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第19話 第5章 支部長ディック登場②
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「あ、ネメリアちゃん背負ってますよ」
「……落ちなければ良いけど」
レアは心配そうに口を引き結ぶ。
「むー、なんで背負ってるんでしょうか? もしかして、高い所苦手とか?」
彩希は下を覗き込むと、楽しげに笑った。
「合ってるかもね。見て、ネメリアちゃん、目を瞑って秋仁にしがみついているわ」
「え? あー、本当です。羨ましい」
まるで兄弟のように見える。彩希は、笑みを深めた。
「ネメリアちゃんは、レアちゃんより年下?」
「ええ、確か十六歳らしいです」
「じゃあ、支えてあげなさい。あの子は、苦しい目に遭って暗い感情を内に秘めている。でも、根は素直そうな良い子だから、導いてあげればきっと前を向いて歩けるはず」
優しくて胸に染みるような声音。レアは温かな気持ちが、血と溶けて染みていくのを感じた。
「ハイ。頑張ります」
「よろしい、良い返事よ」
彩希とレアは顔を見合わせて、微笑みあった。
※
「おい、引き揚げてくれ」
黒羽は、岩石が詰まったように鈍い動きで、手を伸ばした。
彩希とレアが二人がかりで引っ張ると、黒羽は肩で息をしながら膝をついた。
「すまない。平気か?」
「ああ、気にするな。ハア、ハア、良いトレーニングに、なった、よ」
黒羽はレアからタオルを受け取ると、汗で張り付いた服の中に手を突っ込んだ。
「レア、ここからどのくらいの距離にある?」
「あの建物が見えますか?」
第四階層と違い、第三階層は建物が綺麗に並び、道も整備されている。彼女が指差した所は、周りの建物よりも一際大きくて、頑丈そうな高床式の赤い建物だ。
「近いな。大通りは兵士がうろついているようだし、裏路地を使って行こう」
黒羽達は、人のいない道を選びながら支部を目指した。時折横切る追っ手に肝を冷やしながらも、彼らは赤い建物の入り口へと到着した。
「誰か、誰かいらっしゃいませんか?」
レアが階段を上り、戸口を叩くと、やや遅れて返答があった。
「どちら様で?」
「私は、宿屋連盟フラデン支部長エメ・アルシェの娘、レア・アルシェです。支部長のディック・ノルドマンさんにお話したいことがあってまいりました」
「ああ、エメさんの……少々お待ちください」
足音が遠ざかったかと思うと、すぐに引き返してきたようだ。扉が開き、黒羽達は中へ招かれた。
「ありがとうございます」
「いえ、レアさん。こちらへ。ディックが待っています」
燕尾服を着こなす男が、奥へと案内する。中は木製の家具で統一されており、暖色系の光に包まれているのも相まって、宿屋らしい雰囲気に包まれている。
「お入りください。何かご用がありましたらお申しつけください」
男はそれだけいうと、立ち去って行った。
(執事みたいな人だな)
従業員になってくれたら、お店の評判が上がるかもしれないのに、と黒羽はため息を漏らした。
「どうしたんですか?」
「え? ああ何でもないよレア。ただ、今の人みたいな従業員を探していてね、募集をかけてるんだけど、なかなか来てくれないんだ」
「へえ、苦労してるんですね。今度、私がお手伝いしましょうか?」
黒羽はニッコリと微笑んだ。
「ああ、よろしく頼むよ。何せ人気店なんでね。人手はいくらあっても足りないよ。と、待たせちゃ悪いな」
黒羽はミディアムブラウンの扉を、やや遠慮気味にノックした。
「鍵は開いています」
低く落ち着きのある声が聞こえた。黒羽はレアに頷いてから、ゆっくりと扉を開けた。
書斎らしき部屋は、応接間も兼ねているのか、中々に広々としていた。声の主は、正面の席に座っていた。金が贅沢に使われた金具と、見るからに良質な木材でできた机には、宿屋連盟の印が刻まている。
「おや、四人もいらっしゃるのか。けど大丈夫。席は足りています」
黒羽達は部屋の左手にある、真四角のテーブルにそれぞれが座った。ディックは立ち上がると、黒羽達の前まで歩き、優雅に頭を下げた。
「初めまして、私はディック・ノルドマンと申します。ここウトバルク支部の支部長を務めている者です」
茶色い髪と、細長い顔、そして口周りに生えた髭が特徴的なディックは、レアに視線を向けた。
「レアさんはお久しぶりですね。あなたのお父様の葬儀以来ですか」
「はい。ご無沙汰しております。あ、えっとこの方達はですね」
レアは、順番に黒羽達のことを紹介した。
「なるほど。黒羽さんと彩希さんのことは、知っています。なんたって英雄ですものね」
「知っている? 何故です。僕達の名前は公表されてないはずじゃ?」
黒羽の疑問に、ディックは柔らかい笑みを返した。
「宿屋連盟は、特定の都市を持ちませんが、一種の国家と変わりありません。各都市に必要不可欠な宿屋を運営するがゆえに、どの国も我らにある程度の発言力を認めざるをえない。まあ、簡単にいえば、それくらいの情報なら手に入れられる立場にいるわけです」
ディックは、興味深そうな目で黒羽を見た。
「それで黒羽さん。話があると聞きましたが」
「あ、はい。キース・ベルナール・シリル・ダミアンという方をご存知でしょうか? 実は彼からあなたにお伝えするようにお願いされたのです」
「キースが? 彼は私の友人です。あいつは私に頼みごとをするのを嫌がる男なのですが、そういうからにはただ事ではありませんね」
「はい、緊急事態なんです。良いですか、落ち着いて聞いてください。実はウトバルク王国は、オール帝国によって支配されようとしています」
「それは、穏やかじゃありませんね」
ディックは驚きこそすれ、冷静さを失わなかった。話の続きを黒羽に促した。
「……と、いうわけです」
「いずれ、オール帝国が何らかのアクションを見せるはずだとは思ってましたが、まさかそんな、からめ手でこようとは」
ディックは、難しい顔になった。黒羽も釣られて険しい顔で黙りこむ。
彼は視線を地面に投げかけ、何やら考え事をしているようだった。
「うん」
ようやくディックは口を開いた。
「どう、立ち回るべきか迷いますね」
言葉のニュアンスに嫌な響きを感じ、黒羽は問いかけた。
「どうとは」
「宿屋連盟にとって最も利益の出る立ち回りについてですよ」
レアは勢いよく立ち上がった。
「利益って、あなたのご友人が危険な目にあってるのに」
「レアさん、あなたも連盟の一員なら覚えておきなさい。連盟は宿屋を運営するために存在する。個人的感情で連盟の行動を決定することは、あってはならない」
「それは!」
なおも食い下がろうとするレアに、黒羽は手で制した。
「利益が出れば、ウトバルクにとってプラスになる立ち回りもしてくれるんですよね」
「ええ、もちろん」
黒羽は満足げに頷くと、質問をした。
「では、ディックさん。ウトバルクの内情に詳しいあなたなら、この国が一枚岩ではないことを知っていますね」
「ええ、まあね。貴族と女王の対立。タカ派のエイトールと穏健派の女王との対立。構図としては、女王が孤立して、異なる主張をする者どもと平行線をたどる状態が続いています」
黒羽はニヤリと笑った。
「その状況は、連盟にとって好都合でしょうか?」
ディックは、面白そうに眼を細めた。
「いや。平等な国を目指し、オール帝国との戦を避けたい女王と、貴族制度を維持したい貴族、そして戦を画策するタカ派。どちらも国の運営の仕方に違いがありすぎて、困っています。
特にタカ派はいけない。宿屋を兵士が休む専用の休憩場所として経営してほしいと要望がありましてね。それでは、兵士が泊る時以外は、儲けが発生しない」
黒羽はゆっくりとした動作で、立ち上がった。
「では、なおのこと僕達に協力すべきです。今は、あなた方にとってチャンスです。
良いですか。国が混乱している状況は、いってみれば、どこにでも転がる可能性があるということ。
ここで女王の味方になれば、少なくともタカ派は黙らせることができるでしょう。恐らくですが、エイトールの側についた貴族もいるはずですから、それも暴けば貴族側も大人しくなります。
それに、オール帝国の支配下になるのは、最もまずい。あの国が、宿屋連盟に対して、どういう暴挙にでるか考えるまでもない。なら、どうすべきか、分かりますね」
ディックは腹を抱えて大笑いした。
「なるほど、つまりこう言いたいわけだ。女王の味方になって、オール帝国に支配されそうな現状を打開できれば、女王の敵はいなくなる。
後は、女王のもと一枚岩になったこの国で、安定して宿屋を運営していけば良い、と。それに女王に恩を売っておけば……ああ、そいつは良い」
ディックは、手を差し出した。
「確かにメリットがある。正直、エイトールのやり方は気に食わないし、自分達の快楽のためにしか行動できない貴族が、まともに国を運用できるとは思えないな」
(この人、初めからそのつもりだったな。油断ならない人だ)
黒羽は、手をがっしりと握りしめると、真っすぐに彼の目を見た。
「ええ。それに、友人のために行動したほうが、あなたにとっても気分が良いでしょう」
ディックは、鼻を鳴らした。
「まあね。ただ、行動は慎重にしなければならない。ペドロとオール帝国の行動が読めないのでね。
いや、正確には、オール帝国のウルドと呼ばれるワーウルフか。ペドロは、女王がほしいだけだろう」
「ほしいって権力がってことですか?」
レアは小首を傾げる。ディックは、人の悪い笑みで言った。
「女王の身体だ。あの男は、昔から女王を狙っていた筋金入りの変態でね。ペドロは、表ざたになってないが、沢山の部下に手を出している。ざっくり言えば、性欲の塊さ。
きっと、ウルドにいいように操られているんだろうね」
レアはまっ赤になった顔を両手で包んだ。ディックは、肩を震わせるほど笑いながら、懐から乾燥した木の棒を取り出した。
「スティート(燃やすと良い匂いのする木を乾燥させたもの)を吸っても良いかい」
「ああ、遠慮してください。子供もいるんですから」
黒羽の言葉に、ディックは肩をすくめた。
「これは失礼。ネメリアちゃんには、まだ早いかな。多少、害があるしね。
ああ、しかし悲しいかな。止められない。支部長の立場はそれなりに重いものでね。こんなものでも、頼りたくなるんだよ。あ!」
ディックの手からスティートを盗み取ったネメリアは、魔法で火を付けると思いっきり吸い込んだ。
「フゥ―。スティートがなんだ。これくらい吸えるよ」
美味しそうに吸うネメリアの手元に、突如風が走り、スティートが真っ二つに切り裂かれた。
「ネメリアちゃん。駄目じゃないですか。メ!」
言葉とは裏腹の迫力にネメリアは、スティートを投げ捨てると「ごめんなさい」と謝った。
「ハハハ、お母さんそっくりになってきたみたいだね」
「笑い事じゃないですよ。ディックさんは、そこらへんちゃんとしないから、奥さんに逃げられるんですよ」
ディックは途端にがっくりとした様子になる。
「けっこう、レアちゃんってさ、きついよね」
「ん? どこらへんがですか?」
小首を傾げるレアに、一同は笑いさざめいた。
「かなわないね。まあいいさ。皆さん、お疲れでしょう。寝床を用意させましたので、今日はぐっすりおやすみください」
タイミングを合わせたかのように扉が開き、先ほど黒羽達を案内した男が頭を下げた。
「レイモンド、案内を頼めるかい」
「お任せを。では、こちらへ」
レイモンドに連れられて、黒羽達は部屋を後にした。
「……落ちなければ良いけど」
レアは心配そうに口を引き結ぶ。
「むー、なんで背負ってるんでしょうか? もしかして、高い所苦手とか?」
彩希は下を覗き込むと、楽しげに笑った。
「合ってるかもね。見て、ネメリアちゃん、目を瞑って秋仁にしがみついているわ」
「え? あー、本当です。羨ましい」
まるで兄弟のように見える。彩希は、笑みを深めた。
「ネメリアちゃんは、レアちゃんより年下?」
「ええ、確か十六歳らしいです」
「じゃあ、支えてあげなさい。あの子は、苦しい目に遭って暗い感情を内に秘めている。でも、根は素直そうな良い子だから、導いてあげればきっと前を向いて歩けるはず」
優しくて胸に染みるような声音。レアは温かな気持ちが、血と溶けて染みていくのを感じた。
「ハイ。頑張ります」
「よろしい、良い返事よ」
彩希とレアは顔を見合わせて、微笑みあった。
※
「おい、引き揚げてくれ」
黒羽は、岩石が詰まったように鈍い動きで、手を伸ばした。
彩希とレアが二人がかりで引っ張ると、黒羽は肩で息をしながら膝をついた。
「すまない。平気か?」
「ああ、気にするな。ハア、ハア、良いトレーニングに、なった、よ」
黒羽はレアからタオルを受け取ると、汗で張り付いた服の中に手を突っ込んだ。
「レア、ここからどのくらいの距離にある?」
「あの建物が見えますか?」
第四階層と違い、第三階層は建物が綺麗に並び、道も整備されている。彼女が指差した所は、周りの建物よりも一際大きくて、頑丈そうな高床式の赤い建物だ。
「近いな。大通りは兵士がうろついているようだし、裏路地を使って行こう」
黒羽達は、人のいない道を選びながら支部を目指した。時折横切る追っ手に肝を冷やしながらも、彼らは赤い建物の入り口へと到着した。
「誰か、誰かいらっしゃいませんか?」
レアが階段を上り、戸口を叩くと、やや遅れて返答があった。
「どちら様で?」
「私は、宿屋連盟フラデン支部長エメ・アルシェの娘、レア・アルシェです。支部長のディック・ノルドマンさんにお話したいことがあってまいりました」
「ああ、エメさんの……少々お待ちください」
足音が遠ざかったかと思うと、すぐに引き返してきたようだ。扉が開き、黒羽達は中へ招かれた。
「ありがとうございます」
「いえ、レアさん。こちらへ。ディックが待っています」
燕尾服を着こなす男が、奥へと案内する。中は木製の家具で統一されており、暖色系の光に包まれているのも相まって、宿屋らしい雰囲気に包まれている。
「お入りください。何かご用がありましたらお申しつけください」
男はそれだけいうと、立ち去って行った。
(執事みたいな人だな)
従業員になってくれたら、お店の評判が上がるかもしれないのに、と黒羽はため息を漏らした。
「どうしたんですか?」
「え? ああ何でもないよレア。ただ、今の人みたいな従業員を探していてね、募集をかけてるんだけど、なかなか来てくれないんだ」
「へえ、苦労してるんですね。今度、私がお手伝いしましょうか?」
黒羽はニッコリと微笑んだ。
「ああ、よろしく頼むよ。何せ人気店なんでね。人手はいくらあっても足りないよ。と、待たせちゃ悪いな」
黒羽はミディアムブラウンの扉を、やや遠慮気味にノックした。
「鍵は開いています」
低く落ち着きのある声が聞こえた。黒羽はレアに頷いてから、ゆっくりと扉を開けた。
書斎らしき部屋は、応接間も兼ねているのか、中々に広々としていた。声の主は、正面の席に座っていた。金が贅沢に使われた金具と、見るからに良質な木材でできた机には、宿屋連盟の印が刻まている。
「おや、四人もいらっしゃるのか。けど大丈夫。席は足りています」
黒羽達は部屋の左手にある、真四角のテーブルにそれぞれが座った。ディックは立ち上がると、黒羽達の前まで歩き、優雅に頭を下げた。
「初めまして、私はディック・ノルドマンと申します。ここウトバルク支部の支部長を務めている者です」
茶色い髪と、細長い顔、そして口周りに生えた髭が特徴的なディックは、レアに視線を向けた。
「レアさんはお久しぶりですね。あなたのお父様の葬儀以来ですか」
「はい。ご無沙汰しております。あ、えっとこの方達はですね」
レアは、順番に黒羽達のことを紹介した。
「なるほど。黒羽さんと彩希さんのことは、知っています。なんたって英雄ですものね」
「知っている? 何故です。僕達の名前は公表されてないはずじゃ?」
黒羽の疑問に、ディックは柔らかい笑みを返した。
「宿屋連盟は、特定の都市を持ちませんが、一種の国家と変わりありません。各都市に必要不可欠な宿屋を運営するがゆえに、どの国も我らにある程度の発言力を認めざるをえない。まあ、簡単にいえば、それくらいの情報なら手に入れられる立場にいるわけです」
ディックは、興味深そうな目で黒羽を見た。
「それで黒羽さん。話があると聞きましたが」
「あ、はい。キース・ベルナール・シリル・ダミアンという方をご存知でしょうか? 実は彼からあなたにお伝えするようにお願いされたのです」
「キースが? 彼は私の友人です。あいつは私に頼みごとをするのを嫌がる男なのですが、そういうからにはただ事ではありませんね」
「はい、緊急事態なんです。良いですか、落ち着いて聞いてください。実はウトバルク王国は、オール帝国によって支配されようとしています」
「それは、穏やかじゃありませんね」
ディックは驚きこそすれ、冷静さを失わなかった。話の続きを黒羽に促した。
「……と、いうわけです」
「いずれ、オール帝国が何らかのアクションを見せるはずだとは思ってましたが、まさかそんな、からめ手でこようとは」
ディックは、難しい顔になった。黒羽も釣られて険しい顔で黙りこむ。
彼は視線を地面に投げかけ、何やら考え事をしているようだった。
「うん」
ようやくディックは口を開いた。
「どう、立ち回るべきか迷いますね」
言葉のニュアンスに嫌な響きを感じ、黒羽は問いかけた。
「どうとは」
「宿屋連盟にとって最も利益の出る立ち回りについてですよ」
レアは勢いよく立ち上がった。
「利益って、あなたのご友人が危険な目にあってるのに」
「レアさん、あなたも連盟の一員なら覚えておきなさい。連盟は宿屋を運営するために存在する。個人的感情で連盟の行動を決定することは、あってはならない」
「それは!」
なおも食い下がろうとするレアに、黒羽は手で制した。
「利益が出れば、ウトバルクにとってプラスになる立ち回りもしてくれるんですよね」
「ええ、もちろん」
黒羽は満足げに頷くと、質問をした。
「では、ディックさん。ウトバルクの内情に詳しいあなたなら、この国が一枚岩ではないことを知っていますね」
「ええ、まあね。貴族と女王の対立。タカ派のエイトールと穏健派の女王との対立。構図としては、女王が孤立して、異なる主張をする者どもと平行線をたどる状態が続いています」
黒羽はニヤリと笑った。
「その状況は、連盟にとって好都合でしょうか?」
ディックは、面白そうに眼を細めた。
「いや。平等な国を目指し、オール帝国との戦を避けたい女王と、貴族制度を維持したい貴族、そして戦を画策するタカ派。どちらも国の運営の仕方に違いがありすぎて、困っています。
特にタカ派はいけない。宿屋を兵士が休む専用の休憩場所として経営してほしいと要望がありましてね。それでは、兵士が泊る時以外は、儲けが発生しない」
黒羽はゆっくりとした動作で、立ち上がった。
「では、なおのこと僕達に協力すべきです。今は、あなた方にとってチャンスです。
良いですか。国が混乱している状況は、いってみれば、どこにでも転がる可能性があるということ。
ここで女王の味方になれば、少なくともタカ派は黙らせることができるでしょう。恐らくですが、エイトールの側についた貴族もいるはずですから、それも暴けば貴族側も大人しくなります。
それに、オール帝国の支配下になるのは、最もまずい。あの国が、宿屋連盟に対して、どういう暴挙にでるか考えるまでもない。なら、どうすべきか、分かりますね」
ディックは腹を抱えて大笑いした。
「なるほど、つまりこう言いたいわけだ。女王の味方になって、オール帝国に支配されそうな現状を打開できれば、女王の敵はいなくなる。
後は、女王のもと一枚岩になったこの国で、安定して宿屋を運営していけば良い、と。それに女王に恩を売っておけば……ああ、そいつは良い」
ディックは、手を差し出した。
「確かにメリットがある。正直、エイトールのやり方は気に食わないし、自分達の快楽のためにしか行動できない貴族が、まともに国を運用できるとは思えないな」
(この人、初めからそのつもりだったな。油断ならない人だ)
黒羽は、手をがっしりと握りしめると、真っすぐに彼の目を見た。
「ええ。それに、友人のために行動したほうが、あなたにとっても気分が良いでしょう」
ディックは、鼻を鳴らした。
「まあね。ただ、行動は慎重にしなければならない。ペドロとオール帝国の行動が読めないのでね。
いや、正確には、オール帝国のウルドと呼ばれるワーウルフか。ペドロは、女王がほしいだけだろう」
「ほしいって権力がってことですか?」
レアは小首を傾げる。ディックは、人の悪い笑みで言った。
「女王の身体だ。あの男は、昔から女王を狙っていた筋金入りの変態でね。ペドロは、表ざたになってないが、沢山の部下に手を出している。ざっくり言えば、性欲の塊さ。
きっと、ウルドにいいように操られているんだろうね」
レアはまっ赤になった顔を両手で包んだ。ディックは、肩を震わせるほど笑いながら、懐から乾燥した木の棒を取り出した。
「スティート(燃やすと良い匂いのする木を乾燥させたもの)を吸っても良いかい」
「ああ、遠慮してください。子供もいるんですから」
黒羽の言葉に、ディックは肩をすくめた。
「これは失礼。ネメリアちゃんには、まだ早いかな。多少、害があるしね。
ああ、しかし悲しいかな。止められない。支部長の立場はそれなりに重いものでね。こんなものでも、頼りたくなるんだよ。あ!」
ディックの手からスティートを盗み取ったネメリアは、魔法で火を付けると思いっきり吸い込んだ。
「フゥ―。スティートがなんだ。これくらい吸えるよ」
美味しそうに吸うネメリアの手元に、突如風が走り、スティートが真っ二つに切り裂かれた。
「ネメリアちゃん。駄目じゃないですか。メ!」
言葉とは裏腹の迫力にネメリアは、スティートを投げ捨てると「ごめんなさい」と謝った。
「ハハハ、お母さんそっくりになってきたみたいだね」
「笑い事じゃないですよ。ディックさんは、そこらへんちゃんとしないから、奥さんに逃げられるんですよ」
ディックは途端にがっくりとした様子になる。
「けっこう、レアちゃんってさ、きついよね」
「ん? どこらへんがですか?」
小首を傾げるレアに、一同は笑いさざめいた。
「かなわないね。まあいいさ。皆さん、お疲れでしょう。寝床を用意させましたので、今日はぐっすりおやすみください」
タイミングを合わせたかのように扉が開き、先ほど黒羽達を案内した男が頭を下げた。
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