鳳凰の巣には雛が眠る〜かつて遊び人だった俺と慰み者だった君が恋人になるまで〜

タケミヤタツミ

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三章:この羽根は君を暖める為に(最終章)

38:小悪魔の素顔*

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「……鳳一郎も触って」

エアマットの上、再び向かい合わせ。
雛子の一番柔らかい部分に誘われて、つい泡だらけの指先が強張ってしまう。

金色の翳りの下、肉感的な白い太腿の谷間を通って花弁に掠める。
まだ濡れてはいないだろうから壊れ物ような手付き。
更に奥の蕾にも触れて、鳳一郎の心臓が跳ねた。
動揺を見透かして雛子がブラックコーヒーの目を細める。

ぬるぬる滑るのは淫らな気分を煽って堪らなくなるが、泡が内側に入ると痛むだろうから触れるのは飽くまでも外側だけ。
雛子の手に導かれて探り当てた、花弁の合わせ目の上で慎ましやかにしている珠。
直接では刺激が強すぎるので確かに潤滑剤たっぷりの今は丁度良いか。
無骨な指で優しく摘んで擦って愛でてやると、やがて女の身体が甘やかな悲鳴を小さく零して跳ね上がった。

火花を散らして達した雛子の表情。
上気した頬に緩んだ口元、無防備な艶に鳳一郎は目を奪われた。


ふわふわした金髪にあどけない顔立ちの雛子は天使を思わせる佇まいで、時々こうして小悪魔になることがある。

ただ、微笑んでいる気配はあれど何かおかしい。
こういう時、鳳一郎にとって雛子は傷を隠している子供のように見えてしまうのだ。
初めて関係を持った日もそうだった。

そうして、散りばめられた違和感は形を持つ。

「欲しい」
「駄目だ」

シャワーで泡を洗い流して火照った身体。
達した余韻と甘い香りに濡れて食べ頃でも、好きにして良いのはここまで。


まだ鎮まらないものの一度出しておいて良かった。
ラブホテルなんて理性を取っ払う場所だが、踏み止まらねばならない。
確かに雛子は同世代の少女の中でなら発育が良くても、巨漢の鳳一郎とは大人と子供の体格差になる。
受け入れられるかどうか五分五分。

受け身に慣れた大きくて頑丈な男ならまだしも、小さくて柔らかい女の身体は初めてなので負担の大きさを考えると鳳一郎は串刺しに出来なかった。
気分が盛り上がるまま遊び相手がつい無理をした結果、出血させてしまった経験もある。
肌を重ねることは合意の上でも何をしても良いとは言えず、どちらかが「NO」の意を唱えるなら駄目。

それに事後しっかり休める家なら兎も角として、休憩で取った部屋なのでこれから帰らねば。
優しくしたい、泣いてほしくない。

本来なら恋人同士だとしても必ずしも性行為をする必要なんて無いのだ。
確かにこれは互いの欲求ではあれど信用があってこそと。
こうして触れ合うだけでも満たされる筈が、まだ足りないものがあって溢れてきた。

それは肉体的な問題が大きくとも、もう一つ。


「好きにして良いって言ったし、俺を弄んで愉しむこと自体は別に構わねぇんだけどよ……雛子、お前が本当にしたいのってこういうことか?何か隠してるなら言ってみろよ」

何もかも受け止める心構えなら出来ている。
遊び相手と違って、楽しいことを分け合うだけでは恋人同士と呼べないのだ。

酸いも甘いも、苦味も痛みも全部分けてほしい。

鳳一郎の鋭い目は嘘や隠し事まで真っ直ぐ刺し貫く。
許さないのでなく、全てを受け入れる強さ。
雛子も分かっているからこそ、とうとう観念する。
一瞬唇を引き結んだ後で零れ落ちた本音は。


「私、ずっとここに居たかった……そうしたら初めて好きになった人もキスもセックスも全部、鳳一郎だったのに……何もあげられない」

雛子は泣く時も顔を歪めたりしない。
表情に少しだけ哀しみの色を差すだけで、夕立のようにただ涙を流す。
なんて綺麗な雫と哀しい愛の言葉か。
いっそ子供のように泣き喚いてくれても良いのに。

これは初恋でないと言う。
以前好きな男が居て、まだ忘れられないのはそんな気がしていた。
気が済んだら振られるのでは、と鳳一郎が危惧していたのはそういうこと。
何しろそんな扱われ方をした経験も一度や二度。

雛子の心はまだ遠い北国にある。
帰って来られなくて、その苦しさに泣いているのだ。


同時に、かつて男と夜遊びしていた鳳一郎は密かに省みる。
身体が大きいからといって一足早く大人になったつもりで、純潔なんてものは好奇心で捨ててしまった。
経験したところで何も失わない変わらないなんて思っていたが、本当ならもっと大事にするべきだったのだろう。
自分のことも、相手のことも。

それでも残っているものがあるとするなら。


「……初めてに拘る必要は無ぇと思うけどな。俺が初めて好きになった女は雛子だし、こういう事する女もお前だけだぞ。それじゃ駄目か?」

バイセクシャルだからといって、同性と異性は違うなんて都合の良い言葉。
分かっているから今までの相手にも申し訳なくなった。

まだ子供だった頃、少年のような雛子の性別を意識したことはあまり無かった。
鳳一郎が母親の腹に居た頃から傍に居て、もう会えないと思った時は喪失感でどんなに息が詰まったことか。
こういう仲になったのは、少女だと認識したからというには不十分。

多分、雛子が同性でも異性でも惹かれていたと思う。
それだけが鳳一郎の本音であり純真だった。


「鳳一郎……今日、何があったか聞いてくれる?」

ここまでは、まだ雛子の仮面を外しただけに過ぎず。
どうかその先にある傷を見せてほしい。
湯の溜まった広いバスタブに揃って身を沈めながら、鳳一郎はただ黙って聞いていた。
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