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第6話 仕えると決めた、その日から(ロザリー視点)
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あの日、お嬢様が追放されると聞いたとき、私は不思議なほど冷静だった。
怒りも、動揺も、なかったわけではない。
けれど、それ以上に、胸の奥で静かに形を成したものがあった。
――ああ、この家は、終わった。
そう思った瞬間、なぜか心が落ち着いたのを、今でも覚えている。
ヴァンローズ公爵家が、ではない。お嬢様を切り捨てると決めた瞬間に、すべてを失ったのだと、はっきり理解してしまっただけだった。
王宮での断罪の場に、私は立ち会えなかった。だが、戻ってきた使用人たちの表情を見ただけで、何が起きたのかは、十分すぎるほど察しがついた。
誰も、お嬢様を庇わなかったのだ。
その事実が、この家の選択のすべてを、雄弁に物語っていた。
それが、どれほど愚かな判断か。私は、誰よりもよく知っていた。
私は長年、お嬢様のそばにいた。
書類を整える姿も、夜遅くまで机に向かう背中も、「大丈夫よ」と笑いながら、無理を隠す癖も。
王宮の実務が、どれほど彼女一人に集中していたかを。
それを、
「婚約者だから当然」
「令嬢の務めだから」
そんな言葉で片づけてきた人たちは、あまりにも多かった。
お嬢様は、決して前に出なかった。評価を求めることも、功績を主張することもなかった。必要だからやる。滞ると困る人がいるから整える。
それだけだった。
だからこそ、誰も「失うまで」気づかなかったのだ。追放の準備が進む中、私は静かに、自分の荷をまとめた。
引き止める者はいなかった。
それが、この家の答えだった。
私は知っている。
お嬢様が、出ていく準備をずっと前からしていたことを。
散財する奥様。
商才のない旦那様。
帳簿の歪み。
表に出ない負債。
それらすべてを察し、問題が起きる前に調整し、さらに商会を立ち上げ、自分の蓄えを増やしていたことを。
お嬢様は、何も言わなかった。
誰にも助けを求めなかった。
ただ、いつも少しだけ、諦めたような目をしていた。その目を、私は何度も見てきた。
「ロザリー、あなたまで行く必要はないでしょう」
そう言った奥様の声は、どこか他人事のようだった。
「必要です」
私は、それだけ答えた。
仕えてきたのは、家ではない。地位でも、肩書でもない。
エリシア様という、一人の人間だ。
辺境へ向かう馬車の中、お嬢様は何も言わなかった。
泣きもしなかった。怒りも見せなかった。
ただ、窓の外を静かに見つめていた。
その横顔を見たとき、私は確信した。
この方は、ここで終わる人ではない。
失ったのは、地位でも、婚約でもない。
――縛り、だ。
王宮という檻。
評価されない善意。
報われない努力。
それらすべてを、お嬢様は手放しただけなのだ。
今、王宮は混乱していると聞く。公爵家も、社交界で立場を失いつつあるとも。
だが、それは当然の結果だ。
失ってから価値を数え始める者たちに、
未来はない。
私は、今もお嬢様のそばにいる。
必要とされ、信じられ、判断を委ねられる場所で。それだけで、十分だった。
仕えると決めたあの日から、私は一度も、その選択を後悔していない。
怒りも、動揺も、なかったわけではない。
けれど、それ以上に、胸の奥で静かに形を成したものがあった。
――ああ、この家は、終わった。
そう思った瞬間、なぜか心が落ち着いたのを、今でも覚えている。
ヴァンローズ公爵家が、ではない。お嬢様を切り捨てると決めた瞬間に、すべてを失ったのだと、はっきり理解してしまっただけだった。
王宮での断罪の場に、私は立ち会えなかった。だが、戻ってきた使用人たちの表情を見ただけで、何が起きたのかは、十分すぎるほど察しがついた。
誰も、お嬢様を庇わなかったのだ。
その事実が、この家の選択のすべてを、雄弁に物語っていた。
それが、どれほど愚かな判断か。私は、誰よりもよく知っていた。
私は長年、お嬢様のそばにいた。
書類を整える姿も、夜遅くまで机に向かう背中も、「大丈夫よ」と笑いながら、無理を隠す癖も。
王宮の実務が、どれほど彼女一人に集中していたかを。
それを、
「婚約者だから当然」
「令嬢の務めだから」
そんな言葉で片づけてきた人たちは、あまりにも多かった。
お嬢様は、決して前に出なかった。評価を求めることも、功績を主張することもなかった。必要だからやる。滞ると困る人がいるから整える。
それだけだった。
だからこそ、誰も「失うまで」気づかなかったのだ。追放の準備が進む中、私は静かに、自分の荷をまとめた。
引き止める者はいなかった。
それが、この家の答えだった。
私は知っている。
お嬢様が、出ていく準備をずっと前からしていたことを。
散財する奥様。
商才のない旦那様。
帳簿の歪み。
表に出ない負債。
それらすべてを察し、問題が起きる前に調整し、さらに商会を立ち上げ、自分の蓄えを増やしていたことを。
お嬢様は、何も言わなかった。
誰にも助けを求めなかった。
ただ、いつも少しだけ、諦めたような目をしていた。その目を、私は何度も見てきた。
「ロザリー、あなたまで行く必要はないでしょう」
そう言った奥様の声は、どこか他人事のようだった。
「必要です」
私は、それだけ答えた。
仕えてきたのは、家ではない。地位でも、肩書でもない。
エリシア様という、一人の人間だ。
辺境へ向かう馬車の中、お嬢様は何も言わなかった。
泣きもしなかった。怒りも見せなかった。
ただ、窓の外を静かに見つめていた。
その横顔を見たとき、私は確信した。
この方は、ここで終わる人ではない。
失ったのは、地位でも、婚約でもない。
――縛り、だ。
王宮という檻。
評価されない善意。
報われない努力。
それらすべてを、お嬢様は手放しただけなのだ。
今、王宮は混乱していると聞く。公爵家も、社交界で立場を失いつつあるとも。
だが、それは当然の結果だ。
失ってから価値を数え始める者たちに、
未来はない。
私は、今もお嬢様のそばにいる。
必要とされ、信じられ、判断を委ねられる場所で。それだけで、十分だった。
仕えると決めたあの日から、私は一度も、その選択を後悔していない。
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