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王太子だって恋がしたい ~アルバート編~
~その4~
しおりを挟むアルバートとソフィアは、彼女のために摘んだスズランの咲く花園を並び歩いていた。
お茶に誘うには普通に誘えと言う親友二人の言葉に気を良くしたアルバートは、さっそく自らソフィアの元に赴き、お茶に誘った。
お茶の準備ができるまで花でも愛でるようにアルバートに言われての、今である。
『疲れているだろうから、今日は予定を入れなかったのに。しかも、前触れも無しなんて』と、アルバートにつぶやかれ「はっ!」と気が付いたのは、彼女の部屋のドアをノックした後だった。
友よ、なぜもっと早く言ってくれなったのか?
「ソフィア王女、突然申し訳ありませんでした。お疲れでしたでしょうに、私のわがままに付き合っていただいて感謝します」
アルバートはソフィアの手を取りながら、花壇の中を誘導していた。
初恋の人に直接触れるその手の暖かさに、ソフィアは気を失わないようにするのが精いっぱいだった。
「いえ、そのようなことは」
消え入りそうな声でささやく声が可愛らしくて、アルバートも余裕がない。
「あ! 先ほどお渡ししたすずらんです。ほら!」
アルバートが指さす先に、すずらんがまるで鈴を鳴らすように花を揺らし咲いていた。
「まあ、こんなにたくさん。きれい」
自分の指さす方を見て、ソフィアがほほ笑んでくれた。それだけでアルバートは嬉しかった。
「あなたに初めて会ったのは、私がリジュー王国へ伺った時です。
あなたは、このすずらんのように白くてフワフワしたドレスを着ていて、とても愛らしかった。
先ほど、このすずらんを見たらそれを思い出しまして。それで、あなたにと。
こんな花を王女殿下に差し上げるなんて、と側近に叱られました。もっと綺麗な花はいくらでもあるのにと。
でも、馬車から降り立ったあなたの姿は、私の思いでの中の姿と変わらず、この花のように愛らしかった」
アルバートが薄っすらと耳を赤くして語るその顔を、横から見上げながらソフィアも頬を染めた。
たとえ政略結婚であったとしても、今の彼の言葉に嘘は感じられない。
ソフィアはこの国に来てよかった、この人の隣に立てて良かったと心から思った。
そしてアルバートもまた、ソフィアの手を取り幸せを感じていた。
「ああ、彼女はなんて可愛らしいんだろう」
「なんか、聞いたことあるセリフだよね。アリーシャの時も、こんな感じの事よくつぶやいていた気がする」
アルバートのつぶやきに、護衛として壁際に発つルドルフが一人つぶやく。
「だから、なぜ俺のアリーシャを呼び捨てにする? 我が家を出入り禁止にするぞ」
執務机に向かいペンを走らせていたアルバートが冷たい視線をルドルフに向けた。
「無理! やだ! ごめんなさい」
素直に非を認め謝るルドルフのお目当てはアリーシャではなく、二人の子の乳母になる予定の女性だった。
第一子を出産予定のアリーシャが乳母を探していると聞き、戦死した戦友の妻であり、自分の幼馴染である女性をルドルフが紹介したのだ。
「なんだ? ルド、まだ彼女を落とせないでいるのか? まったく色男が形無しだな」
ニヤニヤ笑いながら話すアルバートに
「おまえこそなんだよ。俺、知ってるからね。王女様、未だにお前の顔見てないよな。
目も合わせてないだろう? 大丈夫か? 嫌われてるんじゃない?」
反撃とばかりに爆弾投下するルドルフの言葉に、
「……やっぱりそうだよな。気のせいじゃなかったんだ?」
がっくりと項垂れるアルバートの様子を見て、
「え? 気にしてたの? ああ、そっか。ごめん」
「え? そんなあっさり認めるほど露骨だった? みんな気が付いてた? 俺、どうしたらいい?」
狼狽えるアルバートから視線を反らしマルクスに助けを求めるも、彼は我関せずで仕事の手を止めてはくれない。困ったルドルフは、
「いや、ほら。気のせいってこともあるじゃん? まだ会ったばかりだしさ、これからだよ。ねえ? マルクス」
「は? 俺に振るな。知らん」
「そんな、仮にも王太子殿下が悩んでるんだから、側近としては何とかしないといけないんじゃないの?」
「ふっ。そんなこと、どうでも良いだろう? そのうち何とかなるに決まってる」
冷たい視線を二人に向け、口にするその声色は氷のように寒々としていた。
「「やっぱり、お前は氷の令息だよ」」
二人の声が重なった瞬間だった。
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