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第一章 異世界召喚

再出発

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 タツノさんはそれっきり帰って来なかった。俺は心配になって、方々探したのだが、見つからなかった。

 数日間探し周り、もしやと思って、竹藪を抜けて神社まで行くと、本堂にタツノさんがいた。まさか一人では竹藪に入らないだろうと思っていた。俺は心の底からホッとした。彼女がいなければ、俺は独りぼっちになってしまう。

「来たのね?」

「ああ、心配した。散々探し回った。ここで何をしている?」

「戻れないかな、と思って」

「どうだ? 戻れそうか?」

「ぜんぜん」

「召喚の儀式みたいなものがあるってことは、送還の儀式もあるかもよ」

「そうね」

 タツノさんは寂しそうに笑った。

「信じてないな?」

「いいえ、あるかもとは思うわよ。でも、帰って何になるのかな、って思ったの」

「そうか」

「ねえ、なかむらくんの妹さんの名前何だっけ?」

 ドキッとした。実はこの数日で、前の世界の人の記憶が急速に薄れてしまっているのだ。妹がいたという記憶はあるのだが、名前も顔もどんな妹だったのかも思い出せない。

「実は思い出せないんだ」

「そう、やっぱりね。私も両親の名前を思い出せないわ。兄と弟がいたのだけれど、どんな人だったのか思い出せないのよ」

 俺と同じだ。

「俺も両親と姉と妹がいたが、顔も名前も思い出せない」

「そうなのね。私が思い出せるのはレンとエリコだけ。でも、あの二人にはもう会いたくないの」

「二人は魔王討伐に出発したよ。険悪なムードでな。ちょっとエリコが心配だったんだが、二人とも褒美のためと割り切って、それなりに協力して戦ってたよ」

「そう、全く興味なくなちゃった。私は何を目標に生きて行けばいいわけ?」

「それなんだが、人と交われないのに無敵がどうのと、この前、言ってたよな」

「ええ、交わる方法が見つかったの?」

「この神殿だけはものに触れられるだろう?」

「そう言われてみればその通りね。扉に触れられるし、床にも触っている。逆に通り抜けが出来ないわね」

「ほら、床に爪で文字も書ける。あと、地面は通り抜け出来ないだろう。地面には文字が書けるんだ」

「そうなの?」

「そうなんだ。俺の勘なのだが、神聖なものには触れられるような気がする。だが、問題は俺たちはこの国の文字が書けないんだよ」

「言いたいことはわかったわ。まずは文字を習いに学校に行くのね」

「そう、まずはそこからだ。タツノさんを探しているうちにいくつか学校を見たんだ。学校に行かないか?」

「ええ、分かったわ。それと、私のことはミサトと呼んでくれる?」

「お、おお、ミサト、でいいか? 俺のことはゆうくんでいいぞ」

「なんかラブラブな感じでいやよ。『ゆうき』って呼ぶわ」

 よかった。タツノさん、いや、ミサトは少し元気が出たようだ。
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