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仕掛けられた罠
今日も私たちは連休が合ったのでドラガル様の屋敷に遊びに来ていた。昨日は仕事の関係で出発が遅くなったため到着してすぐ早めの夕食をとり自室に戻り湯あみ後部屋で寛いでいた。するとドアをノックする音が聞こえてきた。
「はい」
「ケイトです。少しよろしいでしょうか」
私がドアを開けるとケイトさんがバスケットを持って立っていた。
「どうしたんですか」
私が尋ねると
「また、ケーキを焼いてみたんですけど、食べていただけますでしょうか」
「えっ、本当ですか。すごく嬉しいです。今、本を読んでいたんですけど・・実を言うと夕食が速かったのでちょっとお腹が空いたなぁって思ていたんです。どうぞ」
部屋の中へとすすめると、ケイトさんは少し困ったように私に
「できれば坊ちゃまと一緒に食べていただけると嬉しいのですが・・」
「えっ」
私が驚いていると廊下の陰に人影が見えた。私はそういうことかと、ケイトさんに
「分かりました。じゃあ、そうします。気を遣っていただいてありがとうございます」
と笑顔で言った。すると
「今日は、フルーツジュースを一緒にいれています」
と小声で言ってバスケットを私に渡すと足早に去っていった。私は部屋に戻ると自分の荷物から父の貯蔵庫からいただいてきたお酒をバスケットに忍ばせベランダに出た。そうして続きになっているドラガル様の部屋の窓を叩いた。すると、
「エリーゼどうした」
と中からドラガル様が出てきた。
「ちょっと、ケイトさんに差し入れをいただいたので、一緒に食べようと思って持ってきました」とバスケットを見せながら言った。ドラガル様は私を中へと促してくれた。ドラガル様の部屋に入るのは初めてだった。部屋の中は、すっきりとしていて壁には一本の剣が飾ってあった。そうしてソファーのよこのテーブルには読みかけの本とワインが置いてあった。
「ドラガル様、本を読んでおられたんですか。あれ、お酒は飲まないって言ってませんでしたっけ」
「あぁ、人と一緒の時は飲まないのだが、一人の時はよく眠れるように時々飲んだりする。一人の時は周りに迷惑はかからないだろうと思って」
「今日は私がお酒を持ってきました。同じワインなんですけど・・父が隠し持っていたものなのでおいしいと思いますよ」
「大丈夫なのか持って来て」
「大丈夫です。一応同じものが何本かあるのを確認して持って来ているので」
私はそう言うグラスとケーキを準備した。もちろん、私はフルーツジュースをグラスに注いで
ドラガル様にはワインをすすめた。今度のケーキは、スポンジがふわふわしていてクリームを中に挟み込んだものだった。イチゴやチョコレートなど色々な種類があり私はパクパクと頬張っていた。ドラガル様は私が持ってきたワインがおいしいみたいで気付くとほとんど飲み切っていた。
「どうです。ドラガル様、ワインはおいしいですか」
私が尋ねると
「あぁ、おいしい。しかし、なんだか体が熱くなってきた」
そう言うと、着ているシャツの前を開けソファーにしな垂れかかりながらやや蒸気した顔で前髪をかき上げながら私の方を見た。見ているこちらが恥ずかしくなる色気だ。そうして見ている私に手招きをしてきた。私は呼ばれるままドラガル様の傍に行くと
「どうしたんですか。酔ったんですか」
と声を掛けた。すると・・
「そうだなぁ、エリーゼとずっと一緒に居たから酔ってしまった」
と微笑みながらそう言った。私は意味が分からず考えていると急にドラガル様が私の脇に手を入れると自身の上へ私を抱き上げ、抱き締めたのだ。私はあまりのことに声も出せずただただ固まるしかできなかった。そうして
「エリーゼは可愛いなぁ。体の抱き心地もいいしいい匂いがする」
そう言いながら私の首元に顔を埋めてきた。私はやばいと思い
「ドラガル様、やっぱり酔っているみたいです。ちょっと水を入れてくるので離してもらえないでしょうか」
と言ったが
「駄目だ。エリーゼは俺から離れてはいけない」
「ドラガル様、やっぱり酔ってますよ。ドラガル様酔ったらいつもこういうことを女性にするんですか」
と問い掛けた。すると今度は両手で私の顔を挟むと真剣な目で私を見つめながら
「そんなことはしない。俺がこんなことを言うのもするのもエリーゼだけだ」
私は心の中で「キャー」と叫んだ。そうしてドラガル様はまた私の顔から手を離すと今度は脇に手を置いた。私がまた慌てると
「エリーゼ、今日は容赦しない」
と意地悪気に微笑むと手を中央へと動かしてきた。私はこのままでは手が胸に触れてしまうと思い、急いでドラガル様に抱き付いた。すると手はまた背中に回ったが、首元にドラガル様が顔を埋める体勢になってしまった。するとドラガル様は首元に口づけをしだしたのだ。
「ドラガル様、くすぐったいです」
私がくすぐったさを訴えるがドラガル様は口づけを続けながら
「くすぐったいのか、気持ちいいの間違いではないのか」
と言ってきたのだ。私が驚いている間も口づけは続き・・ドラガル様に気持ちいいのではと問われたことを考えると急に恥ずかしくなり体が熱くなるように感じた。くすぐったさより自分の体の変化が気になりだした。もしかしてくすぐったいじゃなくて本当は気持ちいいって私は思っているのと・・しかし、どちらにしても今の状況がまずいと思いもう一度ドラガル様に声を掛けた。
「ドラガル様、今日は疲れましたしもう休みましょう。今日はお酒を飲んだのでよく眠れますよ」
と・・すると急にドラガル様は顔を上げると寝台の方に目を向けた。そうして起き上がると、私を抱え上げたのだ。私はまた焦り
「ドラガル様、どうしたんですか。ちょっと下ろしてください」
と言った。すると
「駄目だ。今日も一緒に寝る」
私はいつもの素面のドラガル様なら問題ないが今日の酔っているドラガル様は・・身の危険を感じた私は暴れだした。
「エリーゼ、危ないだろう。そんなに暴れては・・」
そう言うと私の体を自身の体で固定し動けないようにしながら運びだした。流石騎士である私は全く抵抗することができず寝台に下ろされた。私が固まっているとドラガル様はシャツを脱いで寝台に上がってきた。私は焦り
「ドラガル様、服を着てください」
と言った。しかし
「このままでいい」
そう言うとそのまま寝台に上がってくると私の前に座り
「エリーゼ、熱くないか」
と聞いてきたのだ。私は急いで否定した。
「熱くないです。全然熱くないです。大丈夫です」
「そんなことないだろう。こんなに顔を赤くしているのに・・」
と顔を傾けながらさらに私に問うてきた。
「これは熱いからではないです」
なおも私は否定し続けた。しかしドラガル様は急に私を押し倒すと部屋着を脱がしだしたのだ。私は必死に抵抗したが・・相手はやはり騎士である。力には勝てず気付いた時には下着姿にされてしまっていた。私は、恥ずかしさと急な展開に恐怖を感じ目から涙が溢れ出した。すると
「どうした。エリーゼ、寒いのか」
とドラガル様は私に顔を覗き込むと私を抱き締めてきた。私は今の気持ちを素直に言った。
「ドラガル様がいつもと違って・・怖いです」
すると
「そうだったのか。すまなかったエリーゼ。今日は抱くのを止める。本当はここで止めるのは相当辛い。何もせず朝まで眠るなんて拷問だが・・可愛いエリーゼを悲しませるわけにはいかない。今日はエリーゼを抱き締めながら眠ることにする。エリーゼ、ここに」
と言って自分の横を叩いて横になるよう促してきた。私は下着姿だったため部屋着を着ようとしたが、ドラガル様が
「服を着てしまうのか。それだと肌が触れ合えないからエリーゼの温もりが・・そのままおいで」と手を差し伸べながら言ってきたのだ。その姿が何とも言えず愛おしくなり、私は服を着るのを諦めドラガル様の腕の中へと飛び込んだ。するとドラガル様は嬉しそうに
「エリーゼは本当に気持ちがいい」
と言って抱き締めると、そのまま眠りについたようで規則的な寝息が聞こえてきた。私はドラガル様が眠ったのを確認すると抜け出そうとしたが・・やはり騎士である全く抜け出すことができなかった。私は仕方なくその体勢のまま眠りについた。ドラガル様が言っていた通りお互いの肌が触れ合っていると思った以上に安心感と幸福感があった。
次の日
「俺は何をしたんだ」
頭上からドラガル様の声がして私は目を覚ました。私と目が合ったドラガル様は顔を赤らめながら
「俺はやってしまったんだろうか」
と私に問うてきた。私は何を言っているのか分からず
「何をですか」
と問い返した。すると
「体と重ねたかってことだが・・」
「引っ付いて寝ましたけど・・それ以外は何もないですよ。でも恥ずかしくて・・もう服を着てもいいですか」
とドラガル様に尋ねた。するとドラガル様は驚いたように
「着ていいに決まっている。どうしてこんなことになっているのだ」
と言ったのだ。私はドラガル様は記憶がないことを知り
「ドラガル様が私の服を脱がせて、着ることも許してくれなかったんです」
と怒っていった。すると、ドラガル様は信じられないといった表情で黙り込んだ。
「もう、ドラガル様はお酒は禁止です。絶対に他の女性と飲んでは駄目ですよ。やっぱり同僚も駄目です」
私はもう一度、怒りながらそう言った。
「分かった、悪かった。禁酒する」
ドラガル様が悲しそうにそう言われたのを聞くと何だか可哀そうになり
「どうしても飲みたくなったら・・仕方がないので私が付き合いますが、それでも少ししか飲んでは駄目です」
と付け足した。ドラガル様の表情は少し穏やかになった。
今回は、連休ではなかったため次の日の夕方には帰ることになっていた。帰る前にテラスで休憩しようとドラガル様と向かうっていると、テラスの方から聞き覚えるある声が聞こえてきた。
「どうだ、うまくいっているか」
「なかなか時間を要したが、首尾は上々だ」
「いやぁ、ここまでもってくるまでにどれだけの時間を費やしたか。長かったなぁ」
「どうだ、お前はあの子に会ったのか」
「いや、まだ会っていない」
「もうそろそろ会ってもいいんじゃないか」
「まぁ会いに行かなくてももうすぐ会うことになるじゃろう」
「そうか、それは今日か」
その声が聞こえてくる方に二人で歩いていくとそこには懐かしい顔といつもの見慣れた顔があった。
「えっどうしておじいちゃんがここにいるの。えっ騎士様?」
二人は満面の笑みでこちらに目を向けた。
「そろそろわし達の出番じゃろ」
そう二人で目配せをしながら私たち二人を見ていた。
「ドラガル、一緒にいるご令嬢は誰だ、おじいちゃんに紹介してくれるか」
ドラガル様は困ったように
「今、世話になっている王宮侍女のエリーゼだ」
「そうか、世話とは」
なおも質問を続けてくる騎士様にドラガル様はたじたじになっていた。えっ今おじいちゃんって言った?
「えっ騎士様ってドラガル様のおじい様だったの」
私は驚き声を上げた。
「ドラガル、黙ってないで世話とは何なんだ」
騎士様はなおも続けた。ドラガル様は溜息をつくと
「それでどうしてお二人がここにいるのですか」
「それはじゃなぁ、わしらは悪友だからじゃ」
そう言うと二人して堪え切れないとばかりに噴出した。
「あははは・・・あははは・・」
ひとしきり笑い終えると祖父は真剣な表情になり
「わしは昔王宮で軍事指揮官として働いていたことは知っているだろう。その頃にこ奴は男爵家でありながら実力一つで騎士の最高峰の筆頭護衛騎士まで上り詰めていた。今とは違い当時は争いが絶えず騎士も実力が重視される時代だったからなぁ。本当に強かった。わしは公爵という家柄が後ろ盾にあっての地位だったがこ奴は違うからのう。まぁその頃から仲が良くよく一緒に飲みに行ったりしたものだった。それでこ奴が引退すると聞いたた時、お前の護衛を願いすることにしたんだ。そうしたらこ奴はお前に剣術や護衛術を叩き込む始末だ。わしの孫娘何だと思っているんだか」
祖父はそう言いながら私に笑顔を向けた。
「そうだったの。私全く気付かなかったわ」
「それはそうだろう。バレないように細心の注意を図っていたからな」
「えっどういうこと」
私が祖父と話している横で騎士様は
「それでドラガル世話とは、おじいちゃんにも分かるように説明してくれ」
としつこくドラガル様に質問を投げかけていた。それを呆れたように見ていた祖父が
「おいしつこいぞ。あまりしつこくすると孫に嫌われるぞ」
「そんなことないのう。お前はおじいちゃんのことが大好きでいつも一緒に剣の稽古をしてくれとせがんでいたしなぁ」
ドラガル様は困ったように沈黙を続けていた。すると祖父が
「言いにくいにきまっとる。公爵令嬢のエリーゼのことが好きでおおやけに付き合いたいが公爵家と男爵家では身分が違い過ぎるから言葉に出しても言えないってとこだろ」
「おぉ、そうじゃった。ドラガル悪かったのう。鈍くて、おじいちゃんが悪かったそんなことは言えんのう」
騎士様はウインクしながらドラガル様に笑いかけた。
「えぇ!」
「どうしてそれを知っているんだ」
「どうしてそれを知っているの」
私とドラガル様は一緒に驚きの声を出していた。
しばらくの沈黙ののち場所を移し、テーブルでお茶をしながらの会話になった。
「じいちゃんは、どうして俺たちの関係を知っているんだ」
「知ってるも何も・・なぁ。」
「はぁ、こっちは分からないんですけど」
私はイライラしながら祖父たちに話しかけた。
「そもそも二人の関係は誰にも言ってないし、ちゃんと周囲に気付かれないように気を遣っていたはずなのに」
「おぉ、あれで隠しているつもりだったのか。まぁ王宮内では見事に全く知りませんを貫き通していたが、厩舎ではのう」
「そうそう、あれだけ見つめあっていたら誰でも気付くじゃろ」
「えっ、どこから見ていたの」
「別に見ようと思って見たんじゃない。たまたま見えたんだ。なぁ」
「そうそう、仕事の関係で王宮に行って外を見たら仲良さそうに話しているお前たちの姿が・・見ようと思ったんじゃなくて見えたんじゃ」
二人は楽しそうにそう言った。私の祖父はいつも思っていたんだがなかなかの策士で、あの父親でさえ罠にはめられている姿をよく見ていた。もしかして・・私も罠にはまってしまった。私が考え込んでいるとドラガル様が
「何か二人で企んでいるのか。じいちゃんはいつも直接ではなく周囲から外堀を固め最後に獲物を仕留めるのが好きだったようなぁ。もしかして今回は俺たち二人が獲物なのか。俺たちを獲物にするには手がこんでいる気もするが・・考えすぎか・・」
ドラガル様は祖父たちの考えがわからず困り果てていた。
「おじちゃん、さっさと白状して」
「困ったなぁ、可愛い孫娘からのお願いとなると・・わしはもう駄目だ。すまん」
「おいおい、まだ達成できていないのに途中で諦めるのか、そんなことでは元軍事指揮官の名が泣くぞ」
「もう無理だ、孫に嫌われたくない」
「じゃぁ仕方ない。わしは面倒じゃからお前から話してやれよ」
祖父たちは残念そうに言葉を続けた。
「エリーゼお前が生まれて、田舎で自由に暮らさせる案が出た時わしが護衛が必要だろうと進言しこ奴を護衛騎士としてそなたの父上に推薦したことはさっき話したから知っていると思うが、話はさらに遡って、わしたちがお互い結婚して子どもができるとなった時、身分が違えどいつまでもお互い交流をはかていたかったが、この社会において身分の差は大きくいつまでも仲良くとはいかなった。そこでお互いの子ども同士を結婚させ親族になればいいと考えた。しかし、生まれた子どもの性格に問題があって・・わしの子どもは元来いじめっ子気質でこ奴の娘はおっとりでどうしても性格的に合わなかった。そこでわしたちは孫に希望を託すことにした」
「わしは無理じゃろうって止めたんだが」
騎士様は本当は乗り気ではなかった感を出していたが、真っ赤な嘘であることは話の内容から分かった。
「わしが子どもの時から関わることでわし好みのいい令嬢に育った。なぁドラガルいい令嬢じゃろう。こんな令嬢は他にはおらん。お前もわしらの期待通りに騎士になり、まぁわしには敵わなかったが護衛騎士まで上り詰めた。わしは鼻が高かったぞ、お前は自らの意思で鍛錬を続けそこまで成長した。あの皇太子をかばって傷を負わなければ夜勤護衛なんってことにはならなかったのに、悔しいのう」
「まぁ、夜勤に代わったことで二人が出会うことができたからよかったではないか。騎士の地位より良縁が一番だ」
二人は何に納得したのか何度も頷いていた。
「エリーゼお前が王宮に侍女として働くと聞いた時は、永年待った機会が到来したと喜んだものだ。しかし、同じ王宮で働くと言っても侍女と騎士は多く出会う機会も少ないとなったら、どうしたら二人を巡ら合わせることができるか、あの時は本当に策がなかなか浮かばなかった」
本当に困ったんだという顔で二人は頷きあっていた。本当に仲がいいみたいだ。
「そうじゃったのう。あんなに考えたのは隣の国をどうしたら攻め落とせるか考えた時以来だったかのう。本当に大変じゃった」
聞いていてもう呆れてくる。
「そこでいい案を思いついた。慣れない王宮での侍女仕事でかなりのストレスが溜まるはずだ何かで発散させる必要があるとお前の父親に進言した。お前の父親もお前のことをよく知っているからすぐにわしの意見に賛成した。わしの策にはまっているとも知らずに・・」
祖父は不敵な笑みを浮かべながらさらに言葉を続けた
「そこで馬の登場となる。お前は馬が好きでよく親に怒られながら世話をしていただろ。馬は騎士にとってなくてはならない存在だ。そこでドラガルが馬を預けている厩舎に掛け合い馬の世話をさせてもらう段取りとなった。そこからはわしらの思惑通り事が運んで・・」
「いつも見ていたの」
「そんなわけないだろう。いくらわしらでもとしわもいかない男女が逢引きしているのを盗み見る趣味はないぞ。なぁ」
「あぁ、もちろんだ。騎士の名に誓ってそのようなことは・・」
騎士様はそう言いながら視線を私から逸らせた。
「ちょっと言葉が途中で止まっているんですけど、騎士様!」
「まぁ、今は騎士じゃないからのう」
ふふっと祖父たちは笑っていた。私は顔を赤らめ二人を睨みつけた。
話を無言で聞いていたドラガル様は
「じゃぁ、最後まで責任を持って任務を終えていただけるのでしょうか」
と静かに祖父たちに問いかけた。
「無論だ」
「無論じゃ」
二人は真剣な表情で返答した。
「こ奴を誰と思っておる国一番の策士じゃぞ」
騎士様は私にウインクして見せた。
「しかし、時が満ちるまで策を明かすわけにはいかない。お前たちも心して付き合うように」
「そうじゃ、急いては事を仕損じると言うじゃろう。ドラガルよ、分かっておるな。令嬢は早急に事を進めてはいかんのじゃ。何にも順番が大切じゃ。一瞬の欲望に負けてよからぬことをするのは駄目じゃ。しかし、順番通りだったら何の問題もないぞ少しぐらい大胆になってもな」
騎士様は意味あり気な笑みをドラガル様に向けながらそう話された。それを聞いたドラガル様は急に顔を赤らめて横を向いていた。
四人で昔の話を楽しんだ後、私は祖父と一緒にドラガル様の屋敷を後にした。
帰りの馬車の中で
「エリーゼよ。そんなにドラガルの事を好いているのか」
「はい、私は今まで殿方にあんな感情を抱いたことはありません。どうしてでしょうドラガル様には凄く惹かれてしまうんです。まぁ容姿がいいってこともあるんでしょうけど・・」私は照れながらそう話した。
「わしがあ奴と会う時いつも引っ付き虫のようによく付いてきておったが、今日は久し振りに会ったが立派な青年になっていたなぁ。ドラガルは人の痛みがわかるいい青年じゃ。真面目なところも実にいい。あ奴はよくふざけて言わなくてもいいことまで言うことがあったが、ドラガルはそういったことがなく自身で判断していいと思うことを選べる奴だ。本当に性格があ奴に似んよかったわ。で、まぁわしとしてはお前たち二人が結婚してくれるに越したことはないんだが、こればっかりはお前たちの気持ちを一番に優先したいからのう」
そう言うと祖父は穏やかな笑みを私に向けてきた。私は祖父の気持ちが嬉しく気付くと祖父に抱き付いていた。
「おじいちゃん、ありがとう」
祖父は少し恥ずかしそうに私を撫でながら
「しかし、わしの可愛い孫娘にドラガルが触れていると思うと・・なんだか腹が立つのう。結婚するまでは、必ず清い関係でいるんだぞ」
祖父はそう続けた。
「当り前よ。おじいちゃん」
私は顔を赤らめながら視線を逸らし、そう返答した。
祖父は私の様子から何かを察したのか
「ドラガルめ、やっぱりあ奴の孫か。油断できんのう」
と呟いていた。
男爵の思い
俺は茫然となりながら祖父たちに話を聞いていた。俺の祖父はエリーゼの騎士様だったのか。そうして俺とエリーゼが出会ったのも必然の出来事で、恋に落ちることも想定内ってことか・・まんまとじいちゃんにしてやられたってとこか。いつも何も考えてなさそうで色々考えていたもんなぁ。それにしてもそんな前からこの計画を練っていたとはこの二人には本当に呆れてしまう。やっぱり若くして現場を退いたのがよくなかったのかなぁ。でもいつもなんやかんや言って王宮に出ていっていたけど、いつもこのことをしに行っていたのか。まだまだ謎は多くありそうだが・・しかし、今はそんなことはどうでもいい。もしかしたらエリーゼとおおやけに付き合うことが可能になる可能性が出てきたのだから、ここはこの祖父たちの罠にはまっておく方が無難な気がする。そう思い
「じゃぁ、最後まで責任を持って任務を終えていただけるのでしょうか」
と静かに祖父たちに問いかけた。
「無論だ」
「無論じゃ」
二人は真剣な表情で返答した。
「こ奴を誰と思っておる国一番の策士じゃぞ」
騎士様は私にウインクして見せた。
「しかし、時が満ちるまで策を明かすわけにはいかない。お前たちも心して付き合うように」
「そうじゃ、急いては事を仕損じると言うじゃろう。ドラガルよ、分かっておるな。令嬢は早急に事を進めてはいかんのじゃ。何にも順番が大切じゃ。一瞬の欲望に負けてよからぬことをするのは駄目じゃ。しかし、順番通りだったら何の問題もないぞ少しぐらい大胆になってもな」
なに~!おい、どこまで知っているんだ、じいちゃんは。直接ではないが明らかにあの事を言っているんだろう。あれは厩舎ではなく奥の庭での出来事だったが・・ドラガルはその時のことを思い出した。
あれは二人で剣の稽古を終え、芝に横になった時のことである。ついつい気持ちよさからうたた寝をしてしまい、しまったと思い目を覚ました時、横にはエリーゼが、なぜか俺の腰に手を乗せ、気持ちよさそうに眠っていたのだ。俺はエリーゼの寝顔を見て可愛いと思い急に口づけたくなりその衝動を抑えられず頬に口づけてしまったのだ。寝起きだったのも悪かった。しかし、無防備に眠っているエリーゼも悪いだろう。だが、口にはせず頬にした自分は流石騎士だと思ったほどだ。どちらにしても本人の了承なしに触れてしまったことには変わりないのだが・・顔を洗ったから多分顔の火照りも抑えられバレていないようだったが・・あれをじいちゃんは見ていたというのか。なんておそろしい。これからはもっと慎重にならないと・・しかし順番を間違わなければ問題ないとも大胆になっても大丈夫とも言っていたな。これからは慎重に場所とタイミングを図っていかなければと心の中でドラガルは考えていた。やはり騎士様の孫なのである。
「はい」
「ケイトです。少しよろしいでしょうか」
私がドアを開けるとケイトさんがバスケットを持って立っていた。
「どうしたんですか」
私が尋ねると
「また、ケーキを焼いてみたんですけど、食べていただけますでしょうか」
「えっ、本当ですか。すごく嬉しいです。今、本を読んでいたんですけど・・実を言うと夕食が速かったのでちょっとお腹が空いたなぁって思ていたんです。どうぞ」
部屋の中へとすすめると、ケイトさんは少し困ったように私に
「できれば坊ちゃまと一緒に食べていただけると嬉しいのですが・・」
「えっ」
私が驚いていると廊下の陰に人影が見えた。私はそういうことかと、ケイトさんに
「分かりました。じゃあ、そうします。気を遣っていただいてありがとうございます」
と笑顔で言った。すると
「今日は、フルーツジュースを一緒にいれています」
と小声で言ってバスケットを私に渡すと足早に去っていった。私は部屋に戻ると自分の荷物から父の貯蔵庫からいただいてきたお酒をバスケットに忍ばせベランダに出た。そうして続きになっているドラガル様の部屋の窓を叩いた。すると、
「エリーゼどうした」
と中からドラガル様が出てきた。
「ちょっと、ケイトさんに差し入れをいただいたので、一緒に食べようと思って持ってきました」とバスケットを見せながら言った。ドラガル様は私を中へと促してくれた。ドラガル様の部屋に入るのは初めてだった。部屋の中は、すっきりとしていて壁には一本の剣が飾ってあった。そうしてソファーのよこのテーブルには読みかけの本とワインが置いてあった。
「ドラガル様、本を読んでおられたんですか。あれ、お酒は飲まないって言ってませんでしたっけ」
「あぁ、人と一緒の時は飲まないのだが、一人の時はよく眠れるように時々飲んだりする。一人の時は周りに迷惑はかからないだろうと思って」
「今日は私がお酒を持ってきました。同じワインなんですけど・・父が隠し持っていたものなのでおいしいと思いますよ」
「大丈夫なのか持って来て」
「大丈夫です。一応同じものが何本かあるのを確認して持って来ているので」
私はそう言うグラスとケーキを準備した。もちろん、私はフルーツジュースをグラスに注いで
ドラガル様にはワインをすすめた。今度のケーキは、スポンジがふわふわしていてクリームを中に挟み込んだものだった。イチゴやチョコレートなど色々な種類があり私はパクパクと頬張っていた。ドラガル様は私が持ってきたワインがおいしいみたいで気付くとほとんど飲み切っていた。
「どうです。ドラガル様、ワインはおいしいですか」
私が尋ねると
「あぁ、おいしい。しかし、なんだか体が熱くなってきた」
そう言うと、着ているシャツの前を開けソファーにしな垂れかかりながらやや蒸気した顔で前髪をかき上げながら私の方を見た。見ているこちらが恥ずかしくなる色気だ。そうして見ている私に手招きをしてきた。私は呼ばれるままドラガル様の傍に行くと
「どうしたんですか。酔ったんですか」
と声を掛けた。すると・・
「そうだなぁ、エリーゼとずっと一緒に居たから酔ってしまった」
と微笑みながらそう言った。私は意味が分からず考えていると急にドラガル様が私の脇に手を入れると自身の上へ私を抱き上げ、抱き締めたのだ。私はあまりのことに声も出せずただただ固まるしかできなかった。そうして
「エリーゼは可愛いなぁ。体の抱き心地もいいしいい匂いがする」
そう言いながら私の首元に顔を埋めてきた。私はやばいと思い
「ドラガル様、やっぱり酔っているみたいです。ちょっと水を入れてくるので離してもらえないでしょうか」
と言ったが
「駄目だ。エリーゼは俺から離れてはいけない」
「ドラガル様、やっぱり酔ってますよ。ドラガル様酔ったらいつもこういうことを女性にするんですか」
と問い掛けた。すると今度は両手で私の顔を挟むと真剣な目で私を見つめながら
「そんなことはしない。俺がこんなことを言うのもするのもエリーゼだけだ」
私は心の中で「キャー」と叫んだ。そうしてドラガル様はまた私の顔から手を離すと今度は脇に手を置いた。私がまた慌てると
「エリーゼ、今日は容赦しない」
と意地悪気に微笑むと手を中央へと動かしてきた。私はこのままでは手が胸に触れてしまうと思い、急いでドラガル様に抱き付いた。すると手はまた背中に回ったが、首元にドラガル様が顔を埋める体勢になってしまった。するとドラガル様は首元に口づけをしだしたのだ。
「ドラガル様、くすぐったいです」
私がくすぐったさを訴えるがドラガル様は口づけを続けながら
「くすぐったいのか、気持ちいいの間違いではないのか」
と言ってきたのだ。私が驚いている間も口づけは続き・・ドラガル様に気持ちいいのではと問われたことを考えると急に恥ずかしくなり体が熱くなるように感じた。くすぐったさより自分の体の変化が気になりだした。もしかしてくすぐったいじゃなくて本当は気持ちいいって私は思っているのと・・しかし、どちらにしても今の状況がまずいと思いもう一度ドラガル様に声を掛けた。
「ドラガル様、今日は疲れましたしもう休みましょう。今日はお酒を飲んだのでよく眠れますよ」
と・・すると急にドラガル様は顔を上げると寝台の方に目を向けた。そうして起き上がると、私を抱え上げたのだ。私はまた焦り
「ドラガル様、どうしたんですか。ちょっと下ろしてください」
と言った。すると
「駄目だ。今日も一緒に寝る」
私はいつもの素面のドラガル様なら問題ないが今日の酔っているドラガル様は・・身の危険を感じた私は暴れだした。
「エリーゼ、危ないだろう。そんなに暴れては・・」
そう言うと私の体を自身の体で固定し動けないようにしながら運びだした。流石騎士である私は全く抵抗することができず寝台に下ろされた。私が固まっているとドラガル様はシャツを脱いで寝台に上がってきた。私は焦り
「ドラガル様、服を着てください」
と言った。しかし
「このままでいい」
そう言うとそのまま寝台に上がってくると私の前に座り
「エリーゼ、熱くないか」
と聞いてきたのだ。私は急いで否定した。
「熱くないです。全然熱くないです。大丈夫です」
「そんなことないだろう。こんなに顔を赤くしているのに・・」
と顔を傾けながらさらに私に問うてきた。
「これは熱いからではないです」
なおも私は否定し続けた。しかしドラガル様は急に私を押し倒すと部屋着を脱がしだしたのだ。私は必死に抵抗したが・・相手はやはり騎士である。力には勝てず気付いた時には下着姿にされてしまっていた。私は、恥ずかしさと急な展開に恐怖を感じ目から涙が溢れ出した。すると
「どうした。エリーゼ、寒いのか」
とドラガル様は私に顔を覗き込むと私を抱き締めてきた。私は今の気持ちを素直に言った。
「ドラガル様がいつもと違って・・怖いです」
すると
「そうだったのか。すまなかったエリーゼ。今日は抱くのを止める。本当はここで止めるのは相当辛い。何もせず朝まで眠るなんて拷問だが・・可愛いエリーゼを悲しませるわけにはいかない。今日はエリーゼを抱き締めながら眠ることにする。エリーゼ、ここに」
と言って自分の横を叩いて横になるよう促してきた。私は下着姿だったため部屋着を着ようとしたが、ドラガル様が
「服を着てしまうのか。それだと肌が触れ合えないからエリーゼの温もりが・・そのままおいで」と手を差し伸べながら言ってきたのだ。その姿が何とも言えず愛おしくなり、私は服を着るのを諦めドラガル様の腕の中へと飛び込んだ。するとドラガル様は嬉しそうに
「エリーゼは本当に気持ちがいい」
と言って抱き締めると、そのまま眠りについたようで規則的な寝息が聞こえてきた。私はドラガル様が眠ったのを確認すると抜け出そうとしたが・・やはり騎士である全く抜け出すことができなかった。私は仕方なくその体勢のまま眠りについた。ドラガル様が言っていた通りお互いの肌が触れ合っていると思った以上に安心感と幸福感があった。
次の日
「俺は何をしたんだ」
頭上からドラガル様の声がして私は目を覚ました。私と目が合ったドラガル様は顔を赤らめながら
「俺はやってしまったんだろうか」
と私に問うてきた。私は何を言っているのか分からず
「何をですか」
と問い返した。すると
「体と重ねたかってことだが・・」
「引っ付いて寝ましたけど・・それ以外は何もないですよ。でも恥ずかしくて・・もう服を着てもいいですか」
とドラガル様に尋ねた。するとドラガル様は驚いたように
「着ていいに決まっている。どうしてこんなことになっているのだ」
と言ったのだ。私はドラガル様は記憶がないことを知り
「ドラガル様が私の服を脱がせて、着ることも許してくれなかったんです」
と怒っていった。すると、ドラガル様は信じられないといった表情で黙り込んだ。
「もう、ドラガル様はお酒は禁止です。絶対に他の女性と飲んでは駄目ですよ。やっぱり同僚も駄目です」
私はもう一度、怒りながらそう言った。
「分かった、悪かった。禁酒する」
ドラガル様が悲しそうにそう言われたのを聞くと何だか可哀そうになり
「どうしても飲みたくなったら・・仕方がないので私が付き合いますが、それでも少ししか飲んでは駄目です」
と付け足した。ドラガル様の表情は少し穏やかになった。
今回は、連休ではなかったため次の日の夕方には帰ることになっていた。帰る前にテラスで休憩しようとドラガル様と向かうっていると、テラスの方から聞き覚えるある声が聞こえてきた。
「どうだ、うまくいっているか」
「なかなか時間を要したが、首尾は上々だ」
「いやぁ、ここまでもってくるまでにどれだけの時間を費やしたか。長かったなぁ」
「どうだ、お前はあの子に会ったのか」
「いや、まだ会っていない」
「もうそろそろ会ってもいいんじゃないか」
「まぁ会いに行かなくてももうすぐ会うことになるじゃろう」
「そうか、それは今日か」
その声が聞こえてくる方に二人で歩いていくとそこには懐かしい顔といつもの見慣れた顔があった。
「えっどうしておじいちゃんがここにいるの。えっ騎士様?」
二人は満面の笑みでこちらに目を向けた。
「そろそろわし達の出番じゃろ」
そう二人で目配せをしながら私たち二人を見ていた。
「ドラガル、一緒にいるご令嬢は誰だ、おじいちゃんに紹介してくれるか」
ドラガル様は困ったように
「今、世話になっている王宮侍女のエリーゼだ」
「そうか、世話とは」
なおも質問を続けてくる騎士様にドラガル様はたじたじになっていた。えっ今おじいちゃんって言った?
「えっ騎士様ってドラガル様のおじい様だったの」
私は驚き声を上げた。
「ドラガル、黙ってないで世話とは何なんだ」
騎士様はなおも続けた。ドラガル様は溜息をつくと
「それでどうしてお二人がここにいるのですか」
「それはじゃなぁ、わしらは悪友だからじゃ」
そう言うと二人して堪え切れないとばかりに噴出した。
「あははは・・・あははは・・」
ひとしきり笑い終えると祖父は真剣な表情になり
「わしは昔王宮で軍事指揮官として働いていたことは知っているだろう。その頃にこ奴は男爵家でありながら実力一つで騎士の最高峰の筆頭護衛騎士まで上り詰めていた。今とは違い当時は争いが絶えず騎士も実力が重視される時代だったからなぁ。本当に強かった。わしは公爵という家柄が後ろ盾にあっての地位だったがこ奴は違うからのう。まぁその頃から仲が良くよく一緒に飲みに行ったりしたものだった。それでこ奴が引退すると聞いたた時、お前の護衛を願いすることにしたんだ。そうしたらこ奴はお前に剣術や護衛術を叩き込む始末だ。わしの孫娘何だと思っているんだか」
祖父はそう言いながら私に笑顔を向けた。
「そうだったの。私全く気付かなかったわ」
「それはそうだろう。バレないように細心の注意を図っていたからな」
「えっどういうこと」
私が祖父と話している横で騎士様は
「それでドラガル世話とは、おじいちゃんにも分かるように説明してくれ」
としつこくドラガル様に質問を投げかけていた。それを呆れたように見ていた祖父が
「おいしつこいぞ。あまりしつこくすると孫に嫌われるぞ」
「そんなことないのう。お前はおじいちゃんのことが大好きでいつも一緒に剣の稽古をしてくれとせがんでいたしなぁ」
ドラガル様は困ったように沈黙を続けていた。すると祖父が
「言いにくいにきまっとる。公爵令嬢のエリーゼのことが好きでおおやけに付き合いたいが公爵家と男爵家では身分が違い過ぎるから言葉に出しても言えないってとこだろ」
「おぉ、そうじゃった。ドラガル悪かったのう。鈍くて、おじいちゃんが悪かったそんなことは言えんのう」
騎士様はウインクしながらドラガル様に笑いかけた。
「えぇ!」
「どうしてそれを知っているんだ」
「どうしてそれを知っているの」
私とドラガル様は一緒に驚きの声を出していた。
しばらくの沈黙ののち場所を移し、テーブルでお茶をしながらの会話になった。
「じいちゃんは、どうして俺たちの関係を知っているんだ」
「知ってるも何も・・なぁ。」
「はぁ、こっちは分からないんですけど」
私はイライラしながら祖父たちに話しかけた。
「そもそも二人の関係は誰にも言ってないし、ちゃんと周囲に気付かれないように気を遣っていたはずなのに」
「おぉ、あれで隠しているつもりだったのか。まぁ王宮内では見事に全く知りませんを貫き通していたが、厩舎ではのう」
「そうそう、あれだけ見つめあっていたら誰でも気付くじゃろ」
「えっ、どこから見ていたの」
「別に見ようと思って見たんじゃない。たまたま見えたんだ。なぁ」
「そうそう、仕事の関係で王宮に行って外を見たら仲良さそうに話しているお前たちの姿が・・見ようと思ったんじゃなくて見えたんじゃ」
二人は楽しそうにそう言った。私の祖父はいつも思っていたんだがなかなかの策士で、あの父親でさえ罠にはめられている姿をよく見ていた。もしかして・・私も罠にはまってしまった。私が考え込んでいるとドラガル様が
「何か二人で企んでいるのか。じいちゃんはいつも直接ではなく周囲から外堀を固め最後に獲物を仕留めるのが好きだったようなぁ。もしかして今回は俺たち二人が獲物なのか。俺たちを獲物にするには手がこんでいる気もするが・・考えすぎか・・」
ドラガル様は祖父たちの考えがわからず困り果てていた。
「おじちゃん、さっさと白状して」
「困ったなぁ、可愛い孫娘からのお願いとなると・・わしはもう駄目だ。すまん」
「おいおい、まだ達成できていないのに途中で諦めるのか、そんなことでは元軍事指揮官の名が泣くぞ」
「もう無理だ、孫に嫌われたくない」
「じゃぁ仕方ない。わしは面倒じゃからお前から話してやれよ」
祖父たちは残念そうに言葉を続けた。
「エリーゼお前が生まれて、田舎で自由に暮らさせる案が出た時わしが護衛が必要だろうと進言しこ奴を護衛騎士としてそなたの父上に推薦したことはさっき話したから知っていると思うが、話はさらに遡って、わしたちがお互い結婚して子どもができるとなった時、身分が違えどいつまでもお互い交流をはかていたかったが、この社会において身分の差は大きくいつまでも仲良くとはいかなった。そこでお互いの子ども同士を結婚させ親族になればいいと考えた。しかし、生まれた子どもの性格に問題があって・・わしの子どもは元来いじめっ子気質でこ奴の娘はおっとりでどうしても性格的に合わなかった。そこでわしたちは孫に希望を託すことにした」
「わしは無理じゃろうって止めたんだが」
騎士様は本当は乗り気ではなかった感を出していたが、真っ赤な嘘であることは話の内容から分かった。
「わしが子どもの時から関わることでわし好みのいい令嬢に育った。なぁドラガルいい令嬢じゃろう。こんな令嬢は他にはおらん。お前もわしらの期待通りに騎士になり、まぁわしには敵わなかったが護衛騎士まで上り詰めた。わしは鼻が高かったぞ、お前は自らの意思で鍛錬を続けそこまで成長した。あの皇太子をかばって傷を負わなければ夜勤護衛なんってことにはならなかったのに、悔しいのう」
「まぁ、夜勤に代わったことで二人が出会うことができたからよかったではないか。騎士の地位より良縁が一番だ」
二人は何に納得したのか何度も頷いていた。
「エリーゼお前が王宮に侍女として働くと聞いた時は、永年待った機会が到来したと喜んだものだ。しかし、同じ王宮で働くと言っても侍女と騎士は多く出会う機会も少ないとなったら、どうしたら二人を巡ら合わせることができるか、あの時は本当に策がなかなか浮かばなかった」
本当に困ったんだという顔で二人は頷きあっていた。本当に仲がいいみたいだ。
「そうじゃったのう。あんなに考えたのは隣の国をどうしたら攻め落とせるか考えた時以来だったかのう。本当に大変じゃった」
聞いていてもう呆れてくる。
「そこでいい案を思いついた。慣れない王宮での侍女仕事でかなりのストレスが溜まるはずだ何かで発散させる必要があるとお前の父親に進言した。お前の父親もお前のことをよく知っているからすぐにわしの意見に賛成した。わしの策にはまっているとも知らずに・・」
祖父は不敵な笑みを浮かべながらさらに言葉を続けた
「そこで馬の登場となる。お前は馬が好きでよく親に怒られながら世話をしていただろ。馬は騎士にとってなくてはならない存在だ。そこでドラガルが馬を預けている厩舎に掛け合い馬の世話をさせてもらう段取りとなった。そこからはわしらの思惑通り事が運んで・・」
「いつも見ていたの」
「そんなわけないだろう。いくらわしらでもとしわもいかない男女が逢引きしているのを盗み見る趣味はないぞ。なぁ」
「あぁ、もちろんだ。騎士の名に誓ってそのようなことは・・」
騎士様はそう言いながら視線を私から逸らせた。
「ちょっと言葉が途中で止まっているんですけど、騎士様!」
「まぁ、今は騎士じゃないからのう」
ふふっと祖父たちは笑っていた。私は顔を赤らめ二人を睨みつけた。
話を無言で聞いていたドラガル様は
「じゃぁ、最後まで責任を持って任務を終えていただけるのでしょうか」
と静かに祖父たちに問いかけた。
「無論だ」
「無論じゃ」
二人は真剣な表情で返答した。
「こ奴を誰と思っておる国一番の策士じゃぞ」
騎士様は私にウインクして見せた。
「しかし、時が満ちるまで策を明かすわけにはいかない。お前たちも心して付き合うように」
「そうじゃ、急いては事を仕損じると言うじゃろう。ドラガルよ、分かっておるな。令嬢は早急に事を進めてはいかんのじゃ。何にも順番が大切じゃ。一瞬の欲望に負けてよからぬことをするのは駄目じゃ。しかし、順番通りだったら何の問題もないぞ少しぐらい大胆になってもな」
騎士様は意味あり気な笑みをドラガル様に向けながらそう話された。それを聞いたドラガル様は急に顔を赤らめて横を向いていた。
四人で昔の話を楽しんだ後、私は祖父と一緒にドラガル様の屋敷を後にした。
帰りの馬車の中で
「エリーゼよ。そんなにドラガルの事を好いているのか」
「はい、私は今まで殿方にあんな感情を抱いたことはありません。どうしてでしょうドラガル様には凄く惹かれてしまうんです。まぁ容姿がいいってこともあるんでしょうけど・・」私は照れながらそう話した。
「わしがあ奴と会う時いつも引っ付き虫のようによく付いてきておったが、今日は久し振りに会ったが立派な青年になっていたなぁ。ドラガルは人の痛みがわかるいい青年じゃ。真面目なところも実にいい。あ奴はよくふざけて言わなくてもいいことまで言うことがあったが、ドラガルはそういったことがなく自身で判断していいと思うことを選べる奴だ。本当に性格があ奴に似んよかったわ。で、まぁわしとしてはお前たち二人が結婚してくれるに越したことはないんだが、こればっかりはお前たちの気持ちを一番に優先したいからのう」
そう言うと祖父は穏やかな笑みを私に向けてきた。私は祖父の気持ちが嬉しく気付くと祖父に抱き付いていた。
「おじいちゃん、ありがとう」
祖父は少し恥ずかしそうに私を撫でながら
「しかし、わしの可愛い孫娘にドラガルが触れていると思うと・・なんだか腹が立つのう。結婚するまでは、必ず清い関係でいるんだぞ」
祖父はそう続けた。
「当り前よ。おじいちゃん」
私は顔を赤らめながら視線を逸らし、そう返答した。
祖父は私の様子から何かを察したのか
「ドラガルめ、やっぱりあ奴の孫か。油断できんのう」
と呟いていた。
男爵の思い
俺は茫然となりながら祖父たちに話を聞いていた。俺の祖父はエリーゼの騎士様だったのか。そうして俺とエリーゼが出会ったのも必然の出来事で、恋に落ちることも想定内ってことか・・まんまとじいちゃんにしてやられたってとこか。いつも何も考えてなさそうで色々考えていたもんなぁ。それにしてもそんな前からこの計画を練っていたとはこの二人には本当に呆れてしまう。やっぱり若くして現場を退いたのがよくなかったのかなぁ。でもいつもなんやかんや言って王宮に出ていっていたけど、いつもこのことをしに行っていたのか。まだまだ謎は多くありそうだが・・しかし、今はそんなことはどうでもいい。もしかしたらエリーゼとおおやけに付き合うことが可能になる可能性が出てきたのだから、ここはこの祖父たちの罠にはまっておく方が無難な気がする。そう思い
「じゃぁ、最後まで責任を持って任務を終えていただけるのでしょうか」
と静かに祖父たちに問いかけた。
「無論だ」
「無論じゃ」
二人は真剣な表情で返答した。
「こ奴を誰と思っておる国一番の策士じゃぞ」
騎士様は私にウインクして見せた。
「しかし、時が満ちるまで策を明かすわけにはいかない。お前たちも心して付き合うように」
「そうじゃ、急いては事を仕損じると言うじゃろう。ドラガルよ、分かっておるな。令嬢は早急に事を進めてはいかんのじゃ。何にも順番が大切じゃ。一瞬の欲望に負けてよからぬことをするのは駄目じゃ。しかし、順番通りだったら何の問題もないぞ少しぐらい大胆になってもな」
なに~!おい、どこまで知っているんだ、じいちゃんは。直接ではないが明らかにあの事を言っているんだろう。あれは厩舎ではなく奥の庭での出来事だったが・・ドラガルはその時のことを思い出した。
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