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3章:動く世界とやりたいことをする魔獣四王
48話.女王と魔王の密会 後編
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人間と魔族は長い歴史の中ずっと戦ってきた。
それは、パンドラが魔王の座に君臨してからも例外でない。
パンドラ自身は、平和主義者だ。
だが、部下も皆そうという訳ではない。
元々魔族は好戦的な種族であり、戦を望む者は多い。
だが直属の部下だけならあまり問題ではない。例え戦いが好きで戦争を望んでもパンドラがノーと言えば従ってくれるからだ。
問題は、パンドラの管轄から外れた貴族ら。権力を持つ強硬派達だ。
彼らは人間との戦こそ魔族の本懐と捉え、とにかく戦をしようとする。
その戦闘意欲は凄まじく、時に無断で人間界にちょっかいをかけ、人間がこちらに攻めてくるよう仕向けて来たことすらあった。
それがちょうど5年前の人魔戦争だ。
その時の被害はそこそこ大きいものとなり、その結果両軍勢共に暫くは戦を仕掛けないという、暗黙の冷戦状況に陥った。
この時は、穏健派のパンドラも流石にブチ切れて、戦争のきっかけを作った連中をすべて打首の刑に処した。
魔王軍最高幹部である三星将軍を率い、強硬派達の反抗を捻り潰す様は、いい見せしめになったようで、その件に関与しなかった強硬派達も今は大人しくしている。
だが、パンドラの密かな目標として、自分が魔王の間は戦争0の平和時代を築きあげることがあったのにその目標は容易く打ち砕かれてしまった。
それが今の現状である。
パンドラは、考えるルナ王女をじっと見つめる。
少し場が膠着し、ルナはゆっくりと口を開く。
「貴方のお考えは理解しました。ですが、決断の前にパンドラ様が人族との同盟を組む事を望む本当の理由をお聞かせ願いたいと思います」
「どういう意味じゃ?」
「私はこれでも王家に名を連ねる者。初対面ではありますが、当代魔王であるパンドラ様の事はよく知っているつもりです。貴方のこれまでの行動から推測して」
「もうよい」
パンドラは、ルナの言葉を遮った。
どうやら、こちらの目的は全て読まれているらしい。
どうやって?、という疑問はあるが、パンドラが穏健派であることは別に隠していない。
戦争を否定する演説をする事も多く、政策もその方針で動いている。そこから何かを読み取ったのだろう。
「恐ろしい女じゃの。主は。じゃが、だからこそ組む価値がありそうじゃ。確かに余には別の狙いがある。魔獣四王の対抗戦力を作るその先に」
「和睦、ですか?」
「そうじゃ。魔獣四王の集結。これにより、世界のパワーバランス一気に崩壊した。現状四王の気まぐれ次第でいつ世界が滅んでもおかしくはない。故に、対抗戦力が必要じゃ。人族と魔族が組む。これで、四王側にとっても迂闊な行動に出れんくらいの脅威にはなるじゃろう。ひとまずの魔獣四王対策はできる。じゃが、余はその先も見すえておる。もし仮に魔獣四王が動かなかった場合、人族と魔族との間に戦のない空白の時間が生まれる」
「その時間で人族と魔族に協力体制を築かせ、あわよくば和解まで持っていく、もしくは戦争が起こった場合でも、強固な協力体制ができるよう立ち回ると?上手くいくと思いますか?人族と魔族は既に限界まで憎しみ合っているというのに」
「難しいことは分かっておる。じゃが、今しか無いんじゃ。お互いのわだかまりを捨て、ともに協力し合うには、世界共通の敵が現れた今しかの。そうせねば、この先我らは永遠に争い、憎しみを募らせ続けてしまう。この機に完全な和解とまではいかずとも、何かきっかけだけでも作れれば、きっと希望になる。じゃから」
そこでパンドラは、懇願するため頭を下げようとした。
魔王が人間に頭を下げるなど、本来あってはならないことだとパンドラは理解している。
それでもそうすべきだと彼女は判断した。
だが、その前にルナが開いた手を前に突き出し、パンドラの行動を止めた。
「頭を下げる必要はありません。私も同じ気持ちです。人族と魔族、魔獣だって分かり合える。その理想を抱いてここまで来ました。実を言うと、あなたがここに来てくださることをずっと待っていたんですよ。13年前くらいからずっと」
「は?」
予想外の言葉に、パンドラは思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
余がここに来るのを待っていた!?
そんなことが予見できるのは、おかしいじゃろ。
本来なら、この場に余が来ることを予想できることの方がおかしいというのに。
ここに来たのだって、パンドラのある能力を使って侵入しただけだ。
困惑して目を点にしたようになっているパンドラに、まるで幼子が驚いている様を微笑ましく思う母親のように、ルナはクスクスと笑って言った。
「ただの願望ですよ。あなたが私と同じような考えを持っているということは知っていましたから。いつか、今日みたいに私に会いに来て欲しいと思っていたんです。私から会いにいく術はありませんでしたから」
「そうか。ならもっと早く来れば良かったかの。そうすれば」
5年前の戦を思い出す。
あの時、戦争を主だって先導していたのは、人間の貴族と魔族の強硬派だった。
あの時は王族に会いに出向けば、火に油を注ぐようなものだと思っていたが、もしこの叡智の姫に会いにいけば、何か戦争をもっと早く止める案を見つけられたかもしれない。
「無理でしょう。あの時私にできることは何もありませんでした」
パンドラの言いたいことを察したのか、悔やしさを滲ませた顔でルナは言う。
「ですが、今回は違う。頼もしい味方もたくさんいますから。同盟のお話、是非ともお受けさせていただきたいと思います。こちらこそ、協力お願いします。パンドラ様」
「そうか!こちらこそよろしく頼む」
パンドラは興奮を隠さず嬉しそうに言う。
そして、ルナとパンドラは互いに握手した。
その後、同盟の細かな取り決めを話し、パンドラは魔界へと帰った。
パンドラは闇の帰路の中でふと思い出す。
隠そうとはしていたが、途中から、姫の手が震えていたことに。
魔力はできるだけ表に出さないようにしていたのじゃが、何か感じ取ったのじゃろうか?
それとも、怖がっていたのか。
魔王と対面したのなら、それが普通の反応のはずだが。
気丈に振る舞っていただけか?
だとしたら、もう少し親密になって自分は無害だと思ってもらわねば。
人化の魔法を覚えて、今度遊びにいくか。
その時までに世界が平和だったのならの。
◇◇◇
※ルナ視点です。
パンドラが帰った後、ルナは彼女とのやり取りを忘れないよう振り返る。
帰る時、パンドラが手をかざすと、禍々しい闇のオーラのようなものが顕現した。
あまりに高密度な魔力に、流石のルナも内心では驚いたものだ。
さらにその闇の中から煌びやかに装飾された大きな箱のようなものが蓋を開け、パンドラを飲み込むように閉じた。
あれはおそらく転移魔法の一種だ。
人が使う五大属性魔法。
火、水(氷)、風、雷、土。
そして、魔獣が使う五大属性とは異なる魔法。
ユニーク魔法と呼ばれるものである。
これが、一般的に知られている魔法の全てだ。
転移魔法は、ユニーク魔法に当たる。
そして、魔族は五大属性魔法とユニーク魔法、どちらも使える素養を持っている。
そのため、パンドラが転移魔法を使えても何もおかしくはない。
だが、パンドラが使ったそれは単たるユニーク魔法ではない気がした。
世のことわりを超越した者のみに授けられる魔法があると聞いたことがある。
全ての魔法がこの世界から与えられたものだ仮定した時、その魔法は、使い手そのものが1つの独立した世界となった証だと伝承に記載されていた。
その意味はよく分からなかったが、それくらい理解のできない魔法だとルナは解釈していた。
世界魔法ワールドマジック。
パンドラが使ったのはその力の一旦なのではないかとルナは感じた。
あんな可愛らしい外見をしていても魔王というわけだ。
自分の手が震えていることを必死に隠そうと会話の途中から右手を左手で必死に押さえていた。
まだまだあの力を完璧に押さえ込めむことは難しいか。
昔と比べれば、大分ましになったものだが。
なにせ、魔族の王と数時間一緒に会話をしていたのだから。
それでも長時間となるときついかしら。
ルナは、枕元にあった剣を取ると、窓から飛び出した。
3階分下にある地面に着地すると、勢いよく砂埃が舞う。
そして、一回だけ上段から剣を振るう。
振り切らず、寸止めだ。
剣を止める衝撃で一瞬だけ凄まじい嵐のような暴風が巻き起こった。砂埃は全て吹き飛んでいく。
もし、これが日が出ている時間ならば、木々が凪いだ様子に、そして吹き飛ばされそうな強風に誰もが驚いたことだろう。
ふぅー、と息を深く吐き出す。
良かったと心の中でルナは呟く。
もし、あれ以上パンドラと共にいたら、殺してしまっていたかもしれないから。
ルナは剣を鞘にしまい、今度は歩きで城の玄関から寝室へと戻った。
その様子を見ていた男がいた。
彼は死の庭にある自室で、
"千里眼の水晶"と呼ばれる、魔道具を使い、
自室から王女と魔王の密談を眺めていた。
「やはりこうなったか。娘達め。やってくれる」
様子を見ていた男、ネメシス・クラウンにとって、人間と魔族の同盟は非常に都合が悪いことだった。
「それにしても、ここまであの力を御せるようになったとはな」
「くっく。素晴らしい成長だ。益々この先が楽しみだよ。なぁ、勇者ルナ」
不在とされた席。
当代の勇者。
そしてその勇者の中でもさらに異質の称号、蛮勇を引き継いだ王女はその力を呪いながら、ゆっくりと眠りについた。
◇◇
翌朝。
古城に帰った魔獣四王たちは、古城の側にある更地に集合した。
「じゃあ、やりましょうか」
怪鳥王フェルミナは丁寧手のひらと拳を合わせて礼をする。一種の武術の作法だ。
「ああ、望むところだぞ」
それに対して龍王オルゴラズベリーは、勢いよく手のひらに拳をぶつけて応えた。
「では、双方位置について~、はっじめーーー!!」
快活にスライム王セレーネは始まりの合図を告げる。
やりたいことリストの一つ
決闘(殺し合い)トーナメントの開催である。
_______________
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それは、パンドラが魔王の座に君臨してからも例外でない。
パンドラ自身は、平和主義者だ。
だが、部下も皆そうという訳ではない。
元々魔族は好戦的な種族であり、戦を望む者は多い。
だが直属の部下だけならあまり問題ではない。例え戦いが好きで戦争を望んでもパンドラがノーと言えば従ってくれるからだ。
問題は、パンドラの管轄から外れた貴族ら。権力を持つ強硬派達だ。
彼らは人間との戦こそ魔族の本懐と捉え、とにかく戦をしようとする。
その戦闘意欲は凄まじく、時に無断で人間界にちょっかいをかけ、人間がこちらに攻めてくるよう仕向けて来たことすらあった。
それがちょうど5年前の人魔戦争だ。
その時の被害はそこそこ大きいものとなり、その結果両軍勢共に暫くは戦を仕掛けないという、暗黙の冷戦状況に陥った。
この時は、穏健派のパンドラも流石にブチ切れて、戦争のきっかけを作った連中をすべて打首の刑に処した。
魔王軍最高幹部である三星将軍を率い、強硬派達の反抗を捻り潰す様は、いい見せしめになったようで、その件に関与しなかった強硬派達も今は大人しくしている。
だが、パンドラの密かな目標として、自分が魔王の間は戦争0の平和時代を築きあげることがあったのにその目標は容易く打ち砕かれてしまった。
それが今の現状である。
パンドラは、考えるルナ王女をじっと見つめる。
少し場が膠着し、ルナはゆっくりと口を開く。
「貴方のお考えは理解しました。ですが、決断の前にパンドラ様が人族との同盟を組む事を望む本当の理由をお聞かせ願いたいと思います」
「どういう意味じゃ?」
「私はこれでも王家に名を連ねる者。初対面ではありますが、当代魔王であるパンドラ様の事はよく知っているつもりです。貴方のこれまでの行動から推測して」
「もうよい」
パンドラは、ルナの言葉を遮った。
どうやら、こちらの目的は全て読まれているらしい。
どうやって?、という疑問はあるが、パンドラが穏健派であることは別に隠していない。
戦争を否定する演説をする事も多く、政策もその方針で動いている。そこから何かを読み取ったのだろう。
「恐ろしい女じゃの。主は。じゃが、だからこそ組む価値がありそうじゃ。確かに余には別の狙いがある。魔獣四王の対抗戦力を作るその先に」
「和睦、ですか?」
「そうじゃ。魔獣四王の集結。これにより、世界のパワーバランス一気に崩壊した。現状四王の気まぐれ次第でいつ世界が滅んでもおかしくはない。故に、対抗戦力が必要じゃ。人族と魔族が組む。これで、四王側にとっても迂闊な行動に出れんくらいの脅威にはなるじゃろう。ひとまずの魔獣四王対策はできる。じゃが、余はその先も見すえておる。もし仮に魔獣四王が動かなかった場合、人族と魔族との間に戦のない空白の時間が生まれる」
「その時間で人族と魔族に協力体制を築かせ、あわよくば和解まで持っていく、もしくは戦争が起こった場合でも、強固な協力体制ができるよう立ち回ると?上手くいくと思いますか?人族と魔族は既に限界まで憎しみ合っているというのに」
「難しいことは分かっておる。じゃが、今しか無いんじゃ。お互いのわだかまりを捨て、ともに協力し合うには、世界共通の敵が現れた今しかの。そうせねば、この先我らは永遠に争い、憎しみを募らせ続けてしまう。この機に完全な和解とまではいかずとも、何かきっかけだけでも作れれば、きっと希望になる。じゃから」
そこでパンドラは、懇願するため頭を下げようとした。
魔王が人間に頭を下げるなど、本来あってはならないことだとパンドラは理解している。
それでもそうすべきだと彼女は判断した。
だが、その前にルナが開いた手を前に突き出し、パンドラの行動を止めた。
「頭を下げる必要はありません。私も同じ気持ちです。人族と魔族、魔獣だって分かり合える。その理想を抱いてここまで来ました。実を言うと、あなたがここに来てくださることをずっと待っていたんですよ。13年前くらいからずっと」
「は?」
予想外の言葉に、パンドラは思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
余がここに来るのを待っていた!?
そんなことが予見できるのは、おかしいじゃろ。
本来なら、この場に余が来ることを予想できることの方がおかしいというのに。
ここに来たのだって、パンドラのある能力を使って侵入しただけだ。
困惑して目を点にしたようになっているパンドラに、まるで幼子が驚いている様を微笑ましく思う母親のように、ルナはクスクスと笑って言った。
「ただの願望ですよ。あなたが私と同じような考えを持っているということは知っていましたから。いつか、今日みたいに私に会いに来て欲しいと思っていたんです。私から会いにいく術はありませんでしたから」
「そうか。ならもっと早く来れば良かったかの。そうすれば」
5年前の戦を思い出す。
あの時、戦争を主だって先導していたのは、人間の貴族と魔族の強硬派だった。
あの時は王族に会いに出向けば、火に油を注ぐようなものだと思っていたが、もしこの叡智の姫に会いにいけば、何か戦争をもっと早く止める案を見つけられたかもしれない。
「無理でしょう。あの時私にできることは何もありませんでした」
パンドラの言いたいことを察したのか、悔やしさを滲ませた顔でルナは言う。
「ですが、今回は違う。頼もしい味方もたくさんいますから。同盟のお話、是非ともお受けさせていただきたいと思います。こちらこそ、協力お願いします。パンドラ様」
「そうか!こちらこそよろしく頼む」
パンドラは興奮を隠さず嬉しそうに言う。
そして、ルナとパンドラは互いに握手した。
その後、同盟の細かな取り決めを話し、パンドラは魔界へと帰った。
パンドラは闇の帰路の中でふと思い出す。
隠そうとはしていたが、途中から、姫の手が震えていたことに。
魔力はできるだけ表に出さないようにしていたのじゃが、何か感じ取ったのじゃろうか?
それとも、怖がっていたのか。
魔王と対面したのなら、それが普通の反応のはずだが。
気丈に振る舞っていただけか?
だとしたら、もう少し親密になって自分は無害だと思ってもらわねば。
人化の魔法を覚えて、今度遊びにいくか。
その時までに世界が平和だったのならの。
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※ルナ視点です。
パンドラが帰った後、ルナは彼女とのやり取りを忘れないよう振り返る。
帰る時、パンドラが手をかざすと、禍々しい闇のオーラのようなものが顕現した。
あまりに高密度な魔力に、流石のルナも内心では驚いたものだ。
さらにその闇の中から煌びやかに装飾された大きな箱のようなものが蓋を開け、パンドラを飲み込むように閉じた。
あれはおそらく転移魔法の一種だ。
人が使う五大属性魔法。
火、水(氷)、風、雷、土。
そして、魔獣が使う五大属性とは異なる魔法。
ユニーク魔法と呼ばれるものである。
これが、一般的に知られている魔法の全てだ。
転移魔法は、ユニーク魔法に当たる。
そして、魔族は五大属性魔法とユニーク魔法、どちらも使える素養を持っている。
そのため、パンドラが転移魔法を使えても何もおかしくはない。
だが、パンドラが使ったそれは単たるユニーク魔法ではない気がした。
世のことわりを超越した者のみに授けられる魔法があると聞いたことがある。
全ての魔法がこの世界から与えられたものだ仮定した時、その魔法は、使い手そのものが1つの独立した世界となった証だと伝承に記載されていた。
その意味はよく分からなかったが、それくらい理解のできない魔法だとルナは解釈していた。
世界魔法ワールドマジック。
パンドラが使ったのはその力の一旦なのではないかとルナは感じた。
あんな可愛らしい外見をしていても魔王というわけだ。
自分の手が震えていることを必死に隠そうと会話の途中から右手を左手で必死に押さえていた。
まだまだあの力を完璧に押さえ込めむことは難しいか。
昔と比べれば、大分ましになったものだが。
なにせ、魔族の王と数時間一緒に会話をしていたのだから。
それでも長時間となるときついかしら。
ルナは、枕元にあった剣を取ると、窓から飛び出した。
3階分下にある地面に着地すると、勢いよく砂埃が舞う。
そして、一回だけ上段から剣を振るう。
振り切らず、寸止めだ。
剣を止める衝撃で一瞬だけ凄まじい嵐のような暴風が巻き起こった。砂埃は全て吹き飛んでいく。
もし、これが日が出ている時間ならば、木々が凪いだ様子に、そして吹き飛ばされそうな強風に誰もが驚いたことだろう。
ふぅー、と息を深く吐き出す。
良かったと心の中でルナは呟く。
もし、あれ以上パンドラと共にいたら、殺してしまっていたかもしれないから。
ルナは剣を鞘にしまい、今度は歩きで城の玄関から寝室へと戻った。
その様子を見ていた男がいた。
彼は死の庭にある自室で、
"千里眼の水晶"と呼ばれる、魔道具を使い、
自室から王女と魔王の密談を眺めていた。
「やはりこうなったか。娘達め。やってくれる」
様子を見ていた男、ネメシス・クラウンにとって、人間と魔族の同盟は非常に都合が悪いことだった。
「それにしても、ここまであの力を御せるようになったとはな」
「くっく。素晴らしい成長だ。益々この先が楽しみだよ。なぁ、勇者ルナ」
不在とされた席。
当代の勇者。
そしてその勇者の中でもさらに異質の称号、蛮勇を引き継いだ王女はその力を呪いながら、ゆっくりと眠りについた。
◇◇
翌朝。
古城に帰った魔獣四王たちは、古城の側にある更地に集合した。
「じゃあ、やりましょうか」
怪鳥王フェルミナは丁寧手のひらと拳を合わせて礼をする。一種の武術の作法だ。
「ああ、望むところだぞ」
それに対して龍王オルゴラズベリーは、勢いよく手のひらに拳をぶつけて応えた。
「では、双方位置について~、はっじめーーー!!」
快活にスライム王セレーネは始まりの合図を告げる。
やりたいことリストの一つ
決闘(殺し合い)トーナメントの開催である。
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