128 / 170
32章 高校最後の夏休み
第127話 買い出し班は汗だくよ!?
しおりを挟む「花菜おはよう! お待たせ。買い物行くよ?」
「千景ちゃん! 遠いところありがとう。すぐ行くね!」
千景ちゃんが約束どおり遠いところから自転車で来てくれた。帰りは夜遅くなってしまうから、今夜は珠実園で預かって、明日以降に私が乗って返しに行くことになっている。
いつもお世話になる千景ちゃんと、あの加藤くんも招待したんだ。その代わりちょっとお手伝いをお願いしてね。
私も園の自転車を借りて坂を降りた。
駅前のスーパーや商店街で、事前に注文しておいたかき氷のシロップやお皿などを大量に買いこむ。
珠実園に入所している中学生以下の子たちがあまりその素性のことで騒がれないのには、こういうイベント時の解放とか、買い物も業者さん直接ではなく地元のお店を通じて買うことで、子育ての家族にはもちろん、それ以外にも地域に貢献したりとけ込んでいる事情があるみたい。
前カゴだけでなく、荷台にも段ボールを縛り付けて中身はぎっしりだ。
「いつも思うんだけど、この坂道なんとかならない?」
私にはいつもの坂だけれど、慣れない千景ちゃんが先に息を切らしている。
そう、この建物が立ち並ぶ横浜市の中で花火が見える絶好スポットというのは、見晴らしが良い代わりに、坂の上の立地だということ。
私はもうそれが普通になってしまったけれど、慣れない人には荷物を持って上がるのも一苦労だ。
そもそも横浜という街は港を少し離れると坂が多い場所なんだよね。これも修学旅行で行った長崎に親近感を持った理由。
「体力づくりにはいいでしょ?」
「そりゃそうなんだけど……。花菜の体力作りのために来てるんじゃないぞぉ?」
「加藤くんが来る前にシャワーとか使っちゃいなよ。浴衣持ってきたんでしょ? 私たち二人が使うって言ってあるよ?」
「花菜……」
顔を赤くする千景ちゃんの様子を見ていると、二人の関係がうまく行っていることが分かる。
「ねぇねぇ、あれって6組の中島さんだよね?」
駅から花火会場に向かう道を、見たことがある女の子が浴衣を着て歩いて行くのが見えた。
「え? あ、そうそう。浴衣着てもう出てるんだ」
「あれは間違いなく彼氏いるよね」
「一人じゃ浴衣着るとは言わないもんね」
前に調べたとおり、この鶴見駅周辺から同学年の通学はなかったから、花火を見に来たのだとは分かる。
きっと今夜の待ち合わせのために早めに来ているのだろうけど。
「だよね」
二人で頷く。修学旅行で長谷川先生に告白するも想いが届かなかった中島さんは、3年生になって同じ組の男子とお付き合いを始めたとも聞いていた。
「この時間から浴衣は大変だよ」
「いいんじゃん? 花菜だって先生から朝から着て出かけようって言われれば頑張るでしょ? それにさ、まだこの時間だからどこかで調整して着付け直したりできるし」
「あー、そういうこともあるのかぁ」
「本当に、どうして男の人って女子の浴衣を見たがるのかなぁ」
「きちんと着付けると逆に暑いしね。でも着て欲しいと言われちゃえば頑張っちゃうのが悲しい性だよねぇ」
見た目は涼しそうだけど、実のところは熱が中にこもって思うほど昼間は涼しくない。けれど千景ちゃんもきっと加藤くんにそう言われて、反論はしたものの黙って用意したに違いないんだよね。
「先生ね、私の足があるから浴衣は治ってからなって言うの。ちょっと残念」
「えー、そうなの? この間一緒に買ったじゃん」
「うん。でも私のこと心配してくれてるんだもん」
「そこで旦那の優しさを自慢するなー」
「自慢じゃないよぉ。でも今日はそれで動くわけじゃないし、着て驚かせるんだ」
だから浴衣を買ったことは先生には内緒にしていた。千景ちゃんが朝顔、私が撫子の柄で、帯や簪はお揃いにした。お互いに相手には当日に初披露と言って笑った。
「早く準備して、シャワーを使ってから着付けしようよ」
「おし、急いで帰ろうか。この最後の坂なんとかならないかなぁ……」
「ほらほら、加藤くんにそんな顔見せられないでしょ?」
「花菜もだんだん先生に似てきたなぁ」
分かっている。まだダメだと言われるのは意地悪じゃなくて、それが先生の優しさだと言うことも。
でも、それを私はもっと噛みしめていなければならなかったのに……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
サクラブストーリー
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の速水大輝には、桜井文香という同い年の幼馴染の女の子がいる。美人でクールなので、高校では人気のある生徒だ。幼稚園のときからよく遊んだり、お互いの家に泊まったりする仲。大輝は小学生のときからずっと文香に好意を抱いている。
しかし、中学2年生のときに友人からかわれた際に放った言葉で文香を傷つけ、彼女とは疎遠になってしまう。高校生になった今、挨拶したり、軽く話したりするようになったが、かつてのような関係には戻れていなかった。
桜も咲く1年生の修了式の日、大輝は文香が親の転勤を理由に、翌日に自分の家に引っ越してくることを知る。そのことに驚く大輝だが、同居をきっかけに文香と仲直りし、恋人として付き合えるように頑張ろうと決意する。大好物を作ってくれたり、バイトから帰るとおかえりと言ってくれたりと、同居生活を送る中で文香との距離を少しずつ縮めていく。甘くて温かな春の同居&学園青春ラブストーリー。
※特別編8-お泊まり女子会編-が完結しました!(2025.6.17)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説
宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。
美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!!
【2022/6/11完結】
その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。
そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。
「制覇、今日は五時からだから。来てね」
隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。
担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。
◇
こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく……
――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――
となりのソータロー
daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。
彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた…
という噂を聞く。
そこは、ある事件のあった廃屋だった~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる