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第6.5話 番外編 ーー切り捨てられる前から
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エリシアが忙しくなったのは、追放される少し前からではない。
もっと、ずっと前からだ。
ヴァンローズ公爵家では、
「長女」という立場は、いつの間にか「都合のいい役割」と同義になっていた。
「エリシア、この帳簿を確認しておいて」
「エリシア、商会からの支払いが滞っているそうよ」
「あなたが一番、分かるでしょう?」
それは命令ではなかった。だが、断るという選択肢もなかった。母は社交に忙しく、父は数字を苦手としていた。
結果、家の内情を一番把握しているのは、
いつもエリシアだった。
感謝されることはない。
評価されることもない。
うまくいけば当然。失敗すれば、責められる。それが、この家での“役割”だった。王宮に通うようになってから、状況はさらに加速した。
「エリシア嬢、こちらの調整もお願いできますか?」
「急ぎで書類をまとめてほしいのですが」
「殿下がお困りでして……」
彼女は王太子妃候補だった。だが、実際に求められていたのは、立場ではない。やらなければ回らない仕事を、黙って引き受ける存在だった。正式な役職はない。責任だけが、積み上がっていく。
「あなたなら、うまくやれるでしょう?」
その言葉の裏にあるのが、責任の押し付けだと、彼女は分かっていた。それでも、エリシアは黙って処理した。
誰かが困るなら。
誰かが責められるなら。
それが自分一人で済むなら、それでいいと、思っていた。
学園でも、彼女の立場は歪められていた。
王宮の仕事に追われ、学園に通える日数は限られていた。休みなく動く彼女の姿は、いつしか好奇の目にさらされるようになる。
「またエリシアが先生に呼ばれているわ」
「どうせ雑用でしょう?」
「王太子の婚約者なのに、全然華やかじゃないのね」
それは羨望ではなかった。静かな嘲笑だった。
成績が良くても、礼儀が整っていても、それは「可愛げがない」と切り捨てられた。
「真面目すぎて、つまらない」
「融通が利かないのよね」
陰で囁かれる言葉を、エリシアは知っていた。だが、反論することはなかった。
反論しても、何も変わらないと、彼女は早くから理解していたからだ。
そうして、黙って働き続けた結果が――
あの断罪だった。
誰も庇わなかった。
誰も守らなかった。
便利だった存在は、不要になった瞬間、
切り捨てられる。それだけの話だった。
だからこそ、エリシアは去った。
追い出されたのではない。自分で、終わらせたのだ。
黙って使われる人生を、これ以上、続けないために。
――見切りをつけたのは、最初から、エリシア自身だった。
もっと、ずっと前からだ。
ヴァンローズ公爵家では、
「長女」という立場は、いつの間にか「都合のいい役割」と同義になっていた。
「エリシア、この帳簿を確認しておいて」
「エリシア、商会からの支払いが滞っているそうよ」
「あなたが一番、分かるでしょう?」
それは命令ではなかった。だが、断るという選択肢もなかった。母は社交に忙しく、父は数字を苦手としていた。
結果、家の内情を一番把握しているのは、
いつもエリシアだった。
感謝されることはない。
評価されることもない。
うまくいけば当然。失敗すれば、責められる。それが、この家での“役割”だった。王宮に通うようになってから、状況はさらに加速した。
「エリシア嬢、こちらの調整もお願いできますか?」
「急ぎで書類をまとめてほしいのですが」
「殿下がお困りでして……」
彼女は王太子妃候補だった。だが、実際に求められていたのは、立場ではない。やらなければ回らない仕事を、黙って引き受ける存在だった。正式な役職はない。責任だけが、積み上がっていく。
「あなたなら、うまくやれるでしょう?」
その言葉の裏にあるのが、責任の押し付けだと、彼女は分かっていた。それでも、エリシアは黙って処理した。
誰かが困るなら。
誰かが責められるなら。
それが自分一人で済むなら、それでいいと、思っていた。
学園でも、彼女の立場は歪められていた。
王宮の仕事に追われ、学園に通える日数は限られていた。休みなく動く彼女の姿は、いつしか好奇の目にさらされるようになる。
「またエリシアが先生に呼ばれているわ」
「どうせ雑用でしょう?」
「王太子の婚約者なのに、全然華やかじゃないのね」
それは羨望ではなかった。静かな嘲笑だった。
成績が良くても、礼儀が整っていても、それは「可愛げがない」と切り捨てられた。
「真面目すぎて、つまらない」
「融通が利かないのよね」
陰で囁かれる言葉を、エリシアは知っていた。だが、反論することはなかった。
反論しても、何も変わらないと、彼女は早くから理解していたからだ。
そうして、黙って働き続けた結果が――
あの断罪だった。
誰も庇わなかった。
誰も守らなかった。
便利だった存在は、不要になった瞬間、
切り捨てられる。それだけの話だった。
だからこそ、エリシアは去った。
追い出されたのではない。自分で、終わらせたのだ。
黙って使われる人生を、これ以上、続けないために。
――見切りをつけたのは、最初から、エリシア自身だった。
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