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逃亡
大魔法使い
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「確か記憶だとこのあたりなんだが……」
俺は宿を引き払って、魔法使いたちが店を構えるマジックストリートに来ていた。先程まで降っていた雨はやみ、薄くなった雨雲の切れ目から夕焼けの空が見えていた。
「あった、ここだ」
他の店の三軒分ほどの間取りのある大きな店の前で俺は立ち止まった。ピンク色のファンシーな店構えだ。俺はドアベルを鳴らした。
「モモちゃんハウスにようこそ。お金を持っている人だけ入っていいよ」
なかから可愛らしい声が聞こえて来たが、言っている内容が露骨すぎる。
「お金はあります」
どこから見ているのか分からないが、俺はカバンの中のダーラを見せた。
「いらっしゃいませ~」
さっきよりも甲高い声が聞こえ、ドアが開いた。中に入っていくと、髪も瞳の色も着ている洋服も全てピンク一色の中学生ぐらいの少女が、豪奢な椅子に座っていた。
「私はモモ、やんごとなきお方にお仕えする大魔法使い。大がつく魔法使いなの。そこんとこよろしく。で、要件は何? 金持ちの男」
マモルの記憶にある自己紹介の言葉と恐らく一語一句全て同じだと思う。このモモという魔法使いは、三年前に会ったときの容姿から全く成長していない。人間ではない可能性が高い。
「この『魔導書』の魔法のうち、三種類を私が使えるようにして欲しいのです。今日から五日間で」
恐らく見た目通りの歳ではないし、俺の師匠になる人だから、敬語で話しておく。
「あら、懐かしい本を持っているのね。ああ、思い出したわ。あなた、あの女魔道士の従者じゃないの。で、どれを学びたいの?」
覚えていたのか。俺は試しに最も修得が難しそうな魔法を挙げてみた。
「絶対物理防御、絶対魔法防御、完全復活の三つです」
「欲張りね。三つとも秘奥義じゃないの。『魔技』がトリプルSでないとそもそも無理だけど、あなた、素養はあるの? ちょっと見せてね」
モモの目が銀色に光り、俺の額のあたりをみている。
「あなたいつから乗り移ったの?」
この少女、分かるのか!
「今日です。何なんでしょうか。この現象は?」
「個体主から召喚されて憑依する召喚憑依よ。英雄の魂なんかを召喚したら、自身は消滅しちゃうのに、元の個体主はよっぽど切迫詰まってたのね。まあ、それはどうでもいいわ。出来るわよ。あなた、歌のレベルが尋常じゃないわね。それだけ歌えれば大丈夫よ」
思った通りだ。歌というのは呪文に通じる。歌が上手いということは、難解な呪文を唱えられるということだ。
「五日で出来ますか?」
「あなたの才能なら、唱えるだけなら、割とすぐに出来ると思うわよ。問題は効果よ。五日ぽっちじゃ使い物にならないわよ」
何てことだ。習得できるのか。時間が足りないなら、時間の流れを遅くする「時の部屋」を借りればいい。
「一つの魔法につき五十万ダーラ用意しました。全部で百五十万ダーラお渡しします。『時の部屋』は何日使えますか?」
記憶によれば、アンジェラのときは、十万ダーラで十日間だった。
「そうね、一年間使っていいわよ。それだけあれば、何とかなるかもね。やる?」
五日間で一年分の修行ができるということだ。これなら、奴らと互角に戦えるようになるだろう。警戒すべきはアンジェラとリサだが、特に遠隔から攻撃されると手も足も出ないアンジェラへの対策が必須だ。
「お願いします」
「はい、毎度あり~。じゃあ、まずはこの子の元で二週間頑張ってみてね」
モモの前に突然人間の女が現れた。
「アンジェラ!」
俺は身構えた。だが、様子がおかしい。
「ホムンクルスよ。あなたの敵を具現化したのよ。彼女を倒したいのね。まずはこの子に魔法だけで勝てるようになりなさい。さあ、早速始めなさい」
次の瞬間、強烈な眩暈がした。立っていられないくらいだ。俺の目の前の景色がものすごい勢いで回っている。しばらくして、回転が緩やかになり、完全に止まった。
俺は真っ白い部屋にアンジェラもどきと二人で立っていた。
「けけけ、ようこそ、修行の部屋へ」
アンジェラもどきの口がぱっくりと開き、真っ赤な舌を見せて、気味の悪い笑い声をあげた。
「けけけ、せいぜい頑張れよ」
魔法だけで倒せって、魔法の使えない俺にどうしろって言うんだよ。
アンジェラもどきが炎系の魔法を放った。俺は魔法が放たれたことにも気がつかず、まともに食らって大火傷を負って倒れた。
すぐに治癒魔法で元通りになるが、また魔法を食らって倒れる。常人なら発狂してもおかしくない地獄の責苦が始まった。
俺は宿を引き払って、魔法使いたちが店を構えるマジックストリートに来ていた。先程まで降っていた雨はやみ、薄くなった雨雲の切れ目から夕焼けの空が見えていた。
「あった、ここだ」
他の店の三軒分ほどの間取りのある大きな店の前で俺は立ち止まった。ピンク色のファンシーな店構えだ。俺はドアベルを鳴らした。
「モモちゃんハウスにようこそ。お金を持っている人だけ入っていいよ」
なかから可愛らしい声が聞こえて来たが、言っている内容が露骨すぎる。
「お金はあります」
どこから見ているのか分からないが、俺はカバンの中のダーラを見せた。
「いらっしゃいませ~」
さっきよりも甲高い声が聞こえ、ドアが開いた。中に入っていくと、髪も瞳の色も着ている洋服も全てピンク一色の中学生ぐらいの少女が、豪奢な椅子に座っていた。
「私はモモ、やんごとなきお方にお仕えする大魔法使い。大がつく魔法使いなの。そこんとこよろしく。で、要件は何? 金持ちの男」
マモルの記憶にある自己紹介の言葉と恐らく一語一句全て同じだと思う。このモモという魔法使いは、三年前に会ったときの容姿から全く成長していない。人間ではない可能性が高い。
「この『魔導書』の魔法のうち、三種類を私が使えるようにして欲しいのです。今日から五日間で」
恐らく見た目通りの歳ではないし、俺の師匠になる人だから、敬語で話しておく。
「あら、懐かしい本を持っているのね。ああ、思い出したわ。あなた、あの女魔道士の従者じゃないの。で、どれを学びたいの?」
覚えていたのか。俺は試しに最も修得が難しそうな魔法を挙げてみた。
「絶対物理防御、絶対魔法防御、完全復活の三つです」
「欲張りね。三つとも秘奥義じゃないの。『魔技』がトリプルSでないとそもそも無理だけど、あなた、素養はあるの? ちょっと見せてね」
モモの目が銀色に光り、俺の額のあたりをみている。
「あなたいつから乗り移ったの?」
この少女、分かるのか!
「今日です。何なんでしょうか。この現象は?」
「個体主から召喚されて憑依する召喚憑依よ。英雄の魂なんかを召喚したら、自身は消滅しちゃうのに、元の個体主はよっぽど切迫詰まってたのね。まあ、それはどうでもいいわ。出来るわよ。あなた、歌のレベルが尋常じゃないわね。それだけ歌えれば大丈夫よ」
思った通りだ。歌というのは呪文に通じる。歌が上手いということは、難解な呪文を唱えられるということだ。
「五日で出来ますか?」
「あなたの才能なら、唱えるだけなら、割とすぐに出来ると思うわよ。問題は効果よ。五日ぽっちじゃ使い物にならないわよ」
何てことだ。習得できるのか。時間が足りないなら、時間の流れを遅くする「時の部屋」を借りればいい。
「一つの魔法につき五十万ダーラ用意しました。全部で百五十万ダーラお渡しします。『時の部屋』は何日使えますか?」
記憶によれば、アンジェラのときは、十万ダーラで十日間だった。
「そうね、一年間使っていいわよ。それだけあれば、何とかなるかもね。やる?」
五日間で一年分の修行ができるということだ。これなら、奴らと互角に戦えるようになるだろう。警戒すべきはアンジェラとリサだが、特に遠隔から攻撃されると手も足も出ないアンジェラへの対策が必須だ。
「お願いします」
「はい、毎度あり~。じゃあ、まずはこの子の元で二週間頑張ってみてね」
モモの前に突然人間の女が現れた。
「アンジェラ!」
俺は身構えた。だが、様子がおかしい。
「ホムンクルスよ。あなたの敵を具現化したのよ。彼女を倒したいのね。まずはこの子に魔法だけで勝てるようになりなさい。さあ、早速始めなさい」
次の瞬間、強烈な眩暈がした。立っていられないくらいだ。俺の目の前の景色がものすごい勢いで回っている。しばらくして、回転が緩やかになり、完全に止まった。
俺は真っ白い部屋にアンジェラもどきと二人で立っていた。
「けけけ、ようこそ、修行の部屋へ」
アンジェラもどきの口がぱっくりと開き、真っ赤な舌を見せて、気味の悪い笑い声をあげた。
「けけけ、せいぜい頑張れよ」
魔法だけで倒せって、魔法の使えない俺にどうしろって言うんだよ。
アンジェラもどきが炎系の魔法を放った。俺は魔法が放たれたことにも気がつかず、まともに食らって大火傷を負って倒れた。
すぐに治癒魔法で元通りになるが、また魔法を食らって倒れる。常人なら発狂してもおかしくない地獄の責苦が始まった。
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