【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ

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第 13話 マリアージュ視点  悪意のない妹

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妹は、悪意を知らない

マリアージュは、鏡の前で首元の飾りを整えながら、満足そうに微笑んでいた。

今日は、王城関係者も顔を出す茶会。
第三王女の件で名前が出たのも、悪くない。

(お姉様の話題が、こんなところで役に立つなんて)

そう思いながらも、
罪悪感のようなものは、特に湧かなかった。

「……だって、事実ですもの」

誰に言うでもなく、小さく呟く。

姉――エレノアは、
昔から要領がよくなかった。

真面目すぎて、融通がきかない。
感情を表に出さないから、何を考えているのか分からない。

社交の場では、
話題を取られることも、場を盛り上げることもなかった。

その隣で、
自分は自然に笑い、話し、場に溶け込んできただけだ。

(向いている人と、向いていない人がいるだけ)

マリアージュは、そう信じていた。



姉の婚約者だった青年のことを思い出す。

彼は、優しかった。
そして、どこか寂しそうだった。

「君と話すと、楽しい」

そう言われたとき、
胸が高鳴った。

それは、恋だったのかもしれないし、
ただ、選ばれたという高揚だったのかもしれない。

「……だって、気持ちは止められないでしょう?」

誰も責めなかった。

両親も、
周囲も、
「仕方がない」と言った。

姉は、何も言わなかった。

それが、
マリアージュには
“納得した”ように見えた。

だから、罪悪感を抱く必要はないと思った。

(お姉様は、強い人だもの)



最近、王城で姉の名前が話題になることが増えた。

第三王女を落ち着かせた。
文字を教えた。
対応が見事だった。

そう聞かれれば、
マリアージュは笑顔で答える。

「姉は昔から、そういうことは得意でしたの。
ただ……少し不器用で」

その言葉に、
嘘はない。

――と、本人は思っている。

「社交には向いていなかったけれど、
静かな場のほうが合う人なんです」

それは、
姉を貶しているつもりはなかった。

むしろ、
“正しく説明している”感覚だった。

だからこそ、
その言葉が、
どれほど一方的かには気づかない。



(王城で家庭教師、ですって)

話を聞いたとき、
マリアージュは少し驚いた。

でも、すぐに納得した。

(うん、向いていると思うわ)

子ども相手。
静かな場所。
感情を抑えたやり取り。

姉には、確かに合っている。

そう思っただけだ。

――夫のことについても。

ディートリヒ伯爵が
姉を顧みていないと聞いても、
胸は痛まなかった。

(政略結婚なんて、そんなものよね)

自分だったら、
もっと上手にやったかもしれない。

そう考えることすら、
自然な思考だった。



マリアージュは、
今日も穏やかに笑う。

悪意はない。
計算もない。
嫉妬すら、ほとんどない。

ただ――
自分が中心である世界に、疑問を持たないだけだ。

姉が黙って身を引いた理由も、
声を上げなかった痛みも、
想像しようとしない。

それが、
どれほど残酷なことかを。

「……お姉様も、きっと幸せですよ」

そう言って微笑むその顔は、
本心だった。

だからこそ。

この妹は、
誰にも罰せられない。

そしてそのことが、
何よりも、
取り返しのつかない傷を残していた。
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