白蛇の無能な祝巫女

紅林オト

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終章 白蛇の無能な祝巫女

終.白蛇の無能な祝巫女

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「しっかしすごい量だな、この野菜……」
「籠にいっぱい、食べきれる?」
「大丈夫よ。案外すぐになくなるから」
 そんな事を言い合いながら、百代はウズとカガチとともに草田瀬の村のあぜ道を歩いていく。それぞれの腕の中には、めいっぱい野菜の入った大きな籠を抱えていた。隼人の家の農作業の手伝いをしたお礼にともらったものだ。
 全てが終わった今、百代は草田瀬に戻ってきていた。
 シグレが消え、災厄が静まった後、やってきたアマツヒがその後の処理を引き継いでくれた。都は落雷や豪雨などの影響を受けていたが、ミズハが神堕ちとなったシグレを抑えていたことが功を奏し、被害は最小限に食い止められたらしい。今は復興の最中だが、建築や大工の神々が腕を振るっていると聞いたから、ひと月もしないうちに都は元通りになるだろう。
 またシグレを失った美輪家は、当然のごとく没落した。さらに櫻子と両親は、シグレと共謀して草田瀬を害した罪で牢の中にいるらしい。けれど彼らは未だ放心状態で、まともに話すこともできないようだ。
(もっとも、美輪家のことはどうでもいいけれどね。私はもうあの家とは関係ないもの)
 鳥居をくぐって境内に入ると、社殿の石段の上でうなだれている白い影が見えた。百代は自分の持つ野菜の籠をウズとカガチに預けると、石段にいる彼の隣に座る。
「随分お疲れね、ミズハ」
「もう人間と話すの無理……明日こそ社に引きこもる……」
 百代が声をかけると、ミズハはどんよりとした顔で弱音を吐いた。
 神堕ちになったシグレを倒したことで、ミズハの神としての知名度は飛躍的に上がった。社を訪れる人間たちも増えてきて、ミズハはここ最近、毎日その対応に追われている。
「愚痴を言いながらも、毎日ちゃんとやってるじゃない」
「……まあ、愛しい祝に愛されたいからね」
 ミズハは百代の体を引き寄せて、肩に頭を乗せてきた。甘えるようなその仕草は、なんだか可愛らしい。
 ミズハの祝の巫女となった百代だが、正直あまり実感がなかった。不老不死にはなっているのだろうが、今のところ体に大きな変化は見られない。強いていうなら、霊力が大きく上がった気がするのと、怪我が早く治るようになったことくらいだろうか。
 それから、回帰の異能についてもはっきりしていない。元々の予想通り消えたのか、別のものになったのか。一度死ぬようなことをしてみれば何かが分かるのかもしれないが、ミズハが動揺しそうなので、今のところは試してはいなかった。
 彼が悲しむのは見たくない。百代も、ミズハを愛しているのだから。
「ミズハは頼りになる神様ね」
「でしょう? ご褒美くれてもいいんだよ」
「なら……愛しているわよ、私の神様」
 頬に軽く口付けると、ミズハは真っ白な頬を赤く染めた。
 しかし直後に彼は意地悪な笑みを浮かべ、百代の頭の後ろに手を回す。
「するならこっちがいいな」
 頭を引き寄せられて、唇を奪われる。突然の積極的な口付けに、息をするのも忘れてしまった。唇が離れたあと、百代は大きく息をつく。
「もう、びっくりするじゃない」
「ふふ、ついほしくなっちゃって。愛してるよ、僕の祝」
 そうして二人、手を重ねて笑い合う。
(まあ、今は異能のことはいいわね)
 百代の異能が消えたのか、形を変えたのか。その問いの答えは、時がくれば分かるだろう。同じ祝の巫女である月夜に相談しにいくのも良いかもしれない。けれども今は、異能のことは忘れて、ミズハとの時間を味わいたかった。
「そういえば、言い忘れてた」
 百代が思考に浸っていると、ミズハが不意に声を上げた。
 彼は百代の手を握り、微笑む。
「おかえり、百代」
「……ただいま、ミズハ」
 そして再び、軽い口付けをした。
 百代はこの草田瀬で、ミズハと共に生きていく。
 ようやく手に入れた平穏の中、彼と永遠を歩んでいく。

(了)
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