悪役令嬢ですが、破滅するどころか逆に好感度爆上がりしてます。なぜ。

くろねこ

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第一話 婚約破棄と、聞き捨てならない言葉と、猫耳。

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「――エリザベート・フォン・ローゼンベルク。
王国の名において、君との婚約を破棄する!」

大広間に、やけに張りのある声が響いた。

高い天井。
豪華な装飾が施された大広間に、色とりどりのステンドグラスの光が差し込む。
その光は、王太子レオン・グレイシア殿下を、まるで舞台の主役のように照らしていた。

(……随分と気合が入ってるわね)

その視線は真っ直ぐで、冷たく、そしてどこか陶酔している。
自分が「正義の断罪者」だと、微塵も疑っていない目だ。

私はただ――静かに、その視線を受け止めた。

殿下の背後には、小動物のように震える令嬢がいる。
守られるべき“ヒロイン”の立ち位置。

「理由は……君がミア・フローラ嬢を執拗にいじめてきたからだ!」

ざわり、と空気が揺れた。

貴族生徒たちの視線が、一斉に私へ向けられる。
好奇、嫌悪、期待、そして――断罪を楽しむ色。

……ああ。

(この流れ、知ってる)

乙女ゲーム
『恋する聖女と七人の騎士』。

悪役令嬢断罪ルート。
物語序盤の、避けられないイベント。

(はい出た。テンプレ。お疲れ様です)

私は表情を崩さない。
ローゼンベルク侯爵家の令嬢として、人前で感情を晒すなど許されない。

けれど、内心は別だ。

(いや私、ミア助けてたけど???
階段で転びかけたら支えたし、
迷子になってたら案内したし、
忘れ物を取りに行った時だって、本当は――)

「殿下、その件ですが――」

反論しようとした、その瞬間。

「弁解は無意味だ!」

王太子は、私の言葉を力強く遮った。

「君は冷酷で、傲慢で、情の欠片もない!
そんな女が、聖女に相応しいミアを傷つけるなど許されない!」

……ほう。

(いやいやいや、
今のセリフ、そのまま自分に返ってきてますけど?
ブーメラン、綺麗に刺さってますけど気づいてます?)

周囲がざわめく中、
ヒロイン――ミア・フローラが、震える声で口を開いた。

「わ、私は……その……
エリザベート様が、怖くて……」

あ。

それは、少し分かる。

私、顔が強い。
目力も強い。
ついでに視力2.0。

(見てるだけで威圧感が出るの、完全に顔面の罪)

でも、いじめてはいない。
むしろ世話を焼いていた側だ。

(……あの子、校内で方向迷子率ほぼ100%だし)

だが、そんな事情が伝わるはずもなく。

王太子は満足そうに息を吸い、
大広間に響く声で宣言した。

「よって、君との婚約は破棄とする!!」

沈黙。

一瞬、世界の音が消えた。

私はゆっくりと一礼する。

「……承知しましたわ。殿下」

ざわめきが、さらに大きくなる。

私は微笑んだ。
完璧な社交用スマイル。
氷の仮面を貼りつけた、美しい微笑。

(やったああああ!!!自由!!!!!)

――そう思った、その瞬間。


ぼふっ。


……ん?

視界の端に、黒いものが見えた。
同時に、頭のあたりが妙にむずむずする。

嫌な予感しかしない。

周囲が、ぴたりと静まり返る。

誰かが息を呑み、
ミアが口を押さえ、
騎士たちの視線が一点に集中する。

「…………耳が……」

小さな呟きが、やけに大きく響いた。

私は、嫌な予感を確信に変えながら、
ゆっくりと鏡を見る。

そこには――

黒く、柔らかそうな猫耳を、
堂々と頭に生やした私が映っていた。

尻尾まで、ふわふわと揺れている。

私は、できる限り冷静な声で言った。

「……ちょっと待って」

( な ん で ?! )

王太子は完全に混乱していた。

「な、なにそれ!?
そ、そんな涙目になって……か、かわ……
いや違う!!違う!!」

(取り乱すな王太子。
こっちの方が情緒不安定なんですけど)

その時――
低く、落ち着いた声が大広間に響いた。

「――殿下」

振り向くと、
私の護衛騎士、アレクシス・ヴァルトが立っていた。

いつもと変わらぬ無表情。
けれど、その瞳には静かな怒りが宿っている。

「あなたは……本当に愚かだ」

短い一言。
だが、誰よりも重い。

そして彼は、私の耳に視線を落とし、
ほんのわずかに――微笑んだ。

「エリザベート様。
泣かないでください。
その姿……誰よりも美しい」

猫耳、ぴこっ。
尻尾、ぶわっ。

………………

(落ち着け私。
耳と尻尾!!今は空気を読んで!!!)

ぴこぴこ。ふりふり。
表情と行動が、完全に真逆。

(私の馬鹿。
めちゃくちゃ喜んでるじゃない)

こうして私は、婚約破棄と同時に――
“猫耳発動体質”という、とんでもなく厄介な問題を抱えることになった。

悪役令嬢ルート?
破滅シナリオ?

……知らない。

こんなルート。

もう全部、
最初から予定と違うのだから。


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