5 / 28
逃亡
大魔法使い
しおりを挟む
「確か記憶だとこのあたりなんだが……」
俺は宿を引き払って、魔法使いたちが店を構えるマジックストリートに来ていた。先程まで降っていた雨はやみ、薄くなった雨雲の切れ目から夕焼けの空が見えていた。
「あった、ここだ」
他の店の三軒分ほどの間取りのある大きな店の前で俺は立ち止まった。ピンク色のファンシーな店構えだ。俺はドアベルを鳴らした。
「モモちゃんハウスにようこそ。お金を持っている人だけ入っていいよ」
なかから可愛らしい声が聞こえて来たが、言っている内容が露骨すぎる。
「お金はあります」
どこから見ているのか分からないが、俺はカバンの中のダーラを見せた。
「いらっしゃいませ~」
さっきよりも甲高い声が聞こえ、ドアが開いた。中に入っていくと、髪も瞳の色も着ている洋服も全てピンク一色の中学生ぐらいの少女が、豪奢な椅子に座っていた。
「私はモモ、やんごとなきお方にお仕えする大魔法使い。大がつく魔法使いなの。そこんとこよろしく。で、要件は何? 金持ちの男」
マモルの記憶にある自己紹介の言葉と恐らく一語一句全て同じだと思う。このモモという魔法使いは、三年前に会ったときの容姿から全く成長していない。人間ではない可能性が高い。
「この『魔導書』の魔法のうち、三種類を私が使えるようにして欲しいのです。今日から五日間で」
恐らく見た目通りの歳ではないし、俺の師匠になる人だから、敬語で話しておく。
「あら、懐かしい本を持っているのね。ああ、思い出したわ。あなた、あの女魔道士の従者じゃないの。で、どれを学びたいの?」
覚えていたのか。俺は試しに最も修得が難しそうな魔法を挙げてみた。
「絶対物理防御、絶対魔法防御、完全復活の三つです」
「欲張りね。三つとも秘奥義じゃないの。『魔技』がトリプルSでないとそもそも無理だけど、あなた、素養はあるの? ちょっと見せてね」
モモの目が銀色に光り、俺の額のあたりをみている。
「あなたいつから乗り移ったの?」
この少女、分かるのか!
「今日です。何なんでしょうか。この現象は?」
「個体主から召喚されて憑依する召喚憑依よ。英雄の魂なんかを召喚したら、自身は消滅しちゃうのに、元の個体主はよっぽど切迫詰まってたのね。まあ、それはどうでもいいわ。出来るわよ。あなた、歌のレベルが尋常じゃないわね。それだけ歌えれば大丈夫よ」
思った通りだ。歌というのは呪文に通じる。歌が上手いということは、難解な呪文を唱えられるということだ。
「五日で出来ますか?」
「あなたの才能なら、唱えるだけなら、割とすぐに出来ると思うわよ。問題は効果よ。五日ぽっちじゃ使い物にならないわよ」
何てことだ。習得できるのか。時間が足りないなら、時間の流れを遅くする「時の部屋」を借りればいい。
「一つの魔法につき五十万ダーラ用意しました。全部で百五十万ダーラお渡しします。『時の部屋』は何日使えますか?」
記憶によれば、アンジェラのときは、十万ダーラで十日間だった。
「そうね、一年間使っていいわよ。それだけあれば、何とかなるかもね。やる?」
五日間で一年分の修行ができるということだ。これなら、奴らと互角に戦えるようになるだろう。警戒すべきはアンジェラとリサだが、特に遠隔から攻撃されると手も足も出ないアンジェラへの対策が必須だ。
「お願いします」
「はい、毎度あり~。じゃあ、まずはこの子の元で二週間頑張ってみてね」
モモの前に突然人間の女が現れた。
「アンジェラ!」
俺は身構えた。だが、様子がおかしい。
「ホムンクルスよ。あなたの敵を具現化したのよ。彼女を倒したいのね。まずはこの子に魔法だけで勝てるようになりなさい。さあ、早速始めなさい」
次の瞬間、強烈な眩暈がした。立っていられないくらいだ。俺の目の前の景色がものすごい勢いで回っている。しばらくして、回転が緩やかになり、完全に止まった。
俺は真っ白い部屋にアンジェラもどきと二人で立っていた。
「けけけ、ようこそ、修行の部屋へ」
アンジェラもどきの口がぱっくりと開き、真っ赤な舌を見せて、気味の悪い笑い声をあげた。
「けけけ、せいぜい頑張れよ」
魔法だけで倒せって、魔法の使えない俺にどうしろって言うんだよ。
アンジェラもどきが炎系の魔法を放った。俺は魔法が放たれたことにも気がつかず、まともに食らって大火傷を負って倒れた。
すぐに治癒魔法で元通りになるが、また魔法を食らって倒れる。常人なら発狂してもおかしくない地獄の責苦が始まった。
俺は宿を引き払って、魔法使いたちが店を構えるマジックストリートに来ていた。先程まで降っていた雨はやみ、薄くなった雨雲の切れ目から夕焼けの空が見えていた。
「あった、ここだ」
他の店の三軒分ほどの間取りのある大きな店の前で俺は立ち止まった。ピンク色のファンシーな店構えだ。俺はドアベルを鳴らした。
「モモちゃんハウスにようこそ。お金を持っている人だけ入っていいよ」
なかから可愛らしい声が聞こえて来たが、言っている内容が露骨すぎる。
「お金はあります」
どこから見ているのか分からないが、俺はカバンの中のダーラを見せた。
「いらっしゃいませ~」
さっきよりも甲高い声が聞こえ、ドアが開いた。中に入っていくと、髪も瞳の色も着ている洋服も全てピンク一色の中学生ぐらいの少女が、豪奢な椅子に座っていた。
「私はモモ、やんごとなきお方にお仕えする大魔法使い。大がつく魔法使いなの。そこんとこよろしく。で、要件は何? 金持ちの男」
マモルの記憶にある自己紹介の言葉と恐らく一語一句全て同じだと思う。このモモという魔法使いは、三年前に会ったときの容姿から全く成長していない。人間ではない可能性が高い。
「この『魔導書』の魔法のうち、三種類を私が使えるようにして欲しいのです。今日から五日間で」
恐らく見た目通りの歳ではないし、俺の師匠になる人だから、敬語で話しておく。
「あら、懐かしい本を持っているのね。ああ、思い出したわ。あなた、あの女魔道士の従者じゃないの。で、どれを学びたいの?」
覚えていたのか。俺は試しに最も修得が難しそうな魔法を挙げてみた。
「絶対物理防御、絶対魔法防御、完全復活の三つです」
「欲張りね。三つとも秘奥義じゃないの。『魔技』がトリプルSでないとそもそも無理だけど、あなた、素養はあるの? ちょっと見せてね」
モモの目が銀色に光り、俺の額のあたりをみている。
「あなたいつから乗り移ったの?」
この少女、分かるのか!
「今日です。何なんでしょうか。この現象は?」
「個体主から召喚されて憑依する召喚憑依よ。英雄の魂なんかを召喚したら、自身は消滅しちゃうのに、元の個体主はよっぽど切迫詰まってたのね。まあ、それはどうでもいいわ。出来るわよ。あなた、歌のレベルが尋常じゃないわね。それだけ歌えれば大丈夫よ」
思った通りだ。歌というのは呪文に通じる。歌が上手いということは、難解な呪文を唱えられるということだ。
「五日で出来ますか?」
「あなたの才能なら、唱えるだけなら、割とすぐに出来ると思うわよ。問題は効果よ。五日ぽっちじゃ使い物にならないわよ」
何てことだ。習得できるのか。時間が足りないなら、時間の流れを遅くする「時の部屋」を借りればいい。
「一つの魔法につき五十万ダーラ用意しました。全部で百五十万ダーラお渡しします。『時の部屋』は何日使えますか?」
記憶によれば、アンジェラのときは、十万ダーラで十日間だった。
「そうね、一年間使っていいわよ。それだけあれば、何とかなるかもね。やる?」
五日間で一年分の修行ができるということだ。これなら、奴らと互角に戦えるようになるだろう。警戒すべきはアンジェラとリサだが、特に遠隔から攻撃されると手も足も出ないアンジェラへの対策が必須だ。
「お願いします」
「はい、毎度あり~。じゃあ、まずはこの子の元で二週間頑張ってみてね」
モモの前に突然人間の女が現れた。
「アンジェラ!」
俺は身構えた。だが、様子がおかしい。
「ホムンクルスよ。あなたの敵を具現化したのよ。彼女を倒したいのね。まずはこの子に魔法だけで勝てるようになりなさい。さあ、早速始めなさい」
次の瞬間、強烈な眩暈がした。立っていられないくらいだ。俺の目の前の景色がものすごい勢いで回っている。しばらくして、回転が緩やかになり、完全に止まった。
俺は真っ白い部屋にアンジェラもどきと二人で立っていた。
「けけけ、ようこそ、修行の部屋へ」
アンジェラもどきの口がぱっくりと開き、真っ赤な舌を見せて、気味の悪い笑い声をあげた。
「けけけ、せいぜい頑張れよ」
魔法だけで倒せって、魔法の使えない俺にどうしろって言うんだよ。
アンジェラもどきが炎系の魔法を放った。俺は魔法が放たれたことにも気がつかず、まともに食らって大火傷を負って倒れた。
すぐに治癒魔法で元通りになるが、また魔法を食らって倒れる。常人なら発狂してもおかしくない地獄の責苦が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】悪役に転生したのにメインヒロインにガチ恋されている件
エース皇命
ファンタジー
前世で大好きだったファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・ヒーロー』の悪役、レッド・モルドロスに転生してしまった桐生英介。もっと努力して意義のある人生を送っておけばよかった、という後悔から、学院で他を圧倒する努力を積み重ねる。
しかし、その一生懸命な姿に、メインヒロインであるシャロットは惚れ、卒業式の日に告白してきて……。
悪役というより、むしろ真っ当に生きようと、ファンタジーの世界で生き抜いていく。
ヒロインとの恋、仲間との友情──あれ? 全然悪役じゃないんだけど! 気づけば主人公になっていた、悪役レッドの物語!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる