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第四章 復讐

襲撃準備

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親衛隊長のゼルダは詰所のドアを開けた。

詰所にいた数名の兵士が立ち上がり、ゼルダに敬礼した。

「宰相のマルクス殿を不敬罪で捕らえよ、との陛下からの命令だ。クラウスはここに残れ。それ以外の者は宰相官邸に急げ」

親衛隊の兵士たちはすぐに詰所を出て行った。クラウスとゼルダだけが部屋に残った。

「クラウス、極秘任務だ。今日の夕方、衛兵二百名を率いて、アードレー公爵邸に向かえ。公爵令嬢のルイーゼ様を陛下の元までお連れしろ。抵抗するものは殺しても構わん」

物騒な命令にクラウスは目を見開いた。

「アードレー公爵様もですか?」

「抵抗する場合は仕方ない。殺せ。ただし、ルイーゼ様は傷一つつけずにお連れしろ」

「かしこまりました」

クラウスは親衛隊の中でも衛兵への指揮権を持つ騎士の地位にあった。ゼルダの命を受け、すぐに王宮の城楼の衛兵隊の詰所に向かった。

クラウスは衛兵隊長のベンツとは飲み友達だ。二人とも二十歳そこそこで今の地位にいる出世頭だが、お互いに気持ちのいい性格で気が合っていた。そういえば、いつも行く酒場の名前が「ルイーゼの酒場」だが、面白い偶然もあるものだ。

クラウスは隊長室のドアをノックもしないで開けた。そして、部屋にいるのがベンツ一人だけであることを確認してから、用件を切り出した。

「ベンツ、極秘任務だ。衛兵二百名をすぐに動かしたい」

「クラウス、お前か。ビックリさせるなよ。あのなあ、入るときはノックぐらいしろよ。で、二百名だって? そんなに動かして極秘任務もないだろうよ」

ベンツはやれやれといった感じで肩をすくめている。

「ベンツ、お前も来てくれ。アードレー公爵邸に夕方乗り込んでいって、長女のルイーゼ様を無理矢理にでも王宮にお連れするという任務だ。抵抗するものは、アードレー公爵でも殺していいそうだ」

「何だって!? 無茶苦茶な命令じゃないか。ルイーゼ様は元婚約者様だろ? 陛下が婚約破棄したんじゃないのか? それを無理矢理にでも連れて来いって、そこに正義はあるのか?」

ベンツの口癖の「そこに正義はあるのか」が飛び出した。クラウスも人でなしの命令だとは思うが、王命は絶対だ。

「王命だ。まさか、お前、王命に逆らうのか?」

「正義があるかどうかを聞いただけさ。逆らうとは言っていない」

「正義なんてないさ。クソったれの王命だ。でも、従うしか我ら騎士には道はない。せめて抵抗しないことを祈るだけだ」

「仕方ねえな。抵抗しないように十分に説得してくれよ。どう考えても理不尽な命令だ。こんな命令のために殺したくないし、殺されたくもないだろう」

「もちろんだ。いつまでに集められる?」

「そうだな、二時間くれ」

「よし、では、夕方五時に出発しよう」

そう言って、クラウスは急いで親衛隊の詰所に戻っていった。

残されたベンツはフーッとため息をつき、報告書の作成を始めた。

「やはり運命は二人を出会うように仕向けるか」

ベンツは独り言を呟いた。彼の右手の甲には星型のアザがあった。
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