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デート
今日はドラガル様と一緒に街に買い物に出掛けることになっている。今は王宮裏口の陰で町娘に見えるよう簡素なドレスに身を包みドラガル様を待っている。王宮正面になると多くの人の目があるので私の身分がばれてしまう危険があるので裏口を選んでいる。身分がばれてしまうとドラガル様に距離をとられてしまうのではと考えるとなぜだか胸が苦しいからだ。だから、私の身分がドラガル様にバレないように細心の注意を図っている。しかし、それにしてもドラガル様はそういった方面に全く興味がないらしい。本来ならこの間のパーティーで気付きそうなものだが・・まぁ気付かれない方が私も付き合いやすいのでこのままバレないように細心の注意を続けていくことにしている。しかし、いつもはズボンで会っていたが今日は簡素といえドレスになるのでやや恥ずかしい。ちょっと考えてみたのだが、傍から見ればこれはデートである。昨日の夜も今日の事を考えると緊張してあまり眠れなかった。
事の起こりは昨日、いつものようにドラガル様が厩舎に訪れ一緒に話をしていた中で、ブーツが古くなったので明日街に買いに行ってくると話されたのがきっかけだった。私は男性がどのように靴を選ぶのか興味が湧き、ちょうど私も次の日が休みだったので付いて行きたいとお願いしたのだ。ドラガル様は、はじめは休日に自分の買い物につき合わせるのは悪いと断っていたがあまりに私がしつこくお願いするので仕方なく承諾してくれた。実際、買い物に興味があったのは確かだが、本当はこの間のパーティーでの出来事が気になり、また違う環境で二人になれば何かわかることがあるのではないかと思ったのもあったからだ。パーティー後もいつもと変わらず厩舎でドラガル様と過ごしていたが時々無性にドラガル様に触れたくなる。自分でもどうしてかはわからないが・・ドラガル様はどう思っているのだろう。そんなことを考えていると、橋の向こう側から手を振る人に気付いた。それは簡素な白のシャツに黒のズボンとブーツを身につけ腰に剣をさしているドラガル様だった。私は手を小さく振り返しながらドラガル様に駆け寄った。ドラガル様は今日も前髪を下ろしていた。ドラガル様はいつ見てもどんな格好でもかっこよく見える。最近はさらに強くそう思うようになってきた。私は少し照れながら
「おはようございます。今日は一日よろしくお願いします」
と言った。
「あぁ、おはよう。楽しんでもらえるといいのだが、俺も女性との買い物はしたことがないので、満足してもらえるかどうか自信はないが・・とりあえず時間もあることだし、市場にでも行ってみるか」
「はい」
私は満面の笑みで返事をした。するとドラガル様は少し照れながら手を出してこられた。私がその手を見つめていると
「エリーゼは一緒に街を歩いていても急にどこかに行ってしまいそうで心配だ。手を握っておくとその心配はないだろう」
と言われた。
「そうですね。すぐに興味が沸くと駆けだしてしまいます」
私はそう言いながらドラガル様の手を握った。思ってた以上にドラガル様の手は冷たかった。
市場は活気に満ち溢れ、様々なものが売られていた。
「今の時期は異国の食べ物が多く入ってきている。どうだフルーツでも食べてみるか」
そう言うとドラガル様は、一軒の店の店主と話し橙色のフルーツを串にさして持ってきた。
「食べてみろ、おいしいぞ」
私は串のフルーツを受け取り一口食べた。そのフルーツは驚くほどただただ甘かった。しかし元々甘いお菓子が大好きな私にとってたまらない味だった。
「こんなに甘いフルーツは初めて、甘すぎてほっぺたがとろけてしまいそう」
私がそう言うと、
「これは俺の故郷で育てているフルーツだ。そんなに甘いか?」
と私に尋ねてきた。
「はい、今まで食べてきたフルーツの中で一番です」
そう言いながら私がパクパクと食べ、残り一口になった時
「残りをもらってもいいか、後で何個か買っておくから」
そう言うとドラガル様は串にささった私の食べかけのフルーツをペロッとを食べてしまった。私は茫然と串を見つめていた。するとドラガル様は茫然としている私に
「そんなにもっと食べたかったのか。大丈夫、買っておくって言っただろう」
と笑いながら言いながら私の頭を撫でた。私は頭を撫でられながら・・イヤイヤそうじゃない、そこは問題ではない、問題は私の食べかけを食べたことよって思った。えっいいの。これって・・そこまで考えて私は顔を赤らめていたが、ドラガル様はそんなことはつゆ知らずといった感じで私の手を引きながら市場の中を歩いていた。その後もいろいろな店で食べ物や品物を見て回った。そして、一軒のアクセサリー屋の店先で私が品物を見ていると
「何か欲しいものでもあるのか」
ドラガル様がそう言って横から覗き込んできた。私はその距離の近さに驚きながら手にしていたネックレスをドラガル様に見せた。
「これって凄く派手じゃないですか。こんな派手なものは見たことがないです」
私は装飾がジャラジャラとついたネックレスをまじまじと見ながらそう言った。
「エリーゼは、装飾がたくさん施されているものは嫌なのか」
「別に嫌ってわけではないんですけど・・首元が落ち着かないとは思いますねぇ。私は基本ネックレスを身につけて行く場所にあまり行かないので興味はないですけど・・こうして見ている分にはきれいなので楽しいですねぇ。世の中の女性はこういったものを身につけると嬉しいのもなのでしょう。私の同僚もいつも嬉しそうに私に見せてくるので・・私だったらネックレスよりも綺麗な装飾がされた剣とかがいいかなぁ・・ここだけの話ですよ。そんな話をしていたらおかしいように思われてしまいますから」
私が真剣な表情でそう言うと
「エリーゼは本当に普通の令嬢が興味を持つものには興味がないのだなぁ。まぁ、俺もこんな派手なネックレスと好んでつけている令嬢は遠慮したいがな。でもシンプルなのもだったら邪魔にならず女性らしさが出ていいとは思うかな」
とドラガル様は返答した。
「そういうものなんですか。ふーん。じゃあ、今度私に似合いそうなネックレスを選んでください。私普段使いのネックレスは持っていないので・・いやじゃなければですけど・・」
「あぁ、別にかまわないが、そうなると市場ではなく街中がいいが・・」
それを聞いた私が
「街中だと派手じゃなくなるんですか」
と尋ねると、ドラガル様は少し困ったという感じの表情で
「あぁ、そんな感じかな」
と、返答した。そうして市場を探索していると
「エリーゼ、もうそろそろ昼になるから何か食べに行こうか。何か食べたいものはあるか」
とドラガル様に尋ねられた。私は何も考えていなかったので
「うーん。特に希望はないけど、出来れば軽食がいいかなぁ」
と返答しドラガル様に委ねることにした。
「そうか、後でお腹が空かないか」
「どちらかというと、昼をしっかり食べるよりあとでデザートをゆっくり食べたいかなぁ」
「わかった。じゃぁ、パンでも買って食べながら散歩でもするか」
ドラガル様はそう言うと、私の手を引き一軒のパン屋に入っていった。そこはドラガル様の行きつけのようで店主は私を見ながら何やらドラガル様に話しかけていた。ドラガル様は照れたように話しながら、店主に何か頼みごとをして私の所に戻ってきた。
「ここはいつも野営に行く時に、俺好みのパンを作ってもらっているんだ。それがおいしいから今頼んで作ってもらっている。ちょっと時間がかかるからあそこに座って待っていよう」
そう言って店の隅に用意されているテーブルを指さされた。私は椅子に座るとパンが並ぶ棚を見ていた。どれもがおいしそうに見えて仕方がない。パンの香ばしい香りが店中に漂っているからだ。あまりにも真剣な表情で棚を見ている私がよほど面白かったのか。
「そんなに欲しいならいくつか買って帰ろうか」
とドラガル様が声を掛けてきた。
「いいえ、大丈夫です。これ以上買ったら本来の目的が変わってしまいます」
「そうか、俺は別にかまわないんだが・・じゃあ今度また厩舎にお土産で持って行こう」
「えっいいんですか」
つい反射的にそう答えてしまった。あぁ、またやってしまった。そう思いながらもやっぱりおいしそうなパンの誘惑には負けてしまい、その後も興味津々といた表情で棚を見ていた。そうして店の中を見ていると
「ドラガル様、注文のお品ができましたよ。二人分」
店主はそう言うと私に向かって満面の笑みを向けてきた。
「ありがとうございます。今から食べるのが凄く楽しみです」
私は笑顔でお礼を言った。
「うちのパンはおいしいですけど、食事は誰と食べるかでさらにおいしさが増しますからねぇ。多分今日は絶品ですよ」
店主は私にウインクしながらドラガル様を肘で小突いていた。
その後、店を後にすると近くの公園のベンチに座り昼食にした。ドラガル様が袋から出したのは、いつもの長いパンではなく、手の平大の丸いパンに野菜や卵・肉を挟んだものだった。肉の肉汁が食べると口に中に広がり卵の甘みが加わると味がまた変わりかなりおいしい食べ物だった。そして驚いたことに飲み物はさっき市場で食べたフルーツのジュースだったのだ。
「あーおいしいー。やっぱり、ほっぺたがとろけるー」
私がそう言いながら食べる姿をドラガル様は嬉しそうに眺めていた。
「喜んでもらえて良かった。また今度これも差し入れようか」
ドラガル様は笑いながらそう言った・
「いいえ、これはいいです。せっかくドラガル様が私のために注文してくれたので、できれば思い出の味にしたいので、今度また食べる機会があったとしたらまたドラガル様と一緒に食べたいです。その時の楽しみのためにとっておきます」
私が笑顔でそう返答するとドラガル様は照れくさそうに微笑まれた。
昼食を食べ終わると今日の目的であるブーツの購入となった。ドラガル様は、一軒の行きつけであろう靴屋に入っていった。
「毎度、ドラガル様。今日はどういったご用件でしょうか」
「今日は、このブーツがだいぶくたびれてきたので、思い切って新しいのを購入しようと思って」
ドラガル様がそう言うと店主は私に視線を移しながら
「だから彼女を連れての御来店なのですか」
とドラガル様に問われていた。ドラガル様はやや照れながら
「いや、彼女ではないが・・」
と返答されたが、店主は納得せずドラガル様の返答を無視して私に話し掛けてきた。
「またー。彼女さんはどんなのがドラガル様に似合うとお思いですか?」
私は急な振りにやや驚いたが・・
「そうねぇ。派手なのではなくシンプルな方がドラガル様には似合うように思います。例えば刺繍が施されているとか。あとは石が数個飾りで付いているとか・・でも実際に見てみないことには・・」
と普通に返答してしまった。
「そうですねぇ。こちらにありますので実際に見ていただきながら選びましょうか」
そう言われたので店主についてブーツが並ぶ棚へと移動した。流石、騎士の行きつけなだけあって選んでいるブーツの数が今まで見たことがないくらいの品数だった。
「えーこんなにあるんですかぁ」
私が呆気にとられながら棚に並ぶブーツを見ていると
「そうですよ、ここらへんでうちより多くのブーツを扱っているお店はないと自負しております。それで何色がいいですか」
と続けて私の好みを聞いてきた。
「そうねぇ、黒かな。黒と言ってもちょっと光沢がある感じがいいかしら」
私がそう言うと店主は二十足程私の前にブーツを並べた。私がどれがいいか考えていると・・
「先ほど刺繍や石と言われていましたが、これなんてどうでしょう。これはまだ有名ではない職人が作ったものになるんですけど、刺繍がうまいんですよ。それにちょっと若い職人なんでデザインもちょっと変わっているんですけど派手ではないので・・そうそう石はガーネットだったかなぁ」
そう言いながら一足のブーツを私に前に差し出してきた。そのブーツは私の希望通りのブーツだった。
「本当、これいいわねぇ。これは蔦をデザインしているのかしら、石は薔薇の花をイメージしているみたい。黒と言っても光沢があって・・でも派手でもないし・・」
と答えた時、そこで私はやっと気が付いた。そうだ今日は私の靴を選びに来たのではなかったと・・恐る恐る後ろを振り返ると椅子に座りながら飲み物を飲んでいるドラガル様が居て私と目が合うと嬉しそうに微笑まれた。しまった、またやってしまった。
「もういやだー。私ったら」
私はそう言いながら店主の肩を叩いた。
「えっ」
店主はどうしたのかと言いたげな表情で私の方を見ていた。
「どうだ、決まったのか」
ドラガル様が私たちに近づいてきた。そうして私の前に置かれている一足のブーツを手に取ると鏡の前で履き替え
「あぁ、いいんじゃないか」
と言い、こちらに視線を向けた。えっ決まってしまったの。どうしよう。私が一人で決めてしまったわ。これじゃあ、ドラガル様の買い物にならないのでは・・ドラガル様の意見は全く反映されていないわ。どうしよう。
「じゃあ、店主これで」
「えっ、待ってください。これはドラガル様の意見も聞かず私が一人で選んだものになるので・・もっと他の物を見て考えた方がいいと思います」
私は慌ててドラガル様に自分で選ぶようすすめた。すると、
「自分ではいつもどれがいいのかわからず、結局、店主のおすすめを履いていただけだから、今日はエリーゼに選んでもらったから早く決まったしこのブーツも気に入ったから、なぁ」
ドラガル様はそう言うと店主の方を見た。
「そうなんですよ、いつもどれがいいだろうと悩まれ、最終的に私が決めておりました」
店主はそう言うと私に視線を向けてきた。私はドラガル様の傍に行くと私が選んだブーツを履くドラガル様を鏡越しに見た。あぁ、やっぱりよく似合ってる。私の満足そうな顔を鏡越しに見ていたドラガル様は
「やっぱりこれをもらうよ。包んでくれ」
と店主に告げた。
「ありがとうございます。やっぱり彼女が一緒だと早く決まりますねぇ」
店主は、ニコニコしながらブーツを持って奥へと消えていった。私がやってしまった感をだして床に視線を落としていると
「今日はありがとう、いいのが選べてよかった。やっぱり一緒に来てもらってよかった。最初から自分では選べないからエリーゼに選んでもらおうと考えていたんだ。そう言いだす暇はなかったけど・・結果的に希望通り選んでもらえたからよかったよ」
と笑顔でお礼を言ってこられた。その後、店主から袋を受け取ると店を後にした。
「そろそろデザートでも食べに行こうか。同僚からおいしいケーキを焼く店を聞いてきたのだが、食べたくないか」
自分の失態に落ち込んでいる私を甘いもので釣るかのようにドラガル様が声を掛けてきた。
「えっ本当ですか」
私は思わず顔を上げてしまった。するとドラガル様はやっぱりなという顔をしながら私の手を取り歩き出した。しばらく歩くと
「ここらしいのだが・・」
私たちは一軒の古びた店の前に立っていた。私はその店を見て驚いた。ここはまずい。ここは私の行きつけではないか・・どうしよう。私が考えを巡らしていると中から一人の若い男が出てきて
「あっエリーゼじゃないか」
と私に声を掛けたのだ。この男は私の従兄でグレンだ。グレンも元は貴族だったが、貴族の身分を捨てお菓子の道へと身を投じ今はここでケーキ屋を営んでいるのだ。
「知り合いなのか」
ドラガル様が不審そうに私に尋ねてきた。
「知り合いってわけでは・・ちょっと待っていてくださるかしら」
私はそう言うと急いでグレンを連れ、店の中へと入っていった。中に入ると
「グレン。お願いがあるの。今日のことは誰にも言わないでほしいの。誰にもよ。彼にも私が公爵家の娘だって言わないでほしいの、お願いだから」
私が必死になって頼んでいると
「まぁ別にいいけど。いいのかそんな家を隠すようにして付き合ってて、早く本当のことを言った方がいいんじゃないか」
とグレンは少し困ったような表情で言ってきた。
「そうなんだけど、まだ今は嫌なの。もう少し今の関係のまま一緒に過ごしたいの」
私があまりにも真剣な表情でそう言うのでグレンは仕方なく私の嘘に付き合ってくれることになった。私は店から出ていくとドラガル様に
「ごめんなさい。お待たせして、グレンのお店は侍女仲間の間で有名でよく私が注文に訪れていたから知っているの。いつも言わなくてもいいことまで言うからちょっと口止めしてきたの」
と言うと
「そうなのか。じゃぁいつも食べているのなら違う店にしようか」
ドラガル様はそう言うと店に入るのを止め、私の手を強く引いて歩きだした。私は店の中にいるグレンに手を振ると足早に歩くドラガル様の後を付いて行った。しばらく沈黙が続き、別の店に到着した。ケーキを選んでいる時のドラガル様の雰囲気がいつもと違い、口数も少なく私はどうしてなのか疑問に思い、やや不安になった。ケーキを買うと、ドラガル様は私の手を引き今度は街にある図書館へと入っていった。そうして図書館の中を歩いていき図書館の一番奥に着くとそこには外が見える個室がいくつも準備されていた。個室に入ると窓の方を向いてテーブルとソファーがあった。ドラガル様は私にそのソファーに座るよう促すと一人で部屋の外へと出て行った。私が外の景色を眺めながらソファーに座って待っているとドラガル様はどこからか飲み物を持って戻って来た。そうして私の隣にさほど距離も取らずに座った。私は何を話したらいいか分からず外を見ているふりをしていた。すると急にドラガル様に手を握られた。今日はずっと手を繋いでいたのだが、必要がないと思われるところでふいに繋がれると緊張してしまう。私が体を硬直させたのが分かったのか
「急にすまない。さっき店に行ってからどうも気持ちが・・」
店ってどこの店?私がそんなことを考えていると
「俺はエリーゼにとってどんな存在なんだ」
「えっ」
私はいきなりの質問にかなり動揺し声を出すことができなかった。
「俺はあのパーティーの夜からエリーゼのことが気になって仕方がない。こうして二人になると無性に触れたくなる」
ドラガル様はそう言うと私の方を見て私の頬へと触れてきた。その瞬間こういうことに耐性がない私の顔は一気に沸騰し多分真っ赤になったのだろう。そうしてドラガル様は私の目を見つめながら真剣な表情で
「触れることを嫌がらないってことは・・いいように受け取ってもいいのだろうか」
と続けた。私はいつの間にか小さく頷いていた。それを確認するとドラガル様はあの夜みたいに私を今度は前から抱き締めた。私はドラガル様の胸の中でややパニックに陥っていたが、ドラガル様に抱き締められ凄く嬉しい自分がいることに気が付いた。私は今の気持ちが何なのかスっと理解できた。そうこれが恋するってことなのね。その気持ちに気付いた私はドラガル様に抱き付いた。そうして、しばらく抱き締めあった後、気まずそうにドラガル様が距離をとった。私は寂しい気持ち、まだ触れていたい気持ちを抑えドラガル様に微笑みかけた。
「急にこんなことをして悪かった」
そう言ったドラガル様の顔はもちろん耳まで赤くなっていた。多分私も同じだろうと心の中で思った。
「飲み物も買ってきたから、さっき買ったケーキを食べようか」
そう言うとドラガル様はテーブルにケーキと飲み物を準備した。ケーキを食べているとドラガル様が
「さっき、人気のケーキ屋に行ったときエリーゼが店の男と中へ入っていっただろう。あの時、無性に腹が立った。どうしてそんな気持ちになったのか考えているうちにエリーゼのことをいつの間にか友人ではなく一人の女性として意識している自分に気が付いたんだ。そうしたらどうしても自分が抑えれなくなった。今は、いきなり申し訳ないことをしたと思っている。しかし後悔はしていない」
とはっきりした口調で言った。私は
「正直驚きました。でも私もあのパーティーの後からドラガル様のことが気になって、ドラガル様に直接話を聞けばよかったんですけどその勇気がなくて・・今日の買い物だってブーツを選ぶのを見るといいながら心の中では二人で時間を過ごせば関係に変化が生じるのではと淡い期待をしていました。だから、こうなってちょっと焦ったけど本音は嬉しかったです」
私は笑顔をドラガル様に向けた。その瞬間、唇に柔らかな何かが触れるのを感じた。そしてかなりの至近距離にドラガル様の顔があることに気が付いた。
「えっ」
「あぁ、またやってしまった。今はエリーゼが悪いぞ。そんな顔で見られたら俺のなけなしの理性は吹き飛んでしまった」
と微笑まれた。私はあまりに突然の出来事だったため唖然となっていたが、ふと我に返りドラガル様に口づけされた事実を自覚した。
「ドラガル様!今のはいけませんよ。私にも色々と準備が必要なので・・」
私が照れながらそう返答するとドラガル様は私の顔を覗きながら真剣な表情で
「申し訳ない。エリーゼも同じ気持ちだと思ったら・・つい自分を抑えることができなかった」
と言った。私はただただ恥ずかしく・・
「私、初めてだったのに・・」
と呟いた。それを聞くとドラガル様は嬉しそうに
「本当か、それはよかった」
と言ってきたのだ。私が恥ずかしくて無言でドラガル様を叩いていると
「大丈夫だ。俺も初めてだから・・しかし男で経験がないのはちょっと威厳に関わるからここだけの秘密でお願いしたい」
と言ってきたのだ。私はさらに恥ずかしくなり
「そうゆう問題じゃないです。もう、責任取ってくださいよ」
と勢いに任せて言っていた。するとドラガル様は平然と
「あぁ、そのことも問題ない。俺は独身だから」
とまた笑顔で続けてきたのだ。私はドラガル様の返答を聞きながらうつむき、自分の唇を指でなぞった。やっぱり先程の感触とは明らかに違った。あれが口づけなんだわ・・私がドラガル様と・・私は再び顔が沸騰するのを感じた。その様子を横目で見ていたドラガル様は嬉しそうに横で笑っていたが
「そんな可愛い表情をしているとまたしたくなるのだが・・」
と照れながら私を見つめてきた。私はまた顔が沸騰するのを自覚し俯きながら。
「今日は、これぐらいでお願いします。これ以上は心臓がもたないので・・」
と返答した。
「すまなかった。急ぎすぎたなぁ。まだエリーゼに触れたい気持ちはあるが、また次の機会の楽しみに取っておくよ」
と私の顔を覗きながら笑顔でそう言った。ドラガル様はこんなに甘い方だったのかと私は思いながらただただ火照った顔を手で押さえ続けるしかできなかった。それから私がケーキを食べていると
「そっちのケーキの味はどうだ」
とドラガル様が味を尋ねてきた。
「おいしいですよ」
と私が返答すると
「少しもらってもいいだろうか」
とドラガル様は言うと口を開けてきたのだ。私はこの展開は私がドラガル様に食べさせるのだと思い、震える手でケーキを切り分けるとドラガル様の口へと入れた。ドラガル様はおいしそうに食べると
「あぁ、このケーキはこんな味なのか。エリーゼ、こっちのケーキの方が甘いぞ」
ドラガル様はそう言うとスプーンにケーキを乗せ私に口を開けるよう求めてきたのだ。私が恥ずかしくて口を開けれないでいると
「エリーゼ、味見しなくていいのか。もう全部俺が食べてしまうが」
と言ってきたのだ。私は急いで口を開けた。すると嬉しそうにドラガル様はケーキを口の中に入れてきた。はっきり言って味なんてほとんどしなかった。ケーキの甘さよりその場の雰囲気の方が甘かったからだ。でもこの雰囲気は嫌ではなくずっと味わっていたかった。
そのあと、二人で図書館にあった馬の図鑑や地方の名産についての本を寄り添いながら読み、ドラガル様の生家がある地方の話となった。ドラガル様の生家は王都から南の方向に位置し馬車で半日程度かかる場所だと。今は親族は誰も住んではいないが、管理している使用人が数名暮らしているということだった。ドラガル様はそこで働く人々が好きで暇があったらよく泊まりに行っていると、街からそう遠くはない距離ではあるが日帰りは難しい距離にあるため連休が取れる時ぐらいしか今は行けていないと少し寂しそうに話されていた。
「本当に景色も綺麗で、田舎だけあって空気も澄んだいい場所なんだ」
「へぇー。いいですねぇ。私が育ったところもそんな感じだったので行きたくなる気持ちがわかります」
「そうだ、今度一緒に行ってみないか」
「えっ、いいんですか。でも・・結婚前の娘が男性と一緒に出掛けるなんてまずくないですか」
「まぁ、それもそうだが・・まぁ、周りにばれなければ大丈夫だろう」
私はその言葉を聞いてドラガル様は王宮騎士をされていてかなり真面目だと思っていたがやっぱり次男で自由なところがあるのだなぁと思った。私は公爵令嬢として結婚前に男女が旅行に行くのはよくないと考えたが・・やっぱりドラガル様を思う気持ちには勝てず・・今後身分がばれてしまっては今のように会えなくなるかもという気持ちもあり
「私もドラガル様が生まれ育ったところが見てみたいです」
と返答してしまっていた。いけないと思う気持ちをもちつつ、今度もし連休が合えば、二人で生家まで出掛ける約束をした。もちろん周囲には内緒にしてだが。彼の屋敷にはいくつも部屋があるし使用人の方も何人かおられるみたいだから問題はないということにして・・時間はあっという間に過ぎもうける時間になっていた。離れがたい気持ちはあったが、今日はお互いの気持ちが分かったことで心の中はすっきりしていた。
「エリーゼ、そろそろ帰ろうか」
ドラガル様はそう言うと私の手を引き立ち上がった。それからも手を繋いで歩いた。王宮の裏口に着くと
「じゃあ、また厩舎に行くよ」
と言ってドラガル様は宿舎へと帰っていった。私はしばらくドラガル様の後姿を眺めていたが・・眺めていると寂しさが募ってくるので途中で見るのを止め自分の部屋へと帰った。
私がフルーツとケーキを持って部屋に戻ってくるとメアーが待っていましたとばかりに部屋に訪問してきた。
「エリーゼ、今日はどこに行っていたの。朝からずっといなかったじゃない。いつも暇そうにしているのに、今日はドレス着て出掛けたでしょう」
そう言いながら私に部屋にある紙袋とケーキの箱に視線を移した。あぁバレてしまったか。
「そうよ、今日は街に買い物に行っていたのよ」
「えっ誰とー」
「前に会ったことがあるでしょ。国王警護にあたっておられる方よ」
「あぁあの人、やっぱり恋人同士になったんだ」
そう言われ否定しようとしたが・・今日された口づけを思い出してしまい顔が赤くなってしまったため肯定するしかなくなった。
「やっぱりね。こうなるって私はわかっていたわよ。だからあの時、時間が必要って言ったでしょ。それでどうなのよ。今日は二人でデートだったの、どこ行ったの。やっぱり楽しかった、エリーゼはそういうことに疎いから・・」
「えぇ楽しかったわ。ブーツを選ぶのに付き合って後は昼ご飯を一緒にしたかしら・・そうそうお土産にケーキもらったんだけど食べる」
「いただきます。愛情のたっぷり詰まったケーキを」
メアリーはそう言うと紅茶を入れてケーキを食べ始めた。
「それで相手の方はなんっていうの」
「ドラガル様よ」
「あーあ。あの皇太子の狩りの時に怪我をされて夜勤勤務に変更になった。確か男爵家の次男じゃなかったかしら。ねぇ、大丈夫なの、申し訳ないけど相手は男爵家よ。あなたか公爵家だから家柄的に絶対無理なんじゃ」
メアリーは申し訳なさそうにそう答えた。私も身分については情報を入れないようにしていたが・・やっぱり公爵家ではなかったのね。それも男爵家なんて・・私はつらくなりそこから先は考えないようにして紅茶を飲んだ。
「なにかあったら相談に乗るからまた言ってね」
そう言うとメアリーは自分の部屋に戻っていった。メアリーは侍女になってから一番最初に友人になった。あんな容姿ではあるが、意思がしっかりしていていつも的確なアドバイスをくれる。秘密も絶対漏らすことはなくこの王宮のなかで唯一気が許せる同僚だった。
身分差の恋・・小説の題名にはいいかもしれないけど現実は・・ないわね。私は悲しくなり再び考えるのを止めた。
事の起こりは昨日、いつものようにドラガル様が厩舎に訪れ一緒に話をしていた中で、ブーツが古くなったので明日街に買いに行ってくると話されたのがきっかけだった。私は男性がどのように靴を選ぶのか興味が湧き、ちょうど私も次の日が休みだったので付いて行きたいとお願いしたのだ。ドラガル様は、はじめは休日に自分の買い物につき合わせるのは悪いと断っていたがあまりに私がしつこくお願いするので仕方なく承諾してくれた。実際、買い物に興味があったのは確かだが、本当はこの間のパーティーでの出来事が気になり、また違う環境で二人になれば何かわかることがあるのではないかと思ったのもあったからだ。パーティー後もいつもと変わらず厩舎でドラガル様と過ごしていたが時々無性にドラガル様に触れたくなる。自分でもどうしてかはわからないが・・ドラガル様はどう思っているのだろう。そんなことを考えていると、橋の向こう側から手を振る人に気付いた。それは簡素な白のシャツに黒のズボンとブーツを身につけ腰に剣をさしているドラガル様だった。私は手を小さく振り返しながらドラガル様に駆け寄った。ドラガル様は今日も前髪を下ろしていた。ドラガル様はいつ見てもどんな格好でもかっこよく見える。最近はさらに強くそう思うようになってきた。私は少し照れながら
「おはようございます。今日は一日よろしくお願いします」
と言った。
「あぁ、おはよう。楽しんでもらえるといいのだが、俺も女性との買い物はしたことがないので、満足してもらえるかどうか自信はないが・・とりあえず時間もあることだし、市場にでも行ってみるか」
「はい」
私は満面の笑みで返事をした。するとドラガル様は少し照れながら手を出してこられた。私がその手を見つめていると
「エリーゼは一緒に街を歩いていても急にどこかに行ってしまいそうで心配だ。手を握っておくとその心配はないだろう」
と言われた。
「そうですね。すぐに興味が沸くと駆けだしてしまいます」
私はそう言いながらドラガル様の手を握った。思ってた以上にドラガル様の手は冷たかった。
市場は活気に満ち溢れ、様々なものが売られていた。
「今の時期は異国の食べ物が多く入ってきている。どうだフルーツでも食べてみるか」
そう言うとドラガル様は、一軒の店の店主と話し橙色のフルーツを串にさして持ってきた。
「食べてみろ、おいしいぞ」
私は串のフルーツを受け取り一口食べた。そのフルーツは驚くほどただただ甘かった。しかし元々甘いお菓子が大好きな私にとってたまらない味だった。
「こんなに甘いフルーツは初めて、甘すぎてほっぺたがとろけてしまいそう」
私がそう言うと、
「これは俺の故郷で育てているフルーツだ。そんなに甘いか?」
と私に尋ねてきた。
「はい、今まで食べてきたフルーツの中で一番です」
そう言いながら私がパクパクと食べ、残り一口になった時
「残りをもらってもいいか、後で何個か買っておくから」
そう言うとドラガル様は串にささった私の食べかけのフルーツをペロッとを食べてしまった。私は茫然と串を見つめていた。するとドラガル様は茫然としている私に
「そんなにもっと食べたかったのか。大丈夫、買っておくって言っただろう」
と笑いながら言いながら私の頭を撫でた。私は頭を撫でられながら・・イヤイヤそうじゃない、そこは問題ではない、問題は私の食べかけを食べたことよって思った。えっいいの。これって・・そこまで考えて私は顔を赤らめていたが、ドラガル様はそんなことはつゆ知らずといった感じで私の手を引きながら市場の中を歩いていた。その後もいろいろな店で食べ物や品物を見て回った。そして、一軒のアクセサリー屋の店先で私が品物を見ていると
「何か欲しいものでもあるのか」
ドラガル様がそう言って横から覗き込んできた。私はその距離の近さに驚きながら手にしていたネックレスをドラガル様に見せた。
「これって凄く派手じゃないですか。こんな派手なものは見たことがないです」
私は装飾がジャラジャラとついたネックレスをまじまじと見ながらそう言った。
「エリーゼは、装飾がたくさん施されているものは嫌なのか」
「別に嫌ってわけではないんですけど・・首元が落ち着かないとは思いますねぇ。私は基本ネックレスを身につけて行く場所にあまり行かないので興味はないですけど・・こうして見ている分にはきれいなので楽しいですねぇ。世の中の女性はこういったものを身につけると嬉しいのもなのでしょう。私の同僚もいつも嬉しそうに私に見せてくるので・・私だったらネックレスよりも綺麗な装飾がされた剣とかがいいかなぁ・・ここだけの話ですよ。そんな話をしていたらおかしいように思われてしまいますから」
私が真剣な表情でそう言うと
「エリーゼは本当に普通の令嬢が興味を持つものには興味がないのだなぁ。まぁ、俺もこんな派手なネックレスと好んでつけている令嬢は遠慮したいがな。でもシンプルなのもだったら邪魔にならず女性らしさが出ていいとは思うかな」
とドラガル様は返答した。
「そういうものなんですか。ふーん。じゃあ、今度私に似合いそうなネックレスを選んでください。私普段使いのネックレスは持っていないので・・いやじゃなければですけど・・」
「あぁ、別にかまわないが、そうなると市場ではなく街中がいいが・・」
それを聞いた私が
「街中だと派手じゃなくなるんですか」
と尋ねると、ドラガル様は少し困ったという感じの表情で
「あぁ、そんな感じかな」
と、返答した。そうして市場を探索していると
「エリーゼ、もうそろそろ昼になるから何か食べに行こうか。何か食べたいものはあるか」
とドラガル様に尋ねられた。私は何も考えていなかったので
「うーん。特に希望はないけど、出来れば軽食がいいかなぁ」
と返答しドラガル様に委ねることにした。
「そうか、後でお腹が空かないか」
「どちらかというと、昼をしっかり食べるよりあとでデザートをゆっくり食べたいかなぁ」
「わかった。じゃぁ、パンでも買って食べながら散歩でもするか」
ドラガル様はそう言うと、私の手を引き一軒のパン屋に入っていった。そこはドラガル様の行きつけのようで店主は私を見ながら何やらドラガル様に話しかけていた。ドラガル様は照れたように話しながら、店主に何か頼みごとをして私の所に戻ってきた。
「ここはいつも野営に行く時に、俺好みのパンを作ってもらっているんだ。それがおいしいから今頼んで作ってもらっている。ちょっと時間がかかるからあそこに座って待っていよう」
そう言って店の隅に用意されているテーブルを指さされた。私は椅子に座るとパンが並ぶ棚を見ていた。どれもがおいしそうに見えて仕方がない。パンの香ばしい香りが店中に漂っているからだ。あまりにも真剣な表情で棚を見ている私がよほど面白かったのか。
「そんなに欲しいならいくつか買って帰ろうか」
とドラガル様が声を掛けてきた。
「いいえ、大丈夫です。これ以上買ったら本来の目的が変わってしまいます」
「そうか、俺は別にかまわないんだが・・じゃあ今度また厩舎にお土産で持って行こう」
「えっいいんですか」
つい反射的にそう答えてしまった。あぁ、またやってしまった。そう思いながらもやっぱりおいしそうなパンの誘惑には負けてしまい、その後も興味津々といた表情で棚を見ていた。そうして店の中を見ていると
「ドラガル様、注文のお品ができましたよ。二人分」
店主はそう言うと私に向かって満面の笑みを向けてきた。
「ありがとうございます。今から食べるのが凄く楽しみです」
私は笑顔でお礼を言った。
「うちのパンはおいしいですけど、食事は誰と食べるかでさらにおいしさが増しますからねぇ。多分今日は絶品ですよ」
店主は私にウインクしながらドラガル様を肘で小突いていた。
その後、店を後にすると近くの公園のベンチに座り昼食にした。ドラガル様が袋から出したのは、いつもの長いパンではなく、手の平大の丸いパンに野菜や卵・肉を挟んだものだった。肉の肉汁が食べると口に中に広がり卵の甘みが加わると味がまた変わりかなりおいしい食べ物だった。そして驚いたことに飲み物はさっき市場で食べたフルーツのジュースだったのだ。
「あーおいしいー。やっぱり、ほっぺたがとろけるー」
私がそう言いながら食べる姿をドラガル様は嬉しそうに眺めていた。
「喜んでもらえて良かった。また今度これも差し入れようか」
ドラガル様は笑いながらそう言った・
「いいえ、これはいいです。せっかくドラガル様が私のために注文してくれたので、できれば思い出の味にしたいので、今度また食べる機会があったとしたらまたドラガル様と一緒に食べたいです。その時の楽しみのためにとっておきます」
私が笑顔でそう返答するとドラガル様は照れくさそうに微笑まれた。
昼食を食べ終わると今日の目的であるブーツの購入となった。ドラガル様は、一軒の行きつけであろう靴屋に入っていった。
「毎度、ドラガル様。今日はどういったご用件でしょうか」
「今日は、このブーツがだいぶくたびれてきたので、思い切って新しいのを購入しようと思って」
ドラガル様がそう言うと店主は私に視線を移しながら
「だから彼女を連れての御来店なのですか」
とドラガル様に問われていた。ドラガル様はやや照れながら
「いや、彼女ではないが・・」
と返答されたが、店主は納得せずドラガル様の返答を無視して私に話し掛けてきた。
「またー。彼女さんはどんなのがドラガル様に似合うとお思いですか?」
私は急な振りにやや驚いたが・・
「そうねぇ。派手なのではなくシンプルな方がドラガル様には似合うように思います。例えば刺繍が施されているとか。あとは石が数個飾りで付いているとか・・でも実際に見てみないことには・・」
と普通に返答してしまった。
「そうですねぇ。こちらにありますので実際に見ていただきながら選びましょうか」
そう言われたので店主についてブーツが並ぶ棚へと移動した。流石、騎士の行きつけなだけあって選んでいるブーツの数が今まで見たことがないくらいの品数だった。
「えーこんなにあるんですかぁ」
私が呆気にとられながら棚に並ぶブーツを見ていると
「そうですよ、ここらへんでうちより多くのブーツを扱っているお店はないと自負しております。それで何色がいいですか」
と続けて私の好みを聞いてきた。
「そうねぇ、黒かな。黒と言ってもちょっと光沢がある感じがいいかしら」
私がそう言うと店主は二十足程私の前にブーツを並べた。私がどれがいいか考えていると・・
「先ほど刺繍や石と言われていましたが、これなんてどうでしょう。これはまだ有名ではない職人が作ったものになるんですけど、刺繍がうまいんですよ。それにちょっと若い職人なんでデザインもちょっと変わっているんですけど派手ではないので・・そうそう石はガーネットだったかなぁ」
そう言いながら一足のブーツを私に前に差し出してきた。そのブーツは私の希望通りのブーツだった。
「本当、これいいわねぇ。これは蔦をデザインしているのかしら、石は薔薇の花をイメージしているみたい。黒と言っても光沢があって・・でも派手でもないし・・」
と答えた時、そこで私はやっと気が付いた。そうだ今日は私の靴を選びに来たのではなかったと・・恐る恐る後ろを振り返ると椅子に座りながら飲み物を飲んでいるドラガル様が居て私と目が合うと嬉しそうに微笑まれた。しまった、またやってしまった。
「もういやだー。私ったら」
私はそう言いながら店主の肩を叩いた。
「えっ」
店主はどうしたのかと言いたげな表情で私の方を見ていた。
「どうだ、決まったのか」
ドラガル様が私たちに近づいてきた。そうして私の前に置かれている一足のブーツを手に取ると鏡の前で履き替え
「あぁ、いいんじゃないか」
と言い、こちらに視線を向けた。えっ決まってしまったの。どうしよう。私が一人で決めてしまったわ。これじゃあ、ドラガル様の買い物にならないのでは・・ドラガル様の意見は全く反映されていないわ。どうしよう。
「じゃあ、店主これで」
「えっ、待ってください。これはドラガル様の意見も聞かず私が一人で選んだものになるので・・もっと他の物を見て考えた方がいいと思います」
私は慌ててドラガル様に自分で選ぶようすすめた。すると、
「自分ではいつもどれがいいのかわからず、結局、店主のおすすめを履いていただけだから、今日はエリーゼに選んでもらったから早く決まったしこのブーツも気に入ったから、なぁ」
ドラガル様はそう言うと店主の方を見た。
「そうなんですよ、いつもどれがいいだろうと悩まれ、最終的に私が決めておりました」
店主はそう言うと私に視線を向けてきた。私はドラガル様の傍に行くと私が選んだブーツを履くドラガル様を鏡越しに見た。あぁ、やっぱりよく似合ってる。私の満足そうな顔を鏡越しに見ていたドラガル様は
「やっぱりこれをもらうよ。包んでくれ」
と店主に告げた。
「ありがとうございます。やっぱり彼女が一緒だと早く決まりますねぇ」
店主は、ニコニコしながらブーツを持って奥へと消えていった。私がやってしまった感をだして床に視線を落としていると
「今日はありがとう、いいのが選べてよかった。やっぱり一緒に来てもらってよかった。最初から自分では選べないからエリーゼに選んでもらおうと考えていたんだ。そう言いだす暇はなかったけど・・結果的に希望通り選んでもらえたからよかったよ」
と笑顔でお礼を言ってこられた。その後、店主から袋を受け取ると店を後にした。
「そろそろデザートでも食べに行こうか。同僚からおいしいケーキを焼く店を聞いてきたのだが、食べたくないか」
自分の失態に落ち込んでいる私を甘いもので釣るかのようにドラガル様が声を掛けてきた。
「えっ本当ですか」
私は思わず顔を上げてしまった。するとドラガル様はやっぱりなという顔をしながら私の手を取り歩き出した。しばらく歩くと
「ここらしいのだが・・」
私たちは一軒の古びた店の前に立っていた。私はその店を見て驚いた。ここはまずい。ここは私の行きつけではないか・・どうしよう。私が考えを巡らしていると中から一人の若い男が出てきて
「あっエリーゼじゃないか」
と私に声を掛けたのだ。この男は私の従兄でグレンだ。グレンも元は貴族だったが、貴族の身分を捨てお菓子の道へと身を投じ今はここでケーキ屋を営んでいるのだ。
「知り合いなのか」
ドラガル様が不審そうに私に尋ねてきた。
「知り合いってわけでは・・ちょっと待っていてくださるかしら」
私はそう言うと急いでグレンを連れ、店の中へと入っていった。中に入ると
「グレン。お願いがあるの。今日のことは誰にも言わないでほしいの。誰にもよ。彼にも私が公爵家の娘だって言わないでほしいの、お願いだから」
私が必死になって頼んでいると
「まぁ別にいいけど。いいのかそんな家を隠すようにして付き合ってて、早く本当のことを言った方がいいんじゃないか」
とグレンは少し困ったような表情で言ってきた。
「そうなんだけど、まだ今は嫌なの。もう少し今の関係のまま一緒に過ごしたいの」
私があまりにも真剣な表情でそう言うのでグレンは仕方なく私の嘘に付き合ってくれることになった。私は店から出ていくとドラガル様に
「ごめんなさい。お待たせして、グレンのお店は侍女仲間の間で有名でよく私が注文に訪れていたから知っているの。いつも言わなくてもいいことまで言うからちょっと口止めしてきたの」
と言うと
「そうなのか。じゃぁいつも食べているのなら違う店にしようか」
ドラガル様はそう言うと店に入るのを止め、私の手を強く引いて歩きだした。私は店の中にいるグレンに手を振ると足早に歩くドラガル様の後を付いて行った。しばらく沈黙が続き、別の店に到着した。ケーキを選んでいる時のドラガル様の雰囲気がいつもと違い、口数も少なく私はどうしてなのか疑問に思い、やや不安になった。ケーキを買うと、ドラガル様は私の手を引き今度は街にある図書館へと入っていった。そうして図書館の中を歩いていき図書館の一番奥に着くとそこには外が見える個室がいくつも準備されていた。個室に入ると窓の方を向いてテーブルとソファーがあった。ドラガル様は私にそのソファーに座るよう促すと一人で部屋の外へと出て行った。私が外の景色を眺めながらソファーに座って待っているとドラガル様はどこからか飲み物を持って戻って来た。そうして私の隣にさほど距離も取らずに座った。私は何を話したらいいか分からず外を見ているふりをしていた。すると急にドラガル様に手を握られた。今日はずっと手を繋いでいたのだが、必要がないと思われるところでふいに繋がれると緊張してしまう。私が体を硬直させたのが分かったのか
「急にすまない。さっき店に行ってからどうも気持ちが・・」
店ってどこの店?私がそんなことを考えていると
「俺はエリーゼにとってどんな存在なんだ」
「えっ」
私はいきなりの質問にかなり動揺し声を出すことができなかった。
「俺はあのパーティーの夜からエリーゼのことが気になって仕方がない。こうして二人になると無性に触れたくなる」
ドラガル様はそう言うと私の方を見て私の頬へと触れてきた。その瞬間こういうことに耐性がない私の顔は一気に沸騰し多分真っ赤になったのだろう。そうしてドラガル様は私の目を見つめながら真剣な表情で
「触れることを嫌がらないってことは・・いいように受け取ってもいいのだろうか」
と続けた。私はいつの間にか小さく頷いていた。それを確認するとドラガル様はあの夜みたいに私を今度は前から抱き締めた。私はドラガル様の胸の中でややパニックに陥っていたが、ドラガル様に抱き締められ凄く嬉しい自分がいることに気が付いた。私は今の気持ちが何なのかスっと理解できた。そうこれが恋するってことなのね。その気持ちに気付いた私はドラガル様に抱き付いた。そうして、しばらく抱き締めあった後、気まずそうにドラガル様が距離をとった。私は寂しい気持ち、まだ触れていたい気持ちを抑えドラガル様に微笑みかけた。
「急にこんなことをして悪かった」
そう言ったドラガル様の顔はもちろん耳まで赤くなっていた。多分私も同じだろうと心の中で思った。
「飲み物も買ってきたから、さっき買ったケーキを食べようか」
そう言うとドラガル様はテーブルにケーキと飲み物を準備した。ケーキを食べているとドラガル様が
「さっき、人気のケーキ屋に行ったときエリーゼが店の男と中へ入っていっただろう。あの時、無性に腹が立った。どうしてそんな気持ちになったのか考えているうちにエリーゼのことをいつの間にか友人ではなく一人の女性として意識している自分に気が付いたんだ。そうしたらどうしても自分が抑えれなくなった。今は、いきなり申し訳ないことをしたと思っている。しかし後悔はしていない」
とはっきりした口調で言った。私は
「正直驚きました。でも私もあのパーティーの後からドラガル様のことが気になって、ドラガル様に直接話を聞けばよかったんですけどその勇気がなくて・・今日の買い物だってブーツを選ぶのを見るといいながら心の中では二人で時間を過ごせば関係に変化が生じるのではと淡い期待をしていました。だから、こうなってちょっと焦ったけど本音は嬉しかったです」
私は笑顔をドラガル様に向けた。その瞬間、唇に柔らかな何かが触れるのを感じた。そしてかなりの至近距離にドラガル様の顔があることに気が付いた。
「えっ」
「あぁ、またやってしまった。今はエリーゼが悪いぞ。そんな顔で見られたら俺のなけなしの理性は吹き飛んでしまった」
と微笑まれた。私はあまりに突然の出来事だったため唖然となっていたが、ふと我に返りドラガル様に口づけされた事実を自覚した。
「ドラガル様!今のはいけませんよ。私にも色々と準備が必要なので・・」
私が照れながらそう返答するとドラガル様は私の顔を覗きながら真剣な表情で
「申し訳ない。エリーゼも同じ気持ちだと思ったら・・つい自分を抑えることができなかった」
と言った。私はただただ恥ずかしく・・
「私、初めてだったのに・・」
と呟いた。それを聞くとドラガル様は嬉しそうに
「本当か、それはよかった」
と言ってきたのだ。私が恥ずかしくて無言でドラガル様を叩いていると
「大丈夫だ。俺も初めてだから・・しかし男で経験がないのはちょっと威厳に関わるからここだけの秘密でお願いしたい」
と言ってきたのだ。私はさらに恥ずかしくなり
「そうゆう問題じゃないです。もう、責任取ってくださいよ」
と勢いに任せて言っていた。するとドラガル様は平然と
「あぁ、そのことも問題ない。俺は独身だから」
とまた笑顔で続けてきたのだ。私はドラガル様の返答を聞きながらうつむき、自分の唇を指でなぞった。やっぱり先程の感触とは明らかに違った。あれが口づけなんだわ・・私がドラガル様と・・私は再び顔が沸騰するのを感じた。その様子を横目で見ていたドラガル様は嬉しそうに横で笑っていたが
「そんな可愛い表情をしているとまたしたくなるのだが・・」
と照れながら私を見つめてきた。私はまた顔が沸騰するのを自覚し俯きながら。
「今日は、これぐらいでお願いします。これ以上は心臓がもたないので・・」
と返答した。
「すまなかった。急ぎすぎたなぁ。まだエリーゼに触れたい気持ちはあるが、また次の機会の楽しみに取っておくよ」
と私の顔を覗きながら笑顔でそう言った。ドラガル様はこんなに甘い方だったのかと私は思いながらただただ火照った顔を手で押さえ続けるしかできなかった。それから私がケーキを食べていると
「そっちのケーキの味はどうだ」
とドラガル様が味を尋ねてきた。
「おいしいですよ」
と私が返答すると
「少しもらってもいいだろうか」
とドラガル様は言うと口を開けてきたのだ。私はこの展開は私がドラガル様に食べさせるのだと思い、震える手でケーキを切り分けるとドラガル様の口へと入れた。ドラガル様はおいしそうに食べると
「あぁ、このケーキはこんな味なのか。エリーゼ、こっちのケーキの方が甘いぞ」
ドラガル様はそう言うとスプーンにケーキを乗せ私に口を開けるよう求めてきたのだ。私が恥ずかしくて口を開けれないでいると
「エリーゼ、味見しなくていいのか。もう全部俺が食べてしまうが」
と言ってきたのだ。私は急いで口を開けた。すると嬉しそうにドラガル様はケーキを口の中に入れてきた。はっきり言って味なんてほとんどしなかった。ケーキの甘さよりその場の雰囲気の方が甘かったからだ。でもこの雰囲気は嫌ではなくずっと味わっていたかった。
そのあと、二人で図書館にあった馬の図鑑や地方の名産についての本を寄り添いながら読み、ドラガル様の生家がある地方の話となった。ドラガル様の生家は王都から南の方向に位置し馬車で半日程度かかる場所だと。今は親族は誰も住んではいないが、管理している使用人が数名暮らしているということだった。ドラガル様はそこで働く人々が好きで暇があったらよく泊まりに行っていると、街からそう遠くはない距離ではあるが日帰りは難しい距離にあるため連休が取れる時ぐらいしか今は行けていないと少し寂しそうに話されていた。
「本当に景色も綺麗で、田舎だけあって空気も澄んだいい場所なんだ」
「へぇー。いいですねぇ。私が育ったところもそんな感じだったので行きたくなる気持ちがわかります」
「そうだ、今度一緒に行ってみないか」
「えっ、いいんですか。でも・・結婚前の娘が男性と一緒に出掛けるなんてまずくないですか」
「まぁ、それもそうだが・・まぁ、周りにばれなければ大丈夫だろう」
私はその言葉を聞いてドラガル様は王宮騎士をされていてかなり真面目だと思っていたがやっぱり次男で自由なところがあるのだなぁと思った。私は公爵令嬢として結婚前に男女が旅行に行くのはよくないと考えたが・・やっぱりドラガル様を思う気持ちには勝てず・・今後身分がばれてしまっては今のように会えなくなるかもという気持ちもあり
「私もドラガル様が生まれ育ったところが見てみたいです」
と返答してしまっていた。いけないと思う気持ちをもちつつ、今度もし連休が合えば、二人で生家まで出掛ける約束をした。もちろん周囲には内緒にしてだが。彼の屋敷にはいくつも部屋があるし使用人の方も何人かおられるみたいだから問題はないということにして・・時間はあっという間に過ぎもうける時間になっていた。離れがたい気持ちはあったが、今日はお互いの気持ちが分かったことで心の中はすっきりしていた。
「エリーゼ、そろそろ帰ろうか」
ドラガル様はそう言うと私の手を引き立ち上がった。それからも手を繋いで歩いた。王宮の裏口に着くと
「じゃあ、また厩舎に行くよ」
と言ってドラガル様は宿舎へと帰っていった。私はしばらくドラガル様の後姿を眺めていたが・・眺めていると寂しさが募ってくるので途中で見るのを止め自分の部屋へと帰った。
私がフルーツとケーキを持って部屋に戻ってくるとメアーが待っていましたとばかりに部屋に訪問してきた。
「エリーゼ、今日はどこに行っていたの。朝からずっといなかったじゃない。いつも暇そうにしているのに、今日はドレス着て出掛けたでしょう」
そう言いながら私に部屋にある紙袋とケーキの箱に視線を移した。あぁバレてしまったか。
「そうよ、今日は街に買い物に行っていたのよ」
「えっ誰とー」
「前に会ったことがあるでしょ。国王警護にあたっておられる方よ」
「あぁあの人、やっぱり恋人同士になったんだ」
そう言われ否定しようとしたが・・今日された口づけを思い出してしまい顔が赤くなってしまったため肯定するしかなくなった。
「やっぱりね。こうなるって私はわかっていたわよ。だからあの時、時間が必要って言ったでしょ。それでどうなのよ。今日は二人でデートだったの、どこ行ったの。やっぱり楽しかった、エリーゼはそういうことに疎いから・・」
「えぇ楽しかったわ。ブーツを選ぶのに付き合って後は昼ご飯を一緒にしたかしら・・そうそうお土産にケーキもらったんだけど食べる」
「いただきます。愛情のたっぷり詰まったケーキを」
メアリーはそう言うと紅茶を入れてケーキを食べ始めた。
「それで相手の方はなんっていうの」
「ドラガル様よ」
「あーあ。あの皇太子の狩りの時に怪我をされて夜勤勤務に変更になった。確か男爵家の次男じゃなかったかしら。ねぇ、大丈夫なの、申し訳ないけど相手は男爵家よ。あなたか公爵家だから家柄的に絶対無理なんじゃ」
メアリーは申し訳なさそうにそう答えた。私も身分については情報を入れないようにしていたが・・やっぱり公爵家ではなかったのね。それも男爵家なんて・・私はつらくなりそこから先は考えないようにして紅茶を飲んだ。
「なにかあったら相談に乗るからまた言ってね」
そう言うとメアリーは自分の部屋に戻っていった。メアリーは侍女になってから一番最初に友人になった。あんな容姿ではあるが、意思がしっかりしていていつも的確なアドバイスをくれる。秘密も絶対漏らすことはなくこの王宮のなかで唯一気が許せる同僚だった。
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