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37章 文学少女からヒロインへ
第149話 うちにおいでよ
しおりを挟む駅からのバスを降り、停留所から遠ざかるテールランプを見送る。
「帰るか」
「うん」
「花菜、大丈夫?」
「ごめんね、千景ちゃんも加藤くんも疲れてるのに」
「いいって。夕飯食べさせてもらって、帰りは先生にタクシー代出してもらう約束だから」
「本当に?」
驚いて横を見上げると、頬に絆創膏を貼った顔が優しく肯いている。
「今日の結果は、松本を焚きつけた橘も影の立役者だからな。その礼だ。お家の方にも連絡させてもらってある」
千景ちゃんはご両親が共働きだから、こうなっても特に驚いたりはしなかったみたい。
加藤くんとのお付き合いもオープンにしてあって、一緒に夕飯というのも珍しくないという関係になっていると聞いたことがある。
千景ちゃんに私の荷物を持ってもらい、先生はよいしょと私をおんぶしてくれた。
加藤くんが先生の荷物を持って私たちの家、そう、先生と私の新居に向かう。
これまで友だちを呼ぶときは必ず珠実園にしてもらっていた。あの二人のお部屋は私にとっての隠れ家だから。
それを先生は「うちにおいで」と言ってくれた。
「へぇ、ここが先生と花菜の部屋なんだ。もっと新婚さんしてるのかと思ったよ」
玄関をあがって、リビングに座ってもらう。
「いまお寿司の出前を頼んでるから、少し待っていてくれ」
先生が冷えた麦茶を出してくれた。あぁ、それって本当なら私の仕事……。
「珠実園で泊まってもらうことも多いしリフォームを少しずつやってるから、完全に引っ越してきてないんだ。卒業まではそんな生活だろうな」
「えー、せっかく籍も入れてるんですし、いいんじゃないですか?」
「あたしたちが考えている以上に大人の世界は複雑なんだよ」
先生と会話をしている千景ちゃんは、私の足の包帯を一度外してくれた。
「よかった、すぐに冷やしたから腫れもひいてる。関節は変な感触無いから大丈夫だよ。もし痛みだしたらお医者さんに行ってね」
「うん、ありがとう」
「まったく、ヒヤヒヤだったんだから。このお二人さんは。あんなに大きな声で名前呼びしちゃって。まぁ、あの展開じゃ誰も不自然には思わないわよねぇ」
このあとお風呂に入るからと、濡れても平気なテープに替えてくれて、今度は擦り傷に絆創膏を貼った膝を軽く叩いてくる。
「痛いよぉ」
「あんなフルスピードでタックルしてその程度だったんだから、先生に感謝しなさいよ?」
そう、ゴールの瞬間に足の力が抜けて、私は先生の腕にそのまま倒れるように受け身を取ることもなく飛び込んだんだ。
抱きしめてくれたのはいいのだけど、スピードを殺しきれなくて二人で地面に転がってしまった。そのときも先生は私を離さないでいてくれた。だから私よりも先生の方が手に傷を作ってしまっている。
「ご、ごめんなさい……」
「いいんだ。突然あんな無茶ぶりの作戦を立てられて、よく結果を出したよ。その頑張りに比べればこんなの気にすることじゃない」
千景ちゃんの指摘に苦笑いしながら、先生は私の頭をなでてくれた。
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