黄仁の花灯り

鳥崎蒼生

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神様はいじわる?

第1章 6話

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「目が覚めたかい?桜綾オウリン。」
目を開けて声のした方に顔を向けると、やたらと美形の顔が至近距離にあった事に驚いて、一気に起き上がって体を後ろへ下げた。
事の成り行きが分からず、あたふたしていると、領主様は声を出して笑い始めた。
「な・・・何故ここに領主様が?」
勢いよく退いたせいで、変な姿勢のままだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
「私だけじゃない、夏月カゲツもいる。」
そういうと、影に隠れていた夏月さんが、顔を出し私に一礼する。
それにつられてこちらも一礼を返す。
それから辺りを見回して、布団をたぐり寄せた。ここは私の部屋ではない。お客様用に用意された部屋だ。
「桜綾の部屋にしては、女性らしいものがないね。」
(だから私の考えを読むのを止めて欲しい。)
領主様と夏月さんの他に部屋には、誰もいないらしい。しかし、外の様子までは分からない。
そっと姿勢を戻すと、領主様に小さな声で話しかけた。
「何が目的ですか?私を脅しても、何も出ません。それとも両親を脅すとか?それなら理解出来ます。」
「そんなに小さな声で話さなくても、近くには誰もいないよ。夏月が確認したからね。後、誰も脅す気はないし、その必要もない。」
そういってニコッと笑う。確かに・・・脅さなくても欲しければ、命令1つで命すら奪えるだろう。
(この男・・・・何考えてるんだ?何がしたい?)
「家族をどうやって遠ざけたんですか?」
「私は領主だよ。君と話がしたいから、ここには誰もいれるなと言っただけだ。勿論、親たちは体裁がどうのとか言っていたけど、逆らえるはずもない。」
(自分の地位をよく分かっていらっしゃる・・・)
「それより何故、体調が悪いと言わなかった?倒れるまで何をしていた?昨日は病弱には見えなかったが?」
「いえ、気づかなかったんです。体が怠いのも、いつもの事で・・・・しかもあの状況では私が口を開くわけにもいかず・・・」
本当に倒れるほど体調が悪いとは思わなかった。しかし、いつもとは違う状況下で、緊張したことも理由の一つではないかと・・・

「まぁいい。ここに来た目的を果たそう。私は脅しに来たわけでも、親戚の婚姻相手を探しに来たわけではない。桜綾の意志を確認しにきた。」
結婚相手を探しに来たというのが嘘なのはなんとなく分かっていたが、私の・・・意志とは?
「はっきり言おう。桜綾。ここを出て憂炎ユウエン達と朱有へ来る気はないか?」
????????は??
「桜綾の事情は知っている。君が両親から受けている仕打ちも・・・ね。」
「なんで・・・」
訳が全く分からない。何を言ってやがるのですか?このお方は・・・
「私は君が気に入っている。発明仲間としてね。だから、朱有に君の居場所を用意した。憂炎もこのことは承知している。後は君がどうしたいかだ。」
いやいやいや・・・突っ込みところが満載過ぎて、どこから突っ込めば良い!!
「昨日、私と会ったばかりですよね?」
「そうだ。」
「私の状況もなぜか調べたという事ですよね?」
「ああ。」
「しかも、そんな私を朱有へ誘っていると言うことですよね?しかも居場所を用意したと・・・」
「そう言っている。」
真顔で返事をする領主様に、私は頭を抱えた。
まず、私が気に入ったというが、会ったばかりの人間だ。こちらとて、いくら領主様だからといって、はい、そうですかと信じるわけにも行かない。親たちはそれぞれの思惑で喜ぶかもしれないが、私自身にはお金もない。この屋敷の周辺しか知らない私が、都ほど大きな街で暮らしていく自信もない。
そもそも、そんな不確定な状況で居場所を用意する事自体、逸脱している。
「昨日会ったばかりだが、憂炎(ユウエン)が興味を持つ人間は少ない。それだけでも信頼に足りる。しかも君は、この国に新しい物を作り出している。だからこそ、興味を持って調べさせてもらった。しかし、君の置かれている状況は、あまりにも過酷だ。君の両親には、君を見込んで貴族の教育を受けさせたいとでも言えば喜ぶだろう。だから、後は君がどうしたいかだけ、素直に教えて欲しい。」
私の心の中の質問に答えるように話すと、正面から真顔で私を見据える。

「同情ですか?」
「いや、同情で人助けをしていたら、領主など出来ない。」
私と似たように、虐げられている人間は多くいる。それを同情で助けていたら切りがない。そういうことだろ。
つまりは領主様が欲しいのは、私の知識・・・なのだろう。
正直、発明品は自分の仕事を効率よくするために作り出した、いや、前世の記憶を使ったに過ぎない。発明をしたいかと言われれば、怖い。ここにはない物を自分が作り出すことで、この国が変わってしまうかもしれない。それくらい前世の記憶は危険な物だ。発明は良いことに使われてしかるべきだが、それが意図しないところで、武器になってしまうことがあることを、私は知っている。
だが、この家を出たいという気持ちはある。元々、私はここから出られるくらいの力が付けば、逃げだそうと考えていたのだから。領主の提案はまたとない機会なのかもしれないとも思う。しかも師匠と一緒ならば・・・・。
しかし、本当のことを話すわけにも行かない。
矛盾した考えが言ったり来たりして、答えが出ない。
「はぁぁぁぁ。領主様、聞いても良いですか?」
大きいため息と共に、領主様に質問を投げかける。
「なんなりと。君が答えを出す助けになるのなら。」
私が考え込んでいる間、じっと黙っていた領主様を見て、興味本位ではないことは理解出来たが、まだ決心が付かない。
「もし本当にここを出て、発明をしたとして、私の望まない物をつくらせたりしませんか?」
「望まない物とは?」
「人を傷つけるような物です。これだけは正直に話します。私には、この国にない物を作り出せる知識があります。それは、道具や料理、病気にも役に立つ物もあります。きっとこの国はもっと良くなるでしょう。しかし、便利な物は1歩間違えれば、人を傷つける道具にもなる。だからこそ、どんな知識があっても、私が嫌だと言えば、作らなくても良いですか?」
「問題ない。」
あっさりと私の条件を通すが、表情からは本心か読み取ることは出来ない。
「もし、そういうことがあれば、もしくは私の秘密を許可なく誰かにもらした場合、私は発明を止めてこの国を出るか、命を絶ちます。それぐらい覚悟のいる選択です。それでもいいですか?」
「命を絶つことに賛成はしないが・・・許可なく話をしたりしない。約束しよう。」
「それを正式な文章として残して頂けますか?」
文章として残すということは、朱雀神との約束という事につながる。領主様には朱雀の加護があると同時に、その力や権力を使って無責任なことが出来ないよう、色々制約されている。だからこそこの国は安定しているのだ。
もし、領主の印が入っている契約書の内容を理由なく違えれば、朱雀神の怒りに触れることになる。
領主様が本気なのかを試した形にはなるが、今の私にはそうすることでしか、領主様を信頼できる人間なのか判断する基準がなかったのだ。
「それで君が安心できるなら。」
領主様はそれすらも、すんなりと了承した。そのことに少し驚きながらも、領主様がからかったり、遊び半分でこの話を持ってきたわけではないことは、はっきりした。それならば・・・・。
「もう一つだけ・・・・」
「まだあるのか?」
「これが最後です。何故私がそんな知識を持っているか、私から話すまで、探らないで欲しいのです。」

・・・・・・・
これには領主様も即答はしなかった。腕を組み、椅子の背もたれに寄りかかって、少しの間、考えているようだった。
私はその間、静かに答えを待つ。
「はぁぁぁ。良いだろう。本当はそれが知りたかったのだけどね。君が朱有に来る決心してくれるのなら、そうしよう。」
膝に手を移して前のめり気味で、その条件も飲んだ。
「それで、桜綾はどうしたい?」
後は私が返事をするだけで、この話は領主様が思っている通りに進んでいくだろう。
私が断るとは思っていない。
だがその通りだ。
人間扱いもされないこの家で、生きて行くことよりも、この知識をうまく利用して生きて行く方が、何倍も良い気がした。
しかも領主様はこちらの要求を全て飲むと言っている。
どちらにせよ、誰かに仕えるのなら、先がある方へ賭けてみたい。
ここで心を決めなくては、もう二度とこんな良い条件でここを出られる機会はないかもしれない。
「領主様・・・本当に、私をここから出してくださいますか?」
領主様をまっすぐ見据え返し、大真面目な顔で聞く。
「桜綾、辛かったね。よく頑張った。私は必ずここから君を出して朱有へ連れて行こう。約束だ。」
そう言って私の頭をそっと撫でた。撫でられるなんて久しぶりだ。そして人に頑張ったねと言われる事も。
何かが頬を流れる感覚にハッとする。
それから頬に触れると、涙が流れていることに気が付いた。
久しぶりに人の体温を感じたせいかもしれない。うれし涙だと思う。多分・・・
領主は私の涙が止まるまで、何も言わず、優しい顔でそっと私の頭をなで続けた。
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