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3章:動く世界とやりたいことをする魔獣四王
49話.4匹でし合い大会:①フェルミナvsオル
しおりを挟むその日、人族の皆が震撼した。
世界が振動しているかのような衝撃。
人々はその響きを肌から察知した。
その振動の発生源は、巨大な力のぶつかり合いだった。
その実態は、人に化けていた4匹の獣がその真の姿を解放し、遊ぶ遊戯にすぎなかった。
より正確に言うなら、お互いが高めた力を確かめ合う事を目的とした戯れだ。
龍王オルゴラズベリーがこの行為を「殺し合い」と呼んでいることは、彼女の精神年齢がまだ幼く、やんちゃな言葉を使いたかっただけなのだ。
だが、その言葉は魔獣四王の動向を追うものには、本来の意味として伝わり、世界中が恐怖した。
彼女ら最強生物達の潰し合いの後に、世界は一体どうなるのか、思考を無意味に深く巡らせながら。
◇◇
セレーネ目線です。
ことの発端は、セントラルフィリア帰還後、オルが始めに希望していた殺し合い大会をやりたいと言い出したことだ。
戯れとはいえ、魔獣四王が限界ギリギリまで戦う行為は、漁夫の利を狙う第三者がいた場合危険ではないかとセレーネは危惧していた。
自分達には、ネメシス・クラウンという明確な敵がいるのだ。
とはいえ、13年という期間、魔獣四王と呼ばれる友人達がどれだけ強くなったのか確認はしておきたかった。
自分たちの力関係も把握する必要もある。
もっとも、オルはそんな事は考えていないだろうが。
しかし、集まった当初いきなり殺し合い大会はできなかった。
セレーネの能力、未来予知で自由の騎士団数名がここに襲撃を仕掛けてくる事は何となく分かっていたのだ。
タイミング的に、疲弊した後で彼らと戦うことになるだろうが、それは避けたかった。
それにセントラルフィリアのフォローも優先的にやっておきたかった。
そのおかげで、無事セントラルフィリアの件は片付いたし、襲ってきた自由の騎士団タナ・アルティミスとモア・アウグスモンドを拘束することにも成功した。
セレーネの未来予知は完璧ではない。1人の人物を対象に見て、こんな事が起こるかもという曖昧な予感を察知する程度のものだ。先の未来であればあるほど抽象度が上がっていく。
だから、今の良き結果にセレーネは素直に喜びを感じていた。精度の低い未来予知など、計画成功率を多少上げられる程度の利点を得られるに過ぎないのだから。
さて。
そして、今殺し合い大会が始まる。
最初はフェルミナ対オルゴラズベリーだ。
人化の魔法を解かず、どちらも人の姿のまま向かい合っている。
この対決の勝敗はある程度は予想がつく。
もっとも、2人がセレーネの予想を超えた成長をして、想定外の結果になる可能性も0ではないが。
両者睨み合いが続く。
実力が拮抗した相手となると、中々動きづらいのだろう。その気持ちはよく分かった。
最初動き出したのは、オルだった。
飛び上がり、フェルミナに向かって上から拳を叩きつける。
フェルミナは華麗なステップでそれをかわす。
結果オルの拳は地面に叩きつけられた。
その威力は凄まじく、とてつもない爆風が生まれる。
その風に、森の木々は、根ごと吹き飛ばされるのではないかという勢いで揺れる。
観戦していた魔獣四王達の部下も、弱いものは吹き飛ばされ、フェルミナですら、腕でその風圧から身を守っていた。
しかし、オルの攻撃止まらない。
初撃の拳がかわされたと見るや、すぐに飛び膝蹴りを繰り出した。
だが、フェルミナは前腕でその蹴りを受け止る。
そして、動きの止まったオルの太ももを掴み、思いっきり地面に叩きつけた。
「おお?」
オルは空中から思いっきり投げられたその浮遊感からか、ダメージを受ける前とは思えない間の抜けた声を出す。
地面に叩きつけられたオルは直ぐ様体制を立て直そうとする
だが、フェルミナは間髪入れずに、正拳突きを叩き込んだ。
「はっ!!」
フェルミナが拳に合わせて掛け声を出す。
それは熟練の武術家の動きだった。
「くっ」
オルはその突きを腕で必死にガードする。
武術という、もっとも威力を出せる動きを研究しつくした成果。
その技術を取り込み、最も正しいフォームで正拳を叩きこむ事で最大の火力が出せるのだとフェルミナが力説していた事をセレーネは思い出す。
今の一撃は魔獣四王1の硬度を誇るオルの鱗をも貫通してダメージを与える威力を持っていた。
恐ろし、と内心セレーネは思う。
フェルミナの動きはもはや人間の達人の域に達している。
人間、魔獣、魔族の中で人間は技術に著しく長けている。だが、その技術を魔獣の肉体で昇華するとああなるのかと、セレーネは背筋が凍るような思いをした。
だが、フェルミナの恐ろしさはそれだけではない。
オルとフェルミナの間合い。
あれは、組み手の距離だ。
生まれ持った力任せで戦うオルと武術を学んだフェルミナ。
精密な体捌きは言うまでもなくフェルミナの方が上だ。
オルも抵抗するが、一方的に殴られていく。
オルは大きく距離を取り、また上から拳を叩きつけようとする。
だが、今度は腕だけ人化を解いた、龍の腕での一撃だ。
オルの腕が10倍近く巨大化し、鱗と爪が剥き出しになってフェルミナに襲いかかる。
フェルミナが武術で肉体能力を最大限引き出しているとはいえ、元の肉体の基本的なスペックはオルの方がかなり上なのだ。
観客からは、圧倒的な破壊力を持つその腕はフェルミナを押し潰したように見えた。
だが、次の瞬間、オルの腕の中で潰されていたフェルミナは巨大な鳥の怪物へと変貌する。
その質量変化によってオルは腕ごと吹き飛ばされた。
フェルミナが人化を解除し、怪鳥王と呼ばれる怪物が顕現したのだ。
負けじとオルも人化を解く。
怪鳥王フェルミナと龍王オルゴラズベリー。
体躯数10メートルはあるであろう2匹の怪物は、もはや遠く離れた地からでも簡単に観測できるようになった。
2匹の怪物が咆哮をあげる。
余談だが、これによって全世界はパニックに陥りかけた。
巨大な翼を拳として扱うフェルミナと鱗に覆われた硬い拳を持つオル。
2匹の拳がぶつかり合うたびに天地が揺れるかと思うほどの衝撃が起こるのだ。
か弱い一般人からすればそれは当たり前と言えよう。
そうして第二ラウンドは始まった。
両者の力のぶつかり合いは、地図が書き換わるのではないかと思えるほど凄まじかった。
いや、セレーネと真蜘羅がその対策として、近くにある古城と戦場の周囲に結界を張っていなければ、間違いなくそうなっていただろう。
だが、勝負の決着自体は思いの外簡単についた。
人化を解いたオルのパワーは凄まじかった。
その攻撃力は圧倒的で、山すらブレスや拳で吹き飛ばせるほどの力だ。
おそらく、単純な身体能力のステータスはオルが群を抜いて高い。
だが、フェルミナも人化を解いた事で、パワーを大きく上げた。それでもオルのステータスには劣るだろうが、その力の差は彼女が得意とする武術で覆せない程ではない。
つまり、両者とも巨大化したということは、結局人化の術を使っていた時と戦況は何も変わっていないわけだ。そして、そのまま組み手が続き、オルはフェルミナにあっさり敗北したのだった。
これで、殺し合い大会第一試合
フェルミナ対オルゴラズベリーはフェルミナが白星、オルゴラズベリーが黒星として、決着がついたのである。
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