英雄の俺が転生憑依した男は、S級冒険者パーティの下働きだった。頭に来た俺は、ダンジョン攻略中に全員の荷物を持ってパーティから逃げ出してやった

もぐすけ

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逃亡

修行開始

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 このただ単に何回も焼かれては倒れる修行に、いったい何の意味があるんだ。最初のうちはそう思っていたが、何十回も食らっているうちに、俺は一つのことに気づいた。

 魔法を発するときにかすかな音が聞こえるのだ。

 無詠唱なので声は出していないはずだが、これは何の音だ?

 そもそも火炎系の魔法は何を燃やしている?

 さらに耳をすますと、ジ~という音とボッという二つの音が出ている事に気づいた。

 ジ~、ボッで、炎が出る。炎はあっという間に俺にぶつかるため、避けようがない。いくら逃げ足が速くてもだ。

 ジ~という音が出ているときであれば、逃げることは出来きそうだが、このタイミングだと早すぎるようで、逃げた後の位置に魔法を放たれてしまう。

 俺は推測した。ジ~という音は空気中の水分を水素に分解するときの音で、ボッというのは、水素に点火した後に水素が燃えるときの音だ。

 点火する時の音を拾うことが出来れば、そこで動けばいいのだが。

 ジ~、カチ、ボッ

 聞こえた。俺は「カチ」のときに右に逃げた。炎は俺の左側を通過した。

 アンジェラもどきがニイと笑った。口が裂けているのを何とかして欲しい。気味が悪くてたまらない。

「けけけ、もう逃げられるようになったか。予想以上に早いな」

 アンジェラもどきが炎を曲げて来た。流石に俺の動きを見て曲げているのではないようで、当たる時と当たらない時がある。

 でも、二分の一の確率で当てられるのはまずい。分かった。点火する場所を変えているのだ。場所によってカチッの音程の高さが異なることが分かり、どちらに来るかが分かって来た。

「けけけ、なかなかやる。じゃあこれはどうか」

 アンジェラもどきは風と炎のコンビネーションを打って来た。シューという気圧を変える音が邪魔をして炎の音がよく聞こえないが、空気の揺らぎで魔法放出のタイミングが分かった。

 なるほど。魔法というのは実は随分と騒がしいものなのだ。五感を研ぎ澄ませて術者の周りの空気を観察することで、放出のタイミングが丸わかりだということがだんだんと分かって来た。

「けけけ、魔法を当てるのが難しくなった。では、これはどうか」

 ぐおっ、頭が痛え

 さっきから気づいていたのだが、このアンジェラもどきはかなり手を抜いてくれている。炎は痛いが皮膚が焼き爛れるほど容赦のない攻撃ではないし、頭も痛いが我慢できないほどではない。

 本家のアンジェラの精神魔法を受けたときの頭の痛さは普通じゃない。目と鼻から血が出るほど痛いのだ。だが、どういう仕組みでそうなるんだ?

 恐らくだが、電気を放って、脳や心臓や神経に干渉しているのだろう。アンデッドに精神魔法が効かないのは、奴らの神経系統がぶっ壊れているからなのではないか。

 電気からは逃げられない。電気は流れやすいところに向かって来るからだ。逃げても逃げたところに進んで来る。

 前世の英雄人生ではチートスキルのゴリ押しで、こんなに考える必要はなかったが、弱いと色々考えないとやって行けない。

「ちょっと待ってくれ」

 俺は靴を脱いで、裸足で立った。
 
 アンジェラもどきが目を細め、銀色の目になった。やはりホムンクルスにはモモが憑依していたようだ。

「けけけ、なるほど、英雄の前は科学の栄えた世界にいたのか。面白い。だが、これはどうかな」

 裸足で立つことで、少しでも電気を地面に放出しようという作戦だったのだが、アンジェラもどきは炎魔法で俺を横に跳ばさせ、地面から足が離れたタイミングで精神魔法を当てて来た。

 俺はすり足で逃げるようにした。こちらの方が機敏に動けるうえに、精神魔法に対応するアースの役目も継続できる。俺って天才かも!
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