鳳凰の巣には雛が眠る〜かつて遊び人だった俺と慰み者だった君が恋人になるまで〜

タケミヤタツミ

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番外編

折れて、齧って、ビターなハニー

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夜の店ではポッキーが高価だという。
それも一人前千円なら良心的、怖い黒服が背後に居るボッタクリの店なんて上限は天井知らず。

曾祖母の代から水商売で成り上がった家に生まれた上、こっそり年齢を偽って夜の街で遊んでいた過去もあるのだ。
母から姉まで女性陣から怖い話を幾らでも聞ける立場の鳳一郎にとってその手の話題は食傷気味。
もはやポッキーを見ただけで苦笑してしまう。

そんなことは素知らぬ顔で、今年もその日は巡ってきた。



「鳳一郎のクラス、なんか昼休みの時に騒がしかったけどどうかした?」

時は十一月十一日。
そんな質問を雛子から投げられたのは、制服にカーディガンを一枚羽織るようになった秋のことだった。

どうせ同じ家に帰るので登下校が一緒でも、鳳一郎と雛子は校内で別行動が多い。
付き合いがあるだけに昼食もそれぞれの友人同士。
クラスも違えば、男女なので交友関係も異なるのは尚更の話である。
隣り合った教室でも壁の向こうは別世界のようなもの。

今は特別に五時間目の合同授業。
班を組んでレポートを書く為の資料選びということで、揃って図書室の一角に居た。
授業といえども生徒達は本を開いてお喋りしつつ緩い空気だが。
だからこそ、こうして鳳一郎と雛子も輪から外れて二人きりで内緒話している訳だ。


「あー……説明するのも何かややこしいし、大したことでもねェんだけどな……」

さて雛子の質問に対して、記憶を辿るまでもあらず鳳一郎の眉間に軽く皺。
別に不機嫌なんて言い表す程ではないのだが。

昼食時のこと、誰かがポッキーを持ち込んでゲームしようと持ち掛けてきたのだ。
それで和気藹々とした時間になるなら良いのだが、どこにでも羽目を外してしまう者も。
嫌がる女子に悪乗りしてしつこく迫っていた男子が居たもので、鳳一郎が盾になったというのが真相。

悪質なナンパ男を払ったのと同じ手口。
要するに、その男子の顎を掴んで鳳一郎がポッキーゲームに誘ってみたのである。

冗談半分だが「間違って人間に生まれてしまった巨人」と自認している鳳一郎のこと。
女子は勿論、男子でも怖がらせてしまうことを忘れていない。
ただ、お馬鹿で自由な学校となれば怖い物知らずも多いもので大笑いされてしまった。
角が立たない対処法としてそこを承知で道化になったとはいえ件の男子からは必要以上に気味悪がられ、鳳一郎も傷付かずとも流石に良い気はせず。


「でもまぁ、ポッキーゲームってキスしたくない同士でやるから盛り上がるモンじゃねぇ?」

今となっては溜息一つで終わり。
首を傾げつつ疑問を口にしてみたが、本当は鳳一郎も明確な返答が欲しかった訳でもない。
雛子が考える仕草を見せたのは一瞬だけ。

不意にこちらへ向き直って、首を引き寄せられた。
きっと図書室の誰にも見られなかったろう。
こんな掠める程度のキスなんて。



「そうだね……チョコ食べた後だから甘くはなるけど、鳳一郎とキスするのはいつも通りだし」
「……確かに、俺とポッキーゲームしても嫌がらないのはお前だけだわ」

ブラックコーヒーの双眸は相変わらず波紋すら立てず静かなまま。
どうにも負けた気がして、鳳一郎が動揺を呑んで強がり一つ吐くのが精一杯。

唇が離れた吐息に、蕩ける甘さに残る僅かな苦味。
苺にも似た雛子の舌先が唇を舐める。
ああ、またしてもこの小悪魔にしてやられてしまった。

「じゃ、もっと食べたいから帰りにロストルム行こっか。ポッキー飾ってあるパフェってお得な感じするね」

放課後デートの誘いは喜んで良いのか鳳一郎には複雑なところ。
要するに「続きは家までおあずけ」ということか。
情欲の行き場を持て余しながら、ただ黙って夕暮れを待つ。

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