英雄の俺が転生憑依した男は、S級冒険者パーティの下働きだった。頭に来た俺は、ダンジョン攻略中に全員の荷物を持ってパーティから逃げ出してやった

もぐすけ

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追跡

小姑

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「ちくしょう、マモルのやつ、絶対に許さないからな」

 マモルへの恨みの言葉はキースの口癖になっていた。

 キースたちは三日以上かけて、ようやく地下二十階まで来ていた。三人はセーフティゾーンに到着し、崩れるようにベンチに座った。

 もうヘトヘトだったが、リサが頑張って立ち上がり、組合に連絡して、食事の支給を依頼した。三十分ほどでシューターに食料が投げ込まれて来るはずだ。マモルの行方も確認したが、脱会届けを出して以来、組合には現れていないという。

 リサは組合で親しくしている女性事務員としばらく話をした後、アンジェラに声をかけた。

「アン、ローブが魔物の血だらけよ。私の戦士服貸すわよ」

 アンジェラはローブの替えがないため、着ているものがひどく汚れてしまっている。少し死臭のような匂いがして、汗の匂いとまじって、食事の妨げになるほどだった。

「……」

 アンジェラは答えないまま、ずっとリサを見つめている。リサの意図を計りかねているようだ。

「何よ」

「せっかくの好意だけど、正直に言うわね。胸のサイズが合わなくて、着られないわよ」

「……」

 リサとアンジェラの間に不穏な空気が流れた。もう何度目かの一髪即発の状況に、キースが慌てて割って入る。

「な、なあ。もうあと少しだ。このまま今のローブでいけばいい、なっ、そうしよう」

 リサはキースを無視して、鼻から下を手で押さえて、アンジェラに言い放った。

「じゃあ、私も正直に言うわ。臭くてご飯が不味くなるのよ。多少胸が苦しくても我慢したら?」

 アンジェラがリサを睨みつけた。

「多少で済めば私も我慢するわよ。胸がない女には所詮分からない痛みよ」

「おい、やめよう。あと二日、いや、一日半で地上に出られる。もう少しの我慢だ。堪えてくれ」

「ふん、臭い兄妹同士で食事すれば? 私はあっちで離れて食事するわ」

「兄さん、こんな性悪女とは早く別れた方がいいわよ」

 キースは仲を取り持つのに疲れ果ててしまって、わーっと叫びたくなっていたが、パーティのリーダとしてグッと堪えた。

「お願いだから、二人とも冷静になってくれ。三人で組まないとダンジョンから出られないだろう。そうだ、地下十階まで我慢してくれ。そうしたら、リサはソロでも帰れるだろう。アンは前衛がいないと無理だから、アンには俺がついていく」

「いつまでも兄頼りで情けない妹ね。いいわよ、地下十階までね」

 リサはそう言って、キースとアンジェラとは対角の方向にスタスタと歩いて行き、角のベンチに座ってしまった。

 アンジェラは小声でキースに囁いた。

「兄さん、本当にあの女とは別れてよ。もう一緒にはやっていけないわ。ルーカスってA級の剣士がいるでしょう。あいつ私にメロメロだから、マモルみたいに便利に使えばいいわ。腕も立つしね」

 キースはこの会話をリサに聞かれやしないかとヒヤヒヤしていた。

「あははは」

 突然、リサが笑い出した。キースは天を仰いだ。耳のいいリサに聞こえないはずがないのだ。

「さっき組合の仲のいい女の子から聞いたのだけど、アンの荷物をマモルが組合を介してルーカスに売ったらしいわよ。いくらだったか分かる?」

 アンジェラは思いもよらぬ話に言い返す言葉が見つからない。キースが代わりに答えた。

「マモルのやつ許せねえ。それで、ルーカスのバカはいくら払ったんだ?」

「百五十万ダーラだってさ、アンにメロメロってのは本当みたいだけど、ちょっと引くわぁ」

「ひゃ、ひゃく……」

 アンジェラは背筋が寒くなった。

「ああ、でも安心してね。ルーカスはマモルにやられて頭蓋骨骨折の重体だってさ。アンの下着はまだ変なことには使われてはいないみたいよ」

「ルーカスがマモルに? そんなバカな。どうやって……?」

 キースはルーカスがマモルにやられる場面が想像出来なかった。

「ルーカスの仲間が証言したそうよ。ルーカスがマモルから売上金を取り返そうとして、返り討ちにあったのよ。マモルはヌンチャクを剣のように使って、舞うようにルーカスたち四人をあっという間に倒したそうよ」

 リサはどうやってということよりも、あのマモルが頭蓋骨を折るほどの躊躇ない暴力を振るう理由が分からなかった。リサの知っているマモルとまったく結びつかないのだ。

「ヌンチャクだとっ!? 俺のじゃねえかっ」

 キースが妙なところに食い付いた。

「兄さん、驚くのそこじゃないでしょ。ルーカスって、かなり気持ち悪いってことが分かったけど、腕は確かよ。リサ相手でも1分ぐらい頑張れるぐらいにはね。ルーカスがマモルにあっという間にやられるなんて考えられないわっ」

「ふふ、マモルが私よりも強いなんてあり得ないわ。アン、私は構わないわよ。私の代わりにルーカスを入れて、ブラックイーグルを再生しなよ。私はマモルを探すわ」

 ちょうどそのとき、ガタンという音がした。組合から食料がシューター経由で届いたようだ。

 リサは自分の分だけ取って、一人で食べ始めている。

 キースは二人分を取って、アンジェラのところまで持って行った。今、リサに何か話しても逆効果だろう。地上に戻って冷静になってから話した方がいい。

「兄さん、ルーカスはやめよう。気持ち悪すぎて、ほら、鳥肌がまだおさまらないわ。それより、前に神官を加えようって言ってたじゃない。まだB級だけど、可愛い女の子の神官がいるのよ。地上に戻ったら紹介するわ」

 キースはリサに聞こえるだろうと気が気でなかったが、もうリサがキースたちに反応することはなかった。
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