここまで一気に当時の花菜ちゃんを取り戻せるとは思わなかった」
それは事実だ。あの時に「予定通りに行く」と瞬時に判断したことは間違っていなかった。
「私ね、まだ進学か就職かまだ決めてない。また相談してもいい?」
「ゆっくり考えていい。大丈夫だ。お母さん、花菜ちゃんさえよければ永久就職も時期が来たらいいって言ってたしね」
「それって結婚ってことでしょ? させてもらえるのかな?」
「松本さえそれでよければな。よし、夏休みの個人面談、これで終わりにする」
「えー?」
学生モードでは絶対に聞けない素の彼女が分かれば、教室での面談など要らない。夏休み前に配布した二者面談日程表に名前は書いてあるから、不在にして怪しまれるより、その時間は雑談でもしていればいい。
目がとろんとしてきている。今日はスケジュールもいっぱいだった。眠気が襲ってきているんだろう。
「おやすみ、花菜ちゃん」
「うん、おやすみなさい。明日には『先生』に戻っちゃうんですね」
「明日、ここを出るまでは今のままでいい。合宿としてやることはちゃんとやった」
「うん……。楽しかったぁ……」
腕枕を貸してやると、満足そうに目尻を思い切り下げて、そのすぐあと1分もしないうちに寝息に変わったんだっけ。
今日見てきたあの幼い頃から変わらない笑顔。体のことを話していた時の寂しそうな涙。
きっとどちらも学校で見ることはない。花菜の性格からしてどちらも抑え込んでしまうのは容易に想像できる。
昨日の夜中の話を思い出す。この安心しきって無防備に唇を少し開いた寝顔は他の誰にも見せないはず。これを守らなくちゃいけない。
そうだ。自分は何を迷っているのだろう。彼女と再会し、一番大切な互いの気持ちまで確かめあえた今、進む道は決めていたじゃないか。
俺は窓を閉めて、彼女の浴衣と布団をそっと直した。
「また、少しずつやり直そう。今度はもっと先にな……」
まずは、養護と体育の先生に彼女の足のことを急いで伝えなくては。
「お兄ちゃん……」
「どうしたぁ」
寝言の花菜の手に触れると、赤ちゃんの反射行動のようにぎゅっと握ってすり寄ってくる。
「こんなの……、好きにならない方がおかしいだろ……」
握った手の反対側の腕を再び彼女の頭の下に入れてやる。昼間の疲れで俺もすぐに眠りに落ちていた。
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