54 / 74
3章:動く世界とやりたいことをする魔獣四王
49話.4匹でし合い大会:①フェルミナvsオル
しおりを挟むその日、人族の皆が震撼した。
世界が振動しているかのような衝撃。
人々はその響きを肌から察知した。
その振動の発生源は、巨大な力のぶつかり合いだった。
その実態は、人に化けていた4匹の獣がその真の姿を解放し、遊ぶ遊戯にすぎなかった。
より正確に言うなら、お互いが高めた力を確かめ合う事を目的とした戯れだ。
龍王オルゴラズベリーがこの行為を「殺し合い」と呼んでいることは、彼女の精神年齢がまだ幼く、やんちゃな言葉を使いたかっただけなのだ。
だが、その言葉は魔獣四王の動向を追うものには、本来の意味として伝わり、世界中が恐怖した。
彼女ら最強生物達の潰し合いの後に、世界は一体どうなるのか、思考を無意味に深く巡らせながら。
◇◇
セレーネ目線です。
ことの発端は、セントラルフィリア帰還後、オルが始めに希望していた殺し合い大会をやりたいと言い出したことだ。
戯れとはいえ、魔獣四王が限界ギリギリまで戦う行為は、漁夫の利を狙う第三者がいた場合危険ではないかとセレーネは危惧していた。
自分達には、ネメシス・クラウンという明確な敵がいるのだ。
とはいえ、13年という期間、魔獣四王と呼ばれる友人達がどれだけ強くなったのか確認はしておきたかった。
自分たちの力関係も把握する必要もある。
もっとも、オルはそんな事は考えていないだろうが。
しかし、集まった当初いきなり殺し合い大会はできなかった。
セレーネの能力、未来予知で自由の騎士団数名がここに襲撃を仕掛けてくる事は何となく分かっていたのだ。
タイミング的に、疲弊した後で彼らと戦うことになるだろうが、それは避けたかった。
それにセントラルフィリアのフォローも優先的にやっておきたかった。
そのおかげで、無事セントラルフィリアの件は片付いたし、襲ってきた自由の騎士団タナ・アルティミスとモア・アウグスモンドを拘束することにも成功した。
セレーネの未来予知は完璧ではない。1人の人物を対象に見て、こんな事が起こるかもという曖昧な予感を察知する程度のものだ。先の未来であればあるほど抽象度が上がっていく。
だから、今の良き結果にセレーネは素直に喜びを感じていた。精度の低い未来予知など、計画成功率を多少上げられる程度の利点を得られるに過ぎないのだから。
さて。
そして、今殺し合い大会が始まる。
最初はフェルミナ対オルゴラズベリーだ。
人化の魔法を解かず、どちらも人の姿のまま向かい合っている。
この対決の勝敗はある程度は予想がつく。
もっとも、2人がセレーネの予想を超えた成長をして、想定外の結果になる可能性も0ではないが。
両者睨み合いが続く。
実力が拮抗した相手となると、中々動きづらいのだろう。その気持ちはよく分かった。
最初動き出したのは、オルだった。
飛び上がり、フェルミナに向かって上から拳を叩きつける。
フェルミナは華麗なステップでそれをかわす。
結果オルの拳は地面に叩きつけられた。
その威力は凄まじく、とてつもない爆風が生まれる。
その風に、森の木々は、根ごと吹き飛ばされるのではないかという勢いで揺れる。
観戦していた魔獣四王達の部下も、弱いものは吹き飛ばされ、フェルミナですら、腕でその風圧から身を守っていた。
しかし、オルの攻撃止まらない。
初撃の拳がかわされたと見るや、すぐに飛び膝蹴りを繰り出した。
だが、フェルミナは前腕でその蹴りを受け止る。
そして、動きの止まったオルの太ももを掴み、思いっきり地面に叩きつけた。
「おお?」
オルは空中から思いっきり投げられたその浮遊感からか、ダメージを受ける前とは思えない間の抜けた声を出す。
地面に叩きつけられたオルは直ぐ様体制を立て直そうとする
だが、フェルミナは間髪入れずに、正拳突きを叩き込んだ。
「はっ!!」
フェルミナが拳に合わせて掛け声を出す。
それは熟練の武術家の動きだった。
「くっ」
オルはその突きを腕で必死にガードする。
武術という、もっとも威力を出せる動きを研究しつくした成果。
その技術を取り込み、最も正しいフォームで正拳を叩きこむ事で最大の火力が出せるのだとフェルミナが力説していた事をセレーネは思い出す。
今の一撃は魔獣四王1の硬度を誇るオルの鱗をも貫通してダメージを与える威力を持っていた。
恐ろし、と内心セレーネは思う。
フェルミナの動きはもはや人間の達人の域に達している。
人間、魔獣、魔族の中で人間は技術に著しく長けている。だが、その技術を魔獣の肉体で昇華するとああなるのかと、セレーネは背筋が凍るような思いをした。
だが、フェルミナの恐ろしさはそれだけではない。
オルとフェルミナの間合い。
あれは、組み手の距離だ。
生まれ持った力任せで戦うオルと武術を学んだフェルミナ。
精密な体捌きは言うまでもなくフェルミナの方が上だ。
オルも抵抗するが、一方的に殴られていく。
オルは大きく距離を取り、また上から拳を叩きつけようとする。
だが、今度は腕だけ人化を解いた、龍の腕での一撃だ。
オルの腕が10倍近く巨大化し、鱗と爪が剥き出しになってフェルミナに襲いかかる。
フェルミナが武術で肉体能力を最大限引き出しているとはいえ、元の肉体の基本的なスペックはオルの方がかなり上なのだ。
観客からは、圧倒的な破壊力を持つその腕はフェルミナを押し潰したように見えた。
だが、次の瞬間、オルの腕の中で潰されていたフェルミナは巨大な鳥の怪物へと変貌する。
その質量変化によってオルは腕ごと吹き飛ばされた。
フェルミナが人化を解除し、怪鳥王と呼ばれる怪物が顕現したのだ。
負けじとオルも人化を解く。
怪鳥王フェルミナと龍王オルゴラズベリー。
体躯数10メートルはあるであろう2匹の怪物は、もはや遠く離れた地からでも簡単に観測できるようになった。
2匹の怪物が咆哮をあげる。
余談だが、これによって全世界はパニックに陥りかけた。
巨大な翼を拳として扱うフェルミナと鱗に覆われた硬い拳を持つオル。
2匹の拳がぶつかり合うたびに天地が揺れるかと思うほどの衝撃が起こるのだ。
か弱い一般人からすればそれは当たり前と言えよう。
そうして第二ラウンドは始まった。
両者の力のぶつかり合いは、地図が書き換わるのではないかと思えるほど凄まじかった。
いや、セレーネと真蜘羅がその対策として、近くにある古城と戦場の周囲に結界を張っていなければ、間違いなくそうなっていただろう。
だが、勝負の決着自体は思いの外簡単についた。
人化を解いたオルのパワーは凄まじかった。
その攻撃力は圧倒的で、山すらブレスや拳で吹き飛ばせるほどの力だ。
おそらく、単純な身体能力のステータスはオルが群を抜いて高い。
だが、フェルミナも人化を解いた事で、パワーを大きく上げた。それでもオルのステータスには劣るだろうが、その力の差は彼女が得意とする武術で覆せない程ではない。
つまり、両者とも巨大化したということは、結局人化の術を使っていた時と戦況は何も変わっていないわけだ。そして、そのまま組み手が続き、オルはフェルミナにあっさり敗北したのだった。
これで、殺し合い大会第一試合
フェルミナ対オルゴラズベリーはフェルミナが白星、オルゴラズベリーが黒星として、決着がついたのである。
_______________
読んでくださりありがとうございます。
面白かったら感想、お気に入り登録お願いします。
0
あなたにおすすめの小説
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる