まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!

小林汐希

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32章 高校最後の夏休み

第127話 買い出し班は汗だくよ!?

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「花菜おはよう! お待たせ。買い物行くよ?」

「千景ちゃん! 遠いところありがとう。すぐ行くね!」

 千景ちゃんが約束どおり遠いところから自転車で来てくれた。帰りは夜遅くなってしまうから、今夜は珠実園で預かって、明日以降に私が乗って返しに行くことになっている。

 いつもお世話になる千景ちゃんと、あの加藤くんも招待したんだ。その代わりちょっとお手伝いをお願いしてね。

 私も園の自転車を借りて坂を降りた。

 駅前のスーパーや商店街で、事前に注文しておいたかき氷のシロップやお皿などを大量に買いこむ。

 珠実園に入所している中学生以下の子たちがあまりその素性のことで騒がれないのには、こういうイベント時の解放とか、買い物も業者さん直接ではなく地元のお店を通じて買うことで、子育ての家族にはもちろん、それ以外にも地域に貢献したりとけ込んでいる事情があるみたい。

 前カゴだけでなく、荷台にも段ボールを縛り付けて中身はぎっしりだ。

「いつも思うんだけど、この坂道なんとかならない?」

 私にはいつもの坂だけれど、慣れない千景ちゃんが先に息を切らしている。

 そう、この建物が立ち並ぶ横浜市の中で花火が見える絶好スポットというのは、見晴らしが良い代わりに、坂の上の立地だということ。

 私はもうそれが普通になってしまったけれど、慣れない人には荷物を持って上がるのも一苦労だ。

 そもそも横浜という街は港を少し離れると坂が多い場所なんだよね。これも修学旅行で行った長崎に親近感を持った理由。

「体力づくりにはいいでしょ?」

「そりゃそうなんだけど……。花菜の体力作りのために来てるんじゃないぞぉ?」

「加藤くんが来る前にシャワーとか使っちゃいなよ。浴衣持ってきたんでしょ? 私たち二人が使うって言ってあるよ?」

「花菜……」

 顔を赤くする千景ちゃんの様子を見ていると、二人の関係がうまく行っていることが分かる。

「ねぇねぇ、あれって6組の中島さんだよね?」

 駅から花火会場に向かう道を、見たことがある女の子が浴衣を着て歩いて行くのが見えた。

「え? あ、そうそう。浴衣着てもう出てるんだ」

「あれは間違いなく彼氏いるよね」

「一人じゃ浴衣着るとは言わないもんね」

 前に調べたとおり、この鶴見駅周辺から同学年の通学はなかったから、花火を見に来たのだとは分かる。

 きっと今夜の待ち合わせのために早めに来ているのだろうけど。

「だよね」

 二人で頷く。修学旅行で長谷川先生に告白するも想いが届かなかった中島さんは、3年生になって同じ組の男子とお付き合いを始めたとも聞いていた。

「この時間から浴衣は大変だよ」

「いいんじゃん? 花菜だって先生から朝から着て出かけようって言われれば頑張るでしょ? それにさ、まだこの時間だからどこかで調整して着付け直したりできるし」

「あー、そういうこともあるのかぁ」

「本当に、どうして男の人って女子の浴衣を見たがるのかなぁ」

「きちんと着付けると逆に暑いしね。でも着て欲しいと言われちゃえば頑張っちゃうのが悲しいさがだよねぇ」

 見た目は涼しそうだけど、実のところは熱が中にこもって思うほど昼間は涼しくない。けれど千景ちゃんもきっと加藤くんにそう言われて、反論はしたものの黙って用意したに違いないんだよね。

「先生ね、私の足があるから浴衣は治ってからなって言うの。ちょっと残念」

「えー、そうなの? この間一緒に買ったじゃん」

「うん。でも私のこと心配してくれてるんだもん」

「そこで旦那の優しさを自慢するなー」

「自慢じゃないよぉ。でも今日はそれで動くわけじゃないし、着て驚かせるんだ」

 だから浴衣を買ったことは先生には内緒にしていた。千景ちゃんが朝顔、私が撫子なでしこの柄で、帯やかんざしはお揃いにした。お互いに相手には当日に初披露と言って笑った。

「早く準備して、シャワーを使ってから着付けしようよ」

「おし、急いで帰ろうか。この最後の坂なんとかならないかなぁ……」

「ほらほら、加藤くんにそんな顔見せられないでしょ?」

「花菜もだんだん先生に似てきたなぁ」

 分かっている。まだダメだと言われるのは意地悪じゃなくて、それが先生の優しさだと言うことも。

 でも、それを私はもっと噛みしめていなければならなかったのに……。
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