49 / 55
王都篇
サーシャの決断
しおりを挟む
「サーシャ、起きて。日が暮れたわ。行くわよ」
サーシャは眠ってしまっていた。目を覚ましたが、自分のいる場所を思い出すのに少し時間がかかっている感じだ。
「大丈夫? 寝ぼけてない?」
「クレア、大丈夫ですわ」
サーシャがいつもの美しさを取り戻した。クレアは壁を見ながら、サーシャにささやいた。
「今は使用人部屋に誰もいないわ。部屋に出るわよ」
二人は壁を通過して使用人の部屋に入った。
「ドアを出て左に真っ直ぐ五メートルで井戸よ。一緒に行って、私が井戸の中に入るから、桶の上下をお願いね」
そう小声でクレアが説明して、目を閉じて索敵している。
「今よっ」
クレアとサーシャは井戸に向かって歩いた。走るのは目立つからだ。二人は井戸に着いた。クレアが井戸の中に入り、桶に足をかけ、つるべに両手でつかまった。
「下ろして」
サーシャはゆっくりと桶を下ろしていった。井戸の中は暗くて見えないが、霊視でクレアの霊体がどこにいるのかは見える。
桶が井戸の水面に達し、クレアが水に潜ったようだ。
サーシャは辺りを見回した。使用人の住居区は井戸を中心に円状に建物が並んでおり、すっかり日は落ちているが、部屋のランプの灯りが外に漏れていて、井戸の辺りをそれなりに明るく照らしている。夕食の時間帯だからか、時折大きな笑い声が建物から聞こえてくる。
しばらくして、つるべにトントンと合図があった。
人が近づいて来たが、サーシャは構わず桶を上げた。クレアがチャームをかけるだろうと思ったからである。それに、手を止めるのは不自然だと思った。
「姉ちゃん、誰だ?」
男の声だった。サーシャは無視して桶を引き上げた。
クレアがスケルトンを背負って、井戸の上に現れた。
「な、なんだあ!?」
男が目を見開いて驚いている。骸骨を背負ったずぶ濡れの女が、井戸を上がって出て来たのだ。驚かない方がおかしい。
「チャーム」
クレアが男にチャームをかけ、指示を出した。
「井戸に物が落ちたので、拾って来て」
「あ、ああ」
男はクレアの言葉に従って、よろよろと井戸に近づいていく。
「え? え?」
サーシャは驚いた。
男は井戸に飛び込んだ。あの高さだ、絶命しているだろう。
「スケルトンを見られたのは不味かったわ。人は転生するの。殺生は好きではないけど、自分の身を守るためなら躊躇しないわ。アンデッドですもの。それに、平民の人生は早く終わらせてあげた方が、本人のためよ」
「私も早く死んだ方がいいと……?」
サーシャは自分でも驚くほど低く冷たい声を出していた。
「言い方が悪かったわ。ごめんなさい。ここで貴族の命令に従って、日々をなんとなく過ごしている人っていう意味に取ってね。あなたは違うわ。さあ、早く逃げるわよ。これ以上、井戸に身投げをさせたくはないでしょう」
「はい」
とりあえず、サーシャはクレアの言う通りにすることにした。
二人は使用人の部屋に駆け込み、壁を通過した。
クレアがスケルトンを布に包んで、背中にくくりつけた。
「さあ、カフェまで戻るわよ」
二人は無言のまま、カフェの女子トイレに到着した。
「サーシャ、今回の仕事はこれで終わりだけど、この後はどうするつもり? もし、私の仕事を手伝ってくれるなら、このまま契約を続行したいのだけど」
「どんなお仕事ですの?」
「トイレじゃなんだから、夕食を一緒にどう? もちろん、私の奢りよ。ここのカフェは食事も美味しいのよ。人に憑依すると、ご飯が食べられるのが最高なの」
「頂きますわ」
サーシャはおじ様が冒険者や奴隷商人を躊躇しないで殺していたことを思い出していた。おじ様は悪人しか殺さない、という線引きがあった。クレアは自分を守るために殺すという線引きをしている。無差別に殺人を楽しんでいるわけではない。
そう考えて、サーシャはクレアの話を聞くことにしたのだ。
「そう、よかった。さっきの件で見限られたかと心配していたの。ここはね、シチューが絶品なのよ。きっと気に入ってくれると思うわ」
サーシャは眠ってしまっていた。目を覚ましたが、自分のいる場所を思い出すのに少し時間がかかっている感じだ。
「大丈夫? 寝ぼけてない?」
「クレア、大丈夫ですわ」
サーシャがいつもの美しさを取り戻した。クレアは壁を見ながら、サーシャにささやいた。
「今は使用人部屋に誰もいないわ。部屋に出るわよ」
二人は壁を通過して使用人の部屋に入った。
「ドアを出て左に真っ直ぐ五メートルで井戸よ。一緒に行って、私が井戸の中に入るから、桶の上下をお願いね」
そう小声でクレアが説明して、目を閉じて索敵している。
「今よっ」
クレアとサーシャは井戸に向かって歩いた。走るのは目立つからだ。二人は井戸に着いた。クレアが井戸の中に入り、桶に足をかけ、つるべに両手でつかまった。
「下ろして」
サーシャはゆっくりと桶を下ろしていった。井戸の中は暗くて見えないが、霊視でクレアの霊体がどこにいるのかは見える。
桶が井戸の水面に達し、クレアが水に潜ったようだ。
サーシャは辺りを見回した。使用人の住居区は井戸を中心に円状に建物が並んでおり、すっかり日は落ちているが、部屋のランプの灯りが外に漏れていて、井戸の辺りをそれなりに明るく照らしている。夕食の時間帯だからか、時折大きな笑い声が建物から聞こえてくる。
しばらくして、つるべにトントンと合図があった。
人が近づいて来たが、サーシャは構わず桶を上げた。クレアがチャームをかけるだろうと思ったからである。それに、手を止めるのは不自然だと思った。
「姉ちゃん、誰だ?」
男の声だった。サーシャは無視して桶を引き上げた。
クレアがスケルトンを背負って、井戸の上に現れた。
「な、なんだあ!?」
男が目を見開いて驚いている。骸骨を背負ったずぶ濡れの女が、井戸を上がって出て来たのだ。驚かない方がおかしい。
「チャーム」
クレアが男にチャームをかけ、指示を出した。
「井戸に物が落ちたので、拾って来て」
「あ、ああ」
男はクレアの言葉に従って、よろよろと井戸に近づいていく。
「え? え?」
サーシャは驚いた。
男は井戸に飛び込んだ。あの高さだ、絶命しているだろう。
「スケルトンを見られたのは不味かったわ。人は転生するの。殺生は好きではないけど、自分の身を守るためなら躊躇しないわ。アンデッドですもの。それに、平民の人生は早く終わらせてあげた方が、本人のためよ」
「私も早く死んだ方がいいと……?」
サーシャは自分でも驚くほど低く冷たい声を出していた。
「言い方が悪かったわ。ごめんなさい。ここで貴族の命令に従って、日々をなんとなく過ごしている人っていう意味に取ってね。あなたは違うわ。さあ、早く逃げるわよ。これ以上、井戸に身投げをさせたくはないでしょう」
「はい」
とりあえず、サーシャはクレアの言う通りにすることにした。
二人は使用人の部屋に駆け込み、壁を通過した。
クレアがスケルトンを布に包んで、背中にくくりつけた。
「さあ、カフェまで戻るわよ」
二人は無言のまま、カフェの女子トイレに到着した。
「サーシャ、今回の仕事はこれで終わりだけど、この後はどうするつもり? もし、私の仕事を手伝ってくれるなら、このまま契約を続行したいのだけど」
「どんなお仕事ですの?」
「トイレじゃなんだから、夕食を一緒にどう? もちろん、私の奢りよ。ここのカフェは食事も美味しいのよ。人に憑依すると、ご飯が食べられるのが最高なの」
「頂きますわ」
サーシャはおじ様が冒険者や奴隷商人を躊躇しないで殺していたことを思い出していた。おじ様は悪人しか殺さない、という線引きがあった。クレアは自分を守るために殺すという線引きをしている。無差別に殺人を楽しんでいるわけではない。
そう考えて、サーシャはクレアの話を聞くことにしたのだ。
「そう、よかった。さっきの件で見限られたかと心配していたの。ここはね、シチューが絶品なのよ。きっと気に入ってくれると思うわ」
1
あなたにおすすめの小説
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる