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【 最終話: 彼女の正体 】

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 僕は真っ黒になった彼女を、一晩中抱きしめながら泣いた。

 もう、彼女は動かない……。

「一度も……、君を強く長く抱きしめてあげられなかった……。君は、僕の生きる希望だったのに……。これからどうやって生きていけばいいんだ……」

 彼女はもう、僕の言葉には反応しない。
 黒くなった彼女の頬に、初めて自分の頬を合わせた。
 彼女の頬は、少し温かかった……。

 僕は、あの頃、死にたかった……。
 でも、彼女と出会って、初めて『生きたい』と思った……。
 彼女と一緒に、『生きたい』と……。

 僕の流した涙と、彼女の流した涙が、一つになって彼女の頬から零れ落ちてゆく。

 ――やがて、外が明るくなり、カーテンの間から朝日が入ってきた。
 その光が彼女の黒くなった足元をやさしく照らしている。

 床に零れた僕らの涙が、少し悲しげに朝日に輝いていた……。



『ブロロロロ……』

 今、僕は車であの人のもとへと向かっている。
 荷台の木箱の中に彼女を乗せて。

 何も解決していない……。
 何も謎が解けていない……。

 彼女の正体が何で、彼女がどうして『冷凍少女』になったのかを……。

 僕は、何も分かっていない……。

 だから……。

 あの人の所。
 そう、『西園寺さん』の所へ。

 いや、『西園寺博士はかせ』。

 あの老人は、そう言っていた……。


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