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第十章 ダムール帝国
ダムール帝国の阿修羅
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ダムール帝国は軍事国家だ。
国土の面積の90%以上が肥沃な穀倉地帯、残り10%はレアメタルの鉱山という絵にかいたような豊かな国だ。
総人口5億人は、現時点でこの星のなかで人口第一位の国で、2位のダルムンドの1億人を大きく引き離している。ただ、この国は海に面していない。北は宿敵ダルムンド、南はデンカイ、西はスジーナ共和国、東はクレリカ国家連合の4か国に囲まれている。
海がない代わりに大きな湖が5つと大河が5本。これらが肥沃な土地を作り出している。別名水の国と呼ばれ、水の女神ウンディーネの人気が高い。
四方を敵国に囲まれているため、古くから軍事力の増強に余念がなく、一説には、隣国の4か国を同時に侵攻しても勝てるのではないか、とも言われているが、さすがに被害が大きくなる。幸いなことに、実行に移す暗愚な君主はいまだ登場していない。
この国には1つユニークな風習がある。軍隊のトップは常に皇族の女性が務めてきたのだ。今の元帥は王妃ルサールカ、大将は第一王女アンナルシア、中将は第二王女レミエール、そして、少将は、帝国史上初、未成年で幹部となった軍事の天才第三王女テレジアである。
テレジアの就任は今から3年前、彼女が13歳のときであった。帝国の将校はお飾りではない。武芸、戦略に秀でている必要があり、特に武芸が優秀でない限り、将校の座にはつけない。50人抜きという超難関の最終試験があり、これにパスしなければいけない。
丸腰でスタートして、兵士50人から武器を奪いながら1時間以内に全員を無力化するという試験で、これまでの最高記録は200年ぶりに王妃ルサールカが塗り替えた39分43秒だった。それを13歳のテレジアは12分ジャストという化け物のような記録でクリアした。
ついたあだ名が「阿修羅」。兵士から剣を3本奪い、両手と口に剣を携え、次々に兵士を無効化していったためにつけられた。
しかも、テレジアは美しかった。帝国一の美女、世界一の美女と言われ、テレジア以上の美女はこの世に存在しない、とまで言われた。
そんな帝国に、テレジア以上の美女が、リンリンなる子供の使者として王を呼び出した。王に謁見したのではなく、使者が泊っている帝都の高級宿に王を呼び出したのである。
その使者の美女に仕えているのが、なんと隣国のロザンヌ姫だった。あの空よりも高い高飛車女と言われたロザンヌが、お付きをやっていたのだ。
帝国は隣国ダルムンドに多くの間諜を放っている。そのため、ダルムンド王が寵愛しているロザンヌ姫を24番目の妃として、素性の分からぬ子供に献上したという情報は、すぐに帝国まで伝えられた。ロザンヌ姫の寝殿での大絶叫の一件も伝わって来ており、それ以来、リンリンなる子供の情報収集を急いで行って来た。
教会の巫女に女神ウンディーネの依り代を務めている少女がいる。その少女にも、リンリンの情報収集をお願いしたところ、しゃべるしゃべる。女神ウンディーネは相当なおしゃべりだった。
結果、リンリンは最近神になったばかりで、女神や女悪魔のやりたい男No1であることが判明した。まだ6歳なのにだ。そして、神の使い13名、悪魔の従者12名を妻に持ち、人界の統治神だという。そんなのがいつの間にか出現していて、宿敵ダルムンドはすでに姫を献上していたのだ。
帝国は慌てた。早く姫を献上しなければ、国を滅ぼされるかもしれない。帝国のリンリン像は、「女を渡さねば、滅ぼすぞ」だった。しかも、リンリンは相当な面くいだそうで、女神クラスの美貌でないと、見向きもしないという。そういえば、確かロザンヌ姫は美の化身とまでいわれた美貌を誇っていた。
帝国は国内から美女を募った。5億人もいるので、ロザンヌ姫レベルの美女が何人か集まると思っていたのだ。結果、想定よりも多い28名の美女を選定した。この中から選んでもらおう。
28名の美女を引き連れ、王から全権委任された宰相が宿を訪れた。
王宮には宿の従業員がメッセジャーとして使者の伝言を伝えに来たのだが、その時の従業員が、テレジアよりも美しい人に頼まれたと言っていた。そんな美女がいるものかと思っていたのでが、使者に会って従業員が嘘を言っていないことが分かった。宰相はテレジアとも面識があるが、確かに使者の肩の方が数段美しい。どの分野も上には上がいるということだ。
宰相は考えてしまう。果たしてこの28名で大丈夫だろうか。
側仕えのロザンヌ姫が口を開いた。
「宰相のロナウンだな。王は来ないのか? こちらの方は旦那様の正妻であられるマリ様だ。今回貴国が姫を献上するとのことで、面談に来られた。献上するという姫のマリ様への謁見を許す。こちらに連れてまいれ」
「ほ、本日は取り急ぎご挨拶にお伺いしました。献上する姫は改めてお連れいたします」
「なに、そうなのか。表にいる美女は貴殿のお付きか。旦那様と張り合っておるのか?」
「い、いいえ、滅相もございません。侍女がご入用かと思いまして、連れてまいりました」
「もう女子はいりません。連れ帰ってくださいな」
マリが初めて口を開いた。それはもう綺麗な声だった。宰相のロナウンは弛緩して漏らしてしまいそうなぐらい見惚れてしまいそうになったが、さすがに宰相まで昇りつめた男だった。何とか踏ん張り、失礼なく立ち去ることができた。
城に帰ったロナウンは、王に訴えた。
「王様、テレジア様を御自らお連れして、献上してください」
王は苦虫を嚙みつぶしたような顔をしていた。
国土の面積の90%以上が肥沃な穀倉地帯、残り10%はレアメタルの鉱山という絵にかいたような豊かな国だ。
総人口5億人は、現時点でこの星のなかで人口第一位の国で、2位のダルムンドの1億人を大きく引き離している。ただ、この国は海に面していない。北は宿敵ダルムンド、南はデンカイ、西はスジーナ共和国、東はクレリカ国家連合の4か国に囲まれている。
海がない代わりに大きな湖が5つと大河が5本。これらが肥沃な土地を作り出している。別名水の国と呼ばれ、水の女神ウンディーネの人気が高い。
四方を敵国に囲まれているため、古くから軍事力の増強に余念がなく、一説には、隣国の4か国を同時に侵攻しても勝てるのではないか、とも言われているが、さすがに被害が大きくなる。幸いなことに、実行に移す暗愚な君主はいまだ登場していない。
この国には1つユニークな風習がある。軍隊のトップは常に皇族の女性が務めてきたのだ。今の元帥は王妃ルサールカ、大将は第一王女アンナルシア、中将は第二王女レミエール、そして、少将は、帝国史上初、未成年で幹部となった軍事の天才第三王女テレジアである。
テレジアの就任は今から3年前、彼女が13歳のときであった。帝国の将校はお飾りではない。武芸、戦略に秀でている必要があり、特に武芸が優秀でない限り、将校の座にはつけない。50人抜きという超難関の最終試験があり、これにパスしなければいけない。
丸腰でスタートして、兵士50人から武器を奪いながら1時間以内に全員を無力化するという試験で、これまでの最高記録は200年ぶりに王妃ルサールカが塗り替えた39分43秒だった。それを13歳のテレジアは12分ジャストという化け物のような記録でクリアした。
ついたあだ名が「阿修羅」。兵士から剣を3本奪い、両手と口に剣を携え、次々に兵士を無効化していったためにつけられた。
しかも、テレジアは美しかった。帝国一の美女、世界一の美女と言われ、テレジア以上の美女はこの世に存在しない、とまで言われた。
そんな帝国に、テレジア以上の美女が、リンリンなる子供の使者として王を呼び出した。王に謁見したのではなく、使者が泊っている帝都の高級宿に王を呼び出したのである。
その使者の美女に仕えているのが、なんと隣国のロザンヌ姫だった。あの空よりも高い高飛車女と言われたロザンヌが、お付きをやっていたのだ。
帝国は隣国ダルムンドに多くの間諜を放っている。そのため、ダルムンド王が寵愛しているロザンヌ姫を24番目の妃として、素性の分からぬ子供に献上したという情報は、すぐに帝国まで伝えられた。ロザンヌ姫の寝殿での大絶叫の一件も伝わって来ており、それ以来、リンリンなる子供の情報収集を急いで行って来た。
教会の巫女に女神ウンディーネの依り代を務めている少女がいる。その少女にも、リンリンの情報収集をお願いしたところ、しゃべるしゃべる。女神ウンディーネは相当なおしゃべりだった。
結果、リンリンは最近神になったばかりで、女神や女悪魔のやりたい男No1であることが判明した。まだ6歳なのにだ。そして、神の使い13名、悪魔の従者12名を妻に持ち、人界の統治神だという。そんなのがいつの間にか出現していて、宿敵ダルムンドはすでに姫を献上していたのだ。
帝国は慌てた。早く姫を献上しなければ、国を滅ぼされるかもしれない。帝国のリンリン像は、「女を渡さねば、滅ぼすぞ」だった。しかも、リンリンは相当な面くいだそうで、女神クラスの美貌でないと、見向きもしないという。そういえば、確かロザンヌ姫は美の化身とまでいわれた美貌を誇っていた。
帝国は国内から美女を募った。5億人もいるので、ロザンヌ姫レベルの美女が何人か集まると思っていたのだ。結果、想定よりも多い28名の美女を選定した。この中から選んでもらおう。
28名の美女を引き連れ、王から全権委任された宰相が宿を訪れた。
王宮には宿の従業員がメッセジャーとして使者の伝言を伝えに来たのだが、その時の従業員が、テレジアよりも美しい人に頼まれたと言っていた。そんな美女がいるものかと思っていたのでが、使者に会って従業員が嘘を言っていないことが分かった。宰相はテレジアとも面識があるが、確かに使者の肩の方が数段美しい。どの分野も上には上がいるということだ。
宰相は考えてしまう。果たしてこの28名で大丈夫だろうか。
側仕えのロザンヌ姫が口を開いた。
「宰相のロナウンだな。王は来ないのか? こちらの方は旦那様の正妻であられるマリ様だ。今回貴国が姫を献上するとのことで、面談に来られた。献上するという姫のマリ様への謁見を許す。こちらに連れてまいれ」
「ほ、本日は取り急ぎご挨拶にお伺いしました。献上する姫は改めてお連れいたします」
「なに、そうなのか。表にいる美女は貴殿のお付きか。旦那様と張り合っておるのか?」
「い、いいえ、滅相もございません。侍女がご入用かと思いまして、連れてまいりました」
「もう女子はいりません。連れ帰ってくださいな」
マリが初めて口を開いた。それはもう綺麗な声だった。宰相のロナウンは弛緩して漏らしてしまいそうなぐらい見惚れてしまいそうになったが、さすがに宰相まで昇りつめた男だった。何とか踏ん張り、失礼なく立ち去ることができた。
城に帰ったロナウンは、王に訴えた。
「王様、テレジア様を御自らお連れして、献上してください」
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